陵辱(2)

「あ、ああッ……あ」
 がくがくと躰が揺れる。ぐぶぐぶと悟浄の怒張が肉筒を出入りするたび、八戒は激しい悦びの声を放った。
 犯すふたりの男たちも、もう既に一糸も身に着けてはいない。陰惨な陵辱は何度目になるのか。精液をたっぷりと注ぎ込まれ続け八戒の後孔は白い体液を滲ませて潤みきっている。入りきらないのだろう。シーツに絶え間なく滴り落ちていた。
「あぅ……あぅッ」
 思わず、脚を犯す男の腰へとまわして、両腿を立てて締めた。
「……すっげぇ締まる」
「はぁ……ッ! 」
 きつく穿たれるのと同時に、胸元に三蔵の舌が這って八戒が躰を仰け反らせた。
「あ、ああっ」
 乳首を苛めるように揉まれ、舌で啄ばまれる。溶かすように舐めまわされて、よがり狂った。
「ひっ……ぃ……ッ」
「あーあ。イッちゃった」
「またか」
「ホント淫乱」
 びくんびくんと跳ねる躰をかまわず悟浄が貫く。射精しているのに、激しく突きまくられて、八戒が身も世もない声をあげた。
「ああ! あっ」
 目の前が白くなるような快感だった。きゅ、きゅと媚肉も快楽の激しさに応じるかのように締まった。悟浄が眉を顰める。
「く……すげ」
 腰を捏ねるようにしていた動きを、勢いよく跳ねるようにした。油断すると達してしまいそうだった。急に変則的な動きを加えられて、八戒が痙攣する。
「ああ……」
 もう脳がとけてゆくような快感だった。もう自尊心も誇りも何もない。輪姦されまくった後の、躰の快楽だけが八戒を慰めていた。激しい悦楽で身が焼ける心地がした。
 陶然とした淫らな表情を浮かべる八戒にたまらなくなったのか、三蔵がその唇を重ね合わせた。唾液を絡ませて舌をお互い貪りあった。口腔内まで性器になったかのような淫らすぎるくちづけだった。
「は……イク」
 紅い髪の男が低く吠えた。
「イッちまえ。次は俺が代わってやる」
 八戒の上半身を嬲って首筋を舐めていた三蔵が呟いた。
「クソ……」
 悟浄がかくかくと腰を揺らした。そのまま八戒の内壁に熱い飛沫を放つ。
「は……はぁ」
 満足そうな息を吐くと、悟浄は自分の怒張を抜いた。ぐぽ、と音が立って八戒の後ろから凶暴な猛りが抜かれる。
 まだ硬度の落ちないそれに、八戒の紅い粘膜が名残惜しそうに絡みついていたが、とうとう白い糸を引きながら抜かれた。点々とシーツに悟浄の精液が滴り染みになる。
「あ……あ」
 激しい交合に息を整えようと喉をさらして八戒ががっくりと仰け反ったまま動かなくなった。拘束されて躰の前を隠しようもない。腹部には悟浄と三蔵に交互に犯されたことを示す「正」の字がついていた。
「これで……六回目? 」
「そうだな」
「今夜、ペースが速くねぇ? 」
「コイツがエロいからだろ」
 マジックで屈辱のしるしを刻みながら、ふたりの男は言葉を交わしている。
 悟浄のを頬張っていた後ろの孔は、すっかり口が閉じられなくなってしまっている。石榴のような粘膜を大きくさらして、白いふたりの体液をつらつらと滴らせていた。
「もう……やめ……て」
 呟かれる悲しげな声に反応するものはない。
「散々、河童に尻振りやがって」
 鬼畜坊主の苛立った、しかし嗜虐的な声が響く。
「スケベな躰しやがって。……この」
「あ、ああッ」
 尻に 『肉便器』 とマジックで記され、腹には犯された回数を書かれる。そんな非道な行為の連続でも八戒の躰は熱を失わなかった。いや、責められれば責められるほど、狂うほどに感じてしまっていた。
「はぁ……ああ……だめ……ッ」
 快楽の声は狂乱する啜り泣きになった。もう、なにもかもが限界に近かった。
「悟浄と俺の×××交互に挿れられて泣くほどうれしいですって言ってみろ」
「そうそう。ついでにいつもの手帳にも書いといて」
「ひぃ……ッ」
「腰すっげぇ動いてるぞ。てめぇ」
「うっわイヤらしい八戒ってば」
「知らねぇヤツは驚くな。いつも先生ぶってる、てめぇの本性がこんなだとはな」
「あっら、三ちゃん。知らなかった? 八戒って根ッからこーよ」
「スキモノが」
 侮蔑の言葉が耳を犯す。耳を塞ぎたくとも両手を拘束されていてそれもかなわない。
 辱められた躰はふたり分の精液で汚れに汚れていた。そんな汚れ地に落ちた躰を陵辱者たちは喜んで抱いている。
「言わない……で」
 喘ぐように八戒が言ったそのとき。
 部屋のドアが開いた。
「う……ん? 悟浄? さんぞー? 」
 半開きになったドアの向こうには、金環を嵌めた茶色の髪が揺れている。眠そうな目を手で擦り、まだあどけない少年の仕草で首を傾げ、眩しい室内に目を瞬かせていた。
「おや、起こしちまった? 八戒がアンアン、でけぇ声出すせいだな」
「サル。寝ろ、取り込み中だ」
 それは悟空だった。
 安宿の壁は薄い。もれ聞こえる妖しい声に、とうとう悟空が起きてしまったのだ。
 悪夢のようだった。
 八戒は途端に背筋に冷や水でも浴びせられたかのように固まった。
「……八戒? 」
 悟空が訝しげに尋ねた。眼前で繰り広げられている光景が信じられぬとでもいう声色だった。折りしも、三蔵が悟浄と交代して八戒の躰を開き、自分の怒張を挿入しようとしているところだった。
 悟空の眼前で三蔵に犯されようとしている。それに気がつき、八戒は悲痛な声を上げて抵抗しだした。
「やめて……やめ……さんぞッ」
 無駄だった。何度もふたりの男に汚された肉筒は、たっぷりと注ぎ込まれた精液が潤滑油の役割をして、三蔵の猛りを何の抵抗もなく、ずぶずぶと貪欲にのみこんだ。
 駄目だと思っても、粘膜を通じて激しい電撃のような快楽が湧き、腰を焼いた。八戒は仰け反って唇を血が出るほど噛み締めた。声を出さぬようにするのに必死だった。
「ん……ッ……んっ」
 激しい肉を打つ音と、ぬちゃぬちゃと後孔で肉棒が体液を掻き混ぜる淫らな音が響きだす。
「は、八戒? 」
 眼前の光景にようやく目が覚めたらしい悟空は眠気も吹き飛んだらしく呆然と立ち尽くしていた。
「ちょ、ど、どうしたの八戒」
 悟空は淫靡な情景に舌も回らぬほど驚いているらしい。
「あ……」
 悟空がいるというのに。
 三蔵に責めたてられて、八戒が悩ましい表情で眉根を寄せる。声を出さないのも限界だった。腰がとけてなくなってしまいそうだった。
 三蔵が穿ちながら首筋に顔を埋め、舐め上げると、我慢できずに悲鳴のような嬌声をあげてしまった。遂情するかのような激しい声だった。本当に、ひとが感じて感じきって悦楽に狂っている声だ。
「……見られて感じてんじゃねぇよ。淫乱」
 三蔵がくっくっと笑いながら呟く。
「はぁッ……やぁッ……あ! ああ! 」
 獣のような八戒の声を聞いて、悟空はすっかりどうしていいかわからなくなったらしい。目の前の光景が信じられぬらしかった。
 いつもは自分を優しく守る保護者めいた兄のような存在の八戒が、三蔵に犯されている。躰を開いて、涎を垂れ流し、快楽の声を獣のように放って尻を振っていた。
 いつも昼間見せている顔と比べるとものすごい落差だった。ひとのいい優しそうなお兄さん、あるいは保父さんめいたいつもの立ち居振舞いが、ここでは片鱗もなかった。
 いつも学者か、先生じみたお説教を仲間にする八戒だったが、いまや男の精液を纏い、躰を汚しマゾヒスティックな快楽の地獄で悦びに狂う姿は、もう別人としか思えなかった。
「見ないで……見ないでごくう……お願い……見ない……で」
 哀れっぽい懇願が八戒の口から上った。
 八戒の躰を開き、手足を拘束したままM字に開脚させて犯していた三蔵だったが、この言葉を聞くと、八戒の腕をとらえて躰を引き寄せ、立たせようとした。
「……! 」
 かまわず三蔵は素早く体位を入替えた。自分の躰の上に、拘束したままの八戒を串刺しにして乗せた。躰が向き合う形で騎乗位にし、そのまま腰を跳ねあげて穿った。
「……ひッ」
「……気取ってんじゃねぇ。見せてやれ。てめぇの本当の姿をな」
 手首を足首と一緒に縛られ、不安定な躰を引き寄せられる。躰を前に倒させられ、貫かれた。
 屈辱的だが、悟空からは顔や表情の見えない体位だ。それがこの性地獄で束の間の救いだったが、それも三蔵の次のひとことによってかき消された。
「見えるか。サル。繋がってるところが」
「……! 」
「ああ、よく見えるぜ。八戒のイヤらしいアレがぱっくり咥えこんでるのも、後ろに俺がマジックで書いた字も」
 あまりの光景に言葉も出ない悟空に代わって悟浄が返事をした。
「……な」
 騎乗位で、しかも変則的に前に躰を倒している騎乗位なので、後ろから見ると三蔵に犯されている箇所が丸みえなのだった。
 赤黒い三蔵のペニスが欲情で紅く充血した花のような粘膜を突きまわす様子がよく見えることだろう。おまけに後ろからだと、尻に悟浄が書いた『肉便器』の字も丸見えだった。
「やめて……お願いやめて……」
 喘ぐように八戒は呟いた。
「お、悟空には知られたくなかった? 」
「妬けるな」
「お仕置きだよな」
「……このまま八戒センセイによるおサルちゃんの性教育っての、いいんじゃね? 」
 後から後から涙をこぼし始めた八戒の首筋を悟浄が横から舐め上げる。
「う……」
 反応して、きゅうきゅうと締まるのだろう。快感が深くなった三蔵が眉根を寄せる。
「……教えてやれ。いつも悟空の保父さん買ってでてるだろうが」
「そうそ。俺らもお手伝いしますから。筆おろし筆おろし」
「…………貴方達ッ」
 安宿の一室はもう性の臭気で煮凝り、妖しい空気で満たされきっている。乱交の度は激しくなり、陵辱の手はいっそう酷くなった。
「こい。悟空」
 金の髪の鬼畜坊主が養い子をゆっくりと差し招く。まるで機械仕掛けの人形のように、悟空がふらりと足を進めて寄ってきた。
「いいねぇ。初めてが八戒みたいな美人さんなんてサルも幸せモンだよな」
 ベッドの上に押さえつけられた八戒の絶望は更に深くなった。
「やめて……お願い」
 哀願を聞くものはもう誰もいない。
 ふたりがかりで脚を開かされ、悟空の眼前に男たちに犯され尽くした肉環をさらされる。
 もう、毒気にさらされ悟空もいつもの彼ではないようだ。そのまま、まるで操られてでもいるかのように顔を八戒の脚の間へ埋めた。
「…………! 」
 八戒はしなやかな首を反らせた。飢えた獣に舐められるような恥ずかしい音が脚の付け根、悟空の舌と粘膜の間から立った。
……悟空にも犯される。想像もしてなかった事だった。
「あ……もうッ……や」
 じきに、廊下まで聞こえるような甘い喘ぎが響きだし、淫猥な夜は更けていった。
 それから。
 八戒の腹部に書かれる「正」の数がひどく増えたのはいうまでもない。



 了