依存症(番外編)(3)


 百眼魔王の寝室は殺伐とした城の中で異彩を放って豪奢だった。さすがに魔王の居城だ。
 そんなところで悟能は両足を大きく開かされていた。肌が上気して身体の芯が蕩けてしまいそうだ。
「い……や」
 香の焚かれる量が多い。紫色の煙が部屋に充満している。豪華な紫檀の寝台は悟能があらがっても少しもきしまない。
「やめてください。貴方は誰です」
 自分を犯す男へ悟能が問うが答えはない。くわえこまされた肉棒の感触に眉をひそめる。ひどく太くて大きい。人間のそれではない。大男。妖怪のそれだった。
「あ……」
 麻酔薬や痺れ薬から目が覚めると、この男に犯されていた。服は一色の部屋で襲われたときの服を着たままだ。下肢からは何もかも剥ぎとられ、上はところどころ肌が見え布きれのようになっている。
「んうっ」
 何度も打ち込まれ、穿たれている粘膜が熱い。身体が麻痺したように抵抗できないが、肌は敏感に愛撫を拾いあげてしまう。最悪だった。まるでムカデの獲物が味わうような恐怖だ。
 意識を失っていたので、正常位で身体を好きにされていた。脚を抱えられるようにして、年かさの男の性器をねじ入れられている。
 悟能の整った容姿は乱暴されてぐちゃぐちゃだった。
 百眼魔王の手下たちは悟能を捕まえるのにいささか手こずった。人さらいや誘拐に慣れた連中相手に悟能はひけをとらなかった。その手に刃物でも持っていたら皆殺しにしていたかもしれない。

 手荒にせぬよう連れてくるように言われていたのに手下どもは手加減できなかった。

 なんとか悟能の髪をわしづかみ、はおっていた絹の中国服を引き裂き、その顔に麻酔薬の沁みこんだ布をあてがい、ひるんだところでムカデの痺れ薬を打った。
 それぐらいしないと殿下の情人は捕まえることができなかった。虫も殺さぬ顔をして、の典型だ。

「……や」
 悟能はあえいでいた。肌が熱かった。知らない男に犯されているのに、身体の芯は潤み感じていた。
「あっあっ」
 ついさっきまで、一色を受けいれていた。後ろの孔から粘着質ないやらしい音がする。一色の放った精液が注がれたままだった。悟能は肌を上気させた。卑猥な感触に顔をゆがめる。男は一色の放った精液を中でかきまぜるようにして悟能を執拗に穿っていた。
「いや……いやだ」
 甘いが悲痛な声だった。こんな男に犯されているのに感じてしまう。相手はひどく性に手馴れていた。
「一色……さ……ん」
 救いを求めるように悟能は呟いていた。 「一色さん」 いつでも人事不省になると唱える魔法の呪文だ。
「あうっ」
 悟能の呟きを咎めるように相手の男の打ち込みが激しくなった。悟能の細い手首を白いシーツへ手で強引に押さえつけている。
「一……色さ……ん」
 助けを求めて首を仰け反らせてあえぐように呼んだ。回すようにして相手は腰を使い、悟能を犯しぬいてくる。
「一色さん……たすけ……て」
 見も知らぬ男の身体の下で悟能はうめいた。いやだった。身体は蜜をたれながしていようと、心は別だった。一色以外の男に抱かれるのはいやだった。

 そのとき、
 悟能を抱く男が初めて口をきいた。
「息子がよほどよかったとみえる」
 殷々(いんいん)とした声だった。
「後ろの孔も口が閉じれずにほころんでおるわ……ひくひくしてるのがよく見える」
 ぐちゃぐちゃとナカの精液を男根でかき混ぜる音がたつ。淫らな音が寝室中に響いていたたまれなくなった。悟能を嬲る男の言葉は実に卑猥な口調だった。
「愛いやつだ」
 べろり、と長い舌で頬を舐められた。その長い舌は誰かとそっくりだった。
「遠慮いたすな。余のもたっぷりくれてやろう」
 短い言葉と共にナカに出された。粘膜に滴る熱い体液の感触。……一色以外の男の精液の感触に悟能は顔をゆがめた。味わいたくない感覚だった。
「くぅっ」
 でも身体は……ひどく感じてしまっていた。きゅうきゅうと尻たぼがひくつきナカで相手の肉棒をしめつけてしまう。
「……っ」
 悟能を犯す男は目をぎゅっと閉じて若い肉の締めつけを味わっている。ぺろり、とその長い舌で自分の唇を舐めた。
 誰かに似ている。
「どうした。一色以外の男と寝るのは初めてか」
 気位の高そうな声音で淫らな調子で問われ、悟能は目をむいた。
「貴方は……」
 悟能は荒い息を吐きながら呟いた。
「百眼魔王……? 」
 言葉が終わらないか終わるかというときに、相手はいかにもという調子でうなずいた。
 悟能は瞬間無駄だと知りながら無茶苦茶に暴れて抗おうとした。しかしダメだった。ムカデの魔王の毒は身体に染み渡っている。逃げられるわけがなかった。
「あっあっあっ」
 おぞましいことだった。いつの間にか息子とその父親、両方と性交してしまっていた。
「あうっ」
 腰を突きあげられて悟能は顔をしかめた。太くて硬いもので感じる場所を的確に打ち抜かれる。
「ああっああっあーーっ」
 白濁した体液を屹立から滴らせて達する。
「……かわいい声だ」
 魔王は目を閉じて悟能の締めつけを味わいながら口元をゆがめた。
「いやぁっ……いやだ」 
「いやではあるまい。お前の身体はいやとは言っておらぬ。息子と比べて余の味はどうだ? 」
 魔王は腰を揺らして肉棒の感触を強調した。悟能は悶絶するしかない。もうどうしようもない。
 惑乱する感覚。もう粘膜は痙攣して無上の快感をあじわっている。悟能が感じれば感じるほど、犯している魔王の快感も強くなった。遠慮はしないとばかり、魔王は突き入れたまま悟能のしなやかな脚へ唇を這わす。そのままときおり強く吸った。内出血のあとが点々とついた。
「いや……っ……一色……さん」
 悲鳴が強くなった。父王は悟能の足首を捕らえると、腰を前後させて突きまくりながら、つま先へ舌を這わせた。
「ひぎぃっ」
 凄い声が漏れた。痙攣している。足の指の間まで舌をねっとりと這わせられ、もう失神しそうになった。一本一本、丁寧に指を愛撫され、そのまま尻をまわしてかき混ぜるように、注ぎ込んだ精液を泡立てるような動きを繰りかえされた。
「あぐっあぐうぅっ」
 人間とも思えぬ声が出た。悟能の腰は震えて痙攣している。感じすぎだ。
「ウサギみたいな子だ」
 魔王は含み笑いをした。人外の性器は恐ろしかった。脈打つ凶暴な怒張は太くなったり細くなったり緩急をいれて悟能をもてあそぶ。
「いやらしい。すっかり発情しておる」
「ひぃっ……ぐぅっ」
 ウサギみたいな子。愛らしい外見とは別に、ウサギは相手かまわず交わる淫らな動物だ。多淫の代表みたいな生き物なのだ。親だろうが子だろうが相手を選ばずに交わる。そんな生き物に似ていると言われて、悟能は眉をひそめた。侮辱だった。
「幼い頃から一色に調教されているな……実に具合のいい性交奴隷だ」
「違……」
 違う、と断言できなかった。確かにこの肌は幼い頃から一色に全てを許していた。
『いつか全部ください悟能』
 一色はため息とともにいつも最後にそういった。ひどく愛されていた。確かに悟能は愛されていた。それなのに、この汚らわしい男に一色のためだけの肌をなめまわされ身体を自由にされている。
「指の間が感じるのだな。そうか」
 年の功だろうか的確に感じるところを狙ってくる父王の性技に翻弄されてしまう。手慣れていた。この年まで荒淫を重ねた男ならではの執拗さがあった。若い一色にはないものだ。
「あうっあうっあっあっあっ」
 また再び前を放ってしまっていた。身体を重ね、つないだままの愛撫は長時間にわたっていた。悟能の額に汗が浮いた。全身に性交による陶酔の汗をまとっている。いけないと思いつつひどく感じてしまっていた。大好きな 『一色さん』 の父とこんな関係になるなんて信じられなかった。忌むべきことだった。なのにその淫らな行為は淫靡でしびれるほどだった。養父の実父と寝る。背徳的でいやらしいことだった。
「またイッたのか。本当に感じやすい肌をしている……かわいいな」
 とろり、と悟能の性器にまとわりつく粘性の薄くなった精液を父王は指ですくいあげた。指が亀頭を這う感触に、悟能は背筋を震わせた。再び腰の奥が熱くなってしまう。
「はぁっ」
 身体を痙攣させて感じきっている。震えが止まらない。あえぎすぎて口端から涎が滴りシーツを濡らす。
「孕むほどかわいがってやる。かわいいウサギめ」
 抱き寄せられて、ぐったりとした身体をうつむけにされた。力が入らないのに後背位にされる。ひざががくがくとした。

 そのときだった。すさまじい音が背後で響いた。何かが壊れる音だ。重々しい木でできた何かが倒れる音が続き、床に激突する衝撃音が立った。

「これはこれは父上にはご機嫌麗しく。晴れやかなお顔を拝見できて息子の我も幸福でございます」
 悟能といえばいまだに父王に後孔を突かれて、粘膜全体でしゃぶってしまっていた。身体がわなないていた。それでも全身でその大好きな声に反応した。
 一色だ。
 清一色だった。一色の声だ。
「父上はご気分悪くお休みとか」
 一色の平静な調子の声は続いている。まるでこの部屋で行われている淫靡な行為など知らないかのような口ぶりだ。
「それを聞いて落ち着いていられずこうしてお見舞いに参った次第でございます」
 黄色の正装を着て、笑い顔に細めた目、いつもの冷静そのものの若君だ。たいした神経だった。大切に育てあげた手中の珠を父親の慰みものにされ、本当だったら刃物で斬りつけたいところだろうに、いつも以上に冷静だった。
 いや、この男も八戒と同じで、ある点を越えるとわざと冷静に振舞って、内心の動揺とバランスをとる癖があるのかもしれない。
 一色は乱暴な手つきで天蓋から寝台を覆う薄絹を思いっきりまくりあげた。中は地獄だった。かわいい悟能はもう何度も父に犯されているらしく白濁液まみれになっている。
 それどころか後ろの孔にありありと父王の凶暴な凶器を打ちこまれて甘い悲鳴をあげている最中だった。黒いつややかな髪は額にはりつき、いつもかけているメガネはかけていない。
「どうやらいつの間にか我の養い子がお邪魔してご迷惑をおかけしているご様子」
 一色は直線的な調子で言った。慇懃無礼というやつだ。
「連れて離宮へ戻らせていただきます」
「待て」
「さ、帰りますよ悟能」
 その声の調子はいつもどおりの優しさだった。大好きな博物館に行った夕方、もう気が済んだなら今日は帰りましょう。飽きてないなら、また来ましょうね。わがままをいう悟能へ優しく言ったいつかの調子そのものだった。
「一色さん」
 悟能は思わず我を忘れて立ち上がろうとした。そして顔をしかめた。父王に貫かれたままだった。後ろからうつぶせで、尻を突き出して……犯されているのだ。抜き挿しされる肉棒が、一色の目からはよく見えることだろう。父と愛する美童の交合をまざまざと見せつけられる残酷さに彼は耐えていた。
「一色さん……助けて」
 哀れな悟能の言葉に一瞬、一色の目が見開かれ鉄面皮がはがれそうになった。思わず拳を握って父王につかみかかる。
「放してやってください。父上。この子が貴方に何をしたっていうんですか」
 押し殺した声だった。もう理性もぎりぎりだった。上品な演技をしているうちに平和裏に悟能を連れて帰りたかった。
「息子よ」
 しかし、百眼魔王はさすがに老獪だった。息子の心をずたずたに引き裂いているのに愉快そうな声で笑っている。さすがに血も涙もない悪逆非道さだ。
「余にこの者を譲れ」




依存症(番外編)(4)へ続く