廃墟薬局(7)

「ここかよ」
 悟浄がうめく。結構、廃ビルを探すのに手間をとってしまった。
「三ちゃんが悪いんだぜ。もー」
「うるせぇ」
 わずかな手がかりを元にようやくこの廃墟へたどりついた。もう夜も更けてきた。宵闇の中の廃墟は凄みがあった。古ぼけたコンクリートのかたまりだが違法に増築が行われておりまるで生きているかのようだ。崩れたところから無惨に内部の鉄筋がところどころ錆びた骨をさらしているのが不気味だ。 
「こんなボロビルなのに、ひとがいるってェ? 」
 気味が悪ィ。悟浄の顔にそう書いてある。
「行くぞ」
 三蔵は無愛想に言った。闇夜の中、内部で閃く光がある。ネオンが中で瞬いているらしい。
「おう」
 悟浄は言葉少なく答えた。八戒がこんなところで捕まるなんて、不吉な予感しかしなかった。敵は相当の強敵に違いない。親友が心配だった。
「でもよ、なんで八戒が狙われたんだろうな」
「さぁな、敵に直接聞くしかねぇだろ」
 三蔵が、暗い入り口をくぐった。扉もなにもない。コンクリートがただ四角く殺風景な口を開けている。その上を貼紙がべたべたとところ狭しと埋め尽くしていた。
「……ッ! 」
「うお! 」
 衝撃が走った。入り口を抜けようとしたら、電撃のようなびりびりする感覚に脳髄まで貫かれた。
前に進もうとしてもダメだった。目を剥いた。
 何か、透明な壁のようなものに阻まれ入れない。
 確かに、向こう側に廊下らしきものが見える。左右は店を兼ねているのだろう。妖しいネオンに彩られた毒々しい地下街のごとき小道が見える。
 しかし、前に進めない。まるで密度の濃い闇が邪魔をするかのように、三蔵と悟浄を拒む。
「結界か」
 最高僧が舌打ちをした。入り口の左右のコンクリートの壁を見渡す。べたべたと貼紙がはられている。『名医 速治 淋病 梅毒』 性病のクスリの宣伝、『駅中心 二房 5000元』 貸し部屋の宣伝、探しびとのチラシ。そんなものがところ狭しと入り口にも貼られている。
――――この中に結界の呪文も貼られているのかもしれない。
「下がってろ河童」
 三蔵は印を結んだ。その双肩にかかった聖なる経文が神々しい力に反応して揺らめき浮遊する。5色の虹のような光が経文の表面に薄っすらと浮かび、強烈に輝きだした。
「魔戒天浄ッ」
 強烈な力が貼紙も何もかも吹き飛ばした。三蔵の力に触れると呪符たちは白くふやけ融けたようになって空間から消えた。邪悪な煮凝った結界ごと暴力的な力の前に白く発光して粉みじんになる。巨大な力はそれだけでとどまらず、入り口から奥に入った廊下の大きな柱といわず壁といわず、空間中を荒れ狂いするどい亀裂を入れた。
 ぱらぱら、と天井からコンクリートの破片が降ってくる。
「い、いきなりかよ」
 悟浄が青ざめる。三蔵様は本気も本気だ。
「行くぞ、のんびりしてると殺すぞ」
 入り口は経文の力で半壊しているも同然だった。コンクリートのかけらやほこりが周囲を舞う。僧衣の服の裾を払い、三蔵は紅い髪の下僕を冷酷な目つきで睨んだ。








  
「キミって我慢強いよね。驚いちゃった」
 ニィは目の前で触手に犯されまくる八戒を冷静な目つきで眺めながら呟いた。片手で檻をつかみ、片手で口元を覆うようにしてタバコを吸った。
 
 実際、八戒は我慢強かった。精神力がありすぎた。

 しかし、もう、
 あとは、精液に似た催淫粘液と媚薬のおぞましい効果が八戒の身体を苛み蝕みだした。
「あ……! 」
 触手に尻を犯されているうちに、限界にきたらしい。涎をたらして眉を寄せて身悶えている。
「ああッああッ……もうダメ……」
 ひくひくと尻肉を震わせている。ずぼずぼと後孔を穿つ触手が蠢きながら白い身体を舐めるように犯しぬく。ずるり、と抜かれる感触が気持ちいいのだろう。身体を紅に染め、喘いでいる。いやいやをするように頭を左右に打ち振ると、黒い艶のある長い前髪が音を立てた。剃り跡も清潔なえりあしがまぶしい、。そんな首筋に、触手が絡み付き、粘液を垂らしだす。
「ああ……ッ」
 ひくひくと震える身体をなんとか支えながら、八戒がうめく。じゅぼ、と後ろにまた触手が精液を吐き出した。入れ替わるように違う触手がゆるんだその孔を犯す。ぐぼ、ぐぼ、ぢゅぢゅ。淫ら過ぎる音が立ち、八戒がわなないた。
「あああッ」
 身体がおかしかった。腰から下が蕩けてなくなりそうだった。触手が吐精するたび、身体が熱くなった。
「は……ぁ」
 ひくんひくん、と艶やかな肌が震える。もう顔も髪も身体も触手の体液まみれにされている。ずるり、と後ろの肉を割って、抜き挿しされる度に背筋が震えた。
「あっああっ」
 抜き挿しが浅いところで遊ぶようにされて八戒は喘いだ。腹腔側の前立腺を刺激するような動きだ。内側の粘膜ごしに執拗に愛撫される。
「くぅッ」
 耐え切れない惑乱するような感覚に浸された。仰け反るとすかさず後ろから支えられる。八戒自身も何度達したか分からなかった。前の性器には細い触手が這い回り、この世のものとも思えぬ快楽を施してくる。ちろ、と触手の先端から舌のようなものがのぞき、八戒の先端に小さく口をあけている鈴口へと忍び込む。
「ああああッ」
 鈴口から尿道口へ。細い細い触手が奥へ奥へと這いまわられる感触に八戒は狂った。
「あ……もうダメ……やめ……て」
 びくびくと腰を痙攣させる。八戒のペニスを犯す管は繊細な尿道をくぐって奥にある前立腺を表からそっと舐めるように愛撫した。
「ああああああ! 」
 絶叫に近い声があがった。残酷なまでの人外の性技だった。尿道を通じて犯され、後ろから前立腺を愛撫されている。同時に一番敏感なところを刺激されて八戒は狂った。
「ひぃッ……つッあああッ」
 腰をくねらせて、この気が狂いそうな快楽に耐えようとしている。前も達しきっているが、尿道に挿入されているままなので、精液も出せずに身体を震わせている。
「イイ? 」
 ニィが鉄格子ごしにのぞきこむ。至近距離で舐めるように乱れる痴態を見つめている。
「あああっ」 
 もう、八戒は返事もしない。いやできなかった。わずかな尿道の隙間から、精液が滴り落ちる。射精を引き伸ばして、狂わされるような行為の連続だった。
「はぁ……あ」
 目元を紅く染め、八戒が身悶える。肉筒が快楽のままにうねり、触手を締めつけてしまう。ちろちろと精液を垂らしながら、後ろの粘膜で自分を犯す触手をもみしだくようにしてしまう。
「三蔵に抱かれるときも、そうやって後ろのおクチで締めてあげてたの?」
 ニィがねっとりとした口調で訊いた。
「ああ、あッ」
 もう白い快楽の物質が脳内を舞い、脳細胞のなにもかもを淫らに染め上げてゆく。八戒は口を半開きにして喘いだ。ピンク色の舌が扇情的だ。
「ああっ」
 達しきって、達しているのに、とろとろと生殺しにされるような低温の快楽に狂わされる。また後ろに白濁液を出された。どぷ、どぷと肉筒が精液でいっぱいになる。ずるりと抜けるとき、内壁をこすられる感触に感じてしまう。眉を寄せて顔をゆがめて喘いだ。精液と触手の粘膜で肉筒が洗われるようだ。精液まみれにされた内股がぴんと張り、ひくひくと震えた。
「さ……ぞ」
 切なげに八戒は意中の相手の名前を呼ぼうとした。もう、狂ってしまっていて正常な判断ができない。もう肉の快楽しか分からなくなっている。貶められ、陵辱され、惨めな見世物にされ、肉体にくわえられる快楽だけが、八戒を慰めている。
「さんぞ……さん」
 甘い声で名前を呼んだ。まるで助けて欲しいようにその聖なる名前を舌に載せる。あの夜、三蔵は八戒を後ろから抱き、挿入したまま、達する直前にその肩をそっと噛んだ。
「あ……」
 思い出すと、それだけてイッてしまいそうだった。ひどく淫蕩でその癖、神聖な行為だった。あのとき、三蔵が大切な宝物のように扱った身体を、今は化け物の蹂躙にまかせ、犯されている。
「さん……」
 今まで、八戒の前を縛めていた、尿道に挿しいれられていた管が抜かれた。内側から擦られる圧倒的な眩暈のするような性感が背筋を襲い、陰部神経を白く焼いた。
「さんぞッさん……」
 身体をびくびくと震わせて、八戒は達した。どろりとした精液が屹立から放たれ、それはニィの目の前で牢の床に滴った。後ろを犯す触手にも絡まり、そのまま滴り落ちた。どろどろと床を汚してゆく。
「あんッああッ」
 達しきって敏感になった身体は全身が紅潮している。耳まで赤く染めて、セックスに酔い痴れている。淫らな様子だった。達するとき、また後ろを締めたのだろう。もう孔はわなないて痙攣して止められないらしい。どぷ、どぷと触手たちが白濁した体液を吐き出した。それにも、濃厚な催淫粘液が含まれている。
「あッ……もう」
 八戒は、手についた体液を自分の口で舐めた。甘く蕩けるようなその癖苦い性的な味がした。触手の精液と媚薬を含む体液に、自分の精液が絡み合った味。卑猥な仕草で舌を自分の指に這わせた。鼻に抜ける青臭い臭いと、舌の上や喉へ執拗なまでに絡みつく、えぐみのある濃厚な体液に全身を塗れさせてのたうつ。
「…………は」
 見物していたニィは自分の唇を思わず舌で舐めた。とろりとした八戒の目にはもう正気らしき光はない。ただ、圧倒的な快楽に流され、犯される獣になりきっている。
「あああッ」
 眼前で八戒は嬌声をあげて、自分の胸に這わされている触手をはがそうと身悶えしている。執拗に愛撫されて、その薄紅い屹立はしこってしまって固くなって痛いくらいだったのだ。
「いや……いやぁ」
 目の前が白くなってゆく。神経が脳が快楽の白い闇に喰われかかった。もう忘我のときをとっくに過ぎた、きちがいじみた感覚が八戒の精神を犯している。
「さ……」
 大切なひとをもう一度思い出そうとした。そうでないとこのまま狂って壊れて、もう二度と人間として意識を保てそうになかった。そのとき、
(八戒)
 八戒の脳は大切な最高僧の声を聞き取った――――気がした。それは脳や意識の聞かせた幻だった。最後の最後、ひととして意識があるうちに、狂う前に意中のひとのことを思い出させてやろうと、神が憐れみでもかけたのかもしれない。惨め過ぎる陵辱に、耐え切れない恥辱的なセックスにとうとう限界がやってきた。脳神経が見せる、幻覚の一種だ。A10神経が震え、エンケファリンが分泌されていく。
「さんぞ! さんぞ」
 来てくれたんですね。こうやって僕を抱いているのはやっぱり三蔵なんですね。そうですよね。化け物に犯されているなんて、ウソですよね。これは悪い夢だったんですよね。
 切なげに八戒は腕を伸ばした。伸ばした腕は確かに金の髪をした男がつかんだ。そして、そのまま身体をひきよせられ、やさしく抱かれ、そのまま下肢を割られて穿たれた。
「ああ……さんぞさんぞ……もっと抱いて」
 八戒は触手の粘液が貼りついた唇に、うっとりと微笑みを浮かべた。安心しきった笑顔だった。
「僕が……貴方にふさわしくないのは……わかってます……でも」
 八戒の瞳から涙が流れた。三蔵は何も言わず、ただ、八戒をきつく穿ちその背も折れよとばかりに強く抱きしめた。







 「廃墟薬局(8)」に続く