満天の星空(2)


「あ、ッ……ッ」
 声を殺そうとして、快楽を逃がそうとして、失敗する。
 悟浄の舌が、下肢を這いまわる。焚き火の炎を反射して、輝く緋色の髪は憎らしいほどに綺麗だった。
「ご……じょ」
 息も絶え絶えといった風情で、八戒が自分の脚の付け根で揺れる髪へと手を伸ばす。なんとか、動きを止めようとするが、力の入らない両手は、紅の髪をかき回しただけだった。
「く……ぅ」
 ぎり、と歯を食いしばる。先端の肉冠がすっぽりと唇で覆われるなま暖かい感覚があった。
「う……ッ」
 首を力なく横に振る。しどけなく感じきってる躰は蕩けて甘い。悟浄の口が、全体で屹立を扱くように上下しはじめると、八戒は耐え切れなくなった。
「! 」
 悟浄の頭へと伸ばされていた手は、反射的に八戒自身の口を塞いだ。両の指と指を重ね合わせて、甘い吐息が漏れてしまうのを防ごうとする。
 そんな、涙ぐましい八戒の努力を嘲笑うかのように、悟浄の舌が先端の鈴口をちろちろと舐め上げた。
「ぐ……! 」
 白い霞みのようなものが、八戒の意識に広がる。強烈な快楽だった。腰が蕩けてぐずぐずに崩れそうだった。悟浄はことさら執拗にそこを嬲った。
「あっ」
 鈴口の、可憐に細く口を開けている小さな孔に舌の先端を差し入れられて、八戒の躰が跳ねた。上体を捩って、淫らな感覚に耐えようともがく。腰をくねらせて悦楽を逃がそうと必死だ。
「はぁ……ッ……あっ」
 ちゅ、ちゅと音を立てて、先端にくちづけていた悟浄だったが、再び勢いよくそれ全体を口へ含んだ。そのまま吸い上げる。
「……! 」
 八戒が思わず自分の手をきつく噛んだ。我慢できなかった。喘ぎよがり狂ってしまいそうだった。腰が熱く疼いて、目の前が快感で白くなってゆく。広げられた寝袋の上で、しなやかな脚が引き攣ったように伸び、痙攣した。快楽の発作だ。きゅ、と足裏が布を踏みしめる。突っ張った脚は震えて、今にも崩れ落ちそうだった。
「ひ……ッ」
 悟浄は緋色の双眸を細めた。敏感な八戒の躰は知り尽くしていた。八戒はいまや足の指先まで反らせて痙攣している。
「イキたい? 」
 優しいのに、残酷な問いだった。悟浄は口淫を施しながら、八戒の根元をきつく握りしめていた。容易く達せられないように縛めている。
 硬く張り詰めきった表面に、血管が浮いて走り、八戒はもう極限状態だった。追い上げられた躰はもう、限界だった。淫らに喘いでいる。
「ご……じょ」
 いつもなら、悟浄は優しく自分をなだめて解放してくれる。なのに。今日は最初に抵抗したせいか、なかなか許してもらえない。
「許し……て……くだ……さ」
 熱い吐息まじりの声で懇願した。
「駄目」
 返ってきたのは、無情な言葉だった。
「ごじょ……! 」
 悲痛な八戒の声にならない悲鳴を無視して、悟浄の舌は、脚の付け根へと這った。生殺しだ。
「ああ……」
 目元を染めて、八戒がびくびくと躰を震わせる。身も世もなく身悶えながら、拷問のような快楽に蹂躙される。とろとろと、再び屹立から、大量の透明な体液を溢れさせて身をよじる。
 声にならない声を噛み締め、仰け反った。快楽を逃がしきれない。このままでは狂ってしまいそうだった。
「お、後ろもひくひくしちまってるじゃん」
「! 」
 脚を抱え上げて覗き込んでいる悟浄には、屹立の下、わななく媚肉の蠕動も丸見えなのだろう。卑猥な目つきで、後孔が欲しがって収縮する様を仔細に観察している。その様子に居たたまれなくなって、八戒が逃げようと躰をひねった。
「おっと」
 悟浄の力強い腕が、それを許さない。
「どうせなら、こっち向きになってくんねぇ? こっちからのが明るくて見やすい」
「な……」
 悟浄が、八戒の腰を抱えて、向きを変えた。ちょうど八戒の尻が焚き火の方を向くようにする。
 悟浄の意図に気がついた八戒が首を激しく振った。肉の薄い小さな尻が震える。
「いやです! そんな……」
「こうすっと、八戒が悦んでんの、良く見える」
 悟浄の緋色の瞳が細められる。
「やらしい。八戒」
 丸見えだった。隠しておくべき秘所が暴かれている。悟浄の愛撫で翻弄されて震える屹立も、その裏筋も、双球も、後孔も、ピンク色をした粘膜さえも。
「ぱくぱく、しだしちまってるけど。ココ」
 『ココ』と呟きながら、悟浄は後ろに舌を這わせた。
「ああ……ぐッ」
 思い切り甘い嬌声を上げそうになって、八戒は自分の手を噛んだ。血が出るほどに噛んでも、もう快楽からは逃れられない。悟浄の容赦ない舌が後ろの孔の奥へと差し入れられる。  粘膜を舐めまわされて、八戒の腰ががくがくと震える。どうしようもなく躰が淫らに蕩けてしまっていた。
「ああッ……ん」
 残酷なほど、甘い愛撫に、八戒の精神も限界だった。理性が焼き切れる。
「ごじょ……ごじょ……ぉ」
 自在に下肢で這い回る舌に翻弄され、愛しい相手の名前を哀願するように呼ぶ。
 八戒は腰を上げるようにして、悟浄を誘うような仕草をした。淫らだった。上下に腰を振って男を誘う。無意識の媚態だ。鋭い快楽の矢で打ち抜かれるのを待ちわびている。既に、下肢は八戒の先走りの体液と、悟浄の唾液とで、どちらがどちらだかわからないほど、ぐしょぐしょに濡れていた。
「すげぇ……ヤラシイ。八戒」
 悟浄が愛撫の手をゆるめて、そのカフスの嵌まった耳元に囁く。
「欲しいって言えよ。八戒」
 獣がじゃれて喉を鳴らすような声だった。
「あ……」
 蕩けて、焦点を失った瞳が悟浄を見上げる。そんな八戒の意識を覚醒させるかのように、悟浄は後ろへ指を一本差し入れた。
「ひっ……! 」
「……一本でも……きっつきつだぜ、オマエ」
 二本の傷が走る頬に、淫猥な笑みが刻まれる。
「……ホラ分かる? しゃぶって離さないの。すげぇ」
 悟浄が挿入した人差し指をぐるりと回した。きゅ、きゅっと動きに反応するかのように環が締め付けてくる。
「く……」
 八戒といえば、もう、閉じることを忘れたような口をわななかせているだけで精一杯だった。唇の間から、ピンク色の舌がちらちらとのぞき、口端からはとろとろと唾液が伝い落ちる。
「じゃあ、もう一本」
「……! 」
 声とともに増やされる指に、八戒の眉根が寄せられる。悟浄の指が押し入るたびに、その器官が飢えて待ちわびていたのだと思い知らされる。
「んッ……」
 背筋を快楽の電流がものすごい速度で駆け上がってゆく。脳内で白い快楽の粒子が舞い、もう何も考えられない。分かるのは、狭間で蠢く悟浄の指の動きだけだ。
「今、何本入ってるか、分かる?」
 八戒は無言で首を振った。もう、答える余裕などない。
「三本、余裕で喰っちまってる。オマエってば」
 悟浄の指がばらばらに動き、腰の奥を激しく焼く。情欲が脳を真っ赤に染め上げてゆくようだ。
「ひょっとして、このまんまでもイケそう?」
 悟浄の目が妖しく光った。まんざらでもなさそうな、好奇心を湛えた目だ。指だけで、八戒を狂わせ、息も絶え絶えにさせている。
「よ……して……ごじょ」
 息を荒げて八戒が懇願する。
「何、指じゃイヤ?」
 もう、我慢できるのはそこまでだった。
 こくこくと深く八戒は首を縦に振った。悟浄の硬くて太い、熱い切っ先が欲しくてしょうがなかった。突きまわして、ぐちゃぐちゃにして欲しい。もう耐えられなかった。
「……足首、手で持って左右に広げて。八戒」
 恥ずかしい行為を求められる。それでも、八戒は言う通りに震える手を自分の足へと這わせ、その両足首をそれぞれの手でつかむと左右に躰を開いた。悟浄の眼前に何もかもをさらけだした。
「……イイ眺め」
 紅い髪の男が喉で笑う。細い腰を手でひきよせると、自分の熱い怒張を宛がった。
「く……! 」
 苦しいような、陶酔を伴う圧迫感とともに悟浄が入ってくる。腰を揺するようにして、埋められて、八戒は頭を左右に振った。敷かれている寝袋の上に、艶やかな黒髪が音を立てて打ち振られる。
「はぁッ……ッ! ああっ! 」
 思い切り、奥まで一気に埋め込まれて仰け反った。このときばかりはもうどうしようもない。熱い喘ぎが抑えようもなく、口をついて漏れてしまう。
 その、熱い声に反応するかのように、ほんの二、三歩先で寝ている三蔵が寝返りを打った。
「しっ」
 悟浄に唇を塞がれた。大きな手の平を口へ押し当てられる。その間も、太いものは突き入れられたままで、快楽を逃がしきれずに八戒は瞳を潤ませた。
「……ん」
 三蔵の寝袋が、主の動きに沿ってもぞもぞと形を変えている。その様子を目の端でとらえて、ふたりで息を止めた。
 暫く、衣ずれの音が闇の中から聞こえていたが、じきに静かになった。三蔵は悟浄たちから背を向ける格好で横を向いた。
「寝てるな」
 低い声で、悟浄が呟く。
「は……ッ」
 八戒といえば、悟浄の下で、びくびくと躰を震わせていた。眉根を悩ましげに寄せて快楽に耐えている。三蔵の様子をうかがって動きを止めている間も、突き入れられたままだった。 脈打つ蠢きや容を熱い粘膜でじっくりと確かめてしまい、八戒は我慢できなくなっていた。貫かれたものの、そのまま放置されて焦らされるような行為に、八戒の背に汗が浮いていた。
「ご……じょ」
 悩ましくも情欲の滲んだ声で八戒は悟浄を求めた。
「うごい……てッ」
 その言葉に、ぴくんと、内部にいる悟浄が反応する。
「あっ……」
 淫猥な感覚だった。粘膜越しに、ひくひくと悟浄が脈を打つのが分かる。
 腕の中で、艶めかしく躰を震わせて、感じきってる八戒に悟浄が囁く。
「動くぞ」
「……ッあ! 」
 ゆっくりと長大なモノが引き抜かれる感覚に、八戒が思わず悟浄にしがみついた。両手で悟浄の腕をつかむ。あまりにも強烈な快楽を止めようとするかのような動きだった。悟浄は声も出さずに笑ってその手を払いのけ、再び八戒の中へと押し入った。
「ぐ……! 」
 きつい圧迫感に、八戒が背を反らして喘いだ。
「八戒……」
悟浄が耳元で甘く囁く。舌で耳たぶを濡らすように舐め回した。きつい快楽から逃れようと、無意識に腰を浮かせて逃げを打つ躰を押さえつけ、悟浄は肉食の獣みたいに、相手を屠るために、何度も立て続けに穿った。
「あ! ああっ! あ――――! 」
 極まった甘い陶酔の声が八戒から上がる。ついに得られた快楽の前に、八戒は完全に屈服した。途端に、八戒の先端から白濁した体液があふれ、滴る。先走りと混じって粘性の薄い最初のは、胸元近くまで飛び、残りの濃い液体は傷跡のある下腹部を濡らしてゆく。
「……んなに、ヨかった? 」
 悟浄は何度も八戒の躰の上で腰を振った。その下で翻弄されて、痩躯がよがり悶える。
「はぁッ……あっあ! 」
 ぐちゅぐちゅと音も激しく、抱き潰すように求められた。狭隘なそこを、悟浄の太いものが何度も往復して、攻め立てる。八戒の口の端から、唾液がとろとろと伝い、下に敷いた寝袋へと滴った。もう、ひどい快楽に身も世もない。我を忘れている。
「声……出すと起きるぜ。他のヤツらが。いいのかよ」
 悟浄が意地悪く囁く。翡翠色の潤んだ瞳は、快楽に蕩けて正体を失っている。
 仲間が寝ている場所で、しかも外で抱かれて羞恥を感じないわけではなかったが、それよりも快感の方が強かった。
「それとも、見られたい? 三蔵とか……悟空に」
 ずぷ、と奥まで穿たれる。
「オマエの……こんな淫らなトコ」
 悟浄は捏ねるように腰を使い出した。
「……見せつけてやろうか? 」
 八戒の肉筒を軸にして、怒張で円を描く。もう八戒はよがり狂うことしかできなかった。
「あぅ……ッ……! ごじょ……! 」
 ぎり、と必死で悟浄をつかんだ腕に爪を立てる。もう、本能のまま喘ぎ狂い、乱れてしまいそうだった。
 いや、もうとっくに理性なんかない。捏ね回すようなペニスの動きで、触れ合う粘膜から、鋭い快楽が湧き上がり、全ての意識を白い闇の中へと連れ去ってゆく。
「ひ……ッ……ぃ」
 背をわななかせ、悲鳴じみた声が八戒から上がりはじめる。
 理性もとろとろに蕩けて失っている癖に、自分が如何に恥知らずな声を上げて喘いでいるのか、分かったのだろうか。一瞬、我に返ったらしい八戒が、自分の指を噛み締めた。血が滲む勢いだ。
「おっと」
 悟浄は慌てて、口から指を外させた。途端に、甘い呻きがその唇から漏れる。
「んな力いれて噛むなよ。血ィ出てるぞ。バッカだな」
 悟浄は心配そうに呟くと、八戒の綺麗な長い指を舌で舐めまわした。
「あーあ。綺麗な指に傷つくっちまって」
 ねっとりと指の間のひだにまで舌を這わした。
「は……ぁ」
 そんな行為にも感じるのか、八戒がびくびくと震える。舐められると、悟浄を飲み込んだ狭間にまで快楽が伝わり躰が痙攣する。
「しゃぁねぇ。じゃ、……こうすっか」
 悟浄は傍らにきちんと畳まれていた、八戒の衣服から、緑のバンダナを抜きとった。その手を伸ばす無理な動きで、微妙に繋がってる箇所に空気が入った。ぐぷ、と狭隘なそこが淫靡な音を立てる。
「八戒。口開けて」




「満天の星空(3)」に続く