依存症(番外編)(2)


「あ、ああっあっ……あ」
 寝台へ叩きこむようにして放りこみ、そのいやらしい身体を押さえつけた。悟能が発情するのに誘われるように一色も性の昂ぶりへつきあげられる。
「んっんっ」
 自分から足首をつかんで開く妖しい淫花。
「まさか、子供の頃に使っていたベッドでこういうことをすることになるとは思いませんでしたよ」
 子供の頃、とはいっても仮にも王子様のベッドだ。かなり広い。悟能と戯れていても十分な大きさだった。天蓋つきで上から優美な刺繍の入った布がかけられ幕の役割をしている。
「子供の頃、父は女狂いですし母上は病気がちでしたし、さびしかったものですが」
「あっあっ」
 股間を舐め上げられて、悟能がのけぞった。そのまま一色の舌は後ろへ這ってきた。
「今はこうやって大好きな貴方を好き放題に抱けるなんて。おとなになるのも、いいものですよね」
「はぁあっ」
 悟能はわなないた。身体が変だった。もう、何をしなくても感じてしまう。さっきから性的に限界すぎて痙攣していた。淫らな孔を舐めまわされて……立て続けに達してしまう。
「あれ、挿れてないのに、またイッちゃうんですか」
「ああ……っ」
 恨めしそうな目つきで悟能は自分の下肢をなめすする養い親を見つめた。粘りのある白い液体を垂れ流し、悟能は尻をふった。
「シテ……っ」
 必死のお願いだった。かわいい淫らなおねだりだ。
「何をして欲しいんですか」
「いやらしい……こと」
 震える端麗な唇が卑猥な言葉をつむぐ。
「我が今していることはイヤラシクないんですね? 」
 そのまま粘膜をはじくように舐め上げた。悟能が悶絶する。一色の舌を肉の輪で締めてしまおうとするようにひくひくと収縮した。
「ああ……」
「もっといやらしいことをして欲しいんですか。悟能」
「一色……さん」
「犯して欲しいんですね。そんなに男が欲しいんですか」
 一色の手が指が悟能の性器をつかむ。いまだに勃ちあがったままのそれはびくびくと手の中でうごめいた。して……犯して……おねがい挿れて……ぇ……ああっあっ……涙まじりの悲鳴に切れ切れに言葉が混じる。……舌で到底とどかない、奥の方が……疼いていた。
「あ……僕……今日……身体が……変で」
 発情しているとしかいえないような変化だった。なまめかしい唇はあえぎすぎてもう閉じることを忘れている。
「いっ……そ……さ……ん」
 淫らな悲鳴が甘く耳朶を打つ。ケダモノも今の悟能を見れば喰らう前に犯すだろう。そんななまめかしさだ。小づくりの尻を浮かして、上下へふって誘惑する。セックスそのもののいやらしい動きだ。
「そんな誘い方をいつ覚えたんですか。悪い子ですね」
 うわずった声で一色が呟く。
「お仕置きが必要ですよね。こんないやらしい子には。ほら、貴方の淫らな孔に栓をしておいてあげましょう。欲しいんでしょう? こんなにひくひくして」
「あああああっああーーっあーっあああっ」
 太くて硬くて熱いものを挿入された瞬間、悟能はあおむけに仰け反った。綺麗な緑の瞳から涙が流れる。
「ああっくぅぅっぐぅっ」  
 挿入されて荒々しく腰をふられ、思わず思いっきりなまぐさい声が漏れた。
「ああ、悟能イイですよ」
 一色の声が情欲でうわずる。ものすごい締めつけだった。
「ちぎれてしまいそうです」
 仰け反る肢体の胸で、乳首が快感でとがってふるえているのを見つけ、手を伸ばしてやさしく指の腹で捏ねた。
「いやぁっっ……! 」
 ぶるっと尻肉までふるえた。一色の大きなモノを飲みこんだまま腰をくねらせる。イイところに当たったのだろう、首をそらせて甘い声でうめいている。
「ひぃっ」
 媚薬か何かに中てられてしまったのではないか。そんなよがり方だ。
「ハメられて……そんなにうれしいですか」
 じゅぶ。穿ちながら一色がささやく。くねった粘膜の奥へ、その性器の先端を伸ばして舐めまわした。悟能が悶絶する。痙攣してわなないている。
「……いやらしい。いやらしくて素敵ですよ悟能」
 上気して耳まで真っ赤だ。それにそそられるかのように一色が耳たぶを唇でくわえた。愛おしくてならなかった。
「ひうっ……くぅっ」
 前立腺もその奥にある秘められたひだも、オスでいっぱいにされ、ときおり変幻自在な男根にあやしく蠢かれ、感じるところを舌でも性器でも、外からナカから一色に舐めまわされる。
「はぁっあっあっあっ」
 悟能は咥えこんだまま震えながら締めつけ、快楽の汗を浮かべたまま陶然とした表情で仰け反った。
「イク……ぅ」
 あえぐ腕の中の悟能へ、一色はふたたび優しくささやいた。
「まってください。今度は我もいっしょに」
 どちらとも知れず唇を重ねた。舌と舌を絡ませあって情欲に濡れたキスを繰りかえした。
「あっあっあっ……あっ」
 甘い甘い糖蜜のようなあえぎ声。
「一色さ……イクっ……」
 悟能の身体が一瞬硬直し、腰がびくびくと数回ゆれる。
「……ッ」
 一色は目を閉じてその締めつけを味わっている。しかし限界がきたのだろう。
「ごの……っ」
 小さくうめき腰を小刻みに震わせた。精液を悟能の奥深くへと注ぎこむ。
「い……そ……さ」
 甘くあえぎながら、悟能の長い腕がのばされ、一色の背へきつく絡みついた。ふたりの間でこすりあげられる格好になった性器の先端からやはり白い体液が滴り落ちる。結局、その後も悟能はなんども身体を震わせて果てた。



「気がすすみませんが我は父に会ってこないといけません」
 湯を浴びて濡れた髪をタオルで拭いながら一色が呟く。寝台では悟能がぐったりとしている。すっかり正体を失っていた。この城の空気にでもあてられてしまったのかもしれない。捕らえてきた女たちへ催淫作用のある香やら麻薬やらをたくさん焚いているのだ。幼い頃からここで育っている一色は耐性でもあるのかたいして効かないが、人間の悟能などひとたまりもないだろう。
「少しの時間ですからおとなしく待てますね」
 いつもの白い中国服ではなく、黄色に華麗な刺繍の縫い取りのある華やかな服の帯を締めている。いかにも中華の王太子が着るような服を身につけながら一色は言った。正装だ。
「具合どうですか」
 心配気に悟能の顔をのぞきこんだ。つややかな黒髪が寝台の左右に置かれた灯火に照らされ美しい。顔色はよくない。明らかに何かに酔っている。
「一色……さん」
 華やかな黄色の袖を愛童につかまれて、相好を崩した。
「すぐ戻ります。誰が来ても部屋にいれてはいけませんよ」
 悟能の体調は心配だが、こんなに求めてくれる悟能を見るのははじめてだった。まるでメス犬みたいに悟能は一色を求めて狂った。ひどく淫靡な行為の連続だった。一色に抱かれるためなら、なんでもしたのだ。いつもならこんな恥ずかしいことはしてくれないに違いない。または後でむくれてご機嫌をとるのが大変だ。
「お水は外のテーブルにおいておきますね」
 一色は陶製の水差しを目で示した。五彩で鳳凰と果物が描かれている。
「……わかりました」
 悟能は少し上気した顔でうなずいた。まだ身体が火照って熱いらしい。いまだ情欲の虜になっている。いままでの自分の痴態でも思い出したのか恥ずかしそうに顔をそむけた。
「……戻ってきたら、もっとゆっくりかわいがってあげます」
 黒髪のかかった耳元へ甘くささやいた。
「我の生まれた城とはいえ、いかがわしくうさんくさい場所だと思ってましたが、たまにはこういうイイこともあるものですねェ」
 一色はさほどこの城や、父王が好きではない。地下牢からは女たちの悲鳴と狂ったあえぎ声が切れもせずに聞こえてくる。幼い頃から早く出ていってやろうと思っていたが、こんな状態の悟能を抱けるとは棚からぼた餅とはこのことだった。

 少し殿下は浮かれていたかもしれない。手下の妖怪が何人も首を出し、そっと廊下の隅から、こちらの様子をうかがっていたが、このときは気にもとめていなかったのだ。


「父上へ取り次ぎを頼みます。我がご挨拶に参ったと伝えなさい」
 一色は自分の部屋を出ると、まっすぐに謁見の間へ向かった。美々しい正装を着こんだ王子様じきじきのおたずねに、あたふたと周囲の妖怪たちが右往左往する。
「早くなさい」
 冷酷な目つきはいかにも知恵者といった光を帯びていて、手下どもの中には魔王本人よりもこの第一王子を恐れるものも多かった。何もかもお見通しという聡明さが粗暴なだけの妖怪どもを怯えさせるのだ。
「し、しばらくお待ちください」
 恐れ敬う声とともに、そう告げられた。父王へ取り次ぎに行ったのだろう。今日の父は謁見の間で政務も何もしていないようだ。周囲の村々からの租税の監督などやることは山積みのはずなのにだ。
 粗暴なあの男のこと、また顔立ちの整った美しい女でも見つけたのだろう。端麗に整った正統派美人が父親の好みなのだ。
 一色は舌打ちした。一瞬、おそろしいことに悟能の美貌が脳裏をよぎったのだ。とんでもないことだった。

 それにしても待たされていた。
 地下牢で今夜、伽をさせる女を選んでいるとしたら時間がかかることだろう。
「も、もうしわけありません。実は」
 取り次ぎに出た妖怪はたっぷり1時間は若君を待たせたあげく、あわてた様子で卑屈に頭を下げた。
「今日は気分悪く百眼魔王様はお部屋で休まれるとのことです」
「どういうことですか」
 清一色は顔色を変えた。
「父が呼んだからこそ我はこの城へかけつけたのですよ」
 話がおかしかった。別城を焼いた説明をしろというから飛んできたのに、その息子に会わないというのだ。会わないということで息子に対して不興を示しているのだろうか。しかし、粗暴なあの男がやりそうなことではない。
「まさか」
 いやな予感が走り抜けた。もうすでにあの男はいろいろなことを配下から聞いて把握していたのかもしれない。
 これは罠だ。一色は瞬間的に思った。間に合って欲しいと自分の部屋へとあわてて駆け戻った。
 あの男の好色さを、いささか甘くみていたと一色はほぞを噛んだ。好色漢の典型だった。こういうことには頭が回るのだ。


「ああ」
 一色は自室も戻って崩れ落ちた。部屋はもぬけのからだった。扉は蹴破られ、いかにも争った形跡があり、天蓋つきの寝台の幕は破られて無残だった。
「悟能」
 無駄だと知りながら一色は愛童の名を力のない声で呼んだ。悟能の姿はない。どこにもいない。何が起こったかはあきらかだった。魔王の配下が無理やり悟能を連れ去ったのだ。もちろん、聡い子だし、運動神経もいいし、そこらの妖怪につかまるような男ではない。通常なら。しかし今日はいつもと違う。
「なるほど、それで香を大量に焚いていたんですね。そうですか」
 一色は顔をゆがめた。足元で何かを踏んだ。何かが割れる音がした。
メガネだ。悟能のメガネだった。
「父上といえど絶対に許しませんよ」
 一色は顔色を変えた。
 育った城だった。父のいそうなところなど見当がついている。王子様は厳しい表情で部屋を背にした。





依存症(番外編)(3)へ続く