今夜、俺の部屋に来い(10)

 朝。灯りは既に消えて、燃えさしになっていた。
 何か、重いものに、のしかかられている。そんな感覚に、八戒はうっすらとまぶたを開けた。
「う……」
 まだ、完全に夜が明けるには遠い。薄いかげろいが濃く部屋を満たし、情事の後、特有の匂いが濃くただよっている。
 覆いかぶさっている何かをどけようと、八戒が身じろぎをしてなんとか動こうとするが、動けない。それどころか、
「……っ」
 身体の奥底に、何か違和感があった。何か異物感が内部で自己主張している。
「あ……」
 うつぶせになったまま、八戒は顔をあげようとした。後ろにのしかかっている何かを見上げようと頭を動かす。金の色をした髪が目に入った。
「さんぞ……」
 かっと、身体が熱くなった。顔をしかめる。背後から三蔵に挿入されたままだった。暖かい吐息が肩にかかる。規則正しく上下する裸の胸の感触も伝わってくる。
「さんぞ……起きてます? 」
 下腹部に力をいれないように、そっと八戒が囁く。
「ん……」 
 三蔵が、八戒へ回していた腕の力を強くした。その弾みに、もそ、と身体を微かに動かした。
「あうっ……」
 狭間に打ち込まれたままの、内部をより穿つような動きだった。寝起きの不意をつかれ、無防備だった身体を八戒は震わせた。なんとか、三蔵が気がつく前に身体から三蔵を引き抜こうとするが、うまくいかない。余計、三蔵のが敏感な粘膜のいいところにあたり、びくびくと締め付け返してしまう。そして、その甘い感覚が、八戒自身に返ってくる。
「ああ……」
 まだ、眠かった。昨夜も散々抱かれた。最後は狂態のあまり訳が分からなくなった。だからだろう。こんな三蔵のオスを脚の狭間に咥え込んだまま、寝てしまうなど。恥ずかしい。
「あっ……」
 引き抜こうとして、失敗する。身動きをすると快楽の火花が腰奥へ飛んだ。びりびりとした悦楽の粒子が眠気のかわりに脳内を満たしてゆく。
「ひっ……」
 動けなかった。しかし、突き入れられたままの、三蔵のことをどうしても意識してしまう。そこに感覚が集中してゆくのを止められない。昨夜かわした甘い言葉や、見せてしまった恥ずかしい格好や自分の媚態を思いだし、頭から湯気がでそうだった。思わず、体内にある三蔵をきゅ、と締め付けてしまう。
「あう……っ」
 とまらなかった。無意識に粘膜がくねってしまう。無意識のいやらしい動きだ。八戒は息を呑んだ。どうしたらいいか分からなかった。しなやかな猫科の獣のように、喉を鳴らしておとなしくしようと身体の動きをなんとか止めようと苦心する。それなのに、三蔵のものが、ぴくり、とうごめいた。
「あ……」
 埋めたはずの快楽の燠火に再び火がつきそうだった。下肢から八戒を喰い尽くそうと侵食してゆく。理性がいけないと叫んでいるのに、身体は獣のように三蔵をひたすら求めていた。恥ずかしい。恥ずかしいことだった。
「ふ……ぐ」
 なんとか、下肢に力をこめないように、八戒は細心の注意を払った。下腹部に力を込めないように頑張った。なるべく浅く息をして、他のことを考えようと苦心していた。しかし、肩や耳元に、三蔵の甘い吐息を感じる。
「あ……」
 ぴく、とまた締め付けてしまう。性悪な、淫らな身体だった。持ち主の八戒のいうことを聞いてくれない。そんな苦心している八戒のなかで、
「あっ」
 突き入れたままの三蔵が、より奥へと深く押し込んでくる。突然の動きだった。
「あああっ」
 とっさのことに、甘い声が隠しようもなく漏れた。口を塞ごうとするが間に合わない。ぐぷ、と三蔵の腰はふたたび動き、またゆっくりと穿たれる。身体に回された腕を解く気もないらしい。
「あっあっ」
 あっという間に、狭間に挿入されたままだった三蔵のものに、血が通い、中に芯でも通ったかのように、ぎちぎちに硬く大きくなってゆく。
「や……」
 後ろ抱きにされたまま、三蔵の膝で、脚を内側から開かせるように押し開かれた。
「ああっ」
 挿入されていた角度が変わる。より深く押し込まれて、八戒が今度こそ身体を震わせて喘いだ。
「やぁ……あ」
 三蔵の下腹に、八戒の尻が押し付けられるような格好になってしまっていた。そうすると内側のイイところに、三蔵の一番太い雁首が当たって、擦り上げられる。
「あ……ん」
 我慢できなかった。粘膜や下の肉の環で、三蔵のが質量を増し、粘膜を圧してくるのを感じて肌を震わせる。反動で、三蔵のを排斥しようと、弾力のある肉の環がきゅ、と締めるがそれは逆効果でしかなかった。より卑猥なうごめきをする粘膜と下の口に、熱い感覚が走った。
「ああ……」
 もう、快感は隠しようもない。ほのかに掻痒感のある熱さは、もう今や明らかに性的な快美感に化けていた。 ――――三蔵は寝ているのに、自分ばかりどうしよう。
 そう思ったそのとき、八戒の耳元に濡れた感触が走った。キスだった。
「おはようございます、はどうした」
 三蔵の冷静な声がした。腰を引くような動きをしている。
「さ……さんぞ」
 抱きしめられていた腕が下へと降りてゆく。そのまま、腰を抱かれた。
「かわいいな。お前」
 腰を抱かれて抱え上げられる。頬はシーツにくっつけ、肩を落とした体位にされた。
「や……これ」
 口を押さえようと回した手で、シーツを握り締めた。思い切り三蔵が後ろから穿ってきた。
「はぁ、あ、ああっ」
 八戒の指が、空しくシーツの上をさ迷い、握り締める。艶かしい皺が幾つもよった。
「ひぃっ」
 肉の薄い背が三蔵の愛撫のままにしなる。我慢してた分、薄い汗をまとった身体は快楽を敏感に拾い上げてしまっていた。内股を合わせてするような動きまでしてしまう。腰をくねらせて、三蔵のを締めて悦がってしまっていた。
「ああ、あっ」
 そんな、様子に三蔵のものがいっそう大きくなった。粘膜をぎゅうぎゅうに圧してくるそれを反射的に自分の肉筒で、もみしだくようにしてしまう。締め付ければ締め付けるほど、快美感が背筋を這い上がり、八戒の性器まで甘い衝動となって跳ね返ってくる。
「ああ、ああっんああ」
 あまりにもはしたない声が出てしまった。思わず、八戒は口元にあったシーツを噛み締めた。
「ぐぅ……っ……っ」
 声を抑えようとすると、快楽が内部で内攻し、加速し、重複する。しかし、そんなことはこの初心な身体はしらない。切なげに眉根を寄せ、咽び啼くような声を殺そうと必死だ。
「かわいいな。お前は」
 三蔵が八戒の背中ごしに呟く。ぺろり、と背を舐めた。びく、と八戒の粘膜が反応する。敏感な身体だ。
「俺をもっと早く起こせばいいだろうが」
 低い笑い声が背中に落ちる。前を握りこまれて、今度こそ八戒が悶絶した。
「あああっだめ……さんぞ、そこはだめで」
 三蔵の長いが大きな手で擦り上げられる。めまいのするほど淫らな感触に、八戒は狂いそうになった。
「いやぁっ……」
 激しい快楽の坩堝へと再び投げ入れられる。ちゅく、ちゅくとくびれを中心に扱かれ、もうどうしようもない。八戒は無意識に自分から尻をまわすようにしてくねらした。いやらしい動きだ。
「ああ……ああっああっあ」
 そっと動かしていたが、熱い身体と身体の間で、楔を打ち込まれ続けて、昨夜たっぷりと注がれていた、三蔵の白濁液が、とうとうなかから伝い落ちてきた。尻孔から、溢れてくるのが卑猥だ。
「いや……で……ぅっ」
 生々しい声をあげて、八戒がうめく。後ろの肉の環と、前の屹立を扱かれて、脳が煮えたようになってしまう。甘い声をあげて悦楽の声を放つだけの玩具にでもなってしまったような心境だった。
「あ……許して……さんぞ……だめ」
 浅いところを抉るようにして、昨夜吐き出した白濁をわざと掘って溢すような動きを三蔵が繰り返す。恥ずかしい音が、粘膜と白濁液の間から立って、八戒の聴覚まで犯してゆく。シーツで口を塞ごうとして八戒は失敗していた。息が苦しかった。強烈な快感に耐え切れない。
「いや……さんぞ、それは……いや」
 浅いところで回すようにすると、あふれた精液と肉の環の奏でる淫音が八戒を追い詰めるが、やや深いところを穿たれると前立腺のいいところに当たって、また八戒を狂わせてゆく。
「ひぃっ……ひぃっ」
 もう、ひとの言葉など忘れたように喘いでいる。浅く深く角度を変えて打ち込まれ、しなやかな痩躯を押さえつけられ、柔肉をずんずんと抉られた。八戒はしなやかな身体を、さらしている尻を震わせる。それにあてられたように、三蔵が上体を倒して、八戒の背へ体重をかけてのしかかった。
「あっあっ」
 もう、穿たれる尻と、その内側の淫らな肉、粘膜と尻孔しか、八戒は動かせない。より感じてしまう体位にされて、ひくひくと激しく下の口が収縮した。
「八戒」
 慣れてきたな。俺のに慣れてきたじゃねぇか。そういう口調だった。こんな淫蕩な性技をまだまだ不慣れな八戒へ強いるこの男はこの世のものとも思えぬような美貌の主だ。背後からのしかかりカフスの嵌った耳を舐めてとかすように愛撫している。
「うっ……んいやぁっああっああっ……あ」
 抜けるかと思うくらい引き抜かれそうになって、その動きを追うように、八戒の下の口がくちゅくちゅと収縮して三蔵のを喰い締める。卑猥な動きだった。
「あああっあっあっ」
 再び、そんな淫らな粘膜をめくりあげるようにして、硬い怒張が挿入される。三蔵の手で育てられている前のペニスも濡れて先走りをこぼし、腹につくほど反り返っている。下腹部の傷を透明な淫液がついて糸を引いている。
「あぅんっ……あっああああああっ」
 何度も何度も穿つのに合わせるように扱かれて、とうとう八戒は自分を吐き出した。耐え切れなかった。八戒が吐精すると、連動して肉筒も締まり、粘膜が引き絞られる。
「く……」
 三蔵が背後で呻いた。圧倒的な快美感に全身、爪の先まで焼かれるようだった。きゅう、と収縮し、蠕動する淫らな孔の動きに誘われるまま、放った。昨夜、放った白濁と交じり合い、シーツへと滴り落ちる。
「っはぁ……は」
 三蔵はずいぶん、長いこと八戒の背の上で尻を振った。雄の本能で、より奥へと搾るような動きをしている。何度かに分けて吐き出されるその感触に、粘膜を焼かれ、八戒は甘い声を上げ続けた。

「どうして俺をもっと早く起こさなかった」
 行為の後、三蔵に額にキスをされる。まだ、寝台でシーツにくるまったままだ。
「だっ……てあの」
 八戒が口ごもる。三蔵に廊下で唇を奪われてからというもの、八戒にとっては恥ずかしいことの連続だった。朝の生理現象のまま、貪られた身体をしどけなく横たえ、息も絶え絶えだ。
「恥ずかしいです」
 八戒は片手で顔を覆った。三蔵が、そんな恋人を優しく抱きしめた。
「すっげぇ、お前、かわいかったな。俺を起こさないように、震えてあがいて。それなのにカンジてて」
 三蔵が情事を反芻するような表情を浮かべる。八戒は真っ赤になった。八戒だって男だから、三蔵がいつ起きたかは分かる。あの芯が通ったように硬くなったあの瞬間、完全に三蔵は覚醒したのに違いない。雄の生理現象だ。
 自分の痴態をつぶさに好きなひとに見られてしまう。なんて恥ずかしいことだろう。八戒は顔を真っ赤にして横を向いた。
「怒ったのか」
 そんな八戒の様子を見て、三蔵が慌てた声を出した。珍しいことだ。
「褒めてんじゃねぇか。すげぇお前」
 耳元で、甘い低音で囁かれる。
「ヨかった」
 八戒は今度こそ全身を紅潮させた。

 





 「今夜、俺の部屋に来い(11)」に続く