砂上の蜃気楼(6)

 八戒の性的な地獄はそれから本格的に幕をあけた。
 夜、微量な電流が出っ放しになるように調整された性具を、肉筒に挿入したまま放置されるようになった。
 こうなると、天蓋つきのベッドの中で、眠ることもできずに熱い吐息を吐くしかない。右の手首は鎖でベッドの柱に繋がれ、左の手首も同様に繋がれている。朦朧とした意識の中で、妖しい淫夢ばかり見た。
 服を着ることは許されなかった。身を覆う更紗も剥ぎ取られ、八戒は視線を下ろすと自分の勃ちあがったモノが直接目に映り、唇を噛み締めた。
「ああ……」
 腰を揺らしてしまうのを、もう止めることもできない。延々と続くきりのない淫らな感覚に、八戒は首を振った。
「あぅ……」
 自分の躰が、こんなになってしまうなんて、想像もできなかった。あんな、いやらしい形状のオモチャで骨身が蕩けそうにさせられてしまっている。屈辱的だった。
 天蓋からかかった絹の隙間から、龍涎香と媚薬の混じった官能的な匂いが漂ってくる。性器を寝かされているベッドに擦り付けようとしても無理だった。失敗していた。
 八戒を縛めている鎖はぴったりとしていて、とても身を捻る余地などなかったのだ。
「はぁッ……はぁッ」
 途切れ途切れに意識を失った。じっとりと全身に汗をかいていた。昼間囁かれた淫蕩な声を思い出してしまう。
(ゆっくり……中ぐらいの力で締めるんだよ……いいね)
「あぅッ」
 楽になりたい一心でそのとおりにしてしまった。途端、力の加減が絶妙だったのか、……肉の環がひくひくと引き攣るように痙攣した。
 性具を咥えたまま、男が欲しそうに軟体動物のようにわなないている。
「ああッ……あッ」
 八戒は仰け反った。性具を嵌められた奥の方が熱く疼いた。
「誰……か」
 助けを求めても、誰もこなかった。疼く躰をもてあましながら、少しでも気を紛らわせようと身を左右に捻った。すっかりその肌は紅潮して朱に染まり、艶めかしい。
 満足に眠ることもできずに、八戒は夜明けを迎えた。





 朝になると、また銀の鉢に入った食事を、猫のように顔を突っ込んで食べることを強要された。その後、また無理やり風呂に入れられる。
「あ……ああ」
 我慢させ続けられた躰は堪え性がなく、唇を噛み締めても声を漏らしてしまった。相手は淫猥な表情で、八戒の躰を洗い撫でまわしながら囁いた。
「昨日はちゃんとイケた? 八戒ちゃん」
「ふぅッ……」
 耳元に熱い吐息を吹きかけられるだけで、もう身がもたなかった。八戒の前はずっと熱を持って勃ちあがったままだった。痛いくらいになってしまっていた。
「ダメだなぁ……こんなにして」
「あ! 」
 指が八戒の屹立を淫らに這った。直接的な刺激がようやく与えられ、もう我慢などできなかった。
「ひぃッ」
 びくんびくんと。腰を震わせ、突き出すようにしてあっという間に達してしまった。甘い遂情の声をあげ、相手の腕の中で痙攣すると絶頂に達した。
「おやおや」
 銀縁の眼鏡の奥の目が呆れたように大きくなった。わざとらしい仕草だった。
「コレだけでイッちゃったの? いやらしいコだね」
「う……」
 返事もできずに肩で息をし、八戒は泣いていた。容赦のない手が、尻の狭間に這い、嵌め込まされている性具を乱暴に操った。
「インラン。ボクを散々変態扱いしたクセに。すっごいスキモノじゃない。キミ」
「あッ……」
 躰に石鹸の泡を纏わせたまま、男の手が肌を這う感覚に八戒は狂った。相変わらず、風呂には薔薇の香りが漂っている。湯の温度で蒸された芳香が濃く匂い、眩暈がするほどだ。
 八戒は洗い場のマットの上に横たえられた。麻で編まれたそれは、内部に海綿が仕込まれていて、ほどよい弾力があった。
「悪いコだ」
 ねっとりと囁いた。
「こんな細いモンじゃなくって……もっと太くて硬いモノあげようか? 」
「……! 」
 返事をする間もなかった。
「ああッ」
 仰向けにされ、脚を大きく開かされる。
「一度、どんなモンか教えといてあげるよ」
 器用に八戒の後孔を犯していた性具を片手で外した。ぬぷ、と生々しい音が立った。
「やめ……ろ」
 代わりに脈打つ怒張をあてがわれ、八戒は腕を振り上げ相手を押しのけようと暴れた。そこを、四方八方から召し使いどもの手が伸び、押さえつけられる。貴重な龍涎香を含んだ香油を後孔に塗り込められた。
「ボク特製のエネマグラと比べて……どうかな。感想聞かせてね」
「ッ! 」
 熱い。熱くて。
 性具とは比べものにならない質量のモノが内部を押し広げるようにして入ってきた。
「…………! 」
 八戒は絶叫した。がくがくと押さえ込まれた四肢が震える。ぴくぴくと侵入した性器が脈打つのを感じて鳥肌を立てた。
 犯された。男に。本当に貫かれた。信じたくなかった。
「やめろ……ほんと……に」
 引き攣る躰は、大勢の腕に押さえつけられている。腕を四人ほどの使用人につかまれ、頭も押さえつけられていた。脚は恥ずかしいくらい大きく開かされ、その足首は複数の手で動かないようにされていた。
「動くよ……子猫ちゃん」
「……ぐぅッ」
 八戒を犯している相手は、不慣れな八戒の粘膜を舌なめずりして味わいながら、貪りはじめた。
「……一晩、慣らしただけあって……けっこう柔らかくなってる」
 初心でまだ蕩けぬ肉を旨そうに喰らいながら、鬼畜に囁いた。
「今度は、もっと太い張り型にしようか? ボクの……きつそうだねェ。狭いよ。キミって」
「……はぁッ」
「息吐いて。……ダメだね。ああ、もう……でも……カワイイな」
 八戒は不慣れだった。がちがちと緊張か嫌悪が、それともその両方か、歯を鳴らして震える八戒を愛しそうに抱き締めた。
「……まだ、無理みたいだね。ホラ、本当はココ……」
「! 」
 散々、昨夜泣かされた性具で責められていた箇所を、オスの肉棒がかすめ、八戒は仰け反った。
「……ココを突いてあげると、昨日の夜と同じくらい……いや、もっと気持ちイイんだけど」
 八戒を突きまわしながら、ぺろりとその頬を舐めた。
「まだ、キミってオスの生の太さに慣れてないモンね……でも、すぐだよ」
「ひ……ッ! 」
「今にコレが欲しくて欲しくて……涎を垂らすくらいにしてあげるから……」
「ああっ」
 円を描くように腰を捏ねるようにして、彼は八戒を追い詰めた。綺麗な首筋や鎖骨が震えている。
「イクよ。たっぷり中出ししてあげるね」
「! 」
 一瞬、嫌悪の表情を浮かべた八戒だったが、抵抗できなかった。陵辱者は腰を小刻みに震わせて、八戒の内部に熱い飛沫をぶちまけた。
「あ……ああ」
 ようやく使用人どもから振りほどいた手で、八戒は顔を覆った。自分が情けなくてしょうがなかった。何もかも汚され、粉々にされた気がした。矜持も自負もこの瞬間ずたずたになった。
 八戒は犯され、放心状態に陥った。淫猥な性具で後ろを犯されたときも屈辱だったが、精液を直接内部に浴びせられ、放出されるのは、また強烈な体験だった。
 まさに陵辱されたとしかいいようがなかった。
「なんて顔してるの。……そんな顔してると」
 激しく、くちづけられる。もはや避けることもせず、八戒は接吻を受けた。唇を淫靡な舌使いで舐めまわされる。
「また……ヤリたくなっちゃうよ」
 淫猥に口元を歪めながら、相手は転がっていた性具を取り上げた。
「ボクのが出てこないウチに、またコレ嵌めてあげるね」
「! 」
 逃れる暇もなかった。一度陵辱のために抜かれた性具を、再び挿入される。内部に放たれた精液を押し戻すようにして、エネマグラは内部に納まった。
「あ……」
「ヌメヌメして……気持ちイイ? 」
 淫らに囁かれる。
「今日は……ちゃんとボクのセ―エキの味を下の口で覚えるんだよ」
「……! 」
 屈辱的で恥知らずな言葉に、八戒が眉を顰めた。沸騰しそうな精液の熱を、躰から抜いて清めることも許されない。ぶるっとオスの体液を内部に留めたまま、八戒は腰を震わせた。ナカの粘膜がひくひくする感覚がたまらなかった。ねっとりとした粘凋な体液が八戒を内部から汚して犯して辱めてゆく。
 この何日かのうちに八戒の端正な顔立ちは面変わりしてきていた。
 陵辱され、性的に辱められるうちに、その雰囲気といわず気配といわず、どこか背徳的で艶めかしいものが漂いはじめていたのだ。
 使用人が桶に薔薇ごと湯を汲み、うやうやしい仕草で前に置いた。八戒は全身を丁寧に香り高い石鹸で洗われた。
 オスの欲望でどろどろになった、その肉筒の中をのぞいてだったが。

 華麗な絨毯敷きの部屋に押し込められ、ひとりになると、八戒はその夜、声を殺して密かに泣いた。自分が惨めでたまらなかった。



 「砂上の蜃気楼(7)」に続く