楼主の清一色チンイーソー

 ああ、確かにアナタ方をこの内所へ呼んだのは我ですよ。ご苦労でしたね、悟空、もう行っていいですよ。さ、他のお座敷に出ないといけないでしょう。
 え、ああいいんです、猪八戒にはここに残ってもらいますよ、聞きたいことがあるんです。え、なんですって、ふたりで札差(ふださし)の烏哭様の座敷に呼ばれてる? とりなしておきます。女芸者の腕の立つのをお願いしときますからね。気にしないで、さ、行った行った。我はこの猪八戒に直々に聞きたいことがあるんですよ。
 ああ、やめて下さい、そこの入り口にあるのは、本物の値打ちものの景徳鎮なのに蹴るんじゃありませんよ。

 馬鹿を言わないでください。

 この白磁に描かれた唐草模様の見事さをよくご覧。品が良く胴が膨れた値打ちものの大壷じゃありませんか。これに何かあったら、アナタただじゃあ済ましませんよ。ああ、危ない。足でひっかけて壊したら、本当に許しませんからね。

 ……さあて、うるさいのはやっと行きましたねェ。あれがアナタの宴席での相棒ですか。びっくりですよ。いや、アナタが太鼓持ちだってのは知ってますけどね。ある意味、お似合いである意味、本当に不似合いなお仕事を選ばれたものですよねェ。

 ク、クックックッ。そんなにスミに行かなくても。何もとって喰おうというものでなし。ホラ、行灯の灯は暗いですから、もっと近くへお寄んなさい。我もアナタの顔をもっとじっくり見たいですしねェ。警戒しすぎですよ。太鼓持ちの猪八戒。
 え? 用はなんだ。ですか。色気がないですねェ。相変わらずアナタはこうだ。我と話をしようとしない。我に本当に興味がないんですねェ。いくらなんでも傷つきますよ。
 仮にもこの吉原で一、二を争う大籬(おおまがき)の主の我に、ここまで敬意を払わないなんて、アナタくらいのものです。何、忘八(くつわ)と呼ばれて八つの徳も忘れたと言われる楼主の我でも、アナタのことは決して忘れませんよ。そう、その目ですよ猪悟能。その目が我を狂わせる。
 最近、アナタ、商売替えしたみたいじゃないですか。え? なんのことって、しらばっくれるのにもほどがありますよねぇ。アナタったら最近、ウチの、そうこの大店の呼び出しの花魁よりも、売れっ妓らしいじゃないですか。
 え……何をとぼけているんですか。ネタは上がっているんですよ、図々しい。我の店で坊主と逢引して花魁の客を喰っておいて、侘びのひとつもないとはね。花柳界の仁義にもとりますよ。

 え、猪八戒。これは太鼓持ちもやめどきですねぇ。

 ええ、もとからアナタに太鼓持ちなんか似合ってなかった。最上級の花魁よりも艶かしいアナタみたいな男が、太鼓持ちなんてね。何かの冗談にしか思えませんでしたよ。天罰ですよね。今回のことは天罰ですよ。反省しましたか。
 どんなに自分はそうじゃないと思っていても、アナタの淫らさに男は勝手に引き寄せられて……アナタを犯してしまう。分かったでしょう。
え? 気がついていないとでも思っていたんですか。

 馬鹿ですねェ。

 そう、ずっと我はアナタを見ていましたよ。

 そう、ずっとアナタを抱きたかった。

 おっと。逃げるのは止めてもらいましょう。
……三蔵とのことを知られてもいいんですか。世間様に三蔵とのことを知られてもいいですか。三蔵は慶雲院のお坊様なんですよね。僧侶の女郎買いなんて、論外です。獄門貼り付けですよ。
 いやぁもう、いまこれから、この吉原の大門すぐそばの、青い瓦屋根の下で控えてなさる八丁堀の旦那衆に教えてもいいんですよ。アナタの大切な三蔵様とやらは、厳罰に処されるでしょうねェ。良くて島流しですよ。そうそう、大島か八丈島か。いやぁ、もっと遠くかもしれませんよねェ。

 なんです、その目は。え、黙ってて欲しい? ……聞こえませんよ。もっと大きな声で言って下さい。

……そう、お利口ですね。そう、それがいいですよ。黙っててあげます。そのかわり……ああ、だから逃げても無駄ですよ。
 口をもっと開いて。そんな小さくては我のは入りませんよ。そうそう。歯は立てないで下さいね。
 ええ、上手ですねぇ。……あの男にもそうしてあげたんですか。その美しい口で。舐めて、咥えてあげたんですか。妬けますねェ。……くッ……上手ですよ。そう、もっと舌を使って、吸って下さい。
……ああ、もういいですよ。抱いてあげます。猪八戒。期待してたんでしょう。三蔵以外の男のを舐めたらどうなるのかなって。馬鹿ですねぇ。教えてあげます。こうなりますよ。さぁ、脚を開いて、力を抜いて。ダメダメ、暴れたってもう無駄ですからね。
 ホラ、ここに有難い油がありますよ。中条流のお医者様から頂いた油でしてね。これを塗ると相当、イイらしいんですよ。
 いや、我は売り物の女郎たちには興味がありませんしね。そう、我が興味があるのは、アナタ、猪八戒、アナタだけですから。

 愛してますよ。

 ……そんなにイイですか。うれしいですよ。そんなに、身体を仰け反らすほどイイんですね。んッ……きつい。もっと力を抜いて下さい。そうそう、その調子ですよ。
 ああ、先っぽが入りました。イイ。本当にイイ。締め付けられて、極楽にイキそうですよ。こう……ああ、首筋を舐めると、そっと開くんですね。緩んだアナタも綺麗ですよ。ホラ、奥まで挿れてあげましょう。

 ンッ……ああッ。イイ。イイですよ猪悟能。いやらしい声を上げて、悦がるアナタも綺麗ですよ。そうですか、我がこう、腰を引くときがよくてたまらないんですね。なんて、いやらしい身体だ。ねっとりと絡みついてくる。インランですよねェ。
 イイ。本当にイイ。出る。出していいですか。アナタの奥へ本当に出しますよ。え、イヤなんていっても、ダメですよ。犯してあげます。男の精液で全部、身体の隅々まで汚してあげますからね猪八戒。可愛いいひとですねェ。
 腰が本当に細い……舐められるのはイヤですか。ダメですよ許してあげません。ホラ、ここをこうして……ああ、アナタが感じると、我のココが締め付けられますよ。なんて淫らな身体だ。イイ。本当にイイ……。

 分かりました。内緒にしてあげます。そのかわり、我とこうして、週に2回は寝て下さい。約束ですよ。ええ、あの、アナタの大切な鬼畜坊主のことは内緒にしてあげます。そのかわり、ココへきて我と寝て下さい。それが条件ですよ。いいですね。
 ……恋焦がれたアナタを、こんなかたちで縛ることができるなんて、夢のようですよ。

 ええ、猪八戒、なんでもします。惚れたアナタのためならなんでもね。

 三蔵以外とは寝たくないなんてわがまま言わなければ我がなんでも叶えてあげますよ。

 女郎のまことと卵の四角、あれば晦日(みそか)に月が出る……いいえ、もう嘘でももうかまいません。
 ああ、もう……明けのカラスが鳴いても、アナタと繋がって、アナタをずっと抱いていたい……本当に愛してます。
 そう、知りませんでしたか……ずっと我はアナタのことだけを見ていましたよ。

 本当にアナタのことだけをね……愛してますよ。





 「札差の烏哭」に続く