慶雲院の三蔵

「もう楼へはこないでください」 ってのはなんだ。
 てめぇこの野郎。こんなヤリ部屋みたいなところへこの俺を連れ込みやがって。布団と行灯くらいしかないじゃねぇか。ここはなんだ。

 裏茶屋? なんでこんな茶屋、知ってやがる。さてはあのムカデ野郎以外とも寝てるんだな。言え、誰とだ。ブッ殺す。

 そうだ、知ってるぞ。
 てめぇ、あの気色の悪いムカデ野郎の囲いものになってるって噂じゃねぇか。

 吉原5丁町中この噂でもちきりだ。どういうことだ。大門の外で八丁堀までうれしそうに噂してやがった。なにしろ、女郎を売ってる大店の楼主がうつつを抜かすくらいだから相当アレがイイんだろうって、鼻の下伸ばして言ってたぞお前のことを。

 ヤってみたいってみんな言ってる。よかったな。てめぇが袖を引けばこの吉原の往来を、助六きどって歩いている助平どもが片っ端からひっかかることだろうよ。もう幇間なんざシケた商売しなくたって、そのゆるい股さえ開けば花魁並みの金が転がりこむってこった。
 クソ……この俺を裏切りやがってそんな野郎と寝やがってどういうつもりだ、こいつ殺してやるぞ。この俺のことを馬鹿にしてんのか。

 チッ……。
 もっと脚を開け、検分してやる。連日ヤられてんだな。毎晩犯されてんのかソイツに。クソいまいましい本当に汚ねぇ。
 てめぇ、本当に薄汚ねぇ女郎以下だなメス犬以下だ。ひくひくしやがって。もう蕩けてんじゃねぇのか。言え、どんな体位でヤられた。今夜は全部そいつにヤラれた体位でヤってやる。うれしいだろうが。言え。
「僕の話も聞いてください」 だと? 淫売の話なんざ、聞く必要なんかねぇな。こんなところへ俺を連れ込みやがって。てめぇも内心、期待してんだろうが。
 ご期待に応えてやる。この俺がな。
 口を開け、そうだ、舌を出してなめろ。じゃねぇと喉までブチ込むぞ。そうだ。きちんと咥えろ……ヘタクソ。なんだそりゃ、歯ァ立てるんじゃねぇよ。
 ……そうだ。裏筋に、そこの襞に舌を這わせろ。丁寧にしゃぶれ。そうだ。そう……っ……イイ。舌先でなぞられるのも……気持ちいい。ッ……そうだ、全部咥えろ。吸え、もっと強く吸え。
 は……出すぞ。いいなちゃんと飲めよ。ほら……ッ。く……そうだ、全部吸い出せ。そうだ上手くなったじゃねぇか。飲んだら礼くらい言え。美味かったか。
……あのムカデ野郎のとどっちが美味かった。答えろ。とぼけてんじゃねぇ、ひくひくしてるぞてめぇの。性悪なケツだなふるえてやがる。口から男の精液飲まされて興奮してんのか。このインランが。
……舐めてやる。もっと足開け。すげぇ、勃ってるな。ここ、カリのとこが……舌先と、舌全体でしゃぶられるのと……どっちがいい。こんなにふるえて、後ろの口がぱくぱくしてんのが見える。ひくひく痙攣して柔らかくなってきたな。
 触らないでって、嘘ついてんじゃねぇよすげぇ気持ちよさそうじゃねぇか。もう欲しいんだろうが。もっとヤって欲しいんだろうが。ヤって欲しいなら言え。その口で言ってみろ。
……なんだそんな声じゃ聞こえねぇな。もっとでけぇ声で言え。俺の何をどこに挿れて欲しい。
しがみつくな、動けねぇだろうが。ここ? ここってのはどこだ。腰、すりつけてくるんじゃねぇよ。いやらしいやつだ。挿れて欲しい? 泣くほど俺が欲しいのか。スケベが。言ってみろ自分で、自分のされたいことを。この淫乱が。 
……ぱくぱくしてんじゃねぇかここが。ほら、呑み込んでくぞ。すげぇ。締まる。食いちぎられそうだ。

 なんだ? 誰か来たな。足音が

……おい、いきなり襖を開けるんじゃねぇよ。お邪魔いたします旦那って……なんだと。
 は、時間か。もうそんな時間か。おい、茶屋のヤツが来たぞもう時間切れだそうだ。
 何? 延長しますか? だと? 
……どうする。八戒、お前から言え。もうやめていいのか。もうやめてぇのか。俺のを抜いていいのか。言え。早く言え。店のヤツが返事を待ってるだろうが。抜いてもいいぞ。ほら……ん。
 ギリギリまで抜くと……抜くときがいいのか、すげえ締め付けだ。きゅうきゅうして腰が動いてる。欲しい欲しいってココが言ってやがる……言わないなら抜くぞいいのか。
 聞こえねぇな。もっとでかい声で言え。そこの内儀にも聞こえるようにな。俺に何をして欲しい。どうされたい。

…………。

 クックックッ。……分かった。

 分かった。ホラ。内儀、アンタも聞いたなその耳で、このイヤラシイヤツの言葉を。俺の身体の下で腰をくねらせながら抜かないで、ずっとハメてて一晩抱いていて欲しいって言いやがった。
 しょうがねぇ延長だ。金なら後で払う。一晩この部屋を貸切る、いいな……もう入ってくんじゃねぇ。

 ひでぇところだな。裏茶屋ってのは。客がヤってんのをのぞきみしてきやがる。
 フン、まぁ、客に払わせる茶屋の手だろうな。てめぇ、バカか。半時で済むわけねぇだろうが。

 しかし…………本当に言うとは思わなかった。
 分かった。そんなに俺としたいのか。そんなにしたいなら抱いてやる。泣くんじゃねぇ。言って後悔してんのか。このバカが。今更なんだ。女郎以下の存在だろうが、てめぇなんざ。あんなムカデの囲いものになんざなりやがって本当に許さねぇ。
 あんな野郎には渡さねぇ絶対に許さないからな。

 俺の寺に来い。
 「はい」 って言え。他の返事は許さない。

……なんだ。できないだと? どうして俺のところにこれないんだ。てめぇ。俺のことをなんだと思ってんだ。ふざけんな、本当にぶっ殺すぞ。
 なんだと。坊主の俺が女郎を買ってたことがご公儀にバレたら大事だって? 何言ってやがる。俺は女郎なんざ買ったことなんかねぇよ。
 何? 花魁を指名しただろうって? 馬鹿言ってんじゃねぇ。俺は吉原に行ったのは、てめぇの案内がはじめてだし、お前以外の人間なんざ 「指名」 してねぇよ。
 何? 床廻しと楼主がそう言ってる? 花魁が俺のことを知ってるって? 知らねぇ。俺はそんな女郎とは口も利いてねぇよ。フン、床廻しの言ってるのはカン違いだろうが、楼主のは……てめぇを嵌めようとして言ってるに違いねぇ。
 騙されてんだ、てめぇは。……そうやって、脅されたのか。俺とのことをバラされたくなかったら、囲いものになれって言われたのか。脅されて犯されたのか。
 クソあのムカデ野郎。とことん性根が腐ってやがる。なんだっててめえ、そんなのを真に受けてんだ。あんなヤツの言うことを信じやがって。……なんだって? 俺のことが心配だから? ……俺のためだから、俺を守るために仕方なかっただと? 馬鹿。
 それじゃいいな。そいつは誤解だ。てめぇはあのムカデに嵌められたんだ。だからもうあんなけったくその悪い楼に戻るんじゃねぇぞ。ついでに今まで住んでた長屋もこの機会に引き払え。

 命令だ。俺と一緒に慶雲院に来い。

 お前のための部屋くらい用意してやる。俺と一緒に住め。いいな。男どもに簡単に騙されやがって、見張ってないと心配でしょうがねぇ、全く世話の焼ける野郎だ。
 いいな。返事は。聞こえねぇな。ちゃんとうなずけ。
……そうだ。お前は俺と一緒にいればいいんだ。そうだ。分かったな。ようやくわかったのか。

 そうだ。この茶屋を出たら、もうそのままその足で俺と慶雲院へ帰るぞ。いいな。もう、俺とこの後はずっと一緒だ。

……八戒。

 もう、放さない。いいな、もう二度と放さないからな。



 了