今夜、俺の部屋に来い(7)

 夜になった。月の光がしんしんと中庭に落ちる。たくさんの人が肩を寄せ合って暮らしているのに、土楼の夜はひどく静かだった。

 いつもの緑の中華風の服、斜めに掛けられた白い肩布、光る片眼鏡。そんな姿が月光と廊下にかけられた灯篭のあかりに照らされ、床にひそかな長い影を落とす。

 今夜、俺の部屋に来い。

 三蔵の言葉が耳によみがえる。一体どういう意味なのか。
 以前、旅の途中、同じ言葉を何度か言われた。あのときは、次の日、ジープでどのルートを通るか、地図で確認するためだった。ケンカばかりしている仲間2人を挟むより、ふたりきりの方が話が早かったからだ。

 しかし、今夜は。
 
 月がやたらに、冷たく青白い。綺麗な宵だった。

 三蔵の部屋は土楼の真ん中にある寺院の奥の方だ。
 昼よりも冷えた空気が、八戒の上気した頬をなだめるように包み込む。夜の香りが、淫靡な闇の気配が、廊下のそこかしこで濃厚に満ちあふれ、歩く八戒を不安にさせた。
 窓から外を見上げれば5階建ての楼がそびえ、1階から5階まで、赤い灯篭が吊られ、ぽっ、ぽっと火が灯り、中国風の雲や唐草の意匠に彩られた柱や欄干など楼の内側を浮かび上がらせていてひどく幻想的だ。
「三蔵」
 遠来の高僧のための部屋。そんなドアの前で黒髪の従者は所在なく立っていた。ためらいがちに、そっとノックをする。
「三蔵。僕です八戒です」
 三蔵からの言葉は何かの間違いではないか、そう思い始めたとき
「入れ」
 中から返答があった。冷たいほど平静な声だ。あんな、床で甘いキスをしながら八戒を誘ったとは思えない声だ。
 やはり、あれは自分のカン違いだったと、思いながら八戒はドアを開けた。

 青白い月に照らされながら、三蔵は部屋の寝台に座っている。

 それは、幻想的な光景だった。高貴な客人用の寝台は大きめの窓を背景にして設えられ、三蔵はその上で書庫から借りてきたらしい経文を広げている。
 その金を溶かしてできたような髪は窓からの月あかりを受け、双肩にかかった魔天経文の上できらきらと神秘的に煌いていた。
「読み物をしてたんですね」
 月光を背にしているので後ろに光背でもあるかのように神々しい。膝の上へ置いた経文の長い紙をを右手で巻き取る仕草をしている。八戒が恐る恐る声をかけた。
「部屋に来いだなんて僕に何か、ご用ですか」
 声が震えてしまわないか気にしながら、モノクルの嵌った緑色の瞳を伏せた。男にしておくには惜しい長く優美なまつげが下まぶたへ濃い影を落とす。
「あれですか、明日の日程の確認とか、悟空や悟浄に伝えたいこととかですか」
 ひときわ、月あかりが強くなったようだった。三蔵の整った顔の輪郭に金色の線をつくって背後から際立たせている。敬虔な宗教画のごとくひどく美麗だ。
「何か、ご用事があれば僕でなくても他のふたりでも」
 八戒は最後まで言葉を告げなかった。目の前の綺麗な、僧侶と呼ぶにはあまりにも剣呑で、人間と呼ぶにはあまりにも秀麗な存在が、八戒へとその腕を伸ばしたからだった。
 八戒は逃げられなかった。ある種の獲物が自らその身を差し出すように、ふらふらと捕食者のもとへ幻惑されたかのように引き寄せられてしまった。三蔵のしなやかな腕は白く長い袖に包まれていた。その腕が八戒の肩をきつく抱きしめ、そのまま自分の胸元へと強引に引き寄せる。
「さん……! 」
「黙ってろ」
 三蔵は八戒へくちづけ、そのまま、寝台の上へと引き倒した。

 

「八戒」
 三蔵の読んでいた経文が床へと音を立てて落ちる。寝台の上では、シーツが波打ち、月明かりの下でところどころ淡い影をつくっている。
「ふ……うっ」
 三蔵が舌先で八戒の唇の線をなぞる。緊張から噛み締めている固い唇を、ちろちろと舐め上げた。
「あ……」
 緩んできた、唇の隙間から、八戒の綺麗な白い歯が見え隠れする。そこに三蔵が舌を挿しいれる。
「ふ……ぐ」
 何もかも蕩かされるようなくちづけ。口腔内を三蔵の舌が這い回り、八戒の粘膜という粘膜を愛撫する。緊張が解けない八戒が唇の端をわななかせた。震えている。
「だ……め」
 くちづけながら、三蔵の手がいつの間にか八戒の服へと伸び、服をはだけてゆく。肩先で止められている服の繋ぎ目を解かれ、裸の肩があらわになってしまった。白い肌が月あかりにさらされる。
「め……」
 唇を重ねられたまま、服を脱がされそうになって、八戒が微かに抵抗した。白い肩布が、軽い音を立てて床に落ちる。ちょうど、先に落とされていた経文の上へと、それは重なった。
「さん……ぞ」
 震える舌を三蔵の舌に絡め合わせることを求められるが、身体も心もついていけない。三蔵の艶かしい舌に一方的に絡めとられると、八戒のピンク色をした舌は与えられる快感で震えた。ぞくぞくするような快美感が背筋まで伝わり動けなくなってしまいそうだった。
「あ……」
 甘い甘い声が漏れてしまう。ぺろ、と三蔵は舌先で八戒の唇を舐めると、そのまま下へと這いおろす。
「ずっとこうしたかった」
「んんっ」
 いけない、と思った。いけないと思ったけれど抵抗できない。いつも禁欲的な立て襟で隠されている首筋を、三蔵はそっと舐めた。
「は……」
 音を立てて、口吸いもされる。内出血の跡が次々と肌に散ってゆく。はだけた肩先にも三蔵の唇は落ちた。とろけるくらい官能的な感覚に浸され、八戒は思わず呻いた。
「ああ……」
 漏れてしまった甘い声に、顔を赤らめ口を塞ごうと手で覆った。
「敏感だな」
 三蔵が優しく胸元へキスをした。着ている緑の服は、まだ最後まで脱がしきれていない。中途半端に解かれている。ちらちらと緑色の布地の間から、艶かしくむき出しの肌がのぞいているのが、倒錯的でいやらしい。ちろ、と三蔵が舌先で、覗いている八戒の乳首を突くと、八戒は身を折って悶絶した。
「ああ……」
 緑の上衣をまくりあげられ、しなやかな腹部を三蔵の手でなだめるように撫でられた。もう、息が荒い。喘ぐまでいかないが、息が乱れて抑えられなかった。
「下」
 三蔵の指がゆっくりと下履きにかかった。八戒のしなやかで甘い肌の匂いに三蔵は狂わされつつあった。舌でとかすようにして、その上気した肌を舐めすすった。もう止められない。
「脱げ」
 熱い吐息まじりの声で、官能的に囁く。びくん、と八戒が震えた。
「あ……」
 恥ずかしさに八戒は首を横へ振った。目にかかるほどの長さの前髪が、さらさらと音を立てた。羞恥に頭が煮えてしまいそうだった。
「やで……」
 肌が恥ずかしさにおののく。緊張が傷のある腹部にまで走り、小刻みにわなないた。そんな初心な八戒の全身に、三蔵がキスの雨を降らせる。
「八戒」
 三蔵がまっすぐに身体の下へ敷き込んだ八戒の目を覗き込んだ。その紫色の瞳に浮かぶ情欲の色に、煽られてしまいそうだ。三蔵はひどく官能的な表情を浮かべて、八戒を求めていた。身体の隅々まで、欲しがられている。なにもかもさらけ出すことを求められていた。
「や……」
 とうとう、腰を浮かせられ、下履きを素早く抜き取られてしまう。しなやかで長い裸の脚があらわになる。きれいでつややかに長い脚の線が目の毒だ。下着ごと奪われてしまったので、もう下肢には何も身につけていない。
「あ……」
 震える手で、前を隠そうとするのを、三蔵がつかんだ。
「綺麗だ」
 甘く耳元で囁かれる。覆いかぶさってくる男の声を八戒は陶然とした面持ちで聞いた。
「本当に綺麗だ」
 そのまま、三蔵は、ふたたび八戒の唇へ優しくくちづけた。
「ふ……」
 本当だったら、恥ずかしくて許せない行為の連続だった。それを許せてしまうのは何故なのだろう。八戒は目を思わず閉じた。そのまなじりから涙がにじむ。それを三蔵が唇で吸い取った。甘い、あまりにも優しく甘い行為に、八戒が顔を朱で染めた。正気を保っていられない。
「や……」
 三蔵は肌を合わせながら、この黒髪の従者がそんなに性的な経験が豊富でないらしいことを知った。八戒は初心そのものだった。男に抱かれるのなど本当に初めてなのだろう。初々しい緊張がいつまでもその身から去らない。言わなくてもわかってしまう。
 三蔵はキスしながら、八戒の震えている性器を握り込んだ。弾力のあるそれは、三蔵に肌や乳首を散々いたずらされて、八戒の腹まで反るようにして震えている。それへ、三蔵の手が伸びた。ぬる、と既に先走りの体液で濡れていた肉冠の先端を指でこすった。
「あ……! 」
 たまらず、八戒が三蔵に敷きこまれたまま、寝台の上で身体を仰け反らす。ここ最近、毎日それを握って三蔵のことを想像していた。思い出すと恥ずかしくて死んでしまいそうだった。そこを今、本当に、そう、本当の、現実の三蔵に触れられ、扱かれている。
「だ……め」
 八戒が吐息まじりの甘い声で懇願するが、認めてもらえるはずもない。三蔵は、止めようと伸ばされた震える手へ、優しくくちづけた。まるで、忠誠を誓うかのような仕草だ。
「や……! 」
 三蔵の頭が下肢へ埋められ、八戒は緑色の目を見開いた。濡れた感触が屹立に走る。三蔵に、震える肉棒の先端にキスされたのだ。そのまま、その秀麗な唇を被せられ、そして
「うっ……ううっ」
 直接、唇で扱かれた。思わず腰が浮いて震えてしまう。咆哮してしてしまうくらいの快楽が、八戒の身を焼いた。衝撃的なほどの快美感が棹を走り抜け、腰の奥を麻痺させてゆく。想像で自分の手で自慰をしていたときと桁違いの快感だった。
「あっああ……ん」
 思わず、両手で、自分の口を塞いだ。艶かしい喘ぎ声をこれでもかというくらい漏らしてしまう。恥ずかしかった。八戒の整った顔が快楽に歪む。もう既に下肢は三蔵の好き勝手にされている。内股に三蔵の指が這っただけで蕩けるくらい感じる。それくらい敏感なのに、淫らな愛撫を受けて、身悶えてしまう。
「だめ……さんぞ。だめ」
 思わず、指で三蔵の金糸の髪を引っ張った。
 しかし、いたずらに掻き回すだけで、力が入らない。それどころか、手を口元から離してしまったので、身も世もない甘い声をこらえきれずに漏らしてしまう。聞くものの情欲を掻き立てる淫らで卑猥な声だ。
「あ……っ」
 中途半端な抵抗は、三蔵を煽るだけだと八戒は気がついていない。三蔵はまるで横笛でも奏でるかのように舌を走らせていた。ちゅ、ちゅっと音が立つ。敏感な裏筋にまで舌が這って、痙攣するように八戒の上体が跳ねた。
「ああっあああっ」
 ひどく敏感な身体だった。長くなどもたなかった。目元を赤くして、身体を仰け反らせ、八戒は腰を震わせた。ぴくぴくと性器が跳ね、どくどくと白濁液を絞るようにして吐き出した。
「さんぞ……! 」
 とろ、とろと三蔵の口腔の中へ吐き出した。止められなかった。吐き出すしかなかった。もう、本当に恥ずかしかった。白い身体を真っ赤にして、八戒は泣きそうになっていた。
 こく、と三蔵の喉が動く。
 精飲されている。三蔵がその綺麗な顔を崩しもしないで、自分の淫らな体液を啜るのを、八戒は呆然と眺めていることしかできなかった。
「あ……」
 三蔵が口を離すと、その秀麗な唇と、可憐な亀頭、鈴口のように口を開けている尿道口の間に、白い精液が糸を引いていた。ひどく淫猥な眺めだ。耐えられない。
「……! 」
 ひく、と八戒の腰がバウンドするように再び動いた。射精感が続いている。長い。
「見ないで……見ないでくださ……」
 八戒の懇願は間に合わなかった。月の魔魅のごとく整った容姿の男の前で、八戒は再び達してしまった。施される行為が刺激的すぎた。想像していたことが現実になると、それは想像していたよりも淫らで強烈な体験だった。
 とろ、と再び先端から吐き出した、白濁液を、三蔵が紫色の瞳でじっと見つめている。紫色の瞳の奥にあるどこか狂暴な翳り。情欲の色をもう、三蔵は隠さない。欲情されている。三蔵に求められている。
 八戒は達してぐったりした身体で寝台に横たわった。そんなしどけない身体を三蔵はふたたび押さえつけた。脚を大またに開かせる。恥ずかしいところも何もかも三蔵の目の前にあらわになった。
「あっあっあっ」
 切羽詰まった声が出た。自分の放った精液が、後ろの孔にまで伝ってしまっているのに、かまわず、三蔵の舌が伸びてきたのだ。ピンク色の濡れた舌の感触が、尻を這い回った。恥ずかしくてしょうがない。
「やめ……て……く……ああ……あ」
 震える手を伸ばして、三蔵の背を軽く叩くが、三蔵は応じない。ぴちゃ、ぴちゃと耳を塞ぎたくなるような音が、卑猥な孔から立って、八戒はもう恥ずかしさに今度こそ死にたくなった。
「やぁ……」
 死んじゃう。かすれた声で思わず漏らした。恥ずかしいのに、気持ちがいい。骨まで蕩けて崩れてしまいそうだ。ひくんひくんと粘膜が、孔がひくついているのがわかる。収縮と弛緩を繰り返して、八戒の身体はきりがなかった。三蔵の与える快楽の奴隷になって痙攣している。
「あ……さん」
 愛おしい相手の名前をそっと舌に載せる。免罪符のように、呪文のように。もう、その肌はうっすらと汗をまとって濡れている。
「さん……」
 かわいい下僕の喘ぎ声を聞きながら、三蔵は自分の僧衣を脱ぎ捨て、床へと落とした。直接、肌と肌がふれあい、そのなんともいえない感触に八戒が身体を仰け反らせる。三蔵の体温を直接肌で感じる。ひどく生々しい感触が、八戒を狂わせてゆく。
「あ……」
 三蔵の唇が下肢から離れた。頬に優しくキスをされる。
「さんぞ」
 下肢を舐めまわされるのは、ようやく許されたが、代わりに、胸の尖りを愛される。舌で突かれ、円を描くように舐られた。
「んんんっ」
 八戒が眉をしかめる。強い快楽に我慢できない。身も世もなく喘ぎ、腰をくねらす性的な玩具にでもなってしまったようだ。
 乳首を弄ばれ続けて、注意の逸れた八戒の後ろに、三蔵の指がそっと這ってきた。先ほど放出した粘つく体液を指に塗し、三蔵が八戒の後ろの孔へとひとさし指の先を挿れた。
「ひっ」
 快楽に緩んでいたはずの身体に再び緊張が走る。
「……そんな」
 強張ってゆく身体に、三蔵がなだめるようなキスをする。
「だめです。そこはだめ……汚い……きたな……い」
 懇願する声が濡れている。
「そんな……とこに指なんて……挿れないで……くださ」
 言葉でどんなに抵抗しても、身体は敏感だった。
 卑猥なところへ指を挿れられても感じてしまうのだろう。初心なくせに淫らな身体だった。ひどく艶かしい。身体は甘く三蔵を求めているのに、残っている理性がどうしても拒むのだろう。身を震わせて喘いでいるくせに、口では抵抗の言葉を吐く。その緑の瞳はケダモノの情欲に濡れている。
三蔵に後ろの孔により深く指を挿し入れられて、悶絶している。
「そんなとこ……触らな……で」
 必死になってお願いしている。ひとに触れられたことなどないのだろう。顔も身体も羞恥のあまり真っ赤だ。要するに、男に犯されたことがないのだ。この艶かしい肉筒に、男の欲望を招きいれたことなどないのだ。無垢な身体だった。そのくせ、三蔵の指に酔いはじめている。素質十分だ。眩暈がするほど艶かしい。
「八戒」
 三蔵は今度こそ、声が情欲で曇り、舌が滑らかでなくなった。肉欲にあぶられてゆくような心地がした。優しくしてやれる自信がなかった。あまりにも、三蔵の下僕は艶かしい。純白の紙のようなのに、男の肉欲を煽ってやまない。媚薬のような存在だった。
 無理、無理です。甘い制止の声が立て続けに繰り返されるが、それすら甘美な誘惑のようだ。手足をくねらせて抵抗するのを無視し、しばらく指で執拗に八戒を慰める。指を出し入れしながら、肉の環に沿ってそっと愛撫すると、八戒の肌が震えた。
「あ……」
 八戒の声に、甘いものが混じりはじめ、抵抗が薄れてきた。
「痛くねぇか」
 優しい声が、金糸の髪をした男から掛けられる。初心な身体を労わって、愛撫はひどくゆっくりだった。生殺しに近い。慎重な愛撫だ。
「なん……か、不思議……な」
 八戒の眉が苦悶とも快楽ともつかぬ様子で寄せられる。今まで体験したことのない感覚だったらしい。男を受け入れたことのないところを三蔵の指で執拗に弄ばれ、だんだんと、恐怖や羞恥よりも強い何かが身体の芯から沸き起こってきた。
 しかし、まだそれは形をとっておらず、何なのかまだよくわからない。 
 三蔵が、愛おしげに内股の敏感なところに優しくキスを落とした。そこにも内出血の赤い跡が点々と刻印されてゆく。
「ああ……あ」
 不慣れな身体を気づかってか、いつの間にか三蔵の手が後ろにクリームを塗りこめている。ぶちゅ、と生々しい音に、八戒が震える。耳朶を犯すような卑猥な指を挿入したり引き抜いたりする音が繰り返される。
「いや……いやで」
 最初、冷たいだけと思っていた、クリームはふたり分の熱に反応するように蕩けて、瞬く間に体温と変わらないくらいの温度になり、八戒の後ろに蕩けるような感覚をもたらしだした。
「んっ……」
 ひくん。と八戒の孔が三蔵の指を受け入れたまま、わななく。ぬる、とさっきよりも滑りよく三蔵の指が出し入れされ、その動きが八戒の意識に白い霞のような紗をかけてゆく。
「ああ、あ」
 1本、2本。三蔵はだんだんと指を増やしていった。そっとそっと八戒の陥っている陶酔の深さを邪魔しないように、そっとそっと増やしてゆく。
「痛くないか」
「あ……」
 いつの間にか、羞恥心を忘れて、三蔵の手にすっかり身を委ねてしまっていた。三蔵の下でわななく初心な肉体に、三蔵が声をかける。
「今、何本入ってるか分かるか? 」
 後ろに指が何本入ってるかと問われて、八戒がひどく乱れた表情で返す。
「え……2本……くらい……ですか? 」
「3本だ」
 三蔵の指。銃を握り慣れた男の、長いけれど節の立った指。それを3本も後ろに受け入れて好き放題にされている。後ろに塗された体液と、クリームの効果が出てきたのか、八戒のそこはだいぶ柔らかくなってきた。
「あ……! 」
 襞をなぞるようにして触ると、肌に震えが走り、腰が揺れる。ずいぶん、さきほどよりも感じている。
「八戒」
 三蔵の声が切なげな調子を帯びた。
「挿れていいか。俺の。もう挿れていいか」
 甘くねだるような口調だった。懇願といってもいい。
「痛くないようにする。だから、お前とひとつになってもいいか」
 上気して息が上がってしまい、返事もできない八戒の手をとり、三蔵がその甲へとくちづける。両脚を大きく広げさせられ、恥ずかしい格好をさせられている八戒だったが、この真剣なお願いに、涙のにじんだ緑の双眸を向けた。
「八戒」
 両脚を肩へかつがれると三蔵のが狭間に当たった。もう、そこは八戒のいままでの痴態でこれ以上ないくらい硬くなってしまっている。
「八戒」
 許しの呪文か何かのように、三蔵がその名を繰りかえし呼ぶ。息もできなくなっている八戒は羞恥で煮えたようになりながらも、うつむけにされたまま、三蔵の方へなんとか震える指を伸ばした。
「僕なら……だい……じょうぶ」
 可憐な、許しともなんともいえない応えに、三蔵はそのまま身体を進めた。なるべくゆっくりと。我慢しているので、歯を喰いしばった。ゆっくりゆっくりと身体を進める。
「ひっ……」
 先端に三蔵のが当たると、柔らかくしたはずの肉の環がきゅ、と収縮した。本能からくる反射的な動きだろう。初めての行為が怖いのだ。そこを強引にこじ開けてゆく。
「あ……」
 きつい。
「力、抜け。つらくなるぞ」
 しかし、八戒にもどうしようもない。やや無理をさせて肉冠の先端をどうにか押し込んだ。いや、押し込んだというよりこれでは、まだ先端を当ててるようなものだ。全然入っていかない。
「あ……」
 きゅ、と全てが収縮するような蠢きを八戒の身体はしている。三蔵が顔を上げて、この綺麗な下僕を上から眺めると、唇を噛み締めて三蔵の行為に耐えようとしていた。
「口開け……ほら」
 三蔵が指を、八戒の口のなかへと挿し入れる。噛めないように、唇を閉じられなくした。下の口も、上の口も連動しているから、どちらかを噛み締めれば、もうひとつも締める動きになってしまうのだ。
「息を吐け。そうだ。そう……」
 散々不慣れな八戒をなだめながら、その身体がなんとか緩んだところを見計らって、一番太い雁首を孔の奥へ押し込んだ。
「く……! 」
 相当な衝撃だったらしい。綺麗な緑色の瞳が大きく見開かれる。しかし、一番太いところを通してしまえば、あとはずるずるとそれほど抵抗なく八戒の孔は三蔵を飲み込んだ。奥へ奥へと肉を分けはいってゆく。
「くぅ……」
 歯を食いしばって声をこらえようとして、一瞬すべてを忘れ三蔵の指を噛んだ。三蔵の眉が寄せられる。いくら、多少慣らされたとはいえ、指と三蔵のでは相当に大きさも太さも違う。慣れてない身体には酷だった。
「無理……です。無理……」
 弱音ともなんともいえない声が上がる。
「きっ……つ……い」
 緊張で呼吸が荒くなり胸が浅く上下している。串挿しにされ、耐える八戒の中で、また三蔵がびくんと震え、大きくなった。狭い粘膜をまたぎちぎちに拡げてくる。
「痛っ……」
 長めの前髪は汗をまとってしっとりとした艶を放っている。黒髪に隠された額にまで汗が浮きそうだった。
「動けねぇ……」
 三蔵が、噛み締めた歯と歯の間からうなるように言った。初めての肉体はひどく狭かった。
「あ……」
 八戒のまなじりに涙が伝った。それを三蔵が舐めとろうと身体を前へ倒そうとする。
「さんぞ……痛いで……動かな……で」
 辛そうに八戒が顔を歪めた。なるべく力を抜こうと深呼吸を繰り返すが、あせるばかりでうまくいかない。
 それから、どれくらいふたり、そのままでいたのか。ずっと永遠に抜けないのではないかと思うくらいきつくふたりは繋がっていた。
 三蔵が、八戒の前へ手を伸ばした。白く長い指で身体の上で震える屹立を扱き上げる。
「ひっ……! 」
 不意打ちだった。ややいままでの緊張で頭をうつむけていたそれは、三蔵の愛撫であっという間に弾力を取り戻した。
「ああっ」
 裏筋を刺激するように指で輪をつくってひっかけ、扱くと、快楽でそのしどけない身体から緊張が抜けた。その瞬間、三蔵が後ろへ身体を引いた。
「ああ……っ……っ」
 思わず漏れた自分の甘い声に、八戒も驚いたように目を見開いた。粘膜の上を先ほどとは違う何かが電流のように焼き、腰奥の神経を蝕んでゆく。
「こうか」
 八戒の前を強弱をつけて長い指で握り締める。そのまま手を上下して八戒を追い詰める。ぴく、ぴくと手の中で跳ねる八戒の性器が卑猥なピンク色をして先走りの透明な体液をつらつらと滴らせている。
「あくぅっ」
 また、八戒の快楽に合わせるようにして、身体を引いた。引き抜くようにすると、八戒の粘膜がぴくぴくと震えるのがわかる。
「ねっとり……絡み付いてきた」
 耳元へ囁く。今まで動くと痛いと言っていた下僕は、苦痛以外の喘ぎを漏らしはじめている。
「あ、あああっ」
 まだまだ硬い身体だが、三蔵は自分をより奥へと押し込んだ。
「ぐ……」
「は……」
 息が詰まって苦しい。深い抜き挿しはまだまだ無理そうだった。今度はすぐに腰を引いて抜き出した。
「んっ……んんっあぅ! 」
 ひどく甘い声が出てしまう。感じている声だ。
「抜くときがいいのか。ナカ、すげぇびくびくして……吸い付いてくる」
 三蔵の低い声に、情欲がべっとりとにじむ。上体を前傾して囁いているため、挿入が浅くなる。そのままの体勢で、浅い抜き挿しを繰りかえした。
「あ……あ」
 快感を煽られ、耳に淫ら事を囁かれ、八戒は追い上げられる。脚を抱え込まれ、尻肉を左右に開かれ三蔵の怒張で踊るようにして、秘所を割り拡げられている。その感覚が淫らで耐え切れない。
「いい。すごくいい。お前の」
 三蔵に甘く囁かれて、八戒が仰け反った。もうどうしようもない。
「さん……さんぞ」
 ぐぷ、ぐちゅ。卑猥な濡れ音が宵の帳を下ろした部屋に響く。それに三蔵の荒い呼吸と、八戒の甘い喘ぎ声が混じる。情事はいっそう濃密に甘くなった。
「はっか……い」
 八戒の上で腰を振って、ひたすら浅い抜き挿しを繰り返していた三蔵の背に震えと緊張が走る。きゅ、と八戒の粘膜が変則的に締め付けてきたのだ。初心な八戒の身体だったが、段々、穿たれているうちに、感じてきてしまったのだろう。不意を突かれて、三蔵の顔が歪む。
「く……イク」
 三蔵の腰使いの緩急が早くなる。八戒の粘膜を蹂躙するそれに力がこもりった。いままで散々、八戒の痴態を見続けていてもう限界だった。怒張がいっそう硬くなり体積を増して膨れ上がる。
「あ……」
 苦しくなって八戒が眉根を寄せる。そんな苦悶の表情も艶かしい。しかし、はじめてでは、三蔵の射精前の緊張も感じ取れたかどうか。たぶん、無理だろう。なにもかも無我夢中だった。
「……くぅっ」
 身体の奥底に、粘膜のなかに熱い三蔵の体液がほとばしる。不慣れな身体でも滴る白濁液の感触にひどく感じてしまったらしい。淫らな感覚で肉筒がいっぱいにされ腰の奥が沸騰しそうだった。八戒が身体を仰け反らせて生ぐさい悦楽の声を放つ。本当にひとが達するときの声だ。
「ああ……んっ……」
 拍動と同じように放出される精液をなかへ何度も何度も擦り付けられてカラダを震わせている。その度に黒髪がぱさぱさと乱れる。身体の下で艶かしい仕草で身悶えするのが、淫らでしょうがない。
「あ……」
 ふるっ、と八戒の身体の上で跳ねていた、その弾性のある肉へと絡めた指の力を強くした。
「や……! 」
 ナカの粘膜で感じて、外で執拗に性器を愛撫されて。もう、ひとたまりもなかった。あられもないひどく生々しい喘ぎ声を放ち続ける。許して許してくださ……懇願の声をあげるが許してもらえるわけがない。その声を聞く三蔵の目はひどく愛しげだ。

 三蔵の指で扱き抜かれて、八戒もそのまま、再び自分を解放した。淫らな体液の匂いが煙草の匂いと混じって部屋に濃くただよった。

 そして、その夜はそのまま、ふたりで抱き合ったまま、意識を失うようにして眠りについた。
 





 「今夜、俺の部屋に来い(8)」に続く