ハルシネィション(13)

みんなみんなこの黒髪の悪魔のせいなのだ。

 三蔵の声はぞっとする冷たい響きを帯びた。
「全部お前のせいだろが」
 大切なのに許せない。愛しているのに憎い。自分より大切なのに、粉々に壊してしまいたい。相反する気持ちの間で、いつの間にか三蔵は深みに嵌っていた。恋の闇路、恋情の地獄というやつだ。
 捕らえたはずなのに、いつの間にか逆に捕まっている。これではミイラとりだ。ミイラをとりに行ったのに、気がつけば自分がミイラそのものになっている。
「クソ……」
 三蔵は、指を一度引き抜くと、白衣の懐から小さい袋を出し、白い粉を塗しだした。
 八戒が目を見張る。こんな光景を以前、見た気がする。三蔵は白い粉を塗した指をもう一度、埋め込んだ。ぬぷ、くちゅっ。ゆっくりと抜き挿しされてゆっくりと弄ばれる。
「………う」
 ようやく与えられる快楽に、八戒が吐息を漏らす。残酷な調教を長い間受け続けてきた身体は、どうしても腰を揺らして三蔵が与えるものならどんな小さな快楽でも追ってしまうのだ。
 じわりじわりと三蔵が指を埋めたあたりが熱を帯びてきた。
 そして、
「…………!」
 突然、強烈な官能の炎に炙られる。びりびりとした快楽が背筋を這い、脳を白く焼いた。
「さ、さんぞ」
 もう、唇も閉じられない。壮絶な快楽に舌が痺れる。とろとろした唾液が口端から伝う。
「ああ、ああッ」
 じわり、と背中に快楽の汗が浮いた。腰奥の凶暴な熾き火が一気に燃え上がった感覚に襲われる。
 これは。
「こんな……って」
 おかしかった。目の前に快楽の粒子が舞い散り視界が真っ白になる。強烈だった。脳内の神経が過剰に膨らみ、快楽を倍にして狂ったように流し込んでくる。神経シナプスが焼けきれるような快美感に背筋から犯された。
 媚薬だった。医療用覚せい剤。D−メタンフェタミン、ケタミン、塩酸ヨヒンビンのカクテルだ。三蔵が先ほど指に塗りこめていたのは、媚薬だったのだ。
 初めてあった月食の夜、三蔵は八戒に睡眠薬を塗りこめて眠らせた。あのとき、三蔵は「センセイに可愛い声を聞かせてくれたご褒美だ」と言った。あれは『ご褒美だった』。しかし、今、施したのは強烈な媚薬の粉剤だった。
 これは、
――――罰だ。罰の一種だった。
 もう、腰が崩れて、ひくひくと尻がくねってしまう。内股をすり合わせて快感に耐えようとするが叶わない。
「淫売が」
 三蔵の冷たい、いや、冷たい癖に情欲を孕んだ声が八戒を責める。肉の環に沿って指をぐるりと回す。
「さんぞッ」
 おかしかった。身体がおかしい。蕩けてしまう。もう、いつもの何倍も何倍も。骨まで、神経まで茹だってしまったようだ。
「また、ガチガチに勃ってるな、お前」
 三蔵が嘲笑った。指摘どおり、八戒のはもうこれ以上ないくらい張り詰め、蜜を先端から垂らしている。
「すげぇ」
「さんぞ、さん……」
 助けて、と言いたいが声にならない。神経がひどく過敏になっている。肌に息を吹きかけられただけで達してしまいそうだ。
 腰が動くのを止められない。三蔵の指を咥えこんだまま、男が欲しいと蠢かせてしまう。眩暈がしてくるほど淫乱な所作だった。背骨まで蕩けてしまっていた。髄の髄まで、淫らに沸騰して焼けるようだ。指を咥え込んだ後孔がきゅうきゅうと切なげに締めつける。
「娼婦以下だなお前」
 白衣を着た死の天使の、酷薄そのものの唇から、冷たい言葉が漏れる。
 強烈な感覚に唇を噛み締めていた八戒だったが、三蔵に挿入されていた指をくの字に曲げられ、囁かれると限界だった。もう、何しろ三蔵の囁く声にすら感じる。低い低音の声に耳から犯され、中枢神経を嬲られ焼き尽くされるようだ。
「下さい。さん……ぞ」
 その切なげな言葉を聞いて、後ろを弄んでいた三蔵の指が外された。石榴色の粘膜は名残惜しそうに絡み付こうとして失敗し、抜かれて肉の環がひくひくと震えている。
 既にその節の立った指に塗された粉薬は、八戒の粘膜に残らず吸収されたらしく残っていない。男にしては長めの指が八戒の体液をまとい天井の蛍光灯の明かりを反射して塗れ光っている。
「さんぞ」
 耐え切れなくて、とうとう八戒が身体ごと縋りつく、恥ずかしいという概念はとっくに脳から消し飛んでいる。翡翠の瞳は生理的な涙で濡れて光った。
 三蔵は白衣の前を邪魔そうに払い、ベルトのバックルを外した。八戒の痴態を眺め続けて既に張り詰めきった肉隗が飛び出す。自分の先走りの体液で濡れた凶暴な怒張を八戒の顔に擦り付けた。透明でとろとろとした粘凋な体液が黒髪の男の整った顔を汚す。
「言ってみろ」
 八戒は耐えられなかった。腰奥が疼いて凶暴な官能に絡め取られる。思わず、本能のままに舌を伸ばして、三蔵のを舐め啜ろうとして失敗する。叱られた。黒い艶やかな髪をわしづかみにされて阻まれた。首輪に嵌められた鎖が高い音を立てる。
 今夜の三蔵は機嫌が悪い。一緒にタルトケーキを食べていたときはあんなに優しかったのに。
「挿れて、さんぞッ、指じゃなくって」
 髪をわしづかみにされたまま、ほとんど悲鳴に近い声で八戒は縋った。哀願した。まるで、人ではなくて淫らで美しい獣のようだ。
「だから、あなたの……」
 後半の言葉を八戒は真っ赤になりながら、三蔵の耳元で囁いた。男性器の卑猥な俗称をその整った唇に上らせる。
「イれて、さんぞ……ので……」
 震える指で、後ろの孔を自分で拡げて見せる。わななく粘膜が淫らに男を誘うようだ。吐息まですっかり熱く熟れていた。三蔵が欲しくて欲しくてもう、とても我慢できない。
「さんぞ……」
 欲情に濡れた声だった。いつも、三蔵はこのあたりで許してくれるはずだった。
 しかし、今日は違った。その言葉を聞いて金髪の男は逆に手を振り上げた。そのまま、八戒の頬へ平手を放つ。
「分かってねぇな。てめぇ」
 低音の凄みのある声だった。激昂している。首輪につながっている鎖をつかまれた。そのまま立ち上がった三蔵に力まかせに引きずりまわされる。
 一瞬、首が絞まり、八戒が目を剥く。喉へ手をやり、激しく咳き込んだ。
「淫売が」
 三蔵がようやく鎖から手を離す。鎖の落下する冷たい金属音が壁のタイルに響いて反響した。
 上から見下ろす、紫暗の視線が刺すように冷たい。唾を裸の背に吐かれた。このままだと、蹴られて踏みつけられそうだ。
 いいや、三蔵がもしタバコでも吸っていたら、間違いなく八戒の背で踏み消していることだろう。そのぐらい院長は自分を失っていた。
「俺は誓えって言ったろうが」
 打たれた頬が痺れるように痛む。咳き込んだため翡翠色の瞳により涙が滲み、銀の糸のごとく頬へと流れ伝った。
「誓え」
 何故、こんなことを言われるのか、八戒には分からない。既に強い薬で意識にしゃがかかり朦朧としている。
 既に思考回路が麻薬に支配されていて、三蔵の言う言葉の意味が正確に理解できない。言葉が通じないところまで快楽に脳が白く染め上げられている。神経系が過剰に溢れた脳内物質にどっぷりと漬かり、囁かれただけで達してしまう。
 頬を打たれても、いや打たれたこそかもしれない、打たれた刺激でさえ、射精してしまいそうだ。何をされても悦がり抜くことしかできない。甘い強烈な疼きに喰い尽くされそうだ。強烈だ。まさに媚薬、いや麻薬だ。

 そんな事ぐらい、医者なら、三蔵は分かっているはずだ。
「俺に誓え」
 八戒は這うようにして三蔵の足元に縋った。震える白く長い腕で三蔵の白衣の下、ズボンに包まれた脚を捕らえようとする。艶かしい奴隷のように縋った。三蔵の言葉に必死になって肯いている。
 麻薬まで使われて精神と身体を官能の炎で焼かれ続けて苦しい。白いしなやかな背にうっすらと汗が滲む。低温の火でしつこく炙られるような強烈な情欲に支配されている。
 上目遣いに三蔵を見上げた。生殺しにされ続けて、その緑の瞳は欲情で濡れに濡れていた。
「さんぞ……」
 三蔵は八戒の目を覗くように屈みこんだ。白衣の裾が床を擦った。八戒のおとがいを捕らえて上を向かせる。地を這う緑の目をした美しい悪魔と地獄に舞い降りた死の天使といったところだ。
 呟くように三蔵は言った。
「俺だけにしておけ」
 それはどこか、悲痛な声だった。
 そのまま、ゆっくりと八戒を抱き寄せる。黒髪の妖美な男はすかさず、しがみつくように三蔵の背に腕を絡ませた。白衣を必死でつかむ。
「さんぞ……だけ」
 金糸の髪に半分隠れている耳に唇を寄せて、喘ぐように告げた。三蔵に媚薬を塗られた淫らな孔は生き物のようにわななき、蠢き、腰から下に蕩けそうな感覚を伝えてくる。
 三蔵が欲しい。肉欲のままに三蔵が欲しかった。埋めて欲しい。張り詰めきり、触れてもらえなくとも放ってしまいそうだ。八戒は薄く目を閉じた。美しいその腕を院長の首に回して、自分の方へと引き寄せる。
「さんぞ……だけ」
 情欲に溺れるまま、喘ぎともつかぬ口調で三蔵の耳元へ囁く。
「さんぞ……だけ……だから」
「誓うか」
 八戒の白い裸身を三蔵は強く抱きしめた。砂漠で乾く人が水を求めるように、八戒の言葉を求めていた。
「ちか……ま……す」
「俺だけなんだな」
 八戒は抱きしめられたまま、強く首を縦に振って肯いた。欲情しきった身体を押し付けるようにして三蔵にしがみつく。
「さんぞ……だけで……」
 それは、甘い誘惑に等しかった。金糸の髪に見え隠れしている耳元へ、八戒は誓いの言葉をひたすら囁き続けた。
 誓いの言葉は催淫薬によく似た働きをした。いままで身に燻っていた情炎が業火となって、三蔵の理性を焼き尽くす。
 院長はそのまま、八戒に誘われるようにして身体を倒した。


「あ……!」
 白く節の立った指が、八戒のに触れたとたん、限界を超えた快楽に促されるまま、白い体液を放ってしまった。
 とろとろと、三蔵の手に伝わり流れる。
「すげえ」
 暗紫の瞳で下僕、いや今や性奴隷と化した男の顔を覗き込む。
「もう、我慢できねぇのか」
 できる訳がなかった。三蔵が施した薬は甘いものではない。薬理作用の全てが八戒の快楽中枢を蝕み、侵食している。身体を仰け反らして、与えられる快感に耐える。
 震える手を三蔵に伸ばす。全身で求めていた。そんな八戒を見つめたまま、院長は着ている白衣から腕を抜いた。無造作に床へと落ちた。
「八戒」
 端麗な唇が近づき、口づけを求められる。八戒は迷わず、相手を引き寄せた。整った唇へ三蔵の唇が重なる。歯列を割って舌と舌を絡ませる。接吻はあっという間に淫らなものに化けた。
「う……」
 重なる唇の間から漏れる吐息が熱く病室の空気を満たしてゆく。舌は今や桃色の卑猥な器官と化していた。
 直前まで一緒に食べていた、タルトケーキの甘い生クリームの残滓がお互いの舌や口腔内のどこかに残っていて、唾液を通じて伝わってくる気がする。甘い。それに三蔵の嗜癖である煙草の匂いが微かに混じる。
 院長は身体の下に敷き込んだ八戒と唇を重ねたまま、白衣の下に着ていたシャツのボタンを外す。
「さん……ぞ」
 唇が少し外された隙に、甘い吐息混じりの声で呼んだ。あらわになってゆく三蔵の肌へ下から手伸ばす。そのまま指を這わした。
「ああ……」
 金糸の髪の男が、その求めに応じるように、艶やかな黒髪の光る頭へ大振りの手を伸ばし、そのまま幼児にするように撫でた。くしゃくしゃと無造作に髪が乱れる。三蔵の白いシャツが白衣の上に重なるようにして落ちた。
 八戒の長くしなやかな両脚を強引に開かせた。今まで、指で穿ち、白い粉剤を塗して蕩かした孔がひくひくと震えている。
「さん……!」
 三蔵の熱を押し当てられた。
 熱い重量を持った楔が打ち込まれる。声にならない声で八戒が喜悦とも悲鳴ともいえない声を上げた。
 そのまま激しく穿たれた。重なる粘膜と粘膜が悦楽で震える。中で回転して練るような動きをされて、黒髪の男は眉根を寄せて悦楽の声を漏らす。尻をまわすような動きで打ち込まれた。
「ひ……」
 奥の奥まで。肉冠の嵌った先端から透明な先走りの体液があふれ、肉筒の中を淫らに潤してゆく。じゅ、じゅぼと淫ら過ぎる音がたった。ぎりぎり抜けるほど腰を引いたかと思うと、次の瞬間奥まで打ち込んでくる。
 八戒が快感に耐えようと奥歯を噛み締めた。もう、快楽なのか、苦痛なのか分からないほどの感覚に惑い、酔い、狂わされる。
 奥まで穿たれ、挿入された硬い肉棒を反射的な動きで粘膜が締め付けた。わななき、痙攣する動きで、緊張と弛緩を繰り返し、その反復はひどくなってゆく。
「すげぇ」
 三蔵は眉根を寄せた。
「……しゃぶりついてくる」
 強烈な快感に唇を噛み締める。もう、そこは八戒とは意思を異にする軟体動物のようだ。三蔵のオスを喰いたい喰いたいと喘ぎ、のたうち、劣情を引き出すことに汲々としている。
「う……」
 三蔵が白い片足を肩へと担ぎ上げた。貫かれる角度が変わり、惑乱する粘膜を違う方から擦られる。より前立腺に近いところに、三蔵のエラの張った部分がかすめ、強烈な閃光のような快楽が八戒の腰から背筋から伝わって、脳髄を焼いた。文字通り、唇から漏れたのは悲鳴だった。じらされてなかなか与えられなかった分、悦楽は凶暴なものに化けていた。
 いや、もう今や悦楽と呼ぶのも生ぬるいほどだった。圧倒的な感覚が性的な中枢を狙いすましたように穿つ。
 三蔵はゆっくりと八戒の反応を確かめるように抜き挿しを繰り返している。その度、身体の下でしなやかな裸身が仰け反り白い首筋が震える。下から合わせるように腰を使って快楽を追った。三蔵の動きに合わせる。穿ってくるのに合わせて腰を突き出す。
 交合がより深くなって、三蔵の唇から快楽の呻きが漏れる。もう、淫らな腰の動きは止まらない。尻の孔は三蔵を咥え込んだまま震え、妖しくしやぶりついている。打ち込まれる肉塊の形を確かめるように締め付け、震え、痙攣する。額にじっとりと快楽の汗が浮いた。
 三蔵の背がうっすらと汗で濡れてゆく。黒髪の男に、いつの間にか立てられた赤い爪跡がその肌に走る。
「八戒」
 身体を繋げたまま、腕で八戒の上体をゆっくりと抱え起こす。八戒が崩れそうな身体を震わせながら、その求めに応じた。
「くッ……!」
 三蔵は胡坐をかくと、その上へ無理やり繋がったまま座らせた。向かい合わせになって胸と胸、肌と肌を合わせる。対面座位だ。
「ああッ」
 一瞬、抜けそうになって、粘膜が擦られる感覚に狂う。
「動け」
 金髪の鬼畜な院長先生の瞳に嗜虐的な色が浮かんだ。八戒から主体的にされる行為が見たいのだろう。口元が笑みに歪んでいる。
「んんッ」
 ゆっくり、腰を上へと引く、ぞくぞくするような快感に薄く唇を開けてしまう。閉じられなくなった口端から唾液が伝い落ち、舌が震える。
 暫く動きを止めて尻を震わせていたが、再び、ゆっくりと硬いオスの切先へ腰を下ろす。ぐぷ、ぷ、と淫音が立ち、赤い石榴のような粘膜が体液に濡れた肉棒を飲み込んでゆく。
「ひ……!」
 たまらない。三蔵の肩に手をかけてもう一度動こうとしたが、快楽が強すぎて麻酔されたように腰が痺れている。
 先ほど、三蔵の身体の下に敷きこまれて穿たれていた時とは違って、どこか不安定な惑乱を繋がる局部は伝えてくる。打ち込まれるのとは違い、より三蔵の肉棒の容を感じてしまう体位だ。
「あッあ……」
 喘ぐしかなくなった。もう、言葉など忘れたように喜悦に狂う。そこへ生ぬるいとばかりに三蔵の手が伸びた。尻を手で押さえて押し付けるようにして下から穿ってきた。
「………!」
 強烈な感覚に八戒が目を見開いた。びりびりとした感覚が背を走り抜ける。穿たれた瞬間、銀の粉に似た快楽の粒子が脳内を舞った。麻薬まで使われた獣じみた性交に、身体がついていかない。脳が焼け爛れるようだ。三蔵の首に腕を回してしがみつく。
 院長は唇を淫猥に歪めた。腕を後ろについて支えにし、腰を突き上げた。甘い苦痛とも快楽ともいえない声が肉欲を叩き込んでいる相手から漏れる。
 首に腕を回されたので、重心が安定し犯す相手を好き放題にできる。三蔵が八戒のカフスの嵌った耳たぶを舐め、笑い声を漏らす。低音のその声が八戒を嬲った。囁きや声にまで感じてしまう。
「しょうがねぇ。手伝ってやる」
 ぴくぴくと痙攣する粘膜を擦り上げ、ゆっくりかと思うと次は激しく突き上げた。そのまま連続して下から穿たれる。
 悲鳴を上げて、八戒が頭を左右に振った。耐え切れない快楽を逃がそうとあがく。艶のある黒髪が蛍光灯の明かりを反射して煌めいた。それを許さないとばかりに院長が胸の上で尖りきってしまった乳首に触れた。
「……!」
 もう、硬くしこってしまって、快楽というより痛みに近い凶暴な感覚を伝えてくる。三蔵は穿ちながら、淫らに手を這わせた。
 きゅうきゅうに締め上げられる。奥歯を噛み締めて耐えた。そのまま、しなやかな腹の上へと手を這い下ろす。ケロイド状の傷跡が、快楽の汗に濡れて光っている。それは八戒の臍のあたりに横へ引き攣れるようについている。その傷跡を撫で愛すように三蔵の甘い指が這った。
「は……」
 黒い下生えに、その先に、震える屹立に指を伸ばす。三蔵の意図がようやく霞のかかった八戒の脳に伝わり、悲鳴が上がる。
「……!」
 もう、言葉は言えなかった。言葉を言うような余裕は少しも残されていなかった。握り込まれ上下に扱かれる。敏感な裏筋に当たるように指を輪にして擦り上げられる。同時に下から穿たれた。
 食いしばった口元から悲鳴が漏れる。腰奥の性感帯を突き刺し、背筋に快楽が走り抜ける。ぐじゅ、じゅ、穿たれるたび、粘膜がめくれお互いの体液で淫らに濡れ光る。
 三蔵の手の中で、張り詰めきった八戒の快楽は追い詰められ、びくびくと蠢いた。尻孔を犯され、男の欲望を叩き込まれ、前を弄ばれて執拗に嬲られている。
「ああッ」
 八戒の尻が左右に振られた。あまりにもしゃぶりすぎて、三蔵のをいれられ続けて身体が変になりそうだった。
 しかし、その動きで、より感じるところに三蔵のカリが当たり、粘膜の伝える淫ら過ぎる感覚に八戒は狂い、仰け反った。言葉にならない静止の声が上がる。すかさず、続けて打ち込まれる。悦楽から逃げることを許さないとばかりに抉られた。
 三蔵のものがなかで、ぴくりと震える感覚が走る。より硬くなった。きちきちに埋め尽くされる。八戒は首を打ち振った。耐え切れない。
 可憐に小さな口を開けた鈴に似た先から、とろとろと透明な体液が流れ続ける。三蔵の指や手を濡らして光っている。穿ちながら弄び、その白い身体をむさぼった。
「イイ……すげぇ」
 黒髪を打ち振る相手の耳元へ甘く低音の声で囁く。
「すげぇ。お前のをこう」
 ぬぷ、じゅ、と八戒の敏感な裏筋を輪をつくった指で強く擦り上げる。ぬるぬると上下に扱いた。
「!」
 八戒の眉根が、より強く寄せられる。顔が歪んだ。
「……するとコッチが」
 鬼畜な笑みに口元を歪ませて愉しげに笑う。前に性戯をしかけると、八戒の後ろはきゅうきゅうに締まった。三蔵の容を変える勢いでしめつけてくる。三蔵の性器に走る血管の脈拍までも粘膜に伝わり、八戒を狂わせる。
「うれしそうに、しゃぶってんじゃねぇよ」
 腰をそのまま揺する。繋がってる相手にもそれは伝わり、犯している剛直が内部で揺れる。絡みつく粘膜が反応して震えた。
「ひ……」
 繋がったまま、上体を仰け反らす。
「ああッああッ」
 八戒の身体が緊張して尻が震える。腰が動いた。射精前の慄(おのの)きが屹立に走り、白い快楽の証がほとばしった。
 薄く半開きになった唇から、悦楽の、逐情の声を漏らし続ける。尻を震わせて何回かに分けて吐き出そうとした、その瞬間、三蔵が待てぬとばかりに下から打ち込んできた。
 まだ射精しているのに、穿たれる。三蔵の腕の中で八戒は喘ぎ狂った。言葉にならぬ言葉を呟き、喘ぎ、三蔵にしがみつく。前立腺がおかしくなりそうだった。
 ぐじゅ、ぐじゅ。白い精液が八戒の棹から伝い、三蔵を咥えさせられているところまで落ちてゆく。対面座位で繋がっているので、快楽の飛沫は三蔵の腹筋にも飛び、濡らした。吐精して力の抜けた八戒の身体を腕で支え、許さないとばかりに突きあげる。
「まだだ」
「……ッ」
 揺すられるまま、黒髪が舞い踊り、目元を朱で染めて凄艶な表情で喘ぐ。しかし、どうしても崩れる腰を、三蔵は両腕で支え、強引に尻をつかんで自分が下から穿つのに合わせて押さえ込むようにする。
「あ……」
 蕩けきった八戒の上体が揺らぐ。腰や下肢を支えても、達しきった身体はぐずぐずに崩れてしまう。
 院長は軽く舌で唇を舐めると、目の前で喘ぐ淫らな獲物の背を抱えるようにして、そのままゆっくり再び床へと倒した。身体を繋げたまま、引き倒す。ぐぷ、と空気が入って卑猥な音が交接している箇所から漏れる。
「八戒」
 三蔵の身体をはさんで両脚を大きく開き、自分の膝上に尻をのせさせて犯した。やや無理な体位に三蔵のが抜けそうになる。粘膜と粘膜が擦られ引き抜かれる感覚に八戒が悶絶した。
「ひ……ぎッ」
 金の髪の男は、そうはさせないと両腕で相手の長い両脚を抱えた。八戒の膝裏を腕で支えて膝立ちをし、腰を突き出して再び穿ち出した。
 甘い甘い悲鳴が上がる。深く、深く埋めて、ゆっくりと抜く。八戒の脚を抱え、甘く淫らな抜き挿しを、背筋を使って繰り返した。太くて硬いものを容赦なく、咥え込ませる。
 肉の薄い尻がやや浮き気味になるほど貫く。円を描くような卑猥な動きで打ち込み翻弄する。
「ああ、あッ」
 三蔵のが抜き挿しされる度に射精感が込み上げてしまう。トコロテン。俗に言うイキッぱなしという状態だ。八戒は再び、前を弾けさせてしまった。
「……くッ」
 三蔵が快楽に顔を歪める。八戒の粘膜が痙攣して三蔵のをぐちゃぐちゃに引き絞ってくる。感じすぎて前立腺が肉筒の下の方にまで降りてきてるのだ。
「もう、抜きたくねぇ」
 快楽の波を上手くかわして、耐え切った。思わず唸るように本音を漏らす。
「ずっとこうして繋がっていたい」
「さ……ぞ」
 もう、舌の呂律も回っていない。恥知らずな肉の環で三蔵を際限なくきゅうきゅうに締め上げてしまう。
 金髪の男が深く眉根を寄せた。快楽が強すぎて苦悶に近い表情になる。いい加減、限界だった。穿つ腰の動きも直線的で激しくなっていく。終わりが近い。腰奥の陰部神経が限界で焼き切れ、脊髄が蕩けて無くなりそうだ。
「俺だけだ」
 三蔵が囁く。苦しげな声なのに、甘い駄々にそれは似ていた。または懇願か。
「俺だけにしろ」
 いや、懇願というよりもそれは、命令だった。傲岸不遜な院長先生直々の院長命令だ。
 濃厚な情交は快楽の沸騰点をとっくに過ぎていた。脳細胞のひとつひとつが快感で震えている。
 打ち込む動きが激しい垂直な線となった。最後に八戒の下生えに当たるほど、ぎりぎりまで奥の奥へ押し込んだ。射精前の緊張が肌へ、肉へ走り抜ける。
 一瞬動きを止めて、尻を震わせ、八戒のナカへ白い体液を注ぎ込む。何回かに分けて、拍動と同じ律動で吐き出した。淫らな体液を注がれ、前立腺が、粘膜が、快楽で焼かれて震える。
 肉筒が三蔵の精液でいっぱいになる感覚に悶えた。ひどく感じてしまう。何度目か分からぬ逐情の声が漏れた。
「そして俺も」
 金糸の髪の男は、荒い呼吸を吐きながら言った。それは呟きよりも小さな声だった。
「……お前だけだ」
 甘く苦しげな声だった。
 それは、秘密の告白のように、聖なる誓約のように密やかに八戒へと告げられた。

「俺にはお前だけだ」





「ハルシネィション14へ続く」