ハルシネィション(11)

夜も昼もない地下の病棟にも、朝はやってくる。
「ん……」
 さえずる鳥の声ひとつ届かない陰鬱な病室で、八戒は目を覚ました。
 三蔵に散々抱かれ、貪られて気を失うように眠ったことはおぼろげに覚えていた。躰の右側を横にして寝ていた。そのしなやかな首に犬の首輪が、この妖麗な青年の立場を物語るかのように光っている。
「う……」
 三蔵の名を呼ぼうとしたが、声が枯れていて上手く言葉を紡げない。激しい情交の果てによがり狂わされ、ひどく泣かされてしまったせいらしい。喉が渇いて、もう声も出ない。
 相当長い時間抱かれた気もするし、一瞬だった気もする。濃厚で密な性行為特有の時間感覚の狂いに、起き抜けの八戒はぼうっとしていた。
 三蔵の肌の熱さを背後で直接に感じる。そして。
「…………! 」
 八戒は思わず目元を紅に染めた。思わず身じろぎをしてしまって、下肢から生じた淫らな感覚に眉を顰めた。
「はぁ……」
 息を詰めて耐える。
そう。
 三蔵のものはまだ躰の中に埋められたままだった。金の髪をした美貌の男は八戒を後ろ抱きにしたまま躰を重ねて横になっていた。その腕は八戒にきつく回され、抱えるようにしている。達したまま、ふたりして眠ってしまったのだろう。側臥位のまま寝てしまったらしい。
「ん……」
 意識しては駄目だと思った。尻の狭間に三蔵の生々しい性器とその残滓を感じる。
 しかし、突き入れられているものは、今はもうさすがに大人しかった。凶暴な欲望を吐き出しきって、静かに八戒の狭間で休んでいるようだった。硬さもなく、昨夜の暴力的な昂ぶりが嘘のようにじっとしている。今ならば、三蔵に気づかれずにこの肉塊を抜くことができるかもしれない。そろそろと八戒は腰を引いて、三蔵から離れようとした。
 しかし、それはできなかった。
「あうッ」
 離れようとした八戒を逃さないとばかりに、即座に三蔵の腕が絡みついてくる。眠ったままの無意識の行為だった。人に弱みなど見せない、傍若無人、鬼畜で居丈高な院長がまるで大きな猫科の獣のようにここぞとばかりに甘えている。眠っている三蔵は、起きているときとは違ってひどく素直だった。
「あ……」
 駄目だった。密着して、無意識に重なった肌から、八戒はとうとう甘美な震えを拾い上げてしまった。
「ああ……」
 朝から、いや朝だからか。
 情欲の熾き火がかきたてられ炎が再びともる。抱かれれば抱かれるほど淫らになる躰をもてあまして、八戒は腰を困ったようにくねらせた。性悪で、際限のない蕩けるような快美が肌の表面を走り抜ける。後ろから抱いている三蔵の寝息が耳元にかかった。それにも煽られてしまう。
「ん……」
 我慢しようと歯を食いしばった。なんとか三蔵に気がつかれないように処理しようと、そろそろと自分の手を恥知らずな屹立に伸ばそうとした。
 しかし、
「…………! 」
 その手を背後から伸びた手がつかんだ。
「さ……ぞ! 」
 回らぬ舌で愛しい飼い主の名を呼ぼうとする。
「自分ですんじゃねぇよ」
 欠伸混じりの低い声が囁かれた。
 三蔵は目が覚めつつあった。言葉をかけられるまでもなく、八戒は自分の躰でまざまざとそれを思い知らされていた。
 何故なら、三蔵が起きてその健やかな血が全身に通いだすと、八戒に突き入れたままだった肉塊にもその血はめぐり、覚醒するからだった。
「あ……やぁ」
「朝だからな。しょうがねぇだろ」
 最初はゆっくりと。まるでそれ自身が意思のある生き物のように、瞬く間に昨夜の硬度を取り戻した。三蔵の意識が覚醒するのと同じくらいに、その性器もはっきりと目を覚ましたようだった。芯に鋼でも通したような逞しさで復活した。
「やっぱり、少し寝て休むと勃ちがいいな」
「さん……! 」
 生理的なその反応を利用するかのように、三蔵は再び昨夜の勢いをとりもどしたそれで、八戒を穿った。甘い肉の悦びに八戒が尻を震わせる。
「…………ぅ! 」
「なんだ、もう声が出ねぇのか? 」
 愉しげで鬼畜な笑い声が背後から低く漏れる。
「もうちょっとつきあえ。……どうせ、昼の間はお前に逢えないんだ。もう少し俺の好きにさせろ」
 三蔵はそう言って、後ろから八戒に嵌まっている首輪を器用に口で咥えてひっぱった。遊んでほしいと甘える豹の子供のような仕草だった。
「や……も……ずっ……と」
 少しではない。もうずっとずっと躰を好き放題に開かされ犯されていると、抗議しようとしたが声も出せなかった。枯れ果てた喉を震わせながら、八戒は起きぬけから貪られ、快楽の涙を流していた。
「あ……あ…………ん」
 掠れた八戒の声が地下の檻に甘く響いた。
 じきに、朝だというのに躰中の骨という骨が蕩け、煙となって消えてしまうような甘美な時間がふたりに訪れたのだった。





 長い陶酔の時間が過ぎ去ってから、三蔵はようやく八戒を解放した。
「今日は、昼から仕事だ。その分、終わるのは遅くなる」
 三蔵は八戒にそう告げながら、ネクタイを締めた。八戒は身繕いをする院長に躰をしどけなく凭れさせ目を閉じている。抱かれすぎて、感じ過ぎて、躰に力が入らないのだ。
「ん……」
 男の情欲のままに貪られ、やや憔悴した顔でうつむいた。その艶やかな髪を三蔵が撫でる。
「また、夜来る」
 細いあごを指でとらえられ、顔を上へと強引に向けさせられる。その唇を乱暴に院長は奪った。片時も離れたくないと全身で告げるかのような口づけが落ちた。濃厚なくちづけの後、唇を離すと唾液が透明な橋のようにふたりの間に端をかけた。
 それを八戒は舌先で巻きとって切ると、白衣を着込んだ三蔵の胸元にそのしどけない躰を預けて頭をすり寄せた。漆黒の髪が三蔵の白衣の胸元でさらさらと鳴った。
「待ってます……三蔵」
 陶然とした口調で八戒は呟いた。語尾はとろけて甘く掠れた。
 酩酊感のある甘い甘い気配で病室の空気が染められてゆく。陰鬱どころか、病室には似つかわしくない薔薇色の恍惚とした空気で空間は凝固し、煮凝りのようになった。
 金糸の髪の男は、八戒の言葉を聞いて幸福そうに笑った。
 それは、この病院の誰もいままでみたことのない、三蔵の満ち足りた笑顔だった。







 地下の病棟からエレベーターで上がった一階の奥に院長室はある。
 三蔵は陰鬱なロビーを抜け、白い廊下を歩いていた。長くしなやかな足取りは、いつもよりも心持ち軽やかで迷いがない。
 リノリウム張りの憂鬱で消毒臭い廊下までもが、いまや院長には美の回廊のように思える。三蔵は昨夜の八戒の甘く悩ましい所作を脳裏に思い浮かべながら、歩を進めた。
「こんにちは院長」
「これは院長先生」
 すれ違う看護師や医師達が丁寧に礼をしてくるのに、機嫌よく目で礼を返した。
 いつもならば、眠そうに面倒臭そうに、むしろ声などかけるな邪魔だと言わんばかりの鬼畜な表情を浮かべる三蔵だったが、今日は周囲が拍子抜けするほど柔らかな対応だった。
 病院らしい白壁がどこまでも続く廊下に、葉が厚く背の高い観葉植物の鉢が点々と置かれている。ソファが備えられた休憩所を過ぎると、まるで地獄の業火のような緋色の絨毯が廊下にしかれていた。そこから先は特殊な場所なのだということをそっと訪れる者に示しているようだ。
 そう、そこから先は、底光りする闇に棲む綺麗な鬼のいる場所だった。
 金の髪を鈍く光らせて、底知れぬ闇をしもべに連れて現れる、華麗で酷薄な院長の領域だ。その姿は死を告げる天使よりも酷薄で、愛を告白する悪魔よりも美しい。
 果たして緋色の絨毯の続く廊下の先に院長室はあった。他の扉とは異なる樫材でできた木製の扉が、異色な印象だ。
 白皙の美貌の主は、いつものようにドアを開けようとした。真鍮製のドアノブに手をかけたとき、三蔵は背後から突然、声をかけられた。
「院長先生」
 驚いて振り返ると黄師長が息を切らせるようにして立っていた。看護師長の腕章がその腕で揺れる。看護帽や白衣が清潔で知的な印象だ。
 眼鏡をかけ、肩の上で切り揃えられた髪にはウエーブがかかり、腕いっぱいに本を抱えている。仕事熱心な彼女らしい姿だった。
「す、すいません。突然」
「なんだ、どうした」
 師長が直接くるなど、珍しいことだった。看護師連中はこの院長室まではやってこない。大抵、同じ病棟の医師達に何かあれば相談し、彼らを立ててやってくる。三蔵のことが恐いのだ。
 それが、今日現れた師長は果敢にもひとりだった。しかし、いやな感じはしなかった。
「院長先生にお願いがあるんです」
 師長は弾んだ息を落ち着かせながら言った。足の速い三蔵に追いつくのが、結構大変だったのだろう。
「言ってみろ」
 三蔵はぶっきらぼうに言った。別に機嫌が悪いわけでも、気分を害しているわけでもない。こうした態度がもはやこの男の習い性なのだ。
 そのことを、長い勤務で知り尽くしている師長は微笑みながら受け流した。
「実は……この病院の裏手にお花畑を作ってもいいでしょうか」
 師長は妙なことを言い出した。
「ああ? 」
 院長の眉間に皺が寄る。
「今、園芸療法っていうのが効果があると評判なんですよ」
 師長は抱えていた本を取り出した。 『ホルトセラピー』 『園芸療法』 と銘打たれた本を幾つも取り出した。
「リハビリの現場でとても評判がいいんです。緑を育てることで、患者さんが元気になるっていう欧米由来の療法なんですけど」
 婦長は熱心だった。
「だから、開放病棟の病症の軽い患者さんが、週に何回か花の種を播いたり、雑草を抜いたり、手入れをしたりする場があるといいなと思いまして。是非院長先生に相談したいなと」
 三蔵は師長の言葉を遮った。
「何人も患者を外に連れ出すと、管理が大変だぞ。お前等の余計な仕事が増えるだけだろが」
 冷酷そうなその返事は現実的だった。いまだにどこか夢みる少女を彷彿とさせるような師長の思考回路に比べて、確かに院長はこの病院の経営者だった。血も涙もない経営論がその思考の基底に腰を据えている。
「でも――――」
 仕事熱心な師長が言葉を重ねようとするのを、三蔵はふっと鼻先で笑った。
「いいだろう」
 意外な言葉がその酷薄に整った唇から飛び出した。
「院長! 」
 愁眉しゅうびを解いて師長がうれしそうに三蔵を見上げる。
「花か。播きたきゃ播いてみろ。ま、やってみるだけやってみるんだな。問題が起こったらそんときは中止だ」
 三蔵はそう呟くとあらためてドアノブに手をかけた。
「ありがとうございます! 」
 背後で黄師長が頭を下げた。
「別に礼なんざ、言われる覚えもねぇ。俺は認めただけだ。ったく物好きだな。面倒なことが増えるだけだってのに」
 いつもの辛辣な口調も、許可が出てうれしい師長の耳を素通りしてゆく。
「よ、よかった! ありがとうございます」
 深々と一礼して、師長は立ち去った。
「……フン」
 三蔵は口元を歪めた。いつもなら『くだらねぇこと言ってるんじゃねぇ』と怒鳴りつけかねない話だったのに、確かに今日の三蔵はおかしい。
 部屋に入って、机の上に置かれて決裁を待っている書類の山を見ても、三蔵の上機嫌は依然として続いていた。
 これを片付ければ、また地下にいる黒い髪をした愛しい飼い犬に逢えるのだ。三蔵は悪態もつかずに机の前に座った。決裁のための代表印をぞんざいな手つきで引き出しから取り出す。
 その口元は相変わらず幸せそうに緩んでいたが、本人だけはいまだに自分の変化に気がついてはいなかった。








 地下の特別病棟の病室では、昼も夜も蛍光灯がついている。仕方のないことだが、やはり圧迫感があった。閉所恐怖症の者などは、おかしくなってしまうに違いない。
 八戒のしなやかな首には革でできた細い首輪が嵌まっている。首輪には鎖が通され、病室の鉄格子へ繋がっていた。八戒が身じろぎするたびに、軽い金属音を鎖が立てる。囚われ人の身分を知らしめるような小道具だった。
 いや、虜囚というよりも、正確には愛玩動物とでも言った方が正しいかもしれない。美貌の院長の慰み物。他に気晴らしもない山奥の精神病院に勤務する医師の玩弄物。逃げ出す事もできない閨の相手。夜毎、その躰を喰われるように愛され、抱かれ続けて性の奴隷にされている。
 客観的にはそうなのかもしれないが、八戒の意識は容赦ない洗脳のせいで、どこかずれている。
 実際、八戒はこの病室で『保護』されている気分だった。恐ろしい外界から、三蔵が大切に守ってくれているのだと思っている。
 八戒の認識はすっかり狂っていた。生殺与奪の全てを院長に握られ、意識や精神は三蔵に依存しきっていたのだ。
 確かに、その身は鎖に繋がれ、鉄格子の中に囚われてはいるものの、その様子には惨めな悲壮感は全く漂っていなかった。むしろ麗しい獣が、権力のある飼い主によって甘やかされている。そんな様相をいつのまにか帯びてきていたのだ。
 八戒はひとり、本を静かに読んでいた。
 黒く艶やかな髪が、その額を慎ましく覆っている。整った顔立ちの中で緑の瞳が理知的に輝き、手にしている本の活字を追っていた。
 三蔵がなんだかんだいいながら、差し入れてくれる本を手に、大人しく三蔵の訪れを待ちつづけていた。





 そうこうしているうちに夕方になり、三蔵以外が出入りする唯一の場所であるトレーの開閉口が開いて、夕食が配られた。
 所詮、病院の食事だ。つましい献立だったが、八戒はそれについて文句を言ったことはない。
 凸凹で区分けされた一枚のトレーに、ご飯に漬物、あつあげとホウレンソウのお浸し、さわらの西京焼きなどが並んでいる。
 そんな食事をとっていると重い鋼鉄製のドアが開いた。
「三蔵! 」
 八戒が驚いたように目をみはる。三蔵の訪れは思いのほか早かった。
「遅くなるっていってたのに」
「早めに切り上げてきた」
 相変わらず、説明不足すぎるぶっきらぼうな口調で三蔵は言った。本人はこれでも早く来た理由を説明しているつもりなのだ。
 しかし、説明になどなってはいない。恐らく山ほどある仕事のうち、どうしても自分がやらなくてはならないものだけ片付け、その他のものは、高圧的に部下である他の医師に押し付けてきたのだろう。
「てめぇを放っておくと、碌でもねぇからな」
 院長はいつまでたっても素直じゃなかった。飛ぶようにして駆けつけて来たくせに、そんなことは頑として白状しない。
 目を白黒させている八戒の前で、三蔵はなにやらプラスチックのケースに入った仕出しの弁当箱を取り出した。
「ごはん、ここで食べるんですか? 」
「ああ、今日は上手く当直分の弁当が残っていてな。これで外に出なくてもすむ」
 要するに、当直の医師が注文した弁当を奪ってきたのだろう。
 それにしても、世の権威を一身に集めているような三蔵なら、もっと贅沢な食事だってできそうなものだった。
 しかし、三蔵はそんなことより八戒の傍で出来合いの弁当を食べることを選んだらしい。
「外に食べに行かなかったんですね」
 八戒が首を傾げて微笑むのを見て、三蔵の機嫌が急に悪くなった。
「なんだ、俺が外に食いにいった方がよかったのか。ああ、そうか。片道三十分くらい車を走らせて、俺が外に喰いに行った方がお前としてはよかったのか。そうだな。そうすりゃ、メシ喰うのと合わせて一時間半は俺の顔を見ずにすんでせいせいすんのか。その方がよかったってんだな」
「そ、そんなこと言ってないじゃないですか」
「フン」
 三蔵は眉を寄せて横を向いた。どうにも駄々っ子のような反応を示すことが、往々にしてこの男にはあり、八戒は思わず苦笑した。
「笑うな。クソ……俺の気も知らねぇで、いい気なモンだな」
 忍び笑いが止まらず、肩を震わせて笑う八戒を恨めしげな目つきで院長は睨んだ。
「……お前に早く……たかったからに……決まってんだろうが。どうしてそんなことぐらい分からねぇんだ」
 ねたような三蔵の口調に誘われて、八戒はことんとその頭を寄せた。三蔵の胸元に濡れたように艶やかな黒髪がぱさりとかかった。心地よい重みが三蔵の胸の奥を甘く切なく疼かせる。
「いいえ。僕だってうれしいですよ」
 殺風景な病室に咲く、一輪の白い花にも似た微笑がその唇に浮かぶ。
「僕だってひとりでご飯を食べるより、あなたと一緒に食べる方がおいしいです」
 その言葉を聞くなり、三蔵は浴衣を着た相手を腕の中へと引き寄せた。衝動的な動作だった。
「ったく、このボケが」
 舌打ちすると、我慢できぬとでもいうように綺麗な輪郭の顎を強引に指でとらえ、上を向かせて口づけた。
「さんぞ……! 」
「なんだ」
「ご飯……は」
「何だ、食い足りねぇのか」
 舌先を突き出すようにして、八戒の唇の上をなぞる。整った唇の形を確かめるかのように舌は這った。淫靡で甘いキスだ。
「僕……はもう、ほとんど食べました……けど、あなた……は」
 三蔵の濡れた熱い舌の感覚だけで、躰が熟れて疼いてしまう。
「メシは後でいい。それより」
 三蔵はそのまま、床へと八戒を引き倒した。躰の下へと組み敷く。
「もう……」
 抗議の声は、甘く掠れて宙に消えた。なし崩しに抱かれてしまうが、もうどうすることもできなかった。精神はともかく、躰は涎を垂らしながら無聊な昼の間中、三蔵が抱いてくれるのをひたすら待つようになってしまっていたのだ。
「あっ……」
 相手のことが欲しくて欲しくて我慢できない。顔を見ただけで躰が反応して熱く疼く。早く早く繋がってしまいたい。
 もともと深く考えることをできなくされている八戒は、三蔵の与える肉の甘美な行為に我を忘れ、蕩けてゆく。
「さんぞ……」
 甘い八戒の声を聞きながら、院長は飢え乾く人が海水を飲んでさらに乾くように際限もなく八戒を求め、その躰に溺れていった。

 この日、三蔵が夕食を取るのは、いつもよりも相当遅くなった。




「ハルシネィション12へ続く」