腐男子八戒さん(4)


act.4 悟浄2

 ハイライトの白い煙で部屋んなかがいっぱいになる。さすがに吸いすぎかな。八戒は健康オタクのくせに、俺がタバコを吸うのを気にしたことがない。副流煙とかいうやつ、気にしねーのかな。いつか聞いたら 『いいんですよ悟浄』 って笑った。すっげえ綺麗なカオしてさ。
 思わず、うらめしくなって傍のベッドでもう横になってる黒髪美人を横目で見た。
 まだ寝てねーな。手帳なんか見てひとりでクスクス笑ってら。くっそ今日もあいかわらず超絶美人さんじゃねーの。あたり前だけどよ。
 なんか俺はひどくあせってた。なぜか知らねーけど嫌な予感がすんだよな。
 ベッドに座ってうなだれてると自分の赤い髪がちらつく。嫌いなんだよな俺この色がさ。我ながら血ぃみてぇな色じゃね? 八戒みてーなキレーな黒髪のがよっぽどいーわ。
 そんなくさくさした気分だったからか思わず声をかけちまった。
「そのさ、オマエさ」
 なんて言っていいやらわからない。俺は傍の灰皿でタバコを消した。
「俺と三蔵の……昼のやりとり聞いてて……どう思った」
「え、ええっと」
 うわ、この反応。俺の気持ち絶対にバレてるわ。
「三蔵ってさ」
 俺は弁解がましく言った。
「アイツ思いつめると……危険なんだよな。そー思わねぇ? 」
「そうですか」
 おい。そっけねー返事だな。けーかいしてよ警戒。あの鬼畜坊主相手にゃ必要だぜぇ?
「大丈夫。僕にとっては三蔵も悟浄も大切な仲間ですよ応援してますからね」
 なんか、いまいち話がかみあってねー気がするけど気のせいかな。ま、いいか。
「ま、あのエロ坊主が危険だから俺が牽制してたっつーのが実情でぇ。オマエ、なんか誤解してねぇ? 」
「? 」
 目の前で黒髪碧眼美人がきょとん、としたツラしてる。うっわお前、その顔、反則じゃね? かっわいい。かわいすぎだろうがよ。なんか甘酸っぱいもので胸がいっぱいになっちまった。
「俺の気持ちは長安の森の家で、同居していた頃から変わってねぇ」
 ダメだ。もうこのキモチをガマンするとかできねぇ。
「好きだ……八戒」
 もう、どーなったっていーや。ここで伝えておかないと、ぜってー後悔する気がする。当たってくだけろだ。
「俺の気持ち、分かってるよな八戒」
 けっこーお前だって俺に好意、持ってくれてねぇ? くれてるよな。
 お前が俺にだけ弱音吐くの知ってるしよ。あのタレ目なクソ坊主には言わねーじゃん。だからチャンスはあるって信じてー。どきどきしながら、俺は八戒の返事を待った。
「……知ってます」
 一拍、間をおいて八戒のヤツが言った。うおっ。心臓に悪い。俺は声をだそうとした。緊張で喉の奥でなにかが絡まる。
「知ってる? なら」
 俺の気持ち、もう知ってるんだな。そーか。そーだよな。バレバレだよなそりゃ。
 決めた。
「今度、ちゃんと返事もらっちゃうからな」
 こうなったら、絶対に八戒のことはモノにするぜ。いいやコイツは俺が雨の日に拾ったんだ。拾得物拾ったのに落とし主が現れてねぇ。だからコイツは俺のモンだ。だからはじめて会ったときから俺のモノだって決まってんだ。絶対に逃がさねぇ。

 とくにあんな鬼畜坊主なんかに渡してたまっかよ。ふざけんなよ。





(その夜の八戒の手帳)

 僕、悟浄に言われたんです。
「俺と三蔵、昼のやりとり聞いてて……どう思った」
 気にしていたんですね。僕に聞かれたと思って。どう思ったって。どこからどう見ても悟浄×三蔵ですよね。昼間の貴方と三蔵はお似合いのカップルでした。なにを照れてるんでしょう。まぁ、僕にのろけたいだけでしょうけど。
「三蔵ってさアイツ、すっげぇ思いつめると……危険なんだよな。そー思わねぇ? 」
 こういうんですよ! のろけでしょう? 三蔵のことが心配でしょうがないんですね。本当に53の悟浄ですよ。
 三蔵、ムリしてツッパって銃なんざ撃たなくっていいぜ、お前には俺がいるじゃんか。俺にお前を守らせろよ。その紫色の瞳がきれいすぎて俺を狂わせるぜ。そういうかんじの53でした! 
 きゃー! ですよね。僕としたことが、こんなに悟浄が三蔵のことをおもっているなんて知りませんでした。でも親友ですからね悟浄に言いましたとも。
「大丈夫。僕にとっては三蔵も悟浄も大切な仲間ですよ応援してますからね」
 でも、こう言った瞬間、思い出してしまったんですよね。三蔵が本当は誰を愛しているのか。親友の悟浄には悪いんですけど、三蔵の心は悟浄だけのものじゃないですよね。三蔵には悟空がいますから。
 そう思い至ったとき、僕の心を読んだように悟浄が呟きました。
「ま、あのエロ坊主が危険だから俺が牽制してたっつーのが実情でぇ。オマエ、なんか誤解してねぇ? 」
 ひょっとしたら、悟浄も三蔵と悟空のことは知ってるんでしょうか。そういえばそうですよね。悟浄は恋愛経験が豊富なんですから、当然、三蔵と悟空のことなんて百も承知のはずです。
 そうそう、三蔵の悟空へぶつける思いがあまりにも純粋でストレートで危険ですから、悟浄は心配なのかもしれませんね。悟浄は三蔵が振りむいてくれるまで気長に待つつもりなのかもしれません。
 きっとそうです。悟浄の気持ちや好みは親友であるこの自分が良く知ってます。
 案の上、彼は僕にこう言いました。
「俺の気持ちは長安の森の家で、同居していた頃から変わってねぇ」
 たしかに昔、長安の森の家で三蔵と悟浄は初めて出会ったらしいですからね。『性格破綻美人』なんて、憎まれ口たたいてましたけど、そのときから三蔵にずっと本気だったんですよ。いちずですよねぇ。
「好きだ……八戒」
 珍しく真剣な声でしたよ! 僕、びっくりしちゃいました。まるで自分が告白されたみたいに頭に血がのぼっちゃいました。
 確かに険悪に見えて三蔵とは仲がよかったですからね。ケンカするほど仲がいいってやつですかね。思えば悟浄はずっと三蔵のことを視線で追ってたような気がします。
「俺の気持ち、分かってるよな八戒」
「……知ってます」
 悟浄が三蔵のことを愛しているなんて、とっくに知ってますよ。よっぽどそう伝えたかったんですけど、喉まででかかったのをガマンしちゃいました。
 そんな僕を見て悟浄ったら、
「今度、ちゃんと返事もらっちゃうからな」
 いたずらっぽく笑ったんです。僕、知ってますよ。こんなふうにおどけていうときは相当真剣なときだってこと。おおっ。これは三蔵にちゃんと告白する気なんですね! 

 頑張ってください悟浄、応援してます。ちゃんと三蔵から返事をもらってくださいね。

 僕、ほんとーに直接そう言ってはげましたい気持ちでいっぱいでした!
……でも、三蔵は悟空が好きなんです。人間関係が複雑すぎて頭がパンクしそうです。ああ、僕は仲間のみんなに幸せになって欲しいだけなのに、どうしたらいいんでしょう?





腐男子八戒さん(5)へ続く