廃墟薬局(11)

 元の部屋に、八戒を叩き込んだ。
「ふざけやがって。淫売めが。男なら誰でもいいのか」
 押し殺した怒号が飛ぶ。ふたつあるベッドのひとつに、八戒の身体を突き飛ばした。スプリングがきしむにぶい音が立った。柔らかいシーツの感触、しなやかな手足の長い身体が沈む。
「クソッ」
 三蔵は怒りを込めて、ベッドに押さえつけたまま黒髪の男の顎を片手でつかんだ。真正面からそのビー玉のような目を見つめる。先ほどまで、見知らぬ男相手にしどけなく妖艶に微笑んでいた唇は、もとの人形のような冷たさに戻っている。
「俺にも、さっきみたいに笑いかけてみろ。笑え」
 ガラス玉のような瞳は本当に魂の抜けた人形のようだ。三蔵は震える手で、その服へ手をかけた。禁欲的な詰め襟ごと、怒りにまかせて服を引き裂いた。ボタンが弾けて飛んだ。その下の黒いシャツを胸元までたくしあげてはだけさせ、白い肌へ唇を寄せた。綺麗に無駄のない筋肉の線がまぶしい。外気にさらされてふるふると尖ったピンク色の屹立が艶かしい。思わず誘われるように舌を這わせた。
「あ……ッ」
 甘い声が上がった。ほとんど、あの廃ビルから戻ってきてから、声ひとつ立てなかった八戒から聞く久しぶりの声だった。蕩けるような声だ。夢中で三蔵は白い肌に舌を這わせ続けた。
 あの廃ビルでも香っていた匂い。甘い匂い。媚薬が三蔵の脳髄を狂わせる。
「んっ……んっ」
 三蔵の脳裏に、触手に犯されていた八戒の姿が浮かんだ。ひどく淫猥でいやらしかった。この男は淫らに脚を広げ、人外の快楽にわなないていたのだ。このしなやかな身体をあんな化け物の好き放題にさせていたのだ。
「クソッ」
 思いっきり、抱きしめた。八戒が悪いわけではない。いや、一番哀れなのはこの男なのだ。それでも、暗い気持ちがあとからあとから湧きあがってくる。
「あ……」
 甘い 蕩けるような声。
 以前より八戒は明らかに敏感になっている。感じやすくなってる。三蔵は歯を噛み締めた。自分以外のせいで、快楽に敏感になったこの淫らな身体に嫉妬をつのらせる。舌先で、その首筋を舐めれば、狂ったような喘ぎ声が上がった。
「俺のことも誘惑してみろ。俺のことも」
 震える白い身体、八戒自身が甘い媚薬のようだ。その肌を舐め愛し、三蔵は八戒の両脚の間へ体をねじりこませた。片足を立てるようにして脚を割った。
「いやらしいやつだ。クソッ」
 しどけない脚のつけ根、奥の奥を覗き込む。興奮しはじめて頭をもたげて震えている性器や袋、それから奥の蕾……三蔵は顔を寄せ、舌先でつついた。
「ひっ」
 びくん、と八戒の身体が跳ねる。感じて思わず脚を閉じようと力がこもるのを、白い艶のある太ももを、強引に手をかけ閉じられないようにする。
「ああああっ」
 ぴちゃ、ぴちゃ、舌で溶かすようにした襞のひとつひとつを舌先でなぞられて、八戒の身体が痙攣する。ときおり、中へ舌が挿入されて粘膜を嬲るのがたまらないのか、八戒は悲鳴をあげる。
「あうっ……あああっ……あ!」
 その人形のように美しい目を閉じて、三蔵の与える責め苦から逃れようと腰をくねらす。しかし、許してなどもらえない。愛撫は執拗だった。麻痺を覚えるほど舌で蕩かされひくついてしまう。狂おしい感覚が肌を焼き、腰奥が疼いてたまらなくなった。
「ああ……ああ」
 舌っ足らずな甘い喘ぎ声が止め処なく漏れる。三蔵が舌を這わすたびに、すっかり勃ちあがってしまった前も連動して蠢いた。ぴくんぴくんと震えている。とろり、と先端から先走りの体液をにじませ、その幹までしとどに滴らせている。
 そちらに触ってやるつもりはないようだった。三蔵は執拗にみだらな肉の環を嬲った。ふっと息をふきかけてやると、びくんびくんと狂ったように痙攣する。そのくらい敏感でいやらしい媚肉だった。
「くう……ッん」
 八戒が奥歯を噛み締めるようにして声を我慢している。そろりと肉の環の中で舌を回すと、狂った声があがった。
「はッ……はああっあっあああああッあッ」
 腰が震えて、浮いてしまう。小づくりで肉の薄い可憐な尻だった。犯されるためにあるような尻だ。もう、その肉の環は、ぱくぱくと開いたり蕾んだりを繰り返して、たしなみやはじらいを忘れている。
止める間もあらばこそ、八戒はその前からしとどに自分の精液を漏らしてしまっていた。可憐な棹を白濁液が粘っこく滴る。
「後ろを舐められただけでイケたのか」
 三蔵はあまりにも甘い肉体の媚態に、舌のかわりに自分のひとさし指をあてがった。長く優美で銃を撃つのに慣れた男の指が、第一間接まで埋まった。
「八戒」
 ぐぷぐぷと三蔵の指を咥え込んだまま、肉筒が痙攣する。卑猥だった。感じすぎて、もう肉がとろけきっている。
「あ……ああ」
 上の口も下の口もぱくぱくと喘ぎ、狂っている。とろ、と再び八戒は射精した。こらえしょうのない淫らな身体だった。三蔵は指のかわりに、痛いくらいに勃ちあがってしまっている自分の欲望を肉の環へとあてがった。
「あ……ん」
 三蔵の肉の感触にすら感じるのか、八戒が目元を染めて、腰をすりつけるようにした。もっともっと欲しいとその身体が言っている。早く三蔵が欲しいと全身で言っているのが分かる。
「く……」
 三蔵は自分の硬い怒張で肉の環をくぐった、ぴったりと柔らかいが弾力のある粘膜に包まれる。思わず、八戒のたちあがって、震えている肉棒へ手を伸ばした。
「あああッ」
 後生だ、とでも言うような悲鳴が起きた。八戒はまた、自分のペニスから体液を放ってしまった。三蔵に握られたまま、その肉冠も幹も握る三蔵の指も白い淫液でまみれる。
「ドスケベが」
 三蔵が吐き捨てる。赦してなどやるつもりはなかった。前を扱いたまま、後ろの肉筒を前後に抜いたり挿れたりしてやる。間で前立腺が悲鳴をあげる。もう正気になれないくらいの性感に圧倒されている。
「ひっ」
「他の男にも、こうやってヤらせてやる気だったのか」
 執拗な口調で三蔵は責めた。他の男を誘惑していた八戒を赦せる気持ちになることなど、想像できなかった。このしどけない感じやすい身体を他の男にも喰わせてやる気だったのだ、この男は。他の男の汚らしいチンポを身体にも口にも咥えてやるつもりだったのだ。この美しい男は。怒りで三蔵は身体が焼けそうだった。目の前か真っ赤になった。
「許さねぇ」
 三蔵は吐き捨てるように呟いた。ひたすら八戒の白い身体を貪り、蹂躙した。その両脚をM字型に曲げさせ、深く深く肉棒を咥えさせて腰を揺すった。犯してやる。それしか考えていなかった。この淫らな性交奴隷め。犯してやる。どうせ、こいつはもう男のオモチャなのだ。暗い思念がとめどなく溢れて止まらない。いいところに当たると、こぷこぷと八戒の先端から精液が滲み、滴った。
「あっああっああ」
 整った唇から淫らな声が後から後から零れ落ちる。清廉で颯爽としていた八戒。そんなのは何か遠い日の幻のようだ。現実はこうして男に組み敷かれ、嬉々としてその白い尻を振り、オスをくわえ込み挿入されて犯されている。淫乱な生物。いまやこれが猪八戒だ。三蔵の知っている八戒は死んだのだ。
「ああッああッ」
 三蔵に穿たれる角度が微妙に変わって、八戒は目元をより染めて、喘いだ。全身が性感で紅に染まっている。喉を仰け反らせて甘い声を漏らしている。何度目かもわからない。尻を震わせて射精している。三蔵の均整のとれた腹筋へそれはかかり、滴り落ちた。
「あのミミズの化け物みたいのは、そんなによかったのか」
 八戒の精液で、べたべたにされながら、三蔵の目からはどこか冷静な、いや嫉妬の光が消えない。八戒は廃ビルでニィの慰みものになっていた。触手から媚薬を注入され、人である矜持も剥ぎ取られ、けだものそのものの性交を行われていた。陵辱よりもひどかった。昆虫やおぞましい蟲どもの交尾の相手、そんなものを八戒は長い時間、拷問のように受けていたのだ。
「いや……いや」
 いままで、獣のようだった喘ぎ声に、わずかに意思の見える言葉が混じった。
「いやじゃねぇだろ。俺が行ったとき」
 三蔵の表情に苦悩のかげりがにじんだ。
「……てめぇ、尻ふってすげぇ……カンジてただろうが」
 惨めさを性的な快楽ですり替えてごまかすような淫靡な慰め。八戒は触手に犯され、最後はそんな状態になってしまっていた。しかも半ば狂ってしまっていたので、最後は三蔵に抱かれていると、思い込んだ。幻覚に必死でとりすがっていた。そうでなければ、舌を噛み切って死んでいたかもしれない。
 しかし、そんなことは三蔵には分からない。
 艶かしい、白い腕が三蔵の背へ回される。全身で欲しいと求められる。腰を尻を突き出して、三蔵を全身で受け入れている。
「ああッ」
 甘い嬌声を聞きながら、三蔵は何度も、何度もその白い身体を蹂躙し、八戒の奥底へ精液をほとばらせて叩き込んだ。ひどく甘くて糖蜜のような身体だった。






 「廃墟薬局(12)」に続く