三蔵×悟能(8)

 甘い、甘い声が闇へと散ってゆく。寺の庭には白い香りの高い花が咲いているらしい。夜風にまぎれ、芳香が鼻をくすぐる。
「許し……許して」
 かすれた哀れな涙声が少年の唇から漏れる。口での奉仕が済んだ後は、もっと躰を開いて臓腑までさらけだせと求められる。
「いやで……す……いや……」
 つい、この間までは、こんなに淫らな行為がこの世に存在していることすら知らなかった。
 もう、心がついていかない。そんな状態なのに、彼のご主人様は最後まで埒を開けなくては満足しなかった。
「何がイヤだ」
 悟能の屹立をなめすする三蔵の声は濡れてくぐもった。
「たまには抱いて欲しいって言ってみろ」
「う……」
 悟能は涙ぐんだ。幼い肉体を貪られて、肌を震わせる。
「あ……」
 三蔵が唇を触れると、そこの皮膚が蕩けて崩れてしまいそうだった。暴力的なほどに甘い行為に畏れすら感じていた。
「さんぞ……さんぞ止め……止めて」
 幼い声が懇願するのも、とりあわなかった。拷問のように寝具へ悟能を押さえつけて愛撫を繰りかえす。あっという間に悟能は弾けた。白い体液が下肢へ、三蔵の口へと滴り汚す。
「早ええ」
 汚れるのもかまわず、三蔵は口元を歪めた。
「少ししか舐めてねぇぞ。俺は」
「う……」
 屈辱なのか、諦めか。呆然とした表情を下僕は浮かべている。ぐったりとして正体がない。
 三蔵が揶揄するのも、無理なかった。幼いので、すぐに快楽の臨界点へと達してしまうのだ。我慢ができない。
「ああッ」
 もっと後ろへ最高僧の舌は這いまわった。ぴちゃぴちゃと濡れた音が立つ。放出したばかりだというのに、悟能の前がひくんと震えた。その若さをみて三蔵が喉で笑う。
「柔らかくなってきたな」
「あ……」
「コレが済んだら、ちゃんと四つん這いになれ」
「さん……」
「命令だ」
「う……」
 否やとは言わせない口調で囁かれた。今夜は後背位で貪られるらしい。快楽で白くかすみ、まわらぬ頭で悟能はぼんやりと考えた。
 ダメになってしまいそうだった。何がとはうまくいえないが、ダメになってしまいそうだった。
(僕は――――)
 三蔵の言いなりになって、躰から涎をたらしている。醜悪で淫らな存在に自分がなってしまったようで、ぞっとした。
 それでも、自分を抱く三蔵の腕から逃れられない。
 言われたとおり、四つん這いになった。四つ足の獣のように尻を三蔵に差し出す。
 恥ずかしさに、顔から火が出そうだった。羞恥から、完全に精神が自由になっていない。三蔵は好き放題に犯していたが、まだまだ、悟能は初心だった。
 白く、まろやかな尻を眺めながら、最高僧が言った命令はどこまでも非情だった。
「自分の指で広げろ」
 おのれの手で肛の孔をさらけだすように要求される。
「――――な」
「広げて、俺を上手に誘ってみろ」
 ぴくん、と震える白い尻たぶに、三蔵は吐息を吹きかけた。ぎり、と悟能が歯を噛み締める。
 死にそうなくらい恥ずかしかった。どうして、こんなに恥ずかしいことを要求されるのか、まるで理解できなかった。
「……! 」
 首を無言で横へ振った。できないものはできなかった。第一、躰が強張ってうまく動かなかった。
 三蔵は無慈悲だった。猛ったものを押し付け、背後から圧し掛かると、脅迫するかのごとく囁いた。
「じゃねぇと、死ぬほどヤってぐちゃぐちゃにしてやる」
「う……」
 やりかねなかった。白皙の端麗な美貌の影に潜む、魔物じみた酷薄さを知ってる悟能は身震いした。
 こんなに昂ぶってる三蔵に逆らってどうなるか、分かったものではない。観念して手を自分の尻へ伸ばした。可憐な細い指がわなないている。
「……シテください。三蔵様」
 押し殺した声で呟いた。語尾が震えている。
「聞こえねぇ」
三蔵は無情に言った。
「ココを」
必死で自分の尻をつかんでいる悟能へ、節の立った、しかし長い指が触れた。
それは、直接、肉の蕾を穿ち、熱い粘膜を嘲るようにひろげ、
――――かきまわした。
「あああッ」
「もっと指で広げてみろ」
「はぁ……はぁ」
「……すげぇ、ナカ熱いぞ。トロトロだ」
「や……」
「こんなになってる。早く抱いて欲しいんだろうが」
「う……」
 こんな恥ずかしい躰に仕立て上げたのは、三蔵だった。悟能は三蔵の指が蠢くたびに背を竦め、びくびくと身をそらせて悦楽に耐えている。
「あああッ」
「言え。俺に聞こえるようにな」
 悟能は唾を飲み込んだ。音が聞こえるほどだった。もう、何も考えられない。
「さんぞ、さんぞ……」
 うわ言のように呟きながら、相手の望む言葉を紡ぎだす。
「抱いて……抱いて下さい」
 ぐるり、と体内で三蔵の指が回転した感覚がした。悟能はほとんど叫ぶように喚いた。
「あああッああ! 」
「俺が欲しいか」
 嗜虐的な口調で囁かれる言葉に、悟能は哀れにも深く肯いた。もう、躰が疼いてしょうがなかった。止めて欲しいだけだった。
「……分かった」
 三蔵の口元はイヤな感じに歪んだ。
「でも、俺の要求はとてもクリアできてねぇな」
 金の髪が悟能の上で揺れる。
「オネダリも上手くできてねぇし、ちゃんと誘うのもできてねぇ。てめぇは下僕失格だ」
 三蔵の口の端はつりあがって笑みに歪んでいる。人がいい表情とはとてもいえない。
「だから、最初に言ったとおり」
 くっくっくっと紫の瞳の男は心地よさげに笑っている。
「死ぬほどヤってやる。喜べ」
「……! 」
 悟能はうつぶせになったまま、首をねじまげ、振り返ろうとした。無駄だった。三蔵の熱い肌があっという間にのしかかってきた。狭間に硬い怒張が押し当てられる感覚が走ったかと同時に貫かれる。
「……ひっ……! 」
 悟能は悲鳴をあげた。ぐちゅ、ぐちゅと腰で捏ねるようにして、三蔵のペニスで穿たれる。
「ああッ」
 目の前が白くなるほどの快感が腰を蕩かして走り抜けた。もうだめだった。
「あああ」
 もう、口を閉じることもできない。とろとろとした唾液が口から漏れ、敷布に滴り落ちる。そんな悟能にのしかかった三蔵は、ひたすらその上で腰を振った。
「……ッ」
 眉根を寄せて、悟能の躰を味わっている。
「ヨクなったな。そうだ。緩めて……締めるんだ。そうだ」
「……ああッ」
 三蔵のが前後に動き、揺さぶられると、ここ数ヶ月、慣らされ続けた悟能のそこは絶妙な加減で締まった。
 生理的な痙攣だ。ぴくぴくと振るえて、三蔵の肉棒をしゃぶりつくす。
「いやらしい躰だ」
「ああッ」
 苛めるような三蔵の言葉にも、ろくろく返事をすることもできない。甘い吐息混じりの喘ぎを漏らすだけだ。
「さんぞ……さ……」
 うわごとみたいに、飼い主の名を呟き続ける。その名を唱えないと、もう正気へ二度と戻れないというみたいに。
「俺のをブチこまれてる気分はどうだ」
「んぅッ」
 涙なのか、涎なのか、飲まされた精液なのか、なんなのか分からなくなった体液が悟能のあごを伝い、敷布に落ちる。
「いい……」
 甘いうわ言が、責めたてられる肉体から漏れた。
「何? 」
 一瞬、動きを止めて、三蔵が聞き返す。
「いい……で……さん……ぞ」
 可愛い稚児は三蔵の肉体がおのれの躰に与えている感覚を、なんとか伝えようと努力しているらしい。
 嗜虐趣味のあるご主人様が、戯れに訊ねている言葉に、忠実に反応しているのだ。けなげだった。
「イイのか。コレが好きか」
 三蔵は背後からのしかかって、悟能の耳元へ囁き、耳たぶを舐めた。
 返事もできなくなって、悟能がひたすら肯く。聞かなくても、きゅ、と突き入れている粘膜が締まり、三蔵を柔らかく締め付ける。
「……そうか」
 そのまま、三蔵は動きを激しくした。円を描くように穿っていた動きに、直線的で激しいものが加わる。
「あ……」
 熱い吐息が絶え間なく悟能の唇から漏れた。限界が近い。
「締めろ……そうだ」
「あ、ああ」
 三蔵は背後から躰を重ねたまま、敷布についた悟能の手へ、自分の手を重ね合わせた。
 子供らしくすんなりとした指に、おとなの男の手が被さる。一見、僧侶らしく優美で長い印象の手だったが、銃を扱い慣れている三蔵の手だけあって、良く見るとごつくて節が立っている。
「ん……」
 手と手を重ね合わせ、躰と躰を繋ぐ。
「……っは」
 もう、終りが近い。三蔵が感極まったように、噛み締めた唇の間から呻き声を漏らす。
 滲んだ快楽の汗をぬぐいもせずに、貫いたまま悟能の背へ顔を近づけ、その首筋を優しく舐め上げた。
「んんッ」
 極まった瞬間、三蔵の手をふりほどき、悟能の手が宙を描く。それを再び優しく引き戻して重ね合わせる。
 最後の最後、悦楽にとらわれたまま、悟能は悲鳴に似た遂情の声をあげ、三蔵の下で崩れ落ちた。内部に男の体液がいっぱいに広がる熱い感覚があり、悟能は意識を失った。



  「三蔵×悟能(9)」に続く