砂上の蜃気楼(8)

「あ……」
 ひとしきり、絨毯の上で八戒を嬲り、下肢から更紗を剥ぎ取ってその敏感な躰を舐めまわし、天蓋付きのベッドの中へと引きずり込んだ。
 極彩色の絹織物が敷かれた豪奢な寝台が、いまや八戒の拷問場所だ。
「んんッ」
 うつぶせにさせ、両手首をそれぞれ備え付けの鎖に繋ぐ。拘束され、鎖が音を立てて鳴った。
「あッ」
 小ぶりで肉付きの薄い尻を撫でると、カラスを連想させる彼は狭間に咥えさせている性具を指で弾いた。
「さて、今日のレッスンは『後ろでイキましょう』にしよっか。八戒ちゃん? 」
 白い双丘を手で割り広げると、咥え込んでいる局部をじっと見つめた。ひくひくとわななく淡い翳りは淫靡だった。視線を感じて八戒は屈辱で唇を震わせた。
 わざと、時間をかけてゆっくりと性具が抜かれる。抜くときの感覚がたまらないのか、八戒は背筋を震わせた。
 びりびりと熱い奔流が腰を焼くような心地がするのだろう。唇を半開きにして、紅い舌をちろちろと覗かせている。扇情的で妖しい表情だった。自分でもそんないやらしい顔をしているとは思ってないに違いない。
「ん……」
 抜くと、ややS字に曲がった器具の部分と肉の環の間へ白い粘液が橋をかけるようにして糸を引いた。いやらしく淫猥な眺めだった。
「くふ……ッ」
 ぶる、と八戒が背を震わせる。器具を抜かれると、内部に溜められた精液が垂れ落ちてくる感覚がして、淫靡でたまらなかった。ぞくぞくして躰が震えた。
「いやらしいコだね……」
 舌なめずりしながら八戒の背筋に舌を這わせた。綺麗に連なる背骨にそって舐めまわすと唇から熱い喘ぎが漏れた。
「復習、しようか。八戒ちゃん」
「! 」
 背や尻を唇や舌で愛撫しながら、相手は再び器具を八戒の内部へ挿入した。精液と器具が掻き混ぜられ、狭い肉筒の中でぐちゅ、ちゅ、ちゅくといやらしい音を立てる。
「ココ……ココの奥の方……」
「あッあ! 」
 八戒が腰をよじるようにした。手元の敷布を手繰り寄せてつかむ。
 内部に含まされた性具は、S字にやや湾曲して、八戒の腹腔側を緩やかに押している。相手はその湾曲を利用して、ゆっくりと敏感な前立腺の上を器具で撫でていた。
「……ッ」
 白く目の前が発光するような感覚が走り抜けて、八戒が首を振った。腰から脊髄にかけて快楽の火花が散った。容赦はなかった。快感の上に快感を重ねるようにして、粘っこい手つきで性具が内部で蠢く。
「勃ったね」
 カフスの嵌まった方の耳たぶを後ろから舐められる。指摘どおり、いつの間にか触ってないのに、八戒の前は硬く張り詰めていた。
「う……うう」
 おかしい。こんな反応はおかしいと、八戒は首を横へ振る。
 しかし、躰は精神を裏切って淫らに蜜を垂らし始めていた。
「そう。ココをこうやって突くと……」
「! 」
 びくんびくんと八戒の背がしなる。腰が疼いてたまらなかった。熱い喘ぎが口をついてでそうになり、思わず目の前の敷布を口で咥えて耐えた。
 男が妖しい性具で八戒のある一点を突くたびに、八戒の前は頭をもたげてふるふると震えた。張り詰め、硬くなりびくびくと生い育ち、先端から先走りの液を垂らしている。
「やらしい……本当にやらしい躰だね」
「っあ! 」
「こんなに先っぽ濡らしちゃって」
「あ、ああッ……や……あッ……」
「腰、動いてるよ。ナニ、そんなにココに……当てて欲しいの? 」
 ぴちゃ、と耳の後ろに舌が這う。手は胸元でぷっくりと立ち上がった乳首を摘まみ、苛めるように捏ねまわし、もう片方の手は性具を自在に操って八戒を追い詰めていた。
「イッちゃいなよ。もう、イケるんじゃない? 」
「はっ……ああッ……あッ……あッ……も………」
 駄目押しのように、男が内部をかき回したとき、八戒は甘い声を上げて達してしまった。びくびくとペニスを震わせて白い快楽の徴を放つ。美しい織りの施された敷布の上にそれは滴り、滲んだ。
「……イッたね」
 くっくっくっと口端で笑うと、彼は性具を抜いた。ぶる、と八戒が腰を震わせる。達したばかりの躰は敏感だった。粘膜を撫でるようにして抜かれる感覚がたまらなかった。八戒の背に音を立てて口づけをひとつすると、後ろから圧し掛かった。そして、性具の代わりに熱い怒張をあてがった。ぴくんぴくんとわななく卑猥な肉の環に、太い亀頭が押し当てられる。
「……力、抜いてて八戒ちゃん」
「ああッ」
 力を抜けといわれるまでもなかった。達したばかりだったので抵抗らしい抵抗もできなかった。性器で感じて達するよりも、前立腺全体を刺激されて内部から達する方が、躰が痙攣するほどに消耗していて、力など入らない。逆らうこともできず、八戒は四つん這いの獣の体位で男に犯された。
「ううッ……あッあッあ! 」
 性具など、比べものにならない熱さと質量に圧倒され、肉筒をいっぱいに広げられ蹂躙される。
「イイ……イイよ。キミのナカ……」
 ぴくぴくと男のオスが内部で蠢き、いっそう硬くなったのが分かった。八戒は背を反らせて仰け反った。がくがくと痙攣する。相手は八戒の上で何度も腰を振った。翻弄されて、八戒がよがり尻を震わせる。ぴくぴくと怒張を咥えこまされた粘膜が震える。散々、弄ばれたソコは、最初に犯された時よりも怒張を柔軟に受け入れていた。
 淫猥な微笑みを浮かべると、こともあろうに性具で散々開発した八戒の感じる場所を狙って肉棒で擦り上げだした。耐えることもできずに、八戒が腰を振った。我慢できなかった。最初こそ、限界を超える快楽に慄いて、逃れようとする動きだったが、次第に相手の淫らな抽挿に合わせて尻を揺らしてしまっていた。
「ホント抱いてみないと分かんないよなァ。澄ました顔しててキミがこんなに……」
「あ……ッん……あッあ……はぁッ」
「スケベな躰してるなんてね。ボクの……ずっぷり咥えこんじゃって……そんなに気持ちイイの? 」
「んんッ……んッ……ああっ……あッ……くぅッ」
「そうそう。上手だよ。感じたら締めるんだよ。そうすると……イイトコロに上手に当てられるからね。調教しがいあるなァ。やらしい躰してるよ」
「はぁッ……はぁッ……はッ……ああッ」
 八戒は首を激しく横に振った。手元の敷布を固くつかんで耐えた。じっとりと全身に快楽の汗をかき、尻を抱えられ犯され続けた。
「イイ……イイよ。きつくてスケベな孔だよね最高」
 淫らなことを囁き続けられ、聴覚も精神も汚されるような心地にさせられる。とどめとばかりに、腰を穿つ動きが段々と速くなった。何度も何度も感じる箇所をペニスで強く押され擦り上げられる。淫らとしか呼べない感覚に腰を蕩かされ、八戒がとうとう限界を迎えた。
「はぁ……ッ……ああッあああッあッあッあ! 」
 手に握り締めた敷布をより強く引き絞り、背を丸めて咆哮するようにして八戒はまた達してしまった。じゃりんと手首の鎖が鳴る。荒く息を吐き、上半身を敷布の波の中へ埋めるようにして突っ伏している八戒の尻の上で、男は相変わらずゆるゆると腰を抜き差ししするのを止めない。
「う……」
 びくんと敏感な躰を震わせて、八戒が背後にいる相手を横目で流し見た。瞳は淫らな行為ですっかり熱く潤んでいる。
「ボク、まだイッてないもん」
 八戒を犯す男は無邪気ともとれる口調で残酷な言葉を吐いた。彼はまだまだ美味な肉を喰らう気でいっぱいだったのだ。
「まだまだ、付き合ってもらうよ。八戒ちゃん。夜は長いしね……」
「……あ」
 八戒の細腰を両手でがっしりとつかむと、再び激しい勢いで穿ち始めた。逃れようとしても、この陵辱からは逃げられそうになかった。結局、その夜は一晩中、八戒は犯され続けた。





 豪奢な城の中で、人間以下の生活をさせられている。男の慰みもの。性具以下に蔑まれ、獣のように扱われている。
 その癖、極上の絹や更紗を身につけ、贅沢な食材を使った食事を摂らされていた。四肢には上等の白金でできた輪が嵌められ、主人である男は気まぐれに虜囚の八戒を鎖で拘束し縛り上げる。
 時の感覚が狂うほど、抱かれ続けた。オスの形に肉筒が広がり、変形してしまうんじゃないかと思うくらい、連続して犯されていた。
 最初は細めの性具ですら息がつまりそうなくらいだったのに、すっかり慣れた淫らな肉体は、いつの間にか貪欲に生身のオスの性器を美味そうに食べていた。
 八戒を調教している相手は、そんな八戒を言葉でも蔑み、責め、追い詰め抱きつづけた。そんな狂った日々が続いた。
 邸(やしき)の中には、常に濃く阿片と媚薬の匂いが漂い、生々しい精液の濃い香りが、それに始終加わった。






 「砂上の蜃気楼(9)」に続く