三蔵×悟能(20)


 しかし、そうは上手くいかなかった。
「お出かけになるのでしたら、先にこの書類を見ていただきたいのですが」
 事務方の僧が分厚い書類を差し出して頭を下げる。三蔵はマルボロを咥えたまま、苦虫を噛み潰したような顔で相手の坊主頭を見つめた。剃り跡が青々としている。まだ若い僧だ。
「三蔵様、僕、執務室でも頑張っておいしいお茶をおいれしますから」
 悟能が笑ってそっと手をにぎってきた。
 しかたなかった。少なくとも昨日など執務室に足すら向けていないのだ。
 三蔵は憮然とした表情だったが、袖の中で悟能の手をひそかに握り返した。
「わかった」

 午前中のふたりは、そんな調子だった。
 そして、
 ようやく、昼も過ぎた頃――――
 三蔵は正式な三蔵法師としての装束の次くらいの簡易な格好をして――――金冠や頭巾はつけず、袈裟と白衣(直縫)を身に着けた姿になった。
 悟能といえば、こちらは、また、可愛い。可愛い過ぎた。如何にも稚児らしい水色の水干姿だった。袖と裾に絹糸で縫い取りのある少年らしい着物。膝丈までの長さが目に毒だ。
 可愛い膝小僧がのぞいている。少年趣味のある男なら拝むだけでぞくぞくしてくるような格好だ。
「もっと地味な着物はなかったのか」
 三蔵はぼそりと言った。本当に悟能は可愛い過ぎた。
「え? 」
 悟能は首を傾げてメガネのつるを手で押さえた。何も分かっていない。自分の容姿については本当にこの少年は無頓着だった。下働きの僧たちから言われる淫ら事も冗談とか、からかいだと思っているくらいだ。
「もういい」
 三蔵は横を向いた。とにかく、自分が一緒で傍にいるなら大丈夫だろう。最高僧様は、出入りの業者にもっと地味で、もう足とか首とか腕とかとにかく肌を露出させない地味な童服を注文しようと固く心に誓っていた。そんな服があるかどうかは疑問だが、無かったら、悟能専用に仕立てさせようとまで思っている。
 童形の服はとにかく動きやすさ優先で、露出については何も考慮されていない。あんなに艶かしい脚をむき出しにしてどうするのだと三蔵は心のうちでひそかにごちた。馬鹿が山ほど寄ってきてしまうだろう。
 
「いってらっしゃいませ」
 大勢の僧たちに見送られ、三蔵と悟能は慶雲院の門を後にした。


「これは、ようこそいらっしゃいました。私どもから参らねばならぬのに、三蔵様直々にこのようなところへ来て下さって恐縮しております」
 隣の寺の新しい住職は、三蔵と悟能を中庭の禅庭のよく見える部屋へ通すとそう言って頭を下げた。

 仏の十大弟子のうちのひとり、阿難陀アーナンダに良く似た男だ。まだ30代だろう。異例の若い住職だ。
 慶雲院の大僧正は、メガネの学僧を 『十大仏弟子のひとり大迦葉マハーカッサパに似た風格あり』 と良く褒める。あの融通の利かぬ真面目だけがとりえのメガネがマハーカッサパなら、こちらは愛弟子アーナンダだろう。鼻筋が高く通り、目元が涼しい。幾人もの女を迷わせた、あの絶世の美青年に良く似ているのだ。

 美しい。
 そう、美しい。墨染めの僧衣姿なのにその姿は輝くようだ。しかも才気煥発といった風情だ。
「三蔵様には、恥を忍んで申しますが、わたくし、知恵浅く、仏典を読んで解釈に迷うことあり、 色々とお尋ねしたいことなど多々ございます。師父とお呼びすることをお許しください。どうか、呆れず今後ともお導きくださいますよう」
 仏陀も阿難陀を見れば、可憐の情が湧いただろう。悟りに遠く、才覚も足りぬのに、死ぬまで傍に置いておいた仏陀の気持ちが分かる。この隣寺の美男な住職を見つめれば、容易にそんなことは想像できた。

 中庭に、緑葉のもみじが風でそよぎ涼しげな音を立てている。木々の下は青々と苔むし、落ち着いた味わいがあった。ギボウシが幅広い葉を広げ、ユリに似た花をつけている。芳しい香りが風に運ばれ、周囲に漂っていた
 そのうち茶が出された。隣寺の稚児が趣味のよい碗を目の前へ静かに置く。とろりとした上質の茶だ。薄緑色で綺麗だ。
「何もございませんが、お召し上がりください」
 秋にさしかかろうという時分だった。三蔵は碗を手にとり薄茶を口にした。
「三蔵様の訳された般若理趣経600巻のうち、578巻目のくだりについて―――−」
 住職の問いに、三蔵が手短に答える。若き住職は記憶力が優れていた。恐ろしいほどだ。そんなところまでアーナンダに似ている。三蔵と交わされる会話はほとんど禅問答だった。哲学的すぎて難解だった。
 悟能はそれをお行儀よく座って、じっと聞いていた。悟能も灌頂を受けたので、あらかたの経は暗記している。
 何回か三蔵との間で問答が行われ、相手の住職が合掌した。
「今度、是非三蔵様のありがたき説法を伺いにお尋ねいたしとうございます」
「いつでも、こられればいい。歓迎する」
 住職はありがたいとばかりに再度合掌した。
「悟能どのも、このようなむさ苦しい寺へおいでくださり、申し訳ございません」
 美男な住職は悟能に向かって優しく微笑んだ。





 帰り道、
「いい方でしたね」
 悟能は、隣の寺の門をくぐるとそう言った。
「そうか」
 三蔵はぼそりと呟いた。
「? どうされたんです。三蔵様」
「いやなんでもない」
 三蔵は内心、悟能を伴ってくるのではなかったと思っている。これではただのスケベじじいの方がましだった。
 謙虚、頭脳明晰、美男とそろいもそろった隣の住職は、悟能に対しても礼を失していない。三蔵と経について語っていても、所在ない稚児の立場を慮ってか、その椀へ直々にお茶を注いだりと立ち居ふるまいに如才がなかった。
 しかも、そんなしぐさに賢いというより、優しいという気配が漂うのがまたまた魅力的だった。にっこりと悟能に笑いかけた顔は清雅そのもので美しい。悟能もうっかりと見とれるほどの美男ぶりだ。まさしくあれは生ける大阿難陀だ。
 そう、悟能も好感を持っている。メガネ越しにぼうっとした目であんな野郎を見ていた。気がかりだった。あの野郎に微笑まれると動揺して照れていたのも許せなかった。
「気にいらねぇ」

 ただの嫉妬だ。

 あの男前が慶雲院に来たら、絶対にメガネの学僧をけしかけてやろう。そう三蔵は思っている。大阿難陀と大迦葉の組み合わせは最悪だ。何しろ、仏陀の死後、このふたりは死ぬほど罵りあって争ったのだ。

 そんなことを三蔵が考えこみながら、道を歩くこと数分、門前町に出た。賑やかな調子の界隈だ。
 道の左右に露店が出ている。色とりどりの垂れ幕が店々を飾り、店頭には賑やかな品物が並ぶ。
「三蔵様、これって……」
 悟能が目を丸くしている。
「今日は縁日だ。ここの寺の本尊は虚空蔵菩薩だからな。13日になると市が立つ」
 三蔵がぼそりと言った。
「屋台だのなんだの出て、賑やかだ――――それとも騒がしいのは嫌いか」
「僕、縁日とかって行ったことありません」
 そうだった。悟能は孤児だった。三蔵と同じように孤独な身の上で、頼るべき肉親も家族も悟能には何もないのだ。三蔵と悟能には両親の記憶もない。
「フン。のぞいてみるか? 」
 足元から這いのぼってきた、ふたり分の孤独感。それを打ち払うように鬼畜坊主は横を向いて言った。
「はいっ」
 うれしそうに悟能は返事をした。明朗で明るい声だ。ひたすらに可愛い。三蔵の気持ちなど、全く分かっていないに違いない。
 三蔵の手に、温かい肌が触れた。細い指の感触が走る。
悟能が、そっと手をつないできたのだった。隣を歩く稚児は顔を真っ赤にしてうつむいている。水色の水干の中で泳ぐ身体はしなやかで可憐だ。肩は細く、腰はすんなりとしてなまめかしい。おとなになりきらぬ色気のようなものが少年の表情にただよっている。
 三蔵は思わずその手を強く握り返すと、その僧衣の袖でそっと包むようにした。
 もう、ひとりじゃない。


 三蔵と悟能はふたりで立ち並んだ屋台をひやかしながら歩いた。
 店にかかるとりどりののれんや看板が華やかで活気にあふれている。ビニール製の丸く膨らんだヨーヨーをたらいに並べる店、色とりどりのヨーヨーが夢のように感じられる。金魚すくいをやる子供の真剣な目つき、お好み焼きだろうか、ソースの焼ける匂いが濃く漂ってくる、ひといきれ、すれ違う人々の笑い声、おいしそうなりんご飴がきらきらと光る店先、楽しそうな話し声、龍やら鶴やらきれいな形を自在につくって客に手渡す飴細工売り……。
 悟能にとってはどれもはじめて見るものばかりだった。

 そんな場所にどのくらいいただろうか。

 悟能はずっと、しあわせそうに三蔵と手をつないでいた。

「とても楽しかったです。ありがとうございます」
 わたあめや、たこやきの入ったビニールの包みを手に、悟能はうれしそうに笑った。三蔵に買ってもらったのだ。
「そうか? 」
 三蔵はやや不満そうに呟いた。さりげなく、悟能の細い手からわたあめやたこやきの袋を受け取って代わりに持つ。その左手にさげて持った。銃を持ちなれた精悍な手だ。
「まぁ、お前が楽しいなら良かった」
 縁日は人が多すぎた。悟能は目立つ。いや、三蔵こそ目立つのだが、もう生まれたときからその美貌を注視され続けてきて、自分に向けられるひとの視線など気にしないのが習慣になっている。
 そんな三蔵だったが悟能を見るヤツは許せない。俺の悟能をじろじろ見るとは何事だ。死ね。本気でそう思ってる。
 悟能は分かっているのか、分かっていないのか。無邪気な笑顔を三蔵に向けた。ここまで無防備な笑顔はなかなか寺の中ではしない。それだけでも、三蔵は内心うれしかった。悟能の可愛い笑顔を眺めているだけで、なんだか口もとがゆるんでしまう。
「金魚すくいって難しいんですね。でも、僕だいじに世話をしますから」
 小さなビニールに入った金魚を目の高さまで上げて、可愛らしく微笑んだ。綺麗な観賞魚は2匹だった。きらきらと鱗を光らせている。
「なんかコイツ、お前っぽいな」
 三蔵が小さい出目金を指差した。
「そうですか? こっちの金魚こそ、うろこが金色で三蔵様っぽいですよね」
「俺はこんなに目つきが悪くねぇ」
 悟能はじっと金魚を見つめている。その目は少年らしくきらきらと輝いている。
 次の瞬間、
 三蔵はこっそり、稚児の額にくちづけた。
「! 三蔵様……」
 悟能が顔を真っ赤にする。
「よそ見してるのが悪いんだろうが」
 夕闇が近いのをいいことに、そんな事をしながら慶雲院のそばまできた。

 夕日の最後の光が北の山の稜線を金色に照らし出し、夕闇がふたりを優しく溶かそうとするように背後から迫っていた。

 わたあめだの、やきそばだの、金魚すくいの金魚だのを手に、正門をくぐるのは気がひけた。

 ふたりは他愛の無い会話をしながら、人目を避けて慶雲院の裏門をくぐった。

 そおっと裏庭へ入る。
 木々でうっそうとしていて慶雲院の裏側は薄暗かった。低い植え込みの向こうにひさしつきの廊下が見える。見ると、廊下のあちらこちらに、ろうそくの明かりが灯りだし、幻想的に庭を照らしていた。
 悟能はこっそりと隣の三蔵を上目づかいで眺めた。
 そんな場所で夕闇に溶けるような三蔵の横顔を眺めていると、この美しいひとが本当に現実にいるのかどうか疑わしくなる。悟能は思わず、ご主人様が本当にこの世のひとであるのか、確かめるかのように、つないでいた手の力を少し強くした。
「三蔵様、今日はありがとうございます」
「なんだ」
「僕、三蔵様と一緒でしあわせです」
 美少年は耳まで赤くして三蔵へ小声で礼を言った。それを聞いて、三蔵はその紫の瞳を一瞬大きくみひらいた。
 そして、ふっと微笑むと、悟能へと顔を近づけた。その細いあごを指で上へ向かせ、そっとくちづける。やさしく唇と唇を触れ合わせる。そのまま腕の中へ抱きしめた。幸い、あたりの木々がふたりの姿を隠してくれていた。
「俺だって、お前と一緒でうれしい」
 三蔵が大きな手で黒髪の美しい頭を撫でる。大切な大切な宝物を扱う手つきだ。
 しかし、
「そんなことありません」
 悟能は真顔で、あろうことか三蔵へ言い返した。
「そんなことありません。僕の方がずっとずっと三蔵様のことが好きです」
 真剣な声だった。本気でそう思い込んでいる声だ。三蔵最愛の稚児は顔を真っ赤にして言い張った。
「何言ってんだ。そんなわけないだろうが、見て分かんねぇのか、この鈍感なガキめ。俺の方がずっとずっとお前のことが好きだろうが」
 眉を跳ね上げきっぱりと最高僧様は宣言した。
 しかし、
「違います」
 悟能は変なところで強情だった。三蔵の意見を退けた。
「違わねぇ」
 三蔵は片目を眇めて自分の可愛い稚児を睨んだ。
「僕がこんなに三蔵様のことが好きなのに、ちっともお分かりになんかなっておられません」
 悟能がその長いまつげをそっと伏せると、蝋燭の灯りで頬にその優美な影が落ちた。
「何言ってんだ。本当にひとの気も知らないで何言ってやがる」
 三蔵も真剣な口調だった。可憐だがどこか天然な、この稚児の言葉は聞き捨てならなかった。
「三蔵様のいじわる」
 悟能の漆黒のまつげの先がふるえ、きらきらと灯りを反射して輝いた。
「この鈍感が。本当に鈍いな、てめぇは。俺がこんなにお前のことが好きなのに、気がついてねぇとかありえねぇなガキが」
「ひどいです。そんな言い方」
 悟能が涙ぐんだ。可愛いほっぺに赤みがさしている。
「俺の方がお前のことが好きに決まってる。俺の方がお前のことを思う気持ちが深い。……これでいいな。この話はこれで終わりだ」
 三蔵は横を向いた。いくら悟能が可憐でもこの主張だけは折れるつもりなどなかった。
「違います。僕の方がずっと三蔵様のことを好きです」
「てめぇ、この俺に口ごたえすんのか」
「だって」
「あああ? 」
 ある意味、最高僧様とご寵愛の稚児は聞くに耐えない会話を延々と続けていた。最初は小声でささやきあっていたのに、最後には大声になっていた。
「分かった。それなら今日は一緒に風呂に入るぞ。風呂でお前を洗ってやるからな。いいな」
 三蔵は言った。唐突な提案だった。悟能はびっくりしたように、その大きな眼を見開いた。
「……僕、恥ずかしいです」
 ただでさえ、真っ赤になっていた悟能はもっと真っ赤になった。金魚の入ったビニール袋を持つ手がふるえている。
「要するにそういうことだ。お前の気持ちなんざ、俺と一緒に風呂にも入れねぇ。それっぽっちのモンだ。そんな覚悟で、よくこの俺のことが好きだなんて言えたもんだな」
 三蔵は片眉をつりあげて厳しく断定した。可愛い稚児を許してやるつもりなど毛頭、無さそうだった。
「う……」
 悟能は困った。みるみるうちにその両の目に涙が滲んでくる。
「返事は」
 三蔵様は見下ろすように高圧的に返答を迫った。声が低い。これでは脅迫だ。
「俺と風呂に入るのか、入らねぇのか」
「さんぞ……さま」
「分かった。お前の気持ちはそれくらいのモンなんだな」
「入ります! 」
 美少年は叫んだ。細い肩が震えている。
「一緒に入ってお背中をお流しします! 」
「よし」
 三蔵の口元が笑みにゆがんだ。声も甘くなっている。
「いい子だ」
 ゆっくりと金の髪の僧侶は稚児の頭をやさしく片手で撫でた。さらさらとした黒髪が、その手の下で音を立てる。抑えきれずに、くっくっくっと三蔵は低く笑った。
 所詮、悟能はひとまわりも年下の少年で、三蔵はおとなだった。悟能は釈迦の手の上で、転がされているようなものだ。ふたたび、三蔵はやさしく 美少年を抱きしめた。悟能は腰が折れそうなくらい華奢だった。かわいくてかわいくてかわいくて……しょうがない。
「俺の方がお前に惚れてるに決まっ……」
 甘く、三蔵が口説くような口調でささやいたそのとき、
「おや、三蔵様と悟能どの。こちらからお帰りでしたか」
 ふたりの声は大きすぎたらしい。メガネのマハーカッサパ、いや学僧が笑いながら、廊下から声をかけた。
「じゃますんじゃねぇ」
 ひときわ低い声で三蔵が答えた。とはいえ、片手で悟能を抱きしめ、片手ではわたあめや焼きそばの入った包みを手にさげている。あまり、凄みがあるとは言えない姿だ。
「夕食はどうなさいます」
「あ? 」
「大僧正様から、今後、わたくしが貴方と悟能どののお食事を運ぶようにと申し付けられました」
「余計なことをジジイ」
 三蔵が嫌そうに吐き捨てた。実際のところ、三蔵は悟能と食事を庫裏へとりに行くのが嫌いではなかった。いやそれどころか、表情にこそ出さないが、ちょっとしたデート気分で楽しかったのだ。
 しかし、庫裏の僧たちにとってはたまったものではない。そう、彼ら下働きの僧らが大僧正へ直訴したのである。
「夕食はいらねぇ。邪魔すんな」
「承知いたしました」
 学僧は軽く頭を下げると、その場から立ち去った。
「ったく」
 廊下の向こうへ遠ざかってゆく学僧の後ろ姿を見つめながら三蔵が舌打ちした。
「お前の声がでかいからだ」
「ひどいです」
 悟能が大きな目をみひらいた。そのきれいな緑色がまた涙で潤んでいる。三蔵が困ったように溜め息をついて言った。
「……早く部屋へ帰って金魚を水槽にいれてやるんじゃねぇのか」
「そうでした」
「それで、一緒に部屋で焼きそばを食べるんだろ」
「そうです」
 悟能がぱぁっと、その可愛い顔を輝かせる。まだまだ、子供だった。いままでおとなぶって隠していた素顔を三蔵だけには見せるようになってる。
「急ぎましょう。三蔵様、冷めてしまいます」
「わかったわかった」
 三蔵は、悟能に空いている方の手を取られてひっぱられた。
 満更でもなさそうな、幸福そうな顔をして。
 とたんに、
 空気は薔薇色を帯び、眩暈のするような幸福感で凍結し煮凝ったようになった。






「三蔵×悟能(21)」に続く