ハルシネィション(24)

「あの男には罰が必要だよね」
 あの男。
 あの男とは誰なのか。
 ニィの背の高い不穏な影が倉庫の床に伸びる。下品な冗談を言うメフィストフェレス。酒場でワルツを踊る軽薄な悪魔にも似た姿だ。
 古びた木の箱を両手に抱えている。かつてその箱を患者たちは極度におそれ、怯え、それを持ち出しただけで医師や看護師の言うことをなんでも聞き入れた。

 電気痙攣器。電気ショック療法。
 電気をひとの脳に通そうなどと、いったい誰が最初に思いついたのか。

 昔、てんかんの患者は精神分裂病にならないとされていた。
 脳内にめぐらされた神経細胞(ニューロン)は電気的な信号を送りあってバランスよく繋がりあっている。これが何かのきっかけで崩れ、電気的な激しい乱れが生じるのがてんかん発作だといわれている。 

 このてんかん発作を人工的に起こすのが電気ショック療法である。

 現在、電気ショック療法は耳ざわりのいい 「ECT」 と名称を変えている。近代的で清潔なメンタルクリニックの説明ではそうだ。
 
 それは嘘だ。

 「ECT」 電気ショックはそんな 「おキレイな」 理論のもとに開発された療法ではない。
 薄暗くも動かしがたい真実が歴史のはざまに埋もれている。
 1930年代にイタリアの神経学者チェルレッティによって電気ショック療法は開発された。暴れる豚を殺すときに脳へ電気を通すと、とたんに大人しくなる。それを人間へと応用したのが 「電気ショック療法」 である。
 もともと、豚殺しの技術であったのだ。
 当時、最大出力で実に460ボルトが患者の脳へ通電されていたという。
 
 「電気ショック療法」 とは精神医学。いや精神外科が発展しようとしていたときの暗き名残だ。果たして精神疾患とは脳の電気的な不均衡が原因なのだろうか? 我々は自分の脳内で何が起きているのか実際には知るすべもない。そう科学とはある意味、結果論である。表面で起こる現象をもとに推察しているにすぎないのだ。

 人体実験ができないのなら、だが。

 ニィはそのまま 「電気痙攣器」 の箱を抱えると、倉庫から出た。
 微細なほこりが廊下に舞うのが、薄く開けられた窓ガラス越しの光で見える。ドアはひどく重々しく陰鬱だった。
 風通しの悪い空気から解放されて、廊下へと足を向ける。閉鎖病棟の4階だった。ほとんど荷物置き場と化していて、すれ違う医療スタッフの姿もない。
 顔を上げると八戒の閉じ込められていた鉄格子の保護室が目の隅に写る。403号室だ。
 あの部屋であの黒髪の男は秘密裏に調教されていたのだ。洗脳を受けてあんな性奴隷じみた存在になってしまった。
 天井の蛍光灯はもう切れかかっているとみえ、ぼんやりとしてはっきりと点かない。頭上でちらちらと明滅して目ざわりだった。
「洗脳ねぇ」
 ニィがほくそ笑む。何かをたくらんでいる笑いだ。
「洗脳するなら、おクスリだけじゃ不十分じゃないの? 院長センセ」
 葬儀を楽しみにするカラスの笑い。ニィのメガネが蛍光灯の不気味な光を反射して白く光った。
「どうせなら、ボクがアンタの洗脳、完璧にしてア・ゲ・ル ♥ 」
 低い、低い笑い声がその唇から漏れた。それは不吉な音律を伴って精神病院の廊下へと反響し、いつまでたっても終わらなかった。
「感謝してよね」
 うそぶく言葉を白くすすけた廊下だけが黙って聞いていた。



 
 死者に群がる不吉なカラスに似た男。そのくせ、踊る骸骨のごとき軽薄さがその精神に内在している。そんな黒髪でメガネの白衣の医師。それがニィ健一だ。
 彼が階下のエレベータへ足を向けると、周囲の看護師たちすら、そっとその姿から目をそらした。黒く光る鋼のカマがその背に見えそうだったからだ。
 三蔵も死神めいているが、どちらかというと死を宣告する不吉な神か天使に近い。神々しいのだ。
 しかし、この閉鎖の黒髪の医師については邪悪な死神か悪魔かとしか思えなかった。
 
 ニィが地下の宿直室のドアを開けると、赤い髪をした同僚の姿があった。紅孩児だ。彼は何故か一瞬、ニィを見て緊張した表情を浮かべた。まるで悪事が露見した少年のような顔つきだ。
「ん? どうかした? 」
 ニィはその紋様のある顔へ、ちらり、と視線を走らせた。最近、この若先生はおかしい。とにかくぼんやりとしているのだ。たぶん、今も考え事にとらわれていたのだろう。何を考えていたのか。女か。しかしこんな清廉潔白な紅先生に限ってそれはないだろう。
「そんな、何も写らない画面ナンカみてて、楽しいの? 」
 うさぎ柄のマグカップをスチール製の棚から出すと思わず呟いた。そう、紅先生は真っ暗な画面を見てぼんやり考えごとをしているのだ。おまけにニィの問いに返答らしい返答もせず、また妙な言葉を返してくる。
「この監視カメラは修理しないのか」
 あくまでもさりげなさを装った声だった。
「え? ああ、ソレ? いーのいーの気にしちゃだめよーん」
 軽薄な返事をニィが返す。確かにこの画面が写るなら、どんなに淫らな光景が今まで写っていることだろう。
「そうか」
 また、ふたたび紅孩児はふさぎこむように黙りこんだ。不可解な反応だった。ニィはこの清潔な若先生が院長と八戒の情事を盗み聞きするのを日課にしているなどということには気がついていなかった。メガネのレンズ越しに赤毛の同僚をじっと見つめる。不可解だった。
 自分の片手で頭を軽く掻くようなしぐさをすると、そっと手にしていた木の箱を宿直室の自分の袖机に置いた。幾人もの患者の記憶を奪い、人権を奪い、尊厳を奪ってきた悪魔的な医療機器。器械に罪はない。罪があるのはいつでもそれを使う人間次第なのだ。
「夕方、お前が来るなんて珍しいな」
 紅孩児がぼそっと呟いた。
「え、そお? あっ、そーかもね。いやー夕方はやっぱりダルイよね」
 ニィは引き出しを閉めた。硬質な金属音を立てて袖机がかすかに揺れた。「電気痙攣器」 と記された白い札がまるで秘密めいたきらめきを放って視界から消えた。

そのときだった。

「おや」
 足音が廊下から響いてくる。とはいえふたりのいる宿直室へは足も向けそうにない。迷いのない歩調でリノリウムを踏む革靴の音。
「おいでなすった」
 ニィが胡乱げな目つきで音のする方をにらんだ。白くメガネのレンズのふちが光る。
「今日は早いな」
 紅孩児も呟いた。確かに早い。まだ完全に夕食も配膳されていないのではないか。日も落ちてない。そんな時間なのに華麗な死神の足音がする。
「自分のオシゴトとか書類とかはいいのかねェ」
 白衣の袖を指でめくり、ちらり、とニィが腕時計へ目を落とす。まだ5時だ。
「明日から学会だそうだからな」
 紅孩児が返事というわけでもなく声を返した。もの憂い表情で考え事をしている。白い白衣に縛った長い髪が鮮やかで、清廉な青年医師のたたずまいは相変わらずだった。
 しかし、最近、何かにこの若先生は憑りつかれているとしか思えない。
「へぇ。院長の出る学会って明日なんだ」
 ニィは口の端をつりあげるようにして笑った。金の髪をした死の天使の足音は段々と廊下の奥へ遠ざかって小さくなってゆく。急いでいる足どりだ。
「こんなに早く来ると」
 紋様のある頬にうっすらと朱がさした。何かに若先生は思い至ったらしい。
「ん? ナニ? 」
 電気痙攣器をしまった袖机へ目を落としながら気のないそぶりでニィが聞きかえす。問われて途端に紅孩児はうろたえた。
「い、いやなんでもない」
「ふうん? 」
 そのまま落ち着かない様子で若先生は写らない監視カメラの画面をふたたび、じっとその紅の瞳で熱っぽく見つめだした。黒い画面は殺風景な蛍光灯の光を反射して無粋な宿直室の壁を鏡のように映しているだけだ。面白いものが写っているとも思えない。
 ニィは首をかしげた。そのまま、紅孩児が返事もしなくなったからだ。
 不可解な紅孩児の行動は少し気になったが、ニィにはもっと気になることがあった。そう、復讐の日がとうとう来たのだ。そしてそれは明日なのだ。
 くぐもったひとの悪い笑い声を喉で立て、うさぎのマグカップにインスタントコーヒーのためのお湯を注いだ。いよいよ裁きの日がやってくる。

 


 八戒の病室の前に三蔵が訪れたとき、
「んんっ……さんぞ」
 舌ったらずな甘い声が廊下まで聞こえてきた。三蔵はその紫色の瞳をより大きく見開き、病室のドアの前でカードキーへ伸ばした手を止めた。思わず聞きいってしまう。ドア越しに八戒の蕩けるような声が漏れてくる。
「あっあっ」
 ぐちゅぐちゅ、粘液をこすりつけるような音だった。ぐぷ、ぐぷ、ひどく卑猥でいやらしい音が漏れだした。
「はぁ、あっ」
 オスの本能を貫くような淫らな声だった。聞いているうちに思わず身体が熱くなってくる。三蔵は思わず片手をドアへついた。白衣に包まれた袖が揺れる。
「抱いて……抱いて」
 甘い甘いおねだりの声。誰を想像して自慰をしているのか、あきらかだった。後ろに自分の指をいれて穿っているのだろう。
「あ……届かな……っ」
 悲痛で卑猥な……ひととも思えぬ淫らさだった。三蔵の耳から毒のごとく脳髄まで官能で真っ赤に染めあげてゆくような媚薬みたいな喘ぎ声。
「奥がぁ……ああっ」
 奥が疼くのだろう。とうてい自分の指では届かない奥が疼いてたまらないのだ。三蔵の硬くて長いモノで奥まで貫かれたい。奥までこじあけて犯されたいのだ。そんな淫らなことを身をよじってねだっているのだ。
「ああっああっさんっ……」
 身もだえしている。細い腰をくねらせて獣のように前後にふって尻を揺らしているに違いない。思わず三蔵はネクタイをゆるめた。息が荒くなってゆくのを止められない。
「さんぞ……さんぞ」
 自分の名前を呼ぶ、口説き文句のごとく甘い声に誘われるように、カードキーを電子錠へさした。
「……あ」
 開錠の電子的な音とともに、ドアが開かれる。瞬間、三蔵の目に飛びこんできたのは、ひどく淫らな八戒の姿だった。甘い気配が部屋を満たしている。心なしか空気までもが淫猥で桃色じみた色彩を帯びていた。
「あぁっ」
 八戒の病衣は乱れきっている。彼はうつぶせになって尻をドアの方へ向けていた。薄青い病衣から見え隠れする上気したピンク色の肌がひどく官能的だ。尻を突きだして、傷のある腹の方から手を伸ばし、指で自分のひくつく孔を穿っていた。
「やっ……」
 行為に夢中で八戒はドアが開いたことに気がつくのが遅れた。一瞬のことだった。
 院長先生はその白皙の顔にひとの悪い笑みを浮かべ、思わず唾を飲みこんだ。八戒の姿はそれほど淫猥だった。清廉で清潔そうな学校の先生みたいに知的な青年がするとは思えぬ卑猥な姿だった。
「これはいい見世物に出くわしたな」
 かつて言ったことのある言葉を気がつけばもう一度、言っていた。はじめてあった月食の夜。あのとき、この黒髪の青年は清楚だった。清廉で自分を慰めることになど慣れていなかった。たどたどしい指の動きがひどく可憐だった。
 しかし、今は。
 三蔵に穿たれるのを覚え、調教され、身体の隅々にまで快楽を叩きこまれている。反応が激しい。玄人の売女だって裸足で逃げ出すだろう。口端から涎を流して身体をわななかせて快楽に溺れきっている八戒はひどくなまめかしい。
「なんだ。そのまま続けろ」
 情欲の色濃くにじんだ三蔵の言葉を背に受け、八戒は尻を小刻みに震わせている。
尻まで赤みがさしてピンク色だ。ひどくいやらしい。
「あふっ……」
 うつぶせのまま、身体を支える四肢が震えた。三蔵に色キチガイみたいに自分を慰めているところを見られてしまった。これだけは秘密にしたかったのに知られてしまった。ひくん、と八戒の指をくわえたまま、卑猥な孔がひくついている。
「ああっああああっあっ」
 そのまま孔をひくつかせて、八戒は達した。前から白い精液がほとばしる。犬のようにうつぶせだが、もうそれは腹につくほどにそそりたっていた。八戒が精液を噴き出すたびに、尻孔がぴくぴくと淫靡にわななく。
「あああああああっ」
 もう、我慢の限界だった。さすがに見ていられなかった。
「チッ」
 三蔵は舌打ちをすると、白衣も、その下に着たスーツもそのまま、ベルトを緩めて八戒の背へとのしかかった。もっと焦らしたかったが、この淫ら過ぎる黒髪の男は限界まで男が欲しくて蕩けきっていたのだ。しかも自分の恥知らずな指で。
「ああぅっくぅぅっ」
 射精しているのに、背後から貫かれた。奥まで激しくかきまぜられる。ずちゅ、ちゅ、くぷ、ぷ……いやらしい音が空気を孕んで鳴った。
「ああああ……んっ」
 三蔵の動きに合わせて尻をふった。前後に左右に腰をくねらせてすりつける。いやらしい粘膜がぴったりと吸いついてくる。三蔵は思わず奥歯を噛みしめた。いきなり快楽が深すぎた。
「はぁ、あっっあっ」
 亀頭から白い体液を滴らせたまま、三蔵に激しく身体を開かされ抱かれる。咥えこまされた肉棒を八戒の粘膜はうれしそうにきゅうきゅうと絡みつき締めつける。
「……ドスケベが」
 悪態を吐く唇は、言葉とは裏腹にどこか愛おしそうに笑みを描いている。トロトロに蕩けたあげくに三蔵に突っこまれて、八戒の肢体は淫らに震えた。がくがくとわなないている。快楽のあまり痙攣を起こしているのだ。
「ナニをしてた。俺がついさっきまで仕事してるってのに、オマエときたら」
 三蔵は背後から貫いたまま、八戒のカフスのはまった耳たぶを舐めた。赤い舌が這った瞬間、ぞくん、と八戒の背筋が白い快楽の炎で焼かれる。
「あ……」
「言え。何をしていた」
 そのまま、三蔵は腰の動きを止めた。じりじりと炙られるような行為に八戒が眉根を寄せる。悩ましい表情だったが、三蔵からは見えない。
「え……? 」
 快楽で蕩けた脳は、三蔵の言葉をにわかに理解できないようだ。とまどったような声を漏らして腰をくねらす。
「お願……いっ」
 歯を食いしばっている。貫かれた快楽が強ければ強いほど、オアズケされることに我慢ができない。
「うごい……てぇ」
 恥ずかしいおねだりをくりかえす。すがるように後ろを流し見た。三蔵はようやく緩めたネクタイを外して床へ放り投げたところだった。そのくせ、八戒を穿ったまま腰は動かしもしない。
「俺が仕事してる間、テメェはナニしてた。言え」
「う……」
 ネクタイに続いて、三蔵は白衣を脱ごうとボタンを外している。勢いよくやり過ぎて、ボタンがとれそうだ。
「自分で……自分を……してまし……た」
 三蔵は許さなかった。
「もっと具体的に言え。自分のナニをどうしてた」
 三蔵は白衣の袖から腕を抜いた。そのままベッドへと落とす。どうせ、明日の学会にはこの白衣は着てなどいけない。
「許し……て」
「言わないとやらねぇ」
 腰を一瞬、揺らされて八戒が嬌声をあげる。
「ひぃっ……っ」
 蕩けるような表情で快楽を味わっている。三蔵の硬くて熱いものの感触を確かめるように、きゅうきゅうと恥知らずな粘膜で締めつけてしまうが、もうどうしようもない。
「すっげぇ」
 三蔵が快楽のあまり眉を寄せた。油断すると放ってしまいそうだった。
「ああっ……んんっ」
 病衣のすそから見え隠れする八戒の胸元で乳首がとがっている。興奮しきっているのだろう。感じやすい身体だった。
「自分の手で……自分の……を……触って」
 八戒がたどたどしい口調で呟く。夢遊病者のうわごとに似ていた。恥ずかしい淫語も言わされ、頬を染める。唇がわなないた。
「後ろの孔を……僕の……で」
 後ろの孔を自分の指で穿っていたことも白状させられ、八戒は薄っすらと涙ぐんだ。生理的な快楽の涙がないまぜになった涙だ。
「俺の名前を呼んでいたろうが」
 三蔵が八戒の衣をよりくつろげて緩めた。ピンクに染まった白い裸身がよりあらわになる。
「どうしてだ」
 ぺろり、としなやかにたわむ背を舐めた。身体をより前傾させたので、繋がった部分が擦られる。
「はぁっはぁっ」
 思わず自分からすりつけるようにして動こうとして、三蔵に尻を叩かれた。
「あああっ」
 叩かれると、中で肉棒が粘膜にあたって揺れる。その感触にぞくりと背を震わせた。もう、何もかもが快楽へと変換されてしまう。
「どうして俺の名前を呼んでた。言え」
 命令口調のくせに、どこか甘い。睦言にしか聞こえない調子で三蔵が背後から貫いたままささやく。
「ほしく……て」
 八戒がたどたどしい調子で呟く。
「どこにだ」
 三蔵が八戒の耳の裏側へキスをした。濡れた音が立った。
「奥……に」
 いやらしい告白をさせられていた。八戒は目をつぶって、顔をいっそう伏せた。羞恥で頭が煮られそうだった。もう飛びかけた理性が一瞬、戻ってきたのだ。
「奥が……疼いて……さんぞ」
 甘い甘い口調だった。だんだんとおねだりの調子を帯びてきた。
「僕の……指じゃ……とどかな……て……それで」
 泣き声が混ざる。悲痛で甘い声だ。
「さんぞ……が……さんぞので」
 喘ぎ喘ぎ吐息まじりの声が卑猥な言葉をつむぐ。
「さんぞの……で」
 そのとき黒髪を揺らして、八戒は後ろを流し見た。
「さんぞの……で……かきまわし……て」
 凄艶な流し目だ。
「僕の……奥まで」
 整った唇から涎が滲み、快楽の涙が目尻を伝う。
「僕の……奥まで……欲し……」
 蕩けた表情で八戒は三蔵にすがった。これではまるで。これではまるで。
誘惑だ。
「八戒」
 三蔵の声がうわずった。いつの間にか下僕の報告は誘惑へと化けていた。ズボン以外は素肌をさらした三蔵は、そのまま八戒の腰を両手でつかむと、自分の腰を深く進めた。いやらしい濡れた淫音が響く。
「ひぃ……っ……っ」
 思わず、支えきれなくて前のめりに倒れそうになるしなやかな肢体を、三蔵の力強い腕が支えた。尻だけ高くあげさせられた恥ずかしい後背位で犯される。尻がふたり分の体液で濡れて光った。
「さんぞ……さんぞ」
 うわごとめいた甘い八戒の声が漏れる。
「さんぞ……好……き」
 蕩けるような口調で告げられた言葉に、三蔵が背後からささやいた。
「俺もだ」
 誓いのごとく、院長先生は患者の耳元へキスをした。行為の淫らさとは対照的に、聖性すら感じさせるような真剣な表情を院長は浮かべている。三蔵が身体を倒したので、一瞬、性器が抜けそうになり、カリの太いところで敏感なトコロを舐めまわされた。
「ああっああ……あっ」
 甘い声は止めようもなく漏れ、八戒が身をよじり腰をくねらす。交合しているところから、白い体液がにじんでベッドに滴った。
「抜かない……で」
 淫らなおねだりがすがるように告げられる。その緑の双眸からは透明な涙をぽたぽたと落としている。感じすぎだ。
「イイ……あっあっイイっさんぞ……っ」
 自分からイイところにすりつけだした淫らな腰の動きを叱るように、三蔵が穿つ動作を激しくしていった。

 
 



「ハルシネィション25へ続く」