闇夜の月(14)


 八戒は宿までもう自分がどうやって帰ったのかもわからないほどだった。三蔵に抱かれた肩のあたりが甘くしびれている。現実感がなかった。足元がふわふわしていた。
 

 宿の部屋にふたりで戻ってからも、その陶然とした気分は続いていた。木の床がきしみなんとなくお互いを意識してしまう。
「三蔵。次、シャワー僕でいいですか」
「ああ」
 濡れた金の髪をタオルでぬぐいながら、浴室のドアから三蔵が現れたときも、いつもどおりに感じられた。
「あはは。まだ濡れてますよ。これも使ってください」
「ああ」
 ふかふかした白くぶあついタオルを手渡しながら八戒は微笑んだ。
――――先ほど路地裏で告白されたのは自分ひとりが見た白昼夢だったのではないか。そう八戒は思い始めていた。
 
「……明日、出発するんですもんね。もう電気、消しましょうか」
 三蔵はいつもと違って新聞を読む気配もない。ちょうどタオルで髪を拭き終わったとみえ、ベッドに腰かけていた。簡易な夜着に着がえた姿もさすがに美しいが、なんとなくいつもよりも静かだった。
「八戒」
 声の抑揚がいつもとは違っていた。何かを秘めた様子だ。金色の美しい猫科の獣。そんなしぐさで三蔵が腕を伸ばす。こっちへこいというしぐさだ。
「な、なんですか三蔵ったら」
 呼ばれて警戒もなく近づいた。シャワーを浴びた黒髪からシャンプーの芳香が涼しげに香る。
「ん」
 パジャマのえりを手でつかまれた。そして。
「さん……」
 そのままくちづけられた。あごをとらえられて、唇を重ねられる。三蔵とあわせた肌、胸の鼓動がたちまちはねあがった。
「ふ……」
 目元が赤くなってしまう。恥ずかしかった。
「こんな気持ちになったのはじめてだ。どうしたらいいか分かんねぇ」
 熱い口調だった。静かなのに押し殺した激情を感じる。
「八戒」
 そのまま背に腕をまわされ、きつく抱きしめられた。白い夜着ごしに三蔵の肌の匂いがする。石けんの匂いとひどく性的な……匂い。快楽中枢に絡みついてくる妖しい匂いだ。
「さ、三蔵。待ってください」
 思わず腕でさえぎった。三蔵との身体の間に距離をつくろうとあがく。
「なんだ」
 喉をならすような声。不服そうな口調だ。
「わ、笑いませんか」
 紫暗の瞳に、まっすぐ射抜くように見すえられた。視線で先を言うようにうながされた。
「……なんだか怖いんです僕」
 八戒は弱音を吐いていた。三蔵の欲望を感じながらも応えられる自信がなかった。
「もう、この手には誰も抱けません。血に塗れてますから。僕は罪人です。貴方は猪悟能は死んだって言って許してくれた。でも僕はもう」
 性的なことには拒否感があった。悲しみと辛い思い出を引き起こすのだ。花喃の存在はそれほど大きかった。
 そんな八戒の血がにじむような告白へ、最高僧が返したのは驚くような言葉だった。
「お前はもう抱かなくていいだろうが一生」
「さ、さんぞ? 」
 薄緑色のパジャマの一番上のボタンをいらだったような指ではずされた。
「抱かれてりゃいい俺に」
 そのまま軽く、くちづけられる。触れるか触れないかというようなキスだ。
「だから問題ない」
「さ、さんぞ、そういう問題じゃ」
「そういう問題だろうが」
 額に、頬に、唇に、くちづけが落ちた。
 あまりの甘い行為に理性も脳も麻痺してくる。2つめ3つめとボタンがはずされる。
「もう俺は余裕ねぇ」
 真剣な口調で耳に注がれる。
「お前のせいだからな」
 甘美な呪縛だ。麻薬にも似た蜘蛛の糸のような言葉。もう八戒は抵抗することができなくなった。
 

 抱きしめられて艶のある黒髪が揺れる。
――――全身から力が抜けた。



「あ……」
 三蔵を押しのけようとしても、どうしても腕から力が抜けてしまう。もつれるようにしてベッドで絡みあう。白い清潔なシーツにたちまちしわが寄った。そのまま八戒は三蔵の手で押したおされた。
「いけま……せ」
 無意識に制止の声を漏らす。そんな八戒をなだめるようにくちづけの雨が降った。三蔵の手がパジャマを脱がせてゆく。下穿きすら下着ごと剥ぎとられた。
「あ……っ」
 大また開きにされた。しなやかで長い脚がすんなりとした線を描く。三蔵は閉じられないように自分の身体を八戒の間に割りこませると、強引に脚を開かせた。
「やめ……」
 丸見えだった。性器も窪みもなにもかも……。
「あっああっ」
 頭が煮えたようになって、もう何も考えられない。
「だめ、で……す」
 必死になって制止の言葉を呟くが、どこかで三蔵の行為を受けいれてしまっている。
「この間シャワー浴びてんのを俺に見せつけただろうが」
 耳元へささやかれた。
「俺のことを誘いやがったくせに」
「違います……そんなこと」
 しゃべろうとすると歯が鳴った。緊張している。ガチガチに緊張してふるえる身体。三蔵がなだめるようにキスを落としてゆく。
「いやか」
 その低音の声は卑怯だった。八戒から抵抗を奪う魔法の音律を備えていた。
「あ……」
 ぶる、と生理的なおののきが肌に走る。足のつけ根へくちづけられて、思わず喘いだ。
「く……」
 白い肌が三蔵の愛撫でほの紅く染まってゆく。くた、とおびえるように頭を下げていた屹立が、いつの間にか頭をもたげはじめ、先端からつらつらと汁をこぼし始めている。
「八戒」
 三蔵の声には喜悦の響きがあった。初心な八戒。初々しい肉体だったが確かに愛撫に反応しだしている。
「あ、ああっ」
 女を抱いたかどうかは知らないが、少なくとも男に抱かれたことは絶対にない反応だった。それどころかこうして自分が客体となって他人に性器をいじられることにも慣れていないにちがいない。
「がまんできねぇ。一回、抜いていいか」
「ぃっ……! 」
 三蔵に身体を重ねられる。こんなに秀麗な容姿の三蔵がこんな欲望を持っているなんて驚きだった。八戒は信じられないとでもいうように、その深い緑色の瞳を見ひらいた。
「あぅ……」
 三蔵は自分の欲望の徴と八戒の屹立を片手で同時に握りこんだ。ぬる、と先走りのとろみのある汁で指がすべる。
「ひぅっ……」
 八戒が仰け反った。裏筋と裏筋、亀頭と亀頭がくっつくねっとりした淫らな感覚に狂いそうになった。もう頭は真っ白になって何も考えられない。
「あ……」
「クソ、すげぇイイ」
 三蔵がうなるように呟く。獣の表情がその美貌によぎる。八戒と性器と性器をくっつけているだけで眩暈がしてくるほど気持ちがよかった。
「あ……」
 羞恥からか思わず腰を引きそうになった八戒を押さえつける。
「くぅっ」
 腰を引いたのは逆効果だった。三蔵の手の中で八戒のと三蔵のがぐちゃぐちゃと粘質な音を立てて鳴った。
「はぁっはあっ」
 上体をふるわせて、喘いだ。腰奥にまでしびれるような性感が伝わり神経が蕩けそうになる。
「あっ……さんぞ」
 ひどくなまめかしい。八戒が性的に感じている顔を見下ろしていた三蔵だったが、たまらなくなったらしい。八戒と自分の性器を片手で握りこんだまま腰を前後に振る。
「くぁっ……」
 ベッドの上で八戒が仰け反った。ぐちゅぐちゅと亀頭と亀頭がこすれあい尿道口がキスしあう。
「熱い……さんぞ……の」
 甘く蕩けた口調。瞳を潤ませ吐息まじりに呟く。悩ましい声だ。
「お前のココ……すげぇ……べたべただ……」
 透明な先走りの体液でぬめぬめしている。こぷ、と八戒の可憐な鈴口に似た尿道口から真珠の珠のごとくあふれてくる。
 感じているのだ。
 八戒の口からは抑えきれない声がもれる。甘く語尾がかすれて、部屋の空気を淫らに染めてゆく。
「八戒……」
 三蔵の声がうわずった。
「お前……腰、動いてる……ぞ」
「さん……ぞ」
 八戒の内股がぴんと張った。四肢がこわばる。弛緩と収縮をくりかえし、ひたすら高みへと昇ってゆく。
「だめ、も……さん……ぞ」
 わななくしどけない肉体を三蔵はきつく抱きしめた。
「……八戒」
「あ、ああっああっあ……あ」
 三蔵の性器と一緒にしごかれて、八戒は達した。白い体液が勢いよく胸元まで飛ぶ。
「最近してねぇのか」
 三蔵も欲望を吐き出したらしい。大量の白濁汁が幹を濡らして、傷跡のある八戒の腹あたりに次々とこぼれて落ちてゆく。
 優しくキスをされる。頬へ、額へ、甘い接吻の音が立つ。
「や……」
 三蔵は白い体液に塗れた自分のそれで、八戒の下腹部に滴っている精液を、より下へ下へと塗りこめている。
「あ、あ」
 三蔵の亀頭が脚の付け根にあたる感触に、八戒が眉根を寄せる。甘やかだった。淫らに身体が蕩けてしまいそうだ。ひそかに背筋を震わせた。
 しかし、
「だめです! 」
 強い声が出た。
「いやか」
 三蔵がなだめるように耳元でささやいた。
「こん……な」
 尻のはざま。恥ずかしい窪みに三蔵の視線が這っている。八戒は羞恥で顔が真っ赤だ。
「痛くねぇようにする」
 三蔵の怒張の先端が八戒の後ろの孔を突く。まるでいれてくれとねだっているようだ。
「だめです……そんなところ」
 八戒の四肢がこわばった。快楽のためというよりも緊張のためだろう。先ほどまでお互いを自慰しあうような行為で、とろとろに蕩けていた意識が再びはっきりしてきたらしい。
「汚い……ですから。やめてください」
 知識としては承知していた。しかしそれが自分の身にふりかかってくるとは思ってもみなかったようだ。
「やめて……ください。そんなところ……見ないで」
 お互いの性器をくっつけてしごきあう。そんな淫らな行為に溺れていたくせに、八戒は自分の窄みを三蔵に注視されると身をよじった。
「いやです。本当にいやです三蔵」
 緊張のあまり身体から熱も冷めてきたのかもしれない。舌たらずな調子だった八戒の言葉は、だんだんとはっきりした拒否になってきた。
「さん……」
 三蔵は自分の怒張を八戒のはざまに擦りつけたまま腰をつかった。
「!」
 八戒が思わず目を閉じる。ぬめった白濁液が尻の狭間に滴っていた。それを三蔵の亀頭でなめまわすようにされると、ひどく気持ちがよかった。尻肉が震えてしまう。
「あ……」
 白く淫らな快楽に脳を焼かれてしまった。三蔵は八戒の唇が甘い吐息をつむぎだすのを見て、その前をやんわりと握りこんだ。
「っふぅ」
 快楽の徴を握られて八戒が真っ赤になった。八戒は初心だった。三蔵に触られるのが恥ずかしいらしい。
「八戒」
 そのまま三蔵は自分の上体を倒した。黒髪が白いシーツの上でばさばさと打ち振られる。どうしたらいいかわからないらしい。快楽と恐れで恐慌をきたしている裸身を三蔵は抱きしめ、そのまま肌へ舌を走らせる。
「う……」
 狭間に三蔵の怒張が息づいているのを感じて八戒がうめいた。擦りあげられて達しそうになると三蔵は身体を倒して、胸や乳首を舌ではじくようにもてあそぶ。八戒の注意が逸れると腰を進めて深くすりつけるようにした。
「あ……」
 三蔵自身からも透明な先走りの液体が大量ににじみだしてきた。八戒の後ろの孔を借りて自慰をするような淫靡な行為だ。興奮しているのだろう。
「八戒」
 紫色の瞳が欲情をたたえて八戒を見下ろしている。
「あぅ」
 腰を回すようにされた。ほんの先端だけナカに突きいれられている。そこを軸にするようにして、淫らにそっとえぐられた。
「や……さんぞ」
 こぷ、と八戒の屹立に新たな白濁液が湧く。また達してしまったのだ。こんな行為はずいぶん長い間していなかった。
「く……」
 今度は三蔵が顔をゆがめる番だった。八戒の慎ましい窄みは三蔵のほんの先端をくわえたまま、きゅう、きゅう、と収縮してふるえた。悩ましい孔だ。
「あっあっあっ」
 一度、官能の扉を開かれてしまえばもうこらえ性などというものはなかった。とろとろに肉体がとろけて、三蔵の欲望のままに身体をひらいて犯されてしまう。
 つぷ……つぷ。そっと三蔵は八戒が痛くないように先端だけ埋めた。八戒がナカを埋められてくるのを意識してしまって顔を緊張でゆがめると、なだめるように前で硬くなっている屹立をしごいた。
「イッて……ます……だ……め」
 精液を垂れ流して達したばかりのそれは、三蔵の手でしごかれるとびりびりした感覚を腰奥に伝えてきた。過敏になりすぎてもうくすぐったいくらいになっている。許しをこうような悲鳴があがった。もうなにを自分が口走っているのかもわかってないに違いない。なまめかしかった。
「く……」
 三蔵が唇を噛み締めた。亀頭の半分くらいを通すことにはなんとか成功したが、とてもカリ首まで腰を進められなかった。
「あ、さんぞ……さんぞ」
 あまりにも性急に穿てば、慣れない八戒は苦しむだろう。そのくせひどく敏感で感じやすい。淫らで甘い肌をしている。素質十分だ。
「さんぞ……ああっ」
 三蔵が上体を傾けて、そのしどけない肌にキスの雨を降らせた。くぷ、三蔵を小さい口をあけてのみこんだまま、後ろの孔はひくひくと痙攣している。腰を回すように……ねじでもまわすようにして挿入されそうになっていた。
「ひっ……! 」
 乳首を指でつままれ性器をしごかれて、尻から緊張がとけた。性的に感じて蕩けてきた。
「八戒」
 優しく抱きしめるようにして三蔵は腰を突きだした。八戒の尻を抱えるとそのまま挿入した。
「いや……いやで」
 一番、太いカリ首まで飲みこませたところで、緑色の瞳から涙があふれて頬を伝った。
「……っ」
 三蔵も息をつめた。媚肉はものすごく狭かった。
「動けねぇ」
 うなるように呟き、眉根を寄せて奥歯を噛みしめる。
「動かないで……ください。おねが……です。さん……」
 悲痛な声が敷きこんだ八戒の唇から漏れる。明らかに恐慌状態だった。初めてのことに軽いパニックを起こしているのだろう。
「クソ……」
 きゅうきゅうに締め上げられて動けない。しかもこの締め上げてくるのは快楽のためではない。恐怖のためだ。まだ男に抱かれるのに慣れてなくて怖いのだ。
「かわいいな」
 思わずという調子で最高僧はつぶやいた。白い初雪のような初々しさが、この黒髪の従者にはあった。心では三蔵を受けいれたい。しかし肉体は初めての行為にふるえている。
「すげぇかわいい。お前」
 八戒が痛がるのもかまわず、その腰を振って思うさま穿ってよがらせたくなった。思い切り犯してしまいたい。この白い肉体をかまわずぐちゃぐちゃに穿って、男の体液を注ぎこみ汚して汚して悲鳴をあげさせてやりたい。かわいさあまってなんとやらだった。瞬間、衝動的な嗜虐性に身を焼かれそうになる。凶暴な欲望が突きあげてくるのを三蔵はなんとか思いとどまった。
「わかった。もう俺も」
 三蔵は唇を噛み締めた。うまく動けなかった。八戒が長い腕や脚を絡ませてくる。怖いのだろう。しがみついてくる。
「すいません。さんぞ……僕が……」
 いつの間にか八戒は無意識に詫びの言葉を口にしていた。三蔵の欲望を遂げさせてやれないのをふがいなく感じているらしい。
「馬鹿」
 三蔵は呟くと、また身体を倒して今度は唇へくちづけた。交合が浅いので油断すると抜けそうになる。そっと腰を奥へ押しつけながら唇を重ねると、ひくつく粘膜が恐慌をきたしてぴくぴくと震えた。
「八戒」
 浅い浅い狭間で、八戒の孔で抜き差しする。
「ぅ……くぅ……ぅ」
 八戒は涙を浮かべて奥歯を噛み締めている。慣れない肌が震えて痙攣している。粘膜の締め付けが凄すぎて、そんなに上下させなくても簡単にイケそうだった。
「八戒」
 身体の下で乱れる八戒を見ているだけで十分だった。三蔵は自分の欲望を吐きだした。
「あ……! 」
 ぴくん、と八戒の身体がふるえる。孔の入り口に熱い液体がしたたる感触が走った。くぷ、と三蔵のが抜かれる。ほんの先端しか入っていなかったが、抜かれると未経験だった粘膜のいりぐち……孔は三蔵の抜いた性器の形にだらしなく口を開いていた。少しは慣らされたらしい。
「あ、ああ」
 とろり、と白濁液が尻の後ろの方まで伝わる熱い感触に八戒が悶絶する。
「八戒」
 三蔵が優しい腕で抱きしめてくるのを、八戒はしがみつくようにして抱きしめ返した。必死だった。
 そのまま黒髪を揺らして、三蔵の腕の中で八戒は気絶するように意識を失った。相当、緊張していたのだろう。



 翌朝。

 白い朝日が部屋に射しこみ照らす。白いシーツはしわだらけで良く見れば恥ずかしいシミだらけだ。精液の生臭い香りが濃い。昨夜の行為の残滓がそこかしこに残っている。生々しくて恥ずかしい。ふたりで吐きだした体液の匂いで部屋はいっぱいだった。
「す、すいません三蔵」
 八戒はいつまでも三蔵に詫びていた。昨日の自分の行状が恥ずかしかった。
「……本当に 『抱かれる』 のは初めてだったんだな」
「う……」
 明るい朝日の下でかわされる会話ではなかった。こんなに未熟では三蔵に愛想をつかされてしまったに違いない。不首尾というやつだ。役に立っていない。八戒はそう思って、目を閉じた。情けなかった。
「八戒」
「本当にすいません。呆れたでしょう僕がこんな……」
 ベッドの上で固まって謝罪の言葉を何故か天然ボケにもつぶやいている。そんなかわいい従者を最高僧さまは抱きしめた。
「……すげぇ良かった」
 カフスのはまった耳元へささやく。
「!」
「これから毎日シてぇ」
「さ、さんぞ」
 八戒は真っ赤になった。その首の付け根にうっすらと数珠のごとく連なる紅い跡があった。我を忘れて喘いでいるとき三蔵に噛まれたのだ。
「ふるえてるお前かわいかった」
 男なのにかわいいと告げられて、八戒が青ざめる。
「え……」
 ささやかれる言葉の数々が片っ端から恥ずかしかった。そっと唇を重ねられた。大好きだ、と小声で告げられる。
「すごく……敏感だな、お前」
 舌先で唇をなぞられた。朝だというのに淫らなキスだ。
「さんっ……」
 口をふさがれる。

 敏感すぎるのでそう簡単に男を受けいれられないのだ。時間がかかる。毎日、三蔵に狭間を突きいれられ、少しずつ慣らされて抱かれてしまえばそのうち……とろとろにされてしまうに違いない。この好青年は変質し、おそらく自分から脚を開いて尻をあげて孔をひくつかせ、三蔵を欲しがるに違いない。

「好きだ八戒」
 麗しい八戒の大切な最高僧さまが蕩けるような口調で、従者へささやく。
「だからこれから毎日、抱いていいな」
「う……」
「返事は」
 もうダメとはいえなかった。きれいな紫色の瞳に見つめられる。これは惚れた弱みだった。
「お前と一緒にいたい。もう離さねぇ」
「三蔵」
 寝乱れたシーツの上でふたりは幸福そうに抱きしめあった。








 「闇夜の月(15)」に続く