依存症(番外編)(1)


 古い城の奥深く。
「悟能……どうしたんですか」
 一色は身体の下に黒髪の若者を敷きこんだままうなった。そのしなやかで長い脚を抱える。
「はぁ……あっ」
 ぶる、となまめかしい肌を震わせ、悟能は身体を自分から開いた。下から一色を流し見る目つきが妖しい。
「一色……さ……ん」
 発情している。熱い身体をくねらせる。悟能は一色の性器を自分の淫らな孔の表面でこするように腰を使った。
「悟……能」
「僕……もう」
 潤んだ目元がひどくしどけない。長い脚を自分を犯す男の腰へ回してすがりつく。
「抱いて……抱いてください……」
 淫らで、なまめかしい吐息まじりの声。
「ごの……」
 悟能と言いたかったが、もう言葉にならなかった。若様はほとんど悟能の手で剥ぎとられた服を寝台の下へ落とすと苦悶の表情を浮かべた。
「ああ、かわいい……我の……」
 もう、それから先は言えなくなった。下であえぐ、秀麗な少年が自分から腰を突きだすようにして一色のを身体の奥底へと誘いくわえこんだ。
「……! ごのっ……」
 きつい粘膜に包まれ、蕩けるような心地に誘われる。
「ああっあっあっ……イイっ」
 あえいで身を仰け反らせる悟能は普段の清楚な様子は微塵もない。妖しくも淫らで蕩けるようにひたすらなまめかしい。
「いけません……悟能。ここは父の城なんですよ。どこで見られてるか」
 わずかに残っていた理性であえぐように呟いたが無駄だった。
「イイ……すごく……ああ……一色……さ……ん」
 甘い声が天蓋つきの寝台に響いた。




「早く本城へ戻ってくるように。そして今回の事態を釈明せよ」

 百眼魔王。ムカデの魔王にして清一色の父。呼びだされたのは昨日のことだった。
 いつものようにのらりくらりとお追従で粉飾した美文を父に送ってかわそうとしたが、今回は無理だった。引越した離宮はけっこう居心地がいいし、悟能はかわいい。
 一色は父王のことなど無視したかったが、それでもどうにもならなかった。
「悟能、また父に呼びだされました。今度は一緒に行きましょう」
 憮然とした表情で王子様は告げた。
 おそらく隠れ城をひとつ焼いたことに対する小言でもいいたいのか、書状は命令形だった。無視すると廃嫡になりかねない。何しろあの好色な男のこと、跡継ぎは一色でなくたっていい、息子の数は多い。

「貴方みたいな子と父の城に行くのは正直、少々不安です」
 父王は一色が悟能にべた惚れで、親代わりになって育てており、そのため本城に居つかないのだと薄々知っている。
 一色殿下は優雅な長いすに腰掛けたまま、悟能を横目でちらりと流し見た。
(とにかくこういうタイプの顔が好きなんですよね。こう端麗に整った正統派美人っていうか。本当にあのエロ親父は)
 最近ますます綺麗になってきている。少年の時期が終わりかけ、性的な魅力を増した上で美しい青年になろうとしていた。
 少し長めの後ろ髪は黒い艶を放ち、端麗な顔立ちにメガネがよく似合っていた。いや似合うというと誤解があるだろう。これほどの美貌になると何をしようと似合うというものだ。悟能の美しさとはそういう種類の美だった。
「不安というよりも心配です」
 一色はため息をついた。美しい悟能は実に父親好みだった。父王がよこした書状には、一緒に暮らしている子供も連れてこいというような言葉も書き連ねてあった。
 父には 「子供を育てている」 としか言っていない。
 しかし何か感づいているのだろう。年頃の息子が子供に夢中で女の噂もないなんてと不審に思われているのだ。召し使っている式神だけを相手に書生のごとく日々を過ごしているなど好色な父には驚天動地に近い。
 当然、親としては息子の育てているとかいう子供を見たくなる。
「父が貴方をひとめ見でもしたら」
 一色は言葉を濁した。おぞましい想像が脳裏をめぐる。それでこの前も心配だったが留守番させたのだ。そうしたら……あんなことになってしまった。
「一色さん」
 悟能もすねに傷をもつ身だった。強く抗弁もせずバツの悪そうな顔をしている。
「でも一緒に行くしかないですね。いいですか悟能。「城」 ではなるべく我と一緒にいてください。いいですね」
 一色は渋い顔をして言った。麗しの美少年。いやいまや美青年に近い。片時も離れられないくらい求めあっていた。どうしようもなかった。なるべく父王の目から悟能を隠さなければ。ひたすらそう思っていた。

 

 百眼魔王の城へ飛竜で乗りつけると、寄ってくる妖怪たちへ向かって若様は言った。
「我は自分の部屋を使いますから以後あれこれかまう必要などありません。お前たちは父の面倒でも見ていなさい」
 持ち前の冷たい口調で言い捨てると、悟能を飛竜から降りるのを手伝った。すかさず手下の妖怪たちが手を差しのべようとするのを鋭く叱りつける。
「勝手に触るんじゃありません。汚らわしい」
 悟能をささえるのを助けようとした妖怪を冷酷な視線でにらみつける。
「お許しを」
 青ざめて眼を伏せたが、思わず手下たちは目くばせしあった。若様が連れてくるのは 「子供」 だと聞いていたが、それは妖怪どもが想像していたのとは違った。
 その少年は美貌だった。
 いやもう少年とは呼べない年齢にさしかかっている。もの憂げな月にも似た雰囲気があった。美しすぎてただうつむいているだけなのに愁いを帯びているように感じられるのだ。悟能は百眼魔王に命じられてさらってくるどんな女よりも美しかった。
 麗人というやつだ。
 周囲の思惑など知らぬげに悟能は一色の手をとって竜から降りると、手下の妖怪へ向かってひと好きのする顔つきで笑いかけた。
「すいません」
 優しい先生か保父さんを連想させる笑顔だ。美貌のあまり愁いを帯びてみえたが、笑うとそれが一転した。優しく可愛らしい笑顔が魅力的だった。声の抑揚や調子も知的で素敵だ。
 思わず、微笑みかけられた妖怪はそのまま硬直して身動きができなくなった。美にあてられたのだ。
 こんな美しい人間を一晩自由にできるとしたら、百眼魔王などどんな手管だろうと使おうとするだろう。強姦のお先棒をかつぐ手下どもには分かった。この綺麗な人間は百眼魔王の好みも好みだった。
「悟能」
 一色は怖いような声を出した。明らかに他の男へ微笑みかけたのをとがめだてしている声だ。
 しかし、当の悟能はまったく気がつかないらしい。きょとん、とした表情を浮かべている。百眼魔王の手下とくれば悪名高かった。どこかに美しい娘がいると聞けばさらってかどわかし、悪行の限りを尽くすと有名だったのだ。
 当然、美しい女を日ごろから見慣れている連中だった。それなのに、そんな彼らが見とれてしまうほど悟能は美しかった。
 こんな佳人がこの城に来たのだ。百眼魔王さまにご注進しなければ、かえって叱られよう。確かに悟能はそう思わせる麗しさだった。


 いたるところで麝脳の香が焚かれている。紫色のあやしい煙りがそこかしこからただよってくる。精神の中枢を穿つような官能に訴える香りだ。
「この布を被ってください悟能。貴方の頭から袋でも被せたいような気分ですよ」
 イライラとした声で殿下は言った。勝手しったる実家の城の廊下を早足に歩く。渡された赤い布を悟能は困ったように見つめた。周囲の房飾りといい刺繍といい、それは花嫁が被る布そのものだった。
「一色さん。これ恥ずかしいですよ」
「おだまりなさい。誰のせいだと思ってるんですか貴方は」
 本城。石の材質やつくりは堅牢だが、焼けてしまった別城や引越しした離宮と違って殺風景に感じられる。住んでいる主の好みを反映しているのだろう。百眼魔王は凶暴で風流など解さぬ男だった。
 ずいぶん長く歩くと廊下の突き当たりにでた。それは塔の中へと続いていた。
「お入りなさい。我が住んでいた部屋ですよ」
 殺風景な石造りの部屋だった。塔の内部らしく一室は巨大な円形で広い。さすがに一色の部屋らしく香机が置かれ、額装された書軸が壁にかかり、飾り棚も意匠に凝ってて美しい。天蓋つきの寝台や寝椅子がそこかしこに置かれている。
「好きなところへ座ってください。……悟能? 」
 一色は悟能の顔をのぞきこんだ。気分でも悪いのかうつむいている。
「どうしました。悟能? 」
 心配げに細い眉を寄せると、一色は優美な寝椅子へ悟能を座らせた。きらきら光る夜光貝がところどころはめ込まれ、花や鳥の模様をつくっている。螺鈿細工の施された寝椅子は大きくて綺麗だった。
「一色さん」
 悟能は荒い息を吐いた。苦しいらしい。顔が赤い。薄絹でつくられた服のえりを広げようと苦しんでいる。
「僕、なんだか」
 そのまま、悟能は一色へしがみついた。身体が情欲でほてって熱かった。一色はそのまま引き寄せられ悟能の上へ倒れこんだ。


「悟能……どうしたんですか」
 一色は身体の下に黒髪の若者を敷きこんだままうなった。そのしなやかで長い脚を抱える。
「はぁ……あっ」
 ぶる、となまめかしい肌を震わせ、悟能は身体を自分から開いた。下から一色を流し見る目つきが妖しい。
「一色……さ……ん」
 熱い身体をくねらせる。悟能はあてがわれた一色の性器を自分の淫らな孔の表面でこするように腰を使った。
「悟……能」
「僕……もう」
 潤んだ目元がひどくしどけない。長い脚を自分を犯す男の腰へ回してすがりつく。
「抱いて……抱いてください……」
 淫らで、なまめかしい吐息まじりの声。
「……ベッドに行きましょうか。悟能。歩けますか? 」
 思わず一色は唾を飲みこんだ。これほどなまめかしくも淫らな悟能の表情を見るのは初めてだった。一色の養い子はかわいいウサギか何かのように発情しきっていた。
「歩けない……ですね。これじゃ」
 いつの間にか、悟能の前は張り詰めきっていた。
「もう……パンパンなんですね。前が」
 卑猥な口調で若様はささやいた。
「言わない……で……」
 薄い緑色の絹地の服を引き剥がすようにして脱がされた。
「ハメて欲しいん……ですね。それよりもヌイておきますか? 」
「ああっ……ああ」
 一色の指が直にその屹立の先端へ触れると……それは白濁液を吐きだして爆ぜた。
「早い……早いですね悟能」
 なんども震えて白い体液を噴きあげる、それをやさしく指でなぞった。びくびくと白い身体が痙攣する。 
「……悟能。ここは父の城なんですよ。どこで父の目が光っているか」
 わずかに残る理性が警告をしていた。振り絞るような声だった。
「……色……さ……ん」
 甘い糖蜜のような声で稚児がオスをおねだりする。そのなまめかしい太ももが男を欲しがって震えているのがいやらしい。もうどうしようもなかった。一色は苦しげに眉を寄せると自分が少年の頃使っていた寝台へ愛する稚児を引きずりこんだ。






依存症(番外編)(2)へ続く