放浪の王子 第17章 -2-

「あ……」
 王子の青い瞳がきゅうに潤んで、表情が艶っぽくなった。
「……あなたが好きだからです。好きでなければこうは……なりません」
「エリアス……」
 なんとも言えない表情をして、王子は力をぬいてエリアスに身体をあずけてきた。
「そう……だったのか……」
「……」
「最初あれほど拒んだくらいだから……てっきり……」
 相手が王子であるのに、誘われたからと喜んで手を出すわけにもいかないだろう。それに一度でも交わってしまえば、それまでのふたりには戻れない。一線を越えるときの葛藤は、王子を好きであるゆえになおさら大きかった。
「好きだから……迷ったのです」
「……」
「私があなたを抱いてもいいのかどうか……」
 ささやくように耳もとでそう告げると、アルクマルト王子はそっとエリアスの背中に腕をまわしてきた。その吐息が胸もとに熱い。
「わたしが……抱いてほしかったから、いいんだ」
「でんか……」
「そもそも、好きでなければ……誘ったりしない」
「……えっ」
 その言葉にエリアスはおどろいて、王子の肩に手をそえてそっと身体をはなした。そして王子の顔をまじまじと見つめた。
「……」
「殿下?」
「……そんなに見るな……ばか」
 またすこし頬が赤い。ドキリとするような上目づかいで、王子がこちらをじっと見ている。
 それから彼はおもむろに、
「好きだ」
 そう、ぼそりと言った。
「……」
「好きだと言っている」
「……はい」
 まさか王子の口からその言葉を聞けるとは思わず、エリアスはついそのままで王子を見つめてしまった。
「……なにをそんなに見ている?」
「いえ……。まさかそんな……と思って……」
「おかしなことなのか……?」
 アルクマルト王子にとっては、相手が部下でしかも男であることは問題ではないらしかった。裸になることが平気なように、どこか素直すぎて戸惑うところがある。
「いいえ……」
「……」
 じっとその青い瞳をのぞきこんだ。晴れた日の空よりもなお青く、海の色に似たその眸を。
「殿下……。あなたを抱きたい」
「……」
「おゆるし……いただけますか?」
「……そんなこと聞くな」
「……」
「最初から……ぜんぶ許している」
 そこから先はもう言葉はいらなかった。
 そのままふたりはおたがいの口を貪った。なんども口づけ、舌をからめ、離れておたがいの顔を見てはまた口づけた。
 そうしていつしか柔らかな寝台のうえに、もつれこむように身体を横たえていた。

 アルクマルトはいつになく昂ぶる身体をおさえきれず、ゆっくりと愛撫するエリアスに焦れてなんども早くほしいとねだっていた。
「いいえ、いけません……。急いでは……あなたを傷つけてしまう」
「……あ……っ……いや……。たのむから……はやく……!」
 寝台に手をついたアルクマルトの背中にエリアスは覆い被さるように身体を密着させ、首や背中を唇と舌で愛撫してくる。その手その指は秘部をじっくりとひらくように、柔らかな軟膏をつかって慣らしていた。
 ふとももにあたるエリアスの男根のかたさと熱さと、その先端の濡れた感触がたまらず、欲しいと腰が動いてしまう。こんな自分を見られる恥ずかしさに顔が熱くなるが、それでも止められなかった。
 指はアルクマルトが感じるところをじょうずに探りあて、執拗にそこを攻めたてる。
「あっ……あああ……っ」
「……その声……。とても……いい」
耳もとでそう熱くささやかれると、背筋がざわついてふるえた。
 もう入れても大丈夫なはずなのに、エリアスはやめてくれない。さっき一度おたがいの口で達したから、そこまで急いではいないのだろうか。いや、これほど先走りのしずくを垂らしているくらいだから、そんなに余裕はないはずだ。
「……は……はやく……っ」
 立っていたはずの足には、もう力がはいらない。
「でんか……」
 下半身から力が抜けてそのまま寝台に倒れこみそうになったとき、エリアスが力強く腰に手をまわしてきた。そしてそのまま尻をもちあげられると、太く固い肉棒がゆっくりと押し入ってきた。
「ひああっ……」
 待ちかねていたその感触に、うわずった声が出た。
「……う……あーっ」
 エリアスが不寝番をするようになってから、アルクマルトは毎夜のように彼に抱かれる夢を見た。すぐそばにいて二人きりなのに、おたがいに自分の気持ちを押し殺していたのだ。だからこそ、いまこうやって交わることの喜びが深い。
「……あなたをもっと……悦ばせたい……ああ」
「……!」
 そう言われるだけで、もう達してしまいそうだった。これほど欲しくて、これほど感じたことは初めてだった。
「エリアス……。もっと……もっとおくまで……っ」
「いいですよ……」
 腰を引きよせられ、エリアスのものが奥まで入ってきた。
「ん……あああっ」
「……」
「そなたの……あつく……て、かたくて……」
 内側を刺激され、アルクマルトの下半身の力が抜けていく。突かれるままに揺さぶられ、すぐに身体はのぼりつめていった。
「……気持ち……いいですか?」
「すごく……いい。あっ……あっあっ……もう……だめ……」
「いいですよ。……わたしも限界です」
 低いささやきが耳から入って頭のなかをわしづかみにしていく。それが背中をとおりすぎて下半身までもしびれさせた。
 知らず知らず寝具に爪をたてていた。自分の口からもれる声すら意識できずに、アルクマルトはただ悦びの波に翻弄されていた。
「ああ……んっ……あ——っ」
「……くっ……ううっ」
 下半身がびくんと何度かふるえる。アルクマルトのものが先端から白いものをぽたぽたとこぼれさせた。
 がくりと力をぬいたその身体を、エリアスが抱きかかえるように支えた。
「……あ」
 さっき口で受けとめて飲みほしたのと同じものが、こんどは自分の身体の奥深くに注ぎ込まれる。そのことにとても興奮した。
「あなたを……あいしています……」
 荒い息のあいまにそうささやくエリアスの声に、アルクマルトはただうなずいて、自分の身体にまわされたたくましい腕に手を重ねていた。

  

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