おとなのおもちゃ

「はっか……いちゃ……」
 うわずった声が閨からする。烏哭の声だ。
「うれしいよ……はじめてだよね。キミの方から……ボクのを」
 上下している、艶のある黒髪に覆われた頭を、烏哭が大きな手で撫でた。
「ああ……キミの舌が這ってると思うだけで……気持ちイイよ」
 烏哭の両脚の間に、顔を埋めるようにして八戒は大きなモノを口に含んでいる。まだまだ不慣れで上手ではない。たどたどしい舌づかいで、男のモノに吸いつき舌を絡めている。その表情は凄艶だ。男にしておくには惜しいようなまつげが伏せられ、眉が悩ましげに寄せられて色っぽい。
「だめだよ。八戒ちゃん」
 優しい手つきで、烏哭が八戒のまなじりに浮かぶ涙を指でぬぐった。
「イッちゃうよ。ボク、そんなにしたら」
 口から外させる。陶然とした表情の八戒は唇の端から烏哭の先走りをとろ、と垂らしながら、ぼんやりとした視線を向けてくる。緑色の瞳は潤んで蕩けている。
「んう……」
 ぶる、と身体を震わせているのをそっとなだめるように優しく撫でる。そんなに上手なフェラチオではなかったが、八戒の舌の上に載ってると思うだけでイッてしまうほど烏哭は興奮していた。
「すっごくよかったよ。八戒ちゃん」
 情欲のにじんだ目つきで呟く。撫でていた手を、八戒の後ろへまわし、そのしなやかな背を優しく撫でた。しかし、そのうち、その撫でる手つきに淫猥なものがにじみだす。背骨の数を確認するかのように、ねっとりと指でたどりはじめた。
「んぅっ……」
 じりじりした愛技に、八戒が顔をゆがめる。ずっと挿入なしで肌だけを愛されていた。じっとりと低温であぶるような性技を施され続けていた。もう、理性なんか飛んでいる。
「あ……」
 もう、2時間、いや3時間近いかもしれない。ずっとこの調子で烏哭の身体の下にいたのだ。前を口で弄ばれ、後ろを指でさんざん愛撫され、背筋も、首筋も蕩かされてしまっていた。すっかり硬くなってとがってしまったかわいいふたつの乳首も執拗に舐められ、摘まれていて限界だ。烏哭の怒張や先走りの透明な体液を全身にすりつけられていた。
「う……」
 それでも、後ろに挿入してもらえない。身悶える八戒はもう蕩けて正体がなかった。身体は火照り、ナカはひくひくとしている。
「あっあっ」
 ぴん、と烏哭に乳首を爪先で弾かれ、眉をしかめる。少し痛いが、それすら快感に変換された。
「んうっ」
 乳首を指先で摘まみながら、いつの間にか烏哭は背後から八戒の身体を横抱きにしていた。まだ、初心で自分から露骨なおねだりを言えないのを悪用している。言わない、いや言えないのをいいことに、どこまでも蕩かしてしまう気なのだ。確信犯だ。
「かわいい……」
 後ろ抱きにして、耳元で囁く。カフスの嵌った耳たぶをそっと舐めまわす。
「は……」
 たちまち、ぴくん、と腕の中の八戒が跳ねる。ぴん、と勃起した前をそっと握り込んだ。
「こっちも……触って欲しい? 」
 必死になってうなずく頭へ、愛おしげに頬を寄せた。身体をとろとろに溶かしてしまえば、いつもだったら平手打ちものの行為も、八戒は許してくれる。顔をまたいで身体をさらけだすことすらしてくれるのだ。すっかりそれに味をしめて、前戯は八戒が泣き出すほど長くなっていた。
「いいコだ。本当は一緒にしゃぶりっことかしたいけど」
 正統派美人は耳の先まできれいな形をしているモンだねェ。卑猥なことばかり囁きながら、烏哭は唇を寄せた。
「さっき……ボクのをおしゃぶりしてくれた……ごほうびしなくちゃね……」
 ふたりで横向きになっていた。喘ぎ抜かされている八戒を背後から抱きしめ、烏哭が腰を押し付けてきた。
「分かった。そろそろ挿れてあげるね♪ 」
 そのまま、後ろから
「んんっ」
 八戒の太ももが背後から力強い腕で割られた。後ろから身体を割り込ませられる。
「ひっ……」
 さんざん、烏哭の唾液や八戒自身の精液で指でほぐされていた、後ろの孔は、そんなに抵抗なく烏哭の怒張を受け入れた。
「ずぷずぷ、ずっぷりしてて……すっごく……イイよ」
 後ろから横抱きにされているので、耳元に直接いやらしい言葉を囁かれてしまう。
「あっ…あっ……」
 卑猥な、その言葉や吐息にすら感じてしまう。
「きゅうっ、て今、締まったね。……イイんだね」
 ねっとりと囁くと、耳のすぐそばの首筋に舌を走らせた。唇をつけて思い切り肌を吸い上げた。
「やっ……」
 指は相変わらず乳首を弄ばれている。痛いくらい尖ってしまったそれが腫れたようになってしまっている。ずっ、と腰を引かれて、尻が震えるほど八戒が身悶えた。
「ああああああっ」
「……イッちゃった? 」
 我慢させられていた身体は、もう耐え切れず白濁液を吐き出していた。
「キミのが勃つと……キミのナカで前立腺が降りてくる感触が……たまらないよ」
 太いカリ首で擦り上げながら、烏哭が口を歪める。粘膜の一箇所に、先ほどまでなかったしこりを感じる。興奮して勃起した八戒の前立腺が充血して体積を増している。
「本当に感じやすい身体だよね。かわいいよ」
 首筋に幾つもの口吸いの跡がついた。満足そうにそれを見つめ、優しくキスをする。
「今度、首のあたりが隠せるような服、買いにいこうね」
 言葉は優しいのに、している行為は容赦ない。今度は腰を前へ強く突き出した。
「あっ……深いっ……深いっで……烏……哭」
 甘い甘い喘ぎを心地よく聞きながら、烏哭は自分を深く咥えさせているその尻肉を左手で揉んだ。弾力のある若い肌の感触が心地いい。ナカは烏哭のをしゃぶったまま、くねり悶えている。
「……ふ」
 烏哭が思わず、口端を歪めた。
「イイ。イイよ八戒ちゃん」
 尻を揉んでいた左手が何かを取り出した。 円筒形をした長いプラスチックだ。それをつかんで、八戒の前へ嵌めた。
「……ひっ」
 八戒の屹立が筒状のそれに包まれる感触に、八戒が目を見開いた。
「あああっ」
 じわじわと、きつくてせまくてゼリーのような感触のそれに突然、締め付けられる。柔らかいのに、きつかった。
「どう……いい? 」
 そのまま、烏哭が 「それ」 を握って八戒の性器ごと上下に動かした。
「やっあああっあっあっ」
 せっぱつまった声が、八戒から上がる。
「あ、も……ぼ……くの」
 もう舌も回っていない。腰がびくびくと動いている。より烏哭のを咥え込む動きをしてしまって、顔が上気して真っ赤だ。
「オナホール……買ってみたんだケド……気にいってくれたみたいだね」
 ねっとりと、八戒の耳朶を唇の先で咥えて、弄ぶ行為の狭間に烏哭が囁く。
「どっ……こで……こな……も……の」
 強烈な快感だった。おもちゃで前をゼリー状のものでもみくちゃに扱かれ、後ろは烏哭の怒張で穿たれている。咥えさせられたまま、腰を揺らされて、八戒が悶絶した。
「仕事の帰りにさァ、こんなのばっかり売ってる店、見つけちゃって」
 八戒をオナホで扱く手を止めずに烏哭が囁く。
「大人のおもちゃのお店なんだ。ボク、そこのおもちゃ見てると、どれがキミの気にいるかなって……」
 甘い口調だった。卑猥なことを告げているくせに、甘い口調だった。腰を回して尻孔を軸にして穿つような行為を、前への愛撫と同時にされて、八戒が悲鳴をあげた。
「あっあっあっイク……」
 思わず目を閉じ、眉根を寄せて快楽に顔を歪めて八戒が痙攣した。ぶる、と身体を震わせている。射精している。連動するように締まる後孔の強烈な感触に、烏哭が快楽で顔を歪めた。
「ああ……オナホール、精液まみれになっちゃったね。このまま……使えるかなァ」
 如何にも愛しげに背後から囁く。達してしまって何度も吐き出しているのを邪魔しないように、動かすのはやめたが、背後から優しく耳のあたりを舐め上げた。そのたびに、烏哭も蕩けるように絞りあげられ、うっかりすると放ちそうだった。
「最近、ついつい、そのお店に寄っちゃうんだよね」
「ああっ」
 達してる肌に、烏哭のゆっくりした愛撫がたまらない。八戒は性地獄のような行為の連続に弛緩し続けることもできずに太ももを震わせた。
「このバイブレータ、キミに使うとどんな声、出してくれるのかな、とか」
 烏哭のやや癖のある黒い前髪がうっすらと汗で濡れている。
「このアナルパール、挿入したら、キミ、どんなふうに悦ぶのかな、とかさ」
 妖しい店内でおとなのおもちゃを見つめながら、この男は情人がこのおもちゃを使ったらどういう反応をするのか、想像しながら愉しんでいたのだ。
「いやで……す」
 腰を挿しいれられながら、八戒が苦しい息の下から切れ切れに言う。
「そんな……より……貴方の……が」
 いつもは明晰なその頭脳も、今や快楽に酔わされて麻痺している。陶然とした調子で甘い言葉を綴っている。ぐちゅ、ぐちゅと烏哭との結合部が淫らな音を立てている。
「ん? 」
 烏哭が腰の動きを止めた。甘い声を放って八戒が痙攣する。烏哭が動きを止めると、自分の粘膜が淫らにくねり震え、よがっているのばかりが分かり、意識してしまう。
「そんなのよりボクのが? 」
 烏哭が背後から八戒を抱きしめながら耳元へ呟く。声に出してようやく認識した。

 おもちゃなんかより、烏哭の方が欲しいといっているのだ。
 
 この、きれいでかわいい恋人は。
「あ……おっき……く」
 八戒が奥歯を噛み締めた。内部で烏哭がより体積を増した。粘膜が押され、前立腺が圧迫される。
「キミが悪いよ。そんなかわいいこと言われたらそりゃガチガチに勃つよ」
 ゆっくりと優しく抱いていた。しかし、もう煽られて、これ以上もちそうにない。
「いいよね。明日どうせお休みだし♪」
 八戒の首筋を吸いながら、烏哭が囁く。
「あうっ……! 」
 深く立て続けに打ち込まれて、八戒がうめく。いままでのゆるゆるした交合よりきつい挿入が始まった。
「ああ……ダメだ。イキそう。もう少し、キミを蕩かしていたかったのに」
 烏哭は押し殺した声で告げた。油断すると放ってしまいそうだった。
「あっあっ……深い……奥が……ああ」
 八戒が腰を思わず打ち込んでくるのに合わせるように動かす。
「き……て……きて……奥……」
 淫らな言葉を無意識に呟きながら、深く突いてくるのに合わせるようにして、腰を後ろに突き出し、怒張を受け入れている。
「あっ……ん」
 より深く粘膜の奥を突かれて、悶絶する。襞の奥の奥を亀頭で舐めまわされ、粘膜の襞が曲がって口を空けているところをこじあけられ、性感帯を突かれまくる。
「手前も奥もお腹側が気持ちイイんだね? 分かるよ……キミのナカ、開いて降りてきた。ホラ、ここだよね。いっぱい突いてあげるね……」
 烏哭が狙いすましたように突くたびに、腰奥に電撃のように快楽が走りぬけて、何もかも痺れさせてゆく。淫靡なよだれが八戒の口はしを伝い流れた。
「いいよ……上手。上手になったね。ボクに合わせて、こんなふうにお尻を動かしてくれて……うれしいよ」
 烏哭がねっとりと囁く。烏哭が腰を引くと、八戒も痙攣しながら動きを合わせるように少し尻を前へ引いた。
「ああっ……僕……変に……なっちゃ……う」
 涙まじりの悲鳴じみた声が切れ切れに閨の闇を走る。
「変になっちゃってイイよ。イイ……キミ……すごいよ……ああ」
 よりいっそう、激しく腰を使って、八戒を追い詰め、深く深くより深く腰を挿しいれた。そのまま、動きを止める。イイところを何度も穿たれて、八戒など息も絶え絶えだ。

「く……」
 烏哭の腰が震えた。射精している。奥へ、奥へ。いちばん感じる襞の奥、きゅっとつぼまったところが白濁した淫液でいっぱいになる。
「ああぅっ」
 八戒が身を仰け反らした。内部に広がる熱さと白い粘液の感触がたまらない。限界だった。
「あっ……あっあーっ」
 八戒も前をふたたび弾けさせた。
「ひぃっ……」
 ぶるぶると痙攣するのを止められない。生理的な震えだ。
「くっ……」
 射精しているのに、八戒になかからめちゃくちゃに絞られて、烏哭が奥歯を噛み締めた。凄まじい快美感だった。強烈だ。
「はぁっはぁっ」
 抱きかかえた肉体が、目の前で息を荒げて肩を上下させ、震えている。それを宥めるように烏哭が背後から口づけた。
「素敵だったよ。八戒ちゃん」
 労わりのある声だった。しかし、とろんと蕩けてしまった八戒に伝わっているかは怪しい。白くしどけない痩躯は、しっとりした情交の汗を浮かばせて、もう正体がない。
 気を失っている。
「あれ」
 烏哭は力の抜けた恋人の身体を背後から覗き込んだ。ずるっと中へ突き入れていた、長大な怒張が、達したとはいえ、それほど硬度も落ちてない様子で引き抜かれる。
「う……」
 八戒が意識がないまま、その秀麗な眉をひそめた。抜かれる感触に反応したのだろう。内部の前立腺がひくつくのが、本当にいやらしく淫らだ。
「八戒ちゃん」
 無理、させちゃったかな、と気づかう口調で烏哭が名を呼ぶ。気がつけば、その全身に烏哭が愛した鬱血の跡がついている。長くしなやかな脚、すんなりとした腰、小づくりの肉の薄い尻、優雅でさえある背骨の曲線、無駄なくきれいについた胸や腹の筋肉。すらりとして、上背ばかりある美しく若い肉体だった。口吸いの跡は後ろから抱いていたので、首筋あたりが一番ひどい。
「ありゃりゃ」
 気を失った恋人を抱きしめたまま、烏哭がぼやく。まだまだ不慣れなのに、限界までむさぼりすぎたのだ。端麗な八戒の上気した顔を心配げに眺める。ピンク色を帯びた頬や長いまつげがかわいい。感じすぎてしまったのだろう。前戯だって何時間も執拗にかわいがっていたのだ。明らかにヤりすぎだ。限界だった。
「八戒ちゃんごめん」
 メスを犯すようにして抱いてしまっていた。全身、上気してピンク色の身体を優しく両手で受け止める。濃いキスマークの跡のある首筋を覗き込んだ。全部、烏哭がつけたものだ。
「こんな首の上の方まで隠せるような服、ウチにあったっけ……しょうがないな。買いに行こうか」
 烏哭はちょっと困った風に眉を寄せて考えていたが、すぐに新しいデートの口実を思いついて、愉しそうに口元をほころばせた。
 





 
やっぱり続いちゃう。