満天の星空(3)


「!」
 悟浄が、バンダナを八戒の口へと押し込んだ。反射的に首を振って逃れようとするが、丸めて口の中へと押し込められる。
「……これで、イイんじゃねぇ? 」
 悟浄を恨めしげに見つめる情人を見下ろし、悟浄は快活な笑みをその頬に浮かべた。
「じゃ、もう遠慮なく」
「!……ぐ! 」
 縦横無尽に、激しく突きまくられる。食い荒らす勢いで、悟浄は八戒を穿った。喘いで声を漏らし、快楽を逃がそうとしても、もうそれも口に封をされていてかなわない。
 内攻する快楽に蹂躙され、躰を震わせていることしかできなかった。喘ぎ声を殺されて、悦楽が内部で醸成される。
「……ッ!……ッ」
 上の口は塞がれ、下は悟浄ので犯されている。自由になるのは、耳と目だけだ。耳からは自分を貪る悟浄の激しい息遣いが入り込み、眼前は緋色に覆われる。全てを悟浄に支配されて、八戒は身悶えた。
「ふ……ッ」
 潤んだ瞳で、限界を訴える。そんなしどけない躰を、悟浄は抱き潰すようにして犯した。
「……たまんねぇ」
 もはや悟浄というより、緋色の獣が囁く。
「……も、イク……」
 吐息混じりの低い声が限界を告げた。八戒を穿つ腰の動きが速くなる。
「っぐ……! 」
 激しくなってゆく動きに、がくがくと揺さぶられ、八戒が仰け反った。きゅ、と足の爪先が足裏側へ折るように曲げられる。快楽の間歇的な発作に襲われ、弛緩と痙攣を繰り返した。一度、放出したはずの前も、すっかり頭をもたげ随喜の涙を流している。
「ふッ……ッ」
 全身で悟浄を受け入れ、もう失神直前という態だった。限界だ。
「八戒……」
 悟浄が愛しげに腰を打ちつけたそのとき。
「――――――ッ! 」
 口を布で塞がれて、声にならない声で八戒が呻いた。快楽が閾値を超え、理性が陥落する。びくんと屹立が跳ね、悟浄を奥深くに受け入れたまま逐情した。白い蜜液を吐き出した。
「っは……! 」
 八戒が間歇的な発作のように白濁した体液を放ちだすと、肉筒に突き入れていた悟浄も平静ではいられない。悟浄が眉を寄せる。拍動と同じ律動で蜜がこぼされるたびに、内部の肉筒も併せて蠕動し、悟浄を絞りあげてくる。きつく締まってゆく媚肉に、耐えられず悟浄も腰の動きを止めた。
「っあ……ッ」
 ぴく、と悟浄のそれに緊張が走り、一瞬の停止の後、爆ぜた。
「ッふ……!」
 精を放出する快楽に息も絶え絶えになっていた八戒だったが、今度は達して敏感になっている粘膜に、悟浄の体液を注がれた。
 精液を粘膜の奥の奥、肉筒の奥深くへ塗りつけられる、生々しい感覚に狂った。何度も分けて粘膜に注がれる生温かい精液の感覚。蕩けきった淫らな表情で八戒はそれを味わっている。その翡翠色の瞳から、生理的な涙が頬を伝う。口を利くことも、喘ぐことも許されず、ただびくびくと腰を震わせて悦がった。
「んッ……はぁ」
「苦し……かった? ごめんな」
 悟浄は八戒の口から、緑色の布を取り去った。八戒が息も絶え絶えという様子で恨めしそうに悟浄を見上げる。
「……貴方って……ひと……は」
 恨みごとのひとつもいいたいのだろうが、もう言葉が出てこない。蹂躙されて、悟浄の好き放題に貪られて、いまだ熱い肌は艶めかしく、胸の尖りも行為の熱に染まって色づき上を向いたままだ。いやらしい。
 突き入れたまま、そんな八戒を眺め下ろしていた悟浄だったが、顔を近づけ、そっと唇を重ねた。
 優しい啄ばむようなキス。
「悪り。オマエみてっとなんだか歯止めきかねぇわ」
 耳元で囁く。そのぞくりとくるような声に、八戒が反応した。
「んッ……」
 いまだに、悟浄のを咥えたままだった肉筒が、きつく収縮する。悟浄のオスをしゃぶるような蠢きだ。
「っ! 」
 さすがの悟浄も眉を寄せ、快楽の波に再び絡めとられた。
「や……悟浄の……また」
 八戒がぶるっと躰を震わせた。粘膜の狭間で、一度放出して多少柔らかくなったはずのそれは、瞬く間に以前と同等の硬度を取り戻した。
「また……大きく……ッ」
 一番、そのことを感じているのは、抱かれている八戒だろう。内部で放たれた精液を泡立てるような動きで、ゆっくりと抽送しだした悟浄を睨む。
「やらしい八戒が悪い。この場合」
 言い捨てると、腰を引き、ずるりと半ばまで抜いた。
「――――ひッ」
 次の瞬間、激しく奥まで貫いた。
「……ああ、ああ」
 がり、と八戒の手が思わず地を這う。寝袋を敷布がわりにしていたが、そこから逃れて端へと手を伸ばしたのだ。逃げを打つ腰を、悟浄が追い詰める。
「あッ……! 」
 ずっぷりとした肉棒で串刺しにされる。八戒はもう身も世もなく悦楽に喘ぎ、哀願しだした。
「お願い……助け……ご……じょ」
 ぐぷぐぷと繋がってる箇所が淫らな音を立てる。悟浄が腰を揺すって捏ね回すたびに、そこは淫猥な曲を奏でた。穿たれている八戒はすっかり肉欲の虜になっている。いつもの清廉な好青年然とした様子と比べると別人だ。悟浄がその頬を優しく撫でると、手についていた体液で整った顔が汚れる。八戒の端正な顔立ちは淫らな飾りで汚れに汚れた。
「すげぇ、イイ……八戒は?」
 悟浄の問いにも、もう答えられない。
「あ、あっ……」
 一度、抱かれて理性を手放してしまった躰はひどく素直だった。きゅうきゅうと後ろで悟浄を喜悦のままに締め付け放さない。
「そっか。んなにイイ?」
 返事など聞かずとも、八戒の躰が、のみこんだ尻が、悦い悦いと言って涎を垂らしている。
肉筒に納めさせられた精液が、捏ねまわされ泡立つほどになって、八戒が限界を訴えだした。
「死んじゃ……ごじょ、も……」
 もう、悟浄の指が肌を走るだけで、電流のように快楽が流れる。俗にいう「イキっぱなし」の状態になった八戒は、悟浄に突き入れられたまま、躰をがくがくと痙攣させた。
「あ、ああ。あ……ッ! 」
 もう、何度目か分からない自身を解放する。爆ぜたばかりの敏感なそれが悟浄の大きな手で包まれる。
「オマエのイキ顔……すげぇ綺麗」
 至近距離で達した顔を覗き込まれ、達したばかりの性器をもてあそばれる。
「は……ごじょ」
 悟浄は八戒の膝裏に腕を通し、肩に八戒のしなやかな両足を担ぎ上げると、胸につくほどその躰を折りたたむようにした。そのまま上から刺すように打ちつけだす。
「……ひ……ッ……あ」
 より深く奥まで繋がる体位に、八戒が髪を打ち振って悶える。
「こうすっと……」
 わざと肉筒の壁へ擦り付けるように腰を遊ばせる。
「イイトコ……当たる? 」
「―――――!! 」
 もう、声にもならない。敏感すぎる前立腺を攻め立てられて、八戒は細腰を哀れなほどよじらせ喘いだ。
「やらしすぎ。オマエ」
 上から穿っていた悟浄だったが、感極まったように、尻を震わせて動きを止めた。
「っあ……! 」
 悟浄の雄がまた内部で弾ける。熱い体液が粘膜に広がり満ちてゆく。肉筒が悟浄の精液でいっぱいになった。その淫ら過ぎる感覚に、八戒は自分もまた逐情してしまう。
はぁはぁと、ふたりの荒い息遣いだけが、闇に満ちる。
「も、スゲぇ」
「ご……じょ」
 くちづけを交わしあいながら、お互いを抱きしめあった。情事の後の蕩けるような抱擁。もう睦言を交わす余裕もない交合だが、甘い甘い気配にあたりが包まれる。
そのとき。
「……はっかい? 」
 突然、闇の中から悟空の声がした。
 悟浄の躰の下で八戒が凍りつく。途中で声を殺すことも忘れ果てて、悟浄と濃い交合を繰り返していた。それで悟空が起きてしまったに違いない。
おそるおそる声のした方を振り向けば、悟空が目を擦りながら座ってる。寝袋を半ばまで剥いで八戒と悟浄のいる方をぼんやりと見ていた。
「ご、悟空……! 」
 八戒の語尾が震えた。顔から血の気が完全に失せている。
「ギョウザ、おいしいね」
 悟空はわけのわからないことを呟くと大きく欠伸をした。
「は? 」
 八戒が問い返すのにも答えず、そのまま前のめりに倒れた。途端、大きないびきが周囲に響く。また寝てしまったらしい。
「――――なんだよ! 寝ぼけてんのかよ。人騒がせな……」
 悟浄が緋色の髪をかきあげ口を歪めた。
「まぁまぁ」
 八戒が宥める。
「もう僕らも寝ましょう……って……悟浄……ッ」
 語尾が掠れた。内部の悟浄がまた大きくなったのだ。
「まだ……繋がったままだって……分かってる? 」
「……バカッ……も」
 罵る声にも力が入らない。
「なんだか、今夜はずっとヤリたい気分って――――か」
「知りません。僕は。あ、あ……あっ」
「八戒のココもまだまだ俺の喰いたいって」
 すっかり自分のと八戒のソコは仲良しだと言わんばかりに、悟浄が腰を揺すって繋がりを強調する。
「バカッ……ぁ……ッん」
 ふたりの夜はまだまだ終わらないようだった。
空には満天の星空が天蓋のようにかかり、地には心地よい風が吹く。草原のベッドで、悟浄と八戒は飽きもせず、仲間が起きないのをいいことに、いつまでも繋がりあっていた。


 東の空が白みかけている。
「っふ……」
 もう、何度目か分からない甘いくちづけを交わしあう。痺れるようにお互いの舌が甘い。とろりとしたお互いの肉塊を含みあっていると、下肢に懲りもなく快楽が走り抜ける。腰の疼くようなくちづけを長く交わし合った。
「もう……夜が明けます。悟浄」
 息も絶え絶えという風情で八戒が呟いた。
「お、ホント。もう朝かよ」
 八戒に腕枕をしたまま、悟浄が緋色の瞳を細める。朝日が眩しい。ふたりとも、性を貪った後の満足感で満ち足りた様子だった。
「僕……今日は一日運転しなきゃならないのに……」
 散々、悟浄に啼かされて掠れてしまった声で八戒が呟いた。
「悪り」
 腕枕をしているのと反対側の手を伸ばして、八戒の頬を優しく撫でる。もう、太陽の白い光が地平線ぎりぎりで線のように輝いている。黎明の清々しい金色の光が、八戒の背後から差し、その輪郭を金色に縁どった。
「じゃあさ。今日は俺が一日運転すっから」
「!」
 思いもかけない悟浄の台詞に、八戒が目を丸くする。
「む、無理でしょう。それに三蔵が」
 許すはずない、と続けようとして八戒は跳ね起きた。
「う……」
 途端に、腰へ鈍い痛みが走って眉をひそめた。前のめりに崩れる。たっぷり抱かれた躰は、もう一指も動かせないほどに消耗していた。
「ホラ、八戒動けねぇし」
 悟浄は悪びれずに額にくちづけた。
「八戒は後ろの席で寝てりゃいいじゃん。ね」
 明るい笑顔で気のいい提案をする。
「で、でも」
「いーから。いーから」
 朝になったのを惜しむかのように、悟浄と八戒はくちづけを交わしあう。朝の光の中で抱きしめあった。
 八戒は、躰の奥から悟浄のモノが流れ落ちてくる感覚が走って、眉を顰めた。肉筒は悟浄でいっぱいだった。確かにこれでは運転するのは無理だろう。
「分かりました。お言葉に甘えますよ。悟浄」
 諦めたような微笑みを浮かべると、自分の前にいる緋色の髪をした男前にくちづけた。
「へいへい。まーかせて。不気味な森だろうがなんだろうが逃げ切ってやんよ」
 悟浄の凛々しい顔が幸福そうに笑み崩れる。
「貴方には頼りっぱなしですよね。僕」
「もっと頼ってよ。大歓迎」
 ふたりで見つめあって、次ぎの瞬間吹き出した。
「……もう。でもお礼はいいませんよ。もとはといえば、悟浄があんなに……」
「おま、そりゃ言わねぇ約束だろが」
「いつしました。いつ」
 じゃれ合うように絡み合う。天空では、無数の星々は既にその姿を薄れさせ、逃げ遅れた明けの残月が白いその姿を現している。

 例え、この後、最高僧から小言を言われるとしても、ふたりは幸せだった。

 不気味な森も朝の空気で浄化されてゆくようだ。
 もう、獣の鳴く声も聞こえてはこない。


 了