廃墟薬局(18)

「食事だ」
 その権高な声が上から降ってくるのに、八戒は眉をひそめた。
「う……」
 八戒はベッドの上で身体を起こそうとして失敗した。また、手も足も縛られている。皺になったシーツの上で柔らかな毛布を申し訳程度にかけられていた。いまだ、裸のままだ。
「果物もある。食べられそうか」
 三蔵は八戒の手の縛めを解き始めた。痛々しい。手首に食い込んで擦れ、赤くなっている。
「暴れるからだ。ったく」
 三蔵はそのまま、赤く擦れたところへ舌を這わせた。
「さん……」
 八戒が眉を寄せた。せつな気な表情だった。口を開こうとすると、昨夜散々飲まされた三蔵の精液の残滓がどこかに残っている気がした。口中が粘ついた。

 
「だめ……」
 朝食が済んだ後、ふたたびベッドに押さえつけた。
 恥ずかしいのだろう、八戒は身をよじり三蔵の手から逃れようとして失敗した。
「ひっ……ひっ」
 脚の間で、金の髪が踊る。飴かなにかのようにしゃぶられている。
「俺にヤられるのは嫌か」
「ああッ」
 ぺろり、とその肉冠に舌を走らせる。つん、と震える小さな入り口を舌先でつついた。
「あ……」
「嫌なら、逃げてみろ、俺を拒んでみればいいだろうが」
 八戒の瞳に涙がにじんだ。三蔵に犯されることを拒んで逃げることができたら、どんなにいいだろう。でもできなかった。
「身体が疼くんだろうが……欲しくて欲しくて、どうしようもねぇんだろうが」
「う……」
 三蔵の吐息が震える屹立にかかる。つっ、と襞のよったカリ首を舌先で舐められ、八戒は悶絶した。感じやすい身体だった。確かに三蔵の言うとおりだった。抱いて欲しくて、しょうがない。理性では、頭ではこんなことはダメだと思っているのに、身体は砂糖のようにグズグズに蕩けて、三蔵に抱かれてしまう。
 媚薬の効果はいまだに八戒を蝕んでいた。
「ああ……」
 八戒は悩ましく眉を寄せた。三蔵の舌の感触が気持ちよくてしょうがなかった。舐められるとそこから蕩けていきそうだった。
「んッんッ」
 腰が、尻が震える。三蔵が絞るようにして愛しだしたとき、八戒は達しそうになった。
「いや……も……出る……出ちゃ」
 甘い喘ぎまじりの声で、啼く。部屋に陶然とした小さい悲鳴が響いた。
「ああ……」
 こぷ、こぷ。三蔵の視線の中、精液を溢れさせて尻を浮かせている。八戒のペニスに白い粘液が滴り、それを三蔵に注視された。
「あっ」
 滴る白い粘液へ、三蔵が自分の怒張を突き出し、塗しだした。
「ああっ……ああっ」
 達したばかりの性器を、三蔵のごと握られ、自分の出した、精液で相手を汚してしまっている。
「だめ……さんぞ」
 卑猥な行為だった。つ、っ、と三蔵の怒張の先が、八戒の出した精液を下へ掻き下ろすような仕草をする。袋の下、もっと下の翳りまで……。
「あ、ああ」
 八戒は目元を染めた。くちゅ、と肉の環の入り口を、自分の出した精液で塗らされる。
「お前の、使って抱いてやる」
 三蔵に耳元でささやかれる。嗜虐的なことを言ってるのに、甘い口調だった。
「いや……で」
 泣きそうに顔をしかめるが、三蔵は許さない。八戒の白い身体を割った。脚を大きく広げさせそして、八戒の体液に塗れた自らの欲望で、彼を穿った。
「……ッ!」
 目の前が赤くなるような衝撃があった。その癖、媚肉は男のモノに媚びて震えている。唇を噛んで耐えた。
「……すっげえ、痙攣してるな」
「ああああああッ」
「また、イクのか淫乱」
 内部で三蔵と、自分の吐き出した白濁液が混じって繊細な粘膜を擦り上げられる感覚に、八戒は狂った。また、前から噴き上げる。
「あーッあああッ」
 咆哮するように、身体を震わせる。達するときに、肉筒はめちゃくちゃに痙攣して三蔵を締め上げてきた。
「すっげぇ……お前の痙攣する孔、すげえいい」
「あ、ああッ」
 生理的な涙が八戒の目じりから流れ落ちた。達しているのに、内部から押されるようにして、前立腺を刺激されている。達しているのに、喰われるように打ち込まれた。何度も穿たれる。
「ああ、ああッ」
 三蔵の硬さを震える粘膜で味わう。きゅうきゅうに、肉は三蔵に絡みついた。ひくん、ひくんと震えが肌に走り抜ける。腰の奥が強烈な快感で焼け落ちてしまいそうだった。
 尻を回すようにして、穿たれた。八戒が仰け反って呻く。もう耐え切れない。
「やめて……さんぞ、もう」
 媚薬に侵された身体。触手の催淫粘液に浸され、ニィに薬を飲まされ、すっかり八戒の身体は男の玩具のようだ。最後などひどすぎて、三蔵に抱かれている幻覚にまで襲われた。もう何をされても感じてしまう。男なしでなど、もう一夜も過ごせないだろう。
「もう……こんな……自分が……イヤ」
 甘い吐息で三蔵の身体を受け入れながら、八戒は組み敷かれたまま、涙を流した。その癖、身体は蜜を垂れ流して腰をくねらせ、三蔵の動きに合わせて尻をふっている。
「あっあっ」
 泣くのをなだめるように、三蔵の口づけが首筋に落ちた。
「俺はどんなお前でも」
 三蔵のその言葉を途中でさえぎるようにして、八戒が震える唇を開いた。
「僕、おぼ……て……います」
 舌が回っていない。
「僕がどんな……汚い……か」
 その緑の瞳から、透明な水晶のような涙がまたひとつ滴り落ちた。
「あんな、……のに、……して」
 つむぐ、言葉は言葉になっていない。
「でも、から……だ……が」
 三蔵は八戒の身体を貫いたまま、その言葉に耳を寄せた。
「からだ……は……」
 それ以上しゃべるのが、苦痛になったのだろう。今度こそ、八戒は泣き出した。この負けず嫌いの男が泣き出した。
「八戒」
 三蔵は八戒の肉の薄い、小づくりな尻を抱えなおした。深く、浅く抜き挿しを繰り返す。
「も……生きていたく」
 抱かれながら、八戒のまなじりに涙が伝う。三蔵の好き放題に身体をされて、その律動のままに穿たれて、それでも八戒は快感を感じている。絶望と、快楽と、それは性交奴隷の立場に近い。
「……ッ」
 三蔵は穿ったまま、眉をひそめた。甘い糖蜜のような、砂糖のような身体だった。絞り上げられる。油断すると放ってしまいそうだった。
「あんな……にあって」
 八戒の悲しげな声は続いている。八戒は覚えているのだ、あのおぞましい触手に犯され、その様子をつぶさにニィに見られて嬲られ視姦され、それなのに感じて、最後にはニィに口を犯されかかって……。
 そんな、悲惨な目にあって、今、三蔵に抱かれて悦楽に狂っている。もう、三蔵の求めを拒むこともできずに肉欲に狂ってる。自分のことが自分でも浅ましくおぞましく感じているのだ。最底辺の娼婦以下だと思っている。
「あっあっ……さんぞ」
 三蔵は、八戒の首筋に歯を立てた。鬱血の内出血の赤い跡と、噛み跡が肌に刻印のごとく残される。
 ごり、ごりと八戒の感じやすい肉を穿つ。上のあたりを擦り上げるようにして貫いた。三蔵の一番大きなカサの部分が敏感なところを執拗に抉った。
「ああっ……ああ……あああッ」
 甘い甘い、嬌声に近い声が上がる。狂ったように淫らな肉筒が三蔵を咥えたままくねり震えた。
「あ……さんぞのが……ああッ」
 三蔵のをしゃぶったまま、腰が前後に揺れてしまう。
「あっ……あっ」
 より、イイところに当たった。もう、狂うしかない。
「いやぁッ……ああッ」
 カンジすぎて、触らなくても硬くなって震えている両胸の尖りを、三蔵は指で弄んだ。
「ここも、立ってる」
「いや……ぁ」
「こっちも……」
 舐められた。飴玉でも溶かすようにされる。
「さんぞ……! さんッ」 
 八戒の口から悲鳴があがった。貫きながら、ときおり、上半身を噛まれ、舐められる。
「あっあっ……あっ」
 自分の精液で潤滑をよくされた内部は、三蔵の先端から透明な先走りと混じり、卑猥な音を立てている。
「ああッああああッ」
 八戒はしなやかな腹部を震えさせた。下腹に張り付くほど、性器が勃ちあがり硬くなって震えている。それを三蔵が指で弾いた。
「あーッあああッあーッ」
 限界だった。腰奥から射精感が込み上げ、幹に精路に白濁液が満ちてくるのを感じる。綺麗に筋肉のついた細い身体を仰け反らせて、また身体を震わせた。
「あ、あああッ」
 精液の匂いが鼻をつく。白い栗の花のようなかおりだ。八戒が達すると、内部の三蔵もめちゃめちゃにしゃぶりつかれる。内部から揉まれるような感覚が腰奥へ走り抜けた。
「く……」
 性感をやり過ごそうとして、今度は失敗した。三蔵は快感が強烈すぎて苦痛とも受け取れるような表情に顔をしかめ、八戒の尻をまた抱えなおした。
「はっ……か」
 背筋から凄まじい快感が脳にまで繋がって白く神経を焼いた。脳にきらめくような銀色の粉が舞い、何もかも真っ白に塗りつぶしてゆく。
「ああ、ああッ」
 達したばかりの身体に、男の白濁液を注ぎ込まれる。尻をふるわせて射精された。何度も脈拍と同じ律動で噴出すそれを、より奥へ奥へと本能的な所作で咥え込まされる。
「ああ……」
 黒髪が汗で濡れ、顎が震えて整った唇がわななく。粘膜に三蔵の肉冠が擦り付けられる感触と精液でなかがいっぱいになる感覚に身体を震わせた。
「さんぞ……さんぞ」
 甘い声を聴きながら、三蔵は自分の全てを八戒に注ぎ込んだ。見下ろせば、黒髪の男は涙を流している。シーツにそれは滴ってシミをつくっていた。
「八戒」
 三蔵はいまだに繋がったまま、かがみこむと八戒の綺麗な唇に、くちづけた。

 その後も、何度も飽きることなく交わった。しまいにはその交わりは獣じみたものになった。八戒は感じやすい自分の身体を嫌悪しながらも、三蔵を拒むこともできずに甘い声を上げて抱かれ続けた。八戒は泣いていた。シーツの上に涙のシミが幾つも幾つもできた。







 「廃墟薬局(19)」に続く