サクリファイス(3)

 瞬間、なにかが見えた。
 重なりあい、増殖するように無限に空を舞う、なにかが虚空に見えた。


「いらっしゃいませ。当ホテルは時間精算制です。どうかごゆっくりお過ごしください」
 気がつけば、また毒々しいホテルの中のようだ。無人の電子精算機が無機質な声で客に語りかけてくる。前時代的なつくりだ。
「どーしたの。そんなカオしちゃって」
 烏哭は手馴れた様子で、バスルームの扉を開けた。蛇口をひねってお湯を入れている。
「なぁにィ。こーゆートコ、はじめてじゃないでショ」
 おとがいを、指で支えられ、上を向かされる。レンズ越しに漆黒のカラスに似た黒い目に見つめられる。怖い。笑っているけど、笑っていないような瞳だ。
「い、いえ」
 もっと、醜悪で薄汚れた場所へ、この男に連れ込まれたこともある。路地裏で三蔵の目を盗んで犯されたことすらあるのだ。ホテルがどうとか、そういう問題ではない。どうして、自分はこの男といつの間にまた、こんなところにいるのか。とにかく謎だった。
 目の前の男、このメガネをつけた端正で淫猥な男は、いつも突然現れた。魔法のようだった。距離や時空を捻じ曲げたり、無効にしているとしか思えない。神出鬼没。そんな登場の仕方だ。いつだってそうだ。はっと気がつくと、既に趣味の悪いホテルに連れ込まれている。逃げられない。
「えー? こういうさァ、いかにもラブホテルってつくり、懐かしくなーい? 」
 風呂に湯をいれる水音を背景に、烏哭が自分で服を脱ぎだした。黒い墨染めの衣。そんな格好で、こんな場所で嬉々として笑っている。何かがおかしい。
「あはは。ロッカーどこかな。ここかな」
 古ぼけた連れ込み宿。遺跡のようだ。ハンガーを架けるロッカーも、開くとなんだか軋んだ音を立てる。
「ホラ、八戒ちゃんも。脱いで脱いで」
 無造作に手を突き出される。
「い、いえ僕は」
「遠慮しないで。それとも」
 にやりと、淫猥なその目が笑みに歪む。
「ボクが……脱がせてあげよっか? 」
 その言葉を聞いて、八戒は思わず、服のえりを正した。とはいえ、その内側は三蔵の口吸いの跡だらけだ。それでも、この男に脱がされるなんて、おぞましかった。
 ちらり、と八戒は部屋の奥へ視線を送った。いかにも前時代的なインテリアだ。安っぽいガラステーブルと、ビニール張りのソファ。俗悪なカラオケのセットにテレビにDVDデッキ。そんなものを設えて、一応は応接間のつもりらしい。室温はかなり低かった。俗悪な臭気のするそんな空間を抜けて、ベッドの置いてある部屋へ行こうと、八戒はドアを開けた。
 クーラーを止めたかったのだ。猛烈な勢いでエアコンは冷気を吐きだしていた。
 だが、
 ベッドのある部屋に一歩足を踏み入れて、八戒は凍りついた。
 鏡だ。
 かがみ。
 床にも、壁にも、正面にも、
 おおよそ目に入るもの全てに鏡が貼ってあった。
 そこは、呆れたことに鏡張りの部屋だったのだ。



 古い遊園地にある迷路の中のような一室。
極めて悪趣味な部屋だった。
「あれェ? 自分からベッドに行くなんて……うれしーなァ。積極的だよねェ」
 八戒の背後で烏哭が笑う。喉で笑うその声は低く低く鏡の回廊のような部屋の床を這うようにして響いた。
 八戒はあまりにも露骨なその部屋に驚いて目を見開いて立ち尽くしている。
「驚いた? すごいよね。この部屋。見事にぎっらぎらな鏡張りなんだモン。法律でさァ、新しくこんな下品な部屋、つくるの禁止されてるって聞いたけどサ……いまだに探せばあるモンだよねェ」
 背後から、抱きしめられる。強い年上の男の腕に絡めとられた。
「たっぷり、後でここで抱いてあげるから……お風呂に行こ。もうお湯、たまったと思うんだよね」
「!」
 振り返れなかった。ぎりぎりともの凄い力で締め上げられる。
「それとも……とりあえず、ここで抱いてほしい?」
 ねっとりとした口調でカフスの嵌った耳元に囁かれる。そのまま、舌を伸ばして、舐めまわされた。
「やめ……!」
 無駄だった。抵抗できなかった。八戒は自分の浅慮な行動を後悔した。そのまま、巨大なベッドの上へと突き飛ばされ、押さえつけられた。


「ひっ……う」
 緑の服が、引き裂かれる勢いで剥ぎとられる。
「あーあ。すっごいよねェ」
 乱暴で床急ぎな様子で、烏哭は下肢からズボンごと下着を脱がせた。うつぶせにさせて、獣の姿勢で脚を開かせる。
「後始末したの? コレ。絶対、残ってるよ江流のが」
 脚の間を覗き込んで、検分している。烏哭に抱かれた後、三蔵にも抱かれた。ついている愛咬の跡や口吸いの跡はいっそう数が増えていた。
「う……」
 尻肉をつかまれて、思わず、声を漏らしそうになった。傍にあった枕へ顔を埋めた。遠慮容赦しない烏哭の指に穿たれる。
「ひぅ……」
 とろ、と内部から何かが滴る気配がした。烏哭は自分の指をゆっくりと抜いた。つらつらと、白い粘性のある液体が指についている。
「すっごい、におい。セーエキまみれだね。キミの孔」
 精液が時間が経って生臭くなった臭いが空気にただよう。内股にも液体が伝うのを感じる。そのまま、再び指を埋められ、掻き回された。ぐちょぐちょと聞くに堪えない音が尻孔から派手に漏れる。
「あ……っ」
「何回、このナカに出されたの? ヨかった? こんなにナカに出されちゃって……いやらしい」
 くせのある黒髪を揺らして、烏哭が囁く。
「も、慣らすのもいらないよね。いやらしいコだ。また、アソコがぱくぱく、しだしてるよ」
 荒い息を吐きながら言うと、烏哭がナカで指を曲げた。指をカギの形にして、八戒の感じる肉壁をまさぐり、追い詰める。
「う……」
 顔をいっそう、深く枕に埋めた。油断すると声をあげてしまいそうだった。
「何回、ココにだされたの? 言ってごらん。怒らないからサ」
 もう一本、指を添えて挿入された。ぐちゅぐちゅに掻き回される。
「あっあっあっ」
 首を横にふった。烏哭がいやらしく囁く声にも感じてしまう。腰奥が疼く。
「八戒ちゃん」
 ねっとりとした口調だった。
「分からないんだ? 何回ヤられたか……自分でも分からないんだ? 」
 淫蕩な仕草で、烏哭は八戒の尻を抱えた。膨れ上がり、体積を増した自分のモノで、わなないている淫らな後孔の入り口をつついた。
「そんなにヤられたの。いっぱい。そう」
「……っ」
 八戒が身を震わせた。焦らされている。心を裏切って、すぐ火がつく淫らな身体を持て余していた。ひくっひくっとひくつく、そこをめくりあげるように、烏哭の怒張が円を描くようにして、当てられる。生殺しだ。
「あっあっ」
「欲しい? もう、男なしじゃ、いられないモンね。キミ。もう、欲しいんでショ」
 いやらしい口調で囁かれた。八戒の腰を抱えなおす。獣の体位で怒張を擦り付けた。
「何回……ナカに出されたの?」
 甘く優しく囁く。淫らな言葉をまるで愛の言葉のように執拗に囁いてくる。
「あ……あっ」
 くちゅう。入り口を浅く抜き差しされる。枕だけでは防ぎきれない、甘く喘ぐ声が八戒から漏れた。
「いっぱい……? いっぱい出されたの? 回数も分からなくなるくらい……? 」
 黒髪の若い男からは応えはないが、その淫らな緑の瞳は潤み、蕩けている。
「悪いコだ……本当に悪いコだね。おしおきかな」
「ぐぅっ! 」
 後背位でつらぬかれた。背に、尻に烏哭の肉が当たる。ぱんぱん、と肉と肉がぶつかる高い音が鳴った。
「んぅ……ぐ」
 枕に顔を埋め、必死に耐えている。そんな八戒へ男の腕が伸びた。
「あれ、こーんなので、声、ガマンしてるの? ダメだよぅ」
 烏哭が軽薄な調子で、枕を取り上げる。枕を取り上げるために、いっそう、深く前傾して身体を繋いできた。突き上げが深くなって、八戒が身悶えした。
「……っ! 」
 枕をつかもうと、とりかえそうとするが叶わない。八戒の指をすり抜け、遠くへ烏哭が投げ捨てた。視界から消える。おそらく、ベッドの隅にでも落ちたのだろう。
「ああ、ああっ」
 つらぬかれたまま、両腕を背後から捉まれた。狭間に怒張を打ち付けられ、身体を腕で起こされる。飛ぶ鳥のような姿勢にされた。
「ホラ、こうすると見える? 」
 烏哭に背後から耳元で囁かれて、八戒が顔をあげた。
とんでもなかった。
「…………!」
 鏡張りの部屋だった。ベッドの四方、天井、ところ狭しと張られた鏡に、黒い目、黒い髪をした年上の男に無残に犯される自分の様子が映っている。
「やめ……ろ」
 運よく、というか、運悪くというべきか、前向きに背後から犯されているので、自分を穿つ男の肉体と、それに合わせるように、快楽に歪む淫らな自分の顔の表情しか見えない。
「やっらしいカオしてるよねキミってば。自分でも、そー思うでショ。男にヤられて涎たらしちゃってサ」
 烏哭が上ずった声で言った。鏡に映る、八戒の姿がすこぶる刺激的だった。いかにも犯していることを再認識させてくれる。
「あ、ごめんごめん。これじゃ、キミからはよく見えないかなァ」
 ずるずると、穿たれたまま、ベッドの上で身体を引きずられた。膝でいざって、場所を移動している。
「や……め」
 内部で擦り上げられ、突かれるタイミングがずれ、それらの動きも八戒を内部から狂わせてゆく。淫らな感覚が粘膜との間に湧き起こる。
「これなら、見えるかな。ホラ、横を見てごらん」
 まるで、先生のような一見知的な口調で烏哭が言った。あごをしゃくって、ベッドの横を示した。
「……! 」
 八戒は思わず、目を閉じた。一瞬、目を開けたのが間違いだった。醜悪なものが映っていた。膝だちさせられ、背後から烏哭に穿たれ、前を勃ちあがらせて、弾性のある肉を震わせている淫らな自分の姿が映っていた。顔はぐしゃぐしゃに乱され、目じりからは涙を流し、黒い髪を乱して、尻を犯す相手の動きにあわせてふっている。いやらしい自分の姿が、鏡に映っていた。結合部まで丸見えだ。
「すっごい。いやらしいよキミ」
 上気したピンク色の肌、いくつもついている性交の跡は、今抱いている男がつけたものではない。三蔵がつけた印だ。その上を他の男の舌が這う淫らな感覚に悶絶している最中だ。
「あっあっあっ」
「ホラ、ボクの舌がここ、舐めるじゃない? 」
 烏哭が、耳へ舌を挿しいれた。八戒の肌に電撃が走る。腰奥まで繋がって痺れさせる白い快楽に焼かれる。
「きゅう、ってココ、締め付けてくるんだよね。だから、ココ、突いてあげると……」
 加速度的に淫らになってゆく行為に、どうしたらいいか分からない。ココ、のところで言いながら、烏哭は腰をふった。とたんに怒張が内部にめちゃめちゃにぶつかり、八戒が喘ぐ。
「すっごい……イイ顔。ね、こんなカオ、自分がスルって自分で知ってた? 」
 烏哭の手が、八戒のあごに伸びる。顔を鏡からそむけようとしているのを許さない。片手で身体を支えられて激しく穿たれる。不安定な姿勢だ。全てが貫かれる怒張を軸に支えられ、全体重が交合してる肉筒にかかって意識してしまう。
「ああああああっ」
 あごを固定され、感じているときの、淫らな表情を自分で見るように強制される。
「いや……だ」
「すっごい。キミ、きれい。きれいで……やらしい。自分でもそう思わない? 」
 上ずった声で囁かれる。ぶる、と烏哭の身体が震えた。
「あ……! 」
 止める間もなかった。生暖かいものが、内部で拡がる感覚があった。ナカで出された。八戒が狂ったように抵抗しようとした。後ろ手につかまれていた上腕を振り払おうとあがく。
「逃がさないよ。八戒ちゃん。いいじゃない。そんなにボクがナカだしするのイヤ? 」
 尻を震わせて、烏哭が腰を絞るように突き出す。射精している。長い。
「いやだ……いやだやめ……ろ」
 何度も吐き出され、孔をふたたび精液まみれにされた。
「っう! 」
 淫らな様子に煽られたらしい、烏哭の手で、つややかな黒髪をわしづかみにされた。そのまま、側面に張られた鏡の方へと引きずられる。
「自分がどんなにイヤらしいコか、確認したんでショ。この後に及んで何、カマトトぶってんの」
 引きずられて、頬を鏡へ押し付けられた。男に抱かれて熱い肌に鏡が冷たい。たちまち、鏡面が溶けるようにくもった。
「昨日は、何回、江流にヤられたの」
 淫らな質問を執拗にされる。
「江流にナカだしされるの、気持ち良かった? ボクと比べてどう」
 そのまま、ふたたび穿たれた。
「ボクと江流のチンポ、どっちがハメられると気持ちイイ? 」
 今度は仰向けにされて、穿たれる。鏡を見なくてすんだ、とほっとするのもつかの間、男につらぬかれたまま、身体を揺すられながら、天井を見上げれば、烏哭の背中と、淫らに喘ぐ自分の顔が目に映った。
「うっ……」
 思わずそむけようとするが、天井なので目を背け切れない。思わず、目を瞑った。
「怒ってるの? 八戒ちゃんってば。ご機嫌直して」
 烏哭が覆いかぶさったまま、口づけてくる。八戒の整った唇に、男性的な烏哭のやや肉厚な唇が重なった。深く重ね合わせると、舌と舌を絡め合わせてくる。
「ふ……」
 絡め合わせたまま、腰を抜き差しされ、胸を摘まれた。
「は……乳首まで、こりっこり……硬いよ。カンジちゃってるんだね」
 烏哭の頭が下へと降りる。ぺろ、と乳首を舐められた。電流のように甘美な何かが背に向かって走り抜ける。白い粒子が、脳や神経の隙間に入り込み、何もかも麻痺してゆく。
「かわいいよ」
 ちゅ、ちゅっと軽いキスの音が立つ。内出血するかどうかのギリギリのくちづけだ。
「あっ……」
 もう、くわえこまされ続けて長い時間が経っている。じりじりとした情交に、八戒が尻をくねらせた。目を閉じていた。内攻する性感に余計に苦しめられる。目を閉じることによって、よけいに集中してしまい、身体が感じてしまう。敏感な肌が震えた。
「……スケベだなァ」
 なまめかしい身体に賞賛をにじませて、烏哭がくちづける。蕩けた顔、閉じられた目、より、感じてしまっているらしい。ぴくぴくしている。烏哭は、身体の間で震える八戒の屹立へ手を伸ばした。
「ココさわって、って言ってくれるの、待ってたのに」
 甘く囁く。もう、限界が近い。何度か吐き出して、鈴口からは白い精液がにじんでいる。
「ふざけ……な」
 かわいくない言葉をつむぐ、端麗な唇のうごきを見て、苦笑いを浮かべると、烏哭は激しくしごきだした。
「あぅっ」
 後ろをつらぬく動きと合わせるようにして、前をこすりあげた。身体を引くときに、抜く動作のときに、扱きあげ、裏筋を丁寧に擦った。
「すっごい……キミ、イイよイイ。もう、ボクもたないよ」
 白濁した体液に満たされた肉筒のなかで、パンパンに笠を拡げたカリ首が八戒の前立腺を擦り上げ、亀頭が奥の性感神経を深く突き上げる。ぐじゅ、ぐちゅと恥かしい音に、聴覚まで犯されてるようだ。
「あああっああああああっ」
 もう、ひとたまりもない。烏哭に犯されまくっている自分を映し出す淫らな鏡の前で、八戒は自分を失った。オスの精液をナカに注がれて快楽に喘ぐ淫らな顔が鏡に映っている。思わず見てしまって目をかたく閉じた。
 また、ふたたびナカに男の体液がしたたるべっとりとした感触に腰奥が焼かれる心地がしたが、もうどうしようもなかった。





「そー怒らないでよ。分かった分かった。後始末してあげるから」
 ぐったりとして、恨めしそうな表情を浮かべる八戒に、烏哭が明るく言う。両手を拝むように合わせて、おどけてみせる。
「ネ。安心して。全部お風呂で掻きだしてあげるから」
 八戒は仰向けになって、片手で顔を覆っている。天井まで鏡張りという趣味の悪い部屋なので、もう、自分の顔が見たくないのだ。
「すっごく、ナカでイクの悦かったよ……すっごいねキミ」
 悲惨だった。これだけは譲りたくないと思っていたのに、三蔵以外の男に、直接精液で汚されてしまった。眦を涙が伝った。犯されてしまった。何もかもだ。何もかも、このカラスみたいに飄々とした男に。
「大丈夫、大丈夫。心配しないで八戒ちゃん。ボク、気づかれないようにするからネ」
 一瞬、殺意を含んだ視線で、八戒はとぼけた相手の男を見つめた。何がなんだか、何もかも分からなかった。突然、魔物のように目の前に現れ、手練れた性技で若い八戒を翻弄し、くりかえし犯しぬいてくる。この男の真意が目的が心底、分からなかった。
「ホラ、お風呂行こ、立てる? 」
 まるで、年下の愛おしい恋人にでも言う口調で、烏哭が言った。


 



 
「てめぇが調子悪いからって、出発を延期してたんだろうが」
 戻ると、苦虫を噛み潰したような顔つきの最高僧様が部屋にいた。
「どこ、ほっつき歩いてた」
 にらまれた。もともと、ここは悟浄と八戒の割り当てで借りた部屋で、悟空と三蔵は隣の部屋なはずだ。それなのに、この部屋から三蔵はガンとして動かない。
 部屋割りを聞いたときの、この男の不機嫌さと言ったらなかった。それでも、八戒は押し切ったのだ。事態は切迫していたからだ。
 あの、不吉なカラスに似た男、烏哭のことをなんて三蔵に説明したらいいだろう。いや、説明などできるものではない。
 しかし、大切な三蔵にもうこれ以上、隠し事をしたくない。
「さん……」
 口を開こうとして、舌が絡まった。
 言えない。
 言えなかった。
 あの男は何ものなのか。淫猥に歪んだ口元、メガネをかけた知的な風貌。三蔵のように、両肩に経文をかけた僧の姿。
 三蔵のことを幼名の 「江流」 と呼ぶ。親しげなくせに、根深い悪意がにじんでいる。そんな様子だ。
 何かが狂ってる。全てが狂ってる。
八戒は眩暈がしてきた。身体を、なんとか支えた。








 「サクリファイス(4)」に続く