札差ふださしの烏哭


日本橋の札差、烏哭屋の主人。

 チントンシャン。チントンシャン。いやぁ、上手な三味だよねェ。いつもながらお見事さん。
 ああ、いいんだってば。今日はね、大阪からお客さんを連れてきたんだよ。こちらはヘイゼル司教さん。バテレンさんだよ。うんそうお江戸ははじめてだってさ。新鮮な江戸前のご馳走、たくさん持ってきてね。今時分の旬はアサリにハマグリ、そうそう貝が美味しいんだよね。
 へぇ、おおきに、っていいってヘイゼル、気なんか使わないでよ。西からはるばるいらっしゃい。ささ、もっと飲みなよ天使ちゃん。
 そういや、最近、あの太鼓持ちいないねェ。ああ、ごめんヘイゼル、こっちのことなんだけどね。引き手茶屋の桔梗屋さんは、あの太鼓持ちとツテがあるから利用してたっていうのにさぁ。なんかこれじゃぁ意味がないよねぇ。
 え? 太鼓持ちなんざ、どうでもいいだろうがって。雀呂クン、いやぁそりゃ違うよねぇ。
 ていうか、ボクにとっては、花魁の方がどうでもいいんだよね。
あっ、ごめんごめん。ごめんね。いやぁ、ボク、吉原遊びする人間として、言っちゃいけないこと言ったよ。でもさぁ、なんかこう、最近、興ざめなんだよね。
いやぁ、そりゃさあ、こんな金銀で描かれた襖の、掛け軸も行灯も麗しい部屋で花魁を待たせてもらっちゃいるけどさぁ。
 なんていうの、そりゃさ、呼び出しの、道中を張ろうなんていう花魁なら、そりゃねお高いよ。一見の客なんか見向きもしない。三回会ってやっと祝言みたいな席を設けて抱けるって寸法だよね。分かるよ。でもね、なんかね。

 そういうのって醒めるんだよね。

 なんだろう。なんでだろうね。いやぁ、こんなつむじ曲がり、ボクだけだとは思うんだけどさぁ。

 いやぁ、ボクが日本橋の札差でなかったら、金持ってなかったら、どうなのかな。そういうのが透けて見えるこの吉原ってホント興ざめだよね。

 虚しいよ。
 
 それよりはさ、純粋に、あの太鼓持ちの若い綺麗な男の子。八戒って言ったっけ。あのコの方が気になるよねぇ。あの白いえりあしのあたりとか見てるとぞくぞくする。そそるったらないよね。あの細い腰を捕まえてさ、ギタギタに抱きつぶしてやりたいよ。
 そうそう、あの細い腰。あの肌の綺麗なことったら。汚してやりたくなる。でも最近みないねぇ。
 この店に行くとさ。太鼓もちのあのコを連れてくると、ここの楼主が内所から出てくるんだよね。ムカデが巣から出てくるみたいにさ。そして、じぃっと、八戒ちゃんのことをひたすら見つめてる。
 アレさぁヤバイよね。露骨だよね。気持ちは分かるけどさぁ。不気味だよ。もう、顔に 「抱きたい」 って貼り付けてるような表情してさ。なんていうの。アレ、八戒ちゃんにだって分かられちゃってるよねェ。

 え?

 え、なんなの。それェ。最近面白い話があるの? いやぁそれ早く教えてよ。
 もうね。実はボクここだけの話、あんまり女に興味ないんだよね。なんだろ飽きたよね。飽きた飽きたよ。それより、そう、その太鼓持ちの八戒ちゃんの醜聞って何よ……気になるなぁ。
 ホラ、紙花だよ。とっておきなよ。それとも現金の方がイイ? 野暮だってんで、あまり吉原では現金は持ち歩かないんだけど……しょうがないなァ、ホラァあったよ三分金、受け取りなよ。
 え、ああそう。慶雲院の三蔵サマがご執心なの。よくやるよね。坊主なんざ、おとなしく専用の陰間茶屋にでも行きゃいいのに。なんかの拍子に宴席に呼ばれて、八戒ちゃんのことを見初めたんだろうね。ったく、坊主のくせにサカっちゃってしょうがないな。そう、そうなの、三日と空けずにこの店にくるんだ。
 へぇ、高尾を表向きの敵娼にしてね。クックックッ。高尾花魁も衆道の逢引のダシにされてるとは、いいツラの皮だよねェ。この五丁町一の呼び出しの花魁で、花魁道中ではひとめ見ようと押すな押すなの大騒ぎ、その名も高き高尾花魁をコケにするとはね。いやぁ痛快だよね。
 わかる、わかるよ。後はなんやかや言いぬけて、ホラ、その辺の廻し部屋にでも忍び込んで、八戒ちゃんを闇で抱きまくってるんだろ、その坊主。ったく、おあついことで。いやでもそれスリルがあるよねェ。羨ましい。
 え、何、今夜八戒ちゃんココに来てるの。この店に? へぇ、じゃあ、そのお相手の坊主もいるの? いない? ムカデの楼主の部屋にいる? え、なにそれいったいどういうこと。おいおい、そりゃ聞き捨てならないねェ。どうなってるのそれ。ああ……そうだ、いいこと思いついた。
 ホラ、もう三分金、出すよ。だからボクのお願い、聞いてくれるよね。もう、最近、退屈でしょうがないからさァ。
 あ、悪い、悪いケド、ヘイゼル、今日はボクはここで失礼するよ。
 そう……ちょっとね。あ、ガトも席を立つ必要ないよ。今日はゆっくりしていって。ふたりのことはもうお店にお願いしてるんだからね。じゃあね。

 ちょっと他の部屋に行くよ野暮用ができてね。




 そういえばこの部屋、使ったことないな。いっつも二階だったからねェ。へえ、一階にもいい部屋があるんじゃない。つやつやした羅漢槙が植わって、庭の桜が近くに見えて……そうそう、今日は吉原の大通り、仲之町にも桜が並んで花の吉原だもんね。
 おっと、こりゃ突然、襖が開くもんだから、驚いたなぁ。
 これはこれは。……ようこそ。
 こんばんは。いよっごぶさた八戒ちゃん。相変わらず、美人だね。
……しかしすごい格好だねェ。なにそのはだけた着物、身八つ口も引き裂かれちゃって。帯とかもないじゃない。ああそうか、手、帯で縛られちゃってるんだ。ナニ、ひょっとしてキミ、ボクより先に味見した? してない。え、じゃこんな格好でこのコ楼主の部屋の前でぼんやりしてたの。
清一色のところから、ははぁ、逃げ出してきたんだ?
 困ったな。清一色のヤツ、こりゃ必死で探してるかもね。
 ちょうどいい、手首縛られてんなら、そのままこの紐で欄間に通して吊るしてよ。その方が逃げられないし、お話もよくできるだろうしね。そうそう、それでいいよ。
 相変わらず、綺麗な顔してるよねェ。こう、ボクの指で挟めちゃうくらい、顎も細いしさぁ。でも男疲れっての。そんなのが表情に出てるよ。いやぁ、そこいらの花魁も裸足で逃げ出す色っぽさだよね。ほら、ここの腰のあたりとかさ。はは、そう逃げようとしなくったっていいじゃない。
 相変わらず太鼓持ちなんかさせとくにゃ惜しい、艶のある黒髪だね。最近は男たちにろくろく寝させてもらってないだろうに、頬なんかもツヤツヤしちゃっていやらしいねェ。
 八戒ちゃん。ボクのこと覚えてる?
 あっはっは。そうそう。それそれ。『お大尽の烏哭様』 何度か、ボクの宴席に出て三味や太鼓を聴かせてくれたことあったよね……日本橋の札差……そう両替商の烏哭だよん。にーたんって呼んでね。
 最近、キミが宴席に来てくれないから、こちらからお呼びたてしちゃった。手荒なことをしてごめんねェ。
 でも、どうしたの、その格好。
――――今日は大切なキミの三蔵サマはいないんだろう? 誰にヤられてるの。
 ク、クク。分からないなぁ。人の色事に口出しするのは趣味じゃないけど、ホラ京町の裏通りにたくさんある、裏茶屋にでも部屋をとればいいだけの話じゃない。そこで逢えば、男だろうと女だろうと、情事になんの差し障りもないよね。
 ははぁ、分かったよ。あのムカデみたいな楼主に嗅ぎつかれちゃったんだ。運が悪かったよねぇ。
 あ、そうだね、もうキミは下がっていいよ。八戒ちゃん連れてきてくれてありがと、ホラ、もう一分金とっておきなよ……でも今夜のことは楼主にも他言無用だよ。いいね。
 ああ、もちろん花魁のトコなんてボクはもう行かないよ。こんなに素敵なオモチャが手に入ったんだもんね。花魁にはうまく言っておいてよ 「札差の烏哭は持病の癪(しゃく)が」 って。クックックッ……。
 
 さて、やっとふたりきりになれたね、八戒ちゃん。

 欄間から、吊るされたキミも扇情的で素敵だねェ八戒ちゃん。おやおや、『変態さんですか』 って、あははは、まだ、そんな憎まれ口が利けるんだ。こりゃ褒め言葉に受けとっておくよ。
 ホラ、そんな口を利いていいのかな。キミったら帯もしてないし、……下も履いてないじゃない。ダメだよもう逃げられないよ。手首が締まるだけだよおとなしくして。
 ココの蕾も……ほころんじゃって。ついさっきまで、太くて硬いもの、ほおばってたって様子だよね。誰のをくわえてあげてたの白状しなよ。身体中に、口吸いのアトなんかつけちゃって。本当にいやらしいコだよね。
 ホラ……キミのココったらインランだよねぇボクの指も食べちゃうよ、キミのココ……吸い付いてくる。唇なんか噛み締めちゃって。ホラ、もっと奥は……、ん、感じちゃうね。うん、こっちかな、ここ? ああ、ここか、お腹の方、こっちがキミの前立腺? ふ、中に油、仕込まれてたんだ? ボクの指にも絡み付いてくるよ。滑ってちょうどいいけどね。
 ん、いいんだ? ひくひく、きゅうきゅうボクの指に媚びて……吸い付いてくるよ。そんな顔したってダメだよ。イイんだよね。ホラ、キミの勃ってるじゃない。お腹につきそうなくらい、そそり勃っちゃって……ああ、イイ声だねぇ。
   前も、後ろの孔も、同時に触られるとどんな感じ? イイ? そんなにイイんだ? すごい、想像以上に……やらしい声してるねェ。
 ……でもごめんね。清一色のヤツ、キミのこと探してるんだよね? 悪いけど、これ、咥えてて。そう。この布で……いや、こんな無粋な猿ぐつわなんかしてごめんね。ボクもキミの声、もっと聞きたいけど……アイツに見つかっちゃうと、元も子もないからね。
 泣いてるの? ダメだよ許してあげないよ。楼主には何度抱かれたの。教えてよ。ココに、いやらしいココにセーエキ出されまくったんでしょ。隠しようがないよねェ。ホラ、油に混じって……指についてきた。男の白くて濁ったのが。べったべただ。
 始末もそこそこに逃げ出したんだ? とろとろ……キミのピンク色のつぼみから……こぼれてきたよ……いやらしい。ひくひくして……セーエキ、下のおクチからこぼしてひくひくしてるよ……スケベな孔だ。
 ボクのも挿れてあげるね。遠慮しないで。ああ、その目、いいよね。緑色で綺麗。そんな絶望したような目つきされると……勃つよ。ガチガチになってきた。痛いくらいだ。キミのせいだよ。
 腰を下ろして、っていうかもう、キミ足腰、立ってないよね。こんな足腰が立たなくなるまで、清一色に抱かれたんだ。どんなだった? ムカデとヤるのって。この店に呼ばれても、楼主のこと、キミって一瞥もしなかったよね。嫌いだったんだろ。それなのに、こんなに抱かれちゃって。嫌いなヤツに散々に犯されるって、どんな気分? 知りたいなぁ。
 一色のだけじゃなくって、ボクのもあげるよ。ホラ、ずっぷり……はいってく。
 ああ、イイ。キミのなか……熱い。は、はは。腕の中でこんなに跳ねて。こんなに反応がイイと……ふ、胸も感じる? ここ、舐めるとイイんだ? ああ、ボクの舌を跳ね返すくらい、硬くしこってきたよ。
 舐めると腰もくねるねぇ。いやらしい。なかもひくひく痙攣して蠢いちゃって。ああ、イイ。すっごいしゃぶられて。本当、イイよ。キミのココ。ん……ッ。
 一回、出していい? 大丈夫、まだ、夜は長いからね。もっともっと抱いてあげるよ。ホラ、さっきの、指でよかったトコ、いっぱい突いてあげるから。ここでしょわかるよ、キミの身体の反応で……。抜くときが……イイの? 分かるよ……すんごい絡みついてくる。ホラ、こここう、擦りあげると、……なんて顔してるの、腰にクルねぇ……獣そのものでいやらしいよ。
 は……うねってる。すごいよ。熱くて……あっ……く……ぅ。出すよ。ホラ、ね。ああ……イイ。イイ。
 ああ、八戒ちゃんも出たねぇ。いっぱい。もう、出しすぎちゃって精液、水っぽくなってきちゃってるねぇ。
 え、これで終わりなわけないでしょ。もっと……ほら、ちゃんと、お尻あげてて、このまま、そう穿ったまま続けて犯してあげる。
 三蔵もしてくれる? こういうこと。抜かず三発。ははは、持続力ないと無理だよね。若いと男は床急ぎだから。なぁに、色事は亀の甲より年の功だよ……ネ。そんなにイイ? ここ、きゅうきゅうしてるよ……イイんだね。ホントにいけないコだ。
 お願い。これからも、ボクと逢ってくれる? こんな大見世じゃなくって、京町のひっそりした裏茶屋で待ってるよ。あのムカデ楼主と出くわしたくないし。
 イイよね。内緒にしてあげるから。来てくれないとひどいよ。あのムカデの楼主にも、キミの大切なお坊様にも言っちゃうよ。黙っててあげるから。キミが男と片端から寝てるなんて、三蔵に知られたくないでしょ。

 悪いようにしないよ。……ボクにもこうやって、この綺麗な身体を週に何度か抱かせてくれるならね。
 



   「内所の囲いもの」に続く