糖度38度(6)

「そんなに、激しくはできねぇだろ。何しろケガしてるからな」
「いじわるッ……ああ……」
 八戒は、自由になる右手を、とうとう自分の猛っているそれへと伸ばした。肉体の疼きに耐えられないらしい。震える手はためらいながらも自分で自分を慰める行為に溺れようとしていた。
「んッ……」
 悩ましく、その眉が寄せられる。べたべたする体液に指を絡めながら、八戒は自分のペニスを扱こうとした。
「こんなとこで、お前の自慰が観察できるとはな」
 俺は唇をつりあげた。確かにこれは滅多にない見世物に違いなかった。
 八戒が恨めしそうな視線を投げながらも、腰をくねらせた。微かに残る理性は嫌だといっていても、圧倒的な肉の疼きに耐え切れないのだろう。躰の奥の芯まで熱くて手の動きが止まらないという様子だった。
 敏感なペニスの裏筋に細い指を這わせてゆく。びく、とその白い躰は喉を晒して、仰け反った。
「……自分でヤルときは……ソコで扱くのか。そういうのがスキか」
「ああっ……ん」
 ぐちゅぐちゅと。
 八戒の手の中で、性器が淫らな水音を立てて鳴っている。俺はその艶めかしい仕草に見入った。思わず上唇を舌で舐めて湿した。
「イイ……のか? 」
「さんぞ……さんぞッ! 」
 八戒の声が切なげに俺を呼ぶ。多分、俺がシテやるときと同じように動かしているつもりだろう。
右手の動きが一層激しくなる。
「キス……してぇ。キスッ……」
 抱いてくれないのなら、せめて抱かれた気分でイキたいとでもいうのだろうか、八戒は俺の唇をねだった。さすがにこのいじらしいお願いまで退ける気にはならなかった。
 そっと唇を触れるように合わせると、興奮しきった八戒の舌が、強引に俺の唇を割って入ってきた。
「……そんなにシテぇのか」
 一瞬、唇を離して呟くと、後は八戒の好きにさせた。俺と深く繋がりたいと全身で訴えるかのような口づけを八戒はしてきた。
 八戒の欲情がそのまま伝わってくるようなキスだった。お互いの舌を絡めて吸いあっていると、それだけで達してしまいそうだ。
「く……ぅ……ッ! 」
 八戒は前かがみになった。躰をふたつに折るようにする。
「は、はぁっ……」
 躰を小刻みに震わせ、腰がバウンドする。
「三蔵ッ……さんぞ! 」
 俺の名前を切なく呼びながら、八戒は達してしまった。扱いていた指の間から、ピンク色の先端がのぞき、白濁した体液を噴出している。どろどろとしたソレが八戒の幹を伝い落ち、手を白く汚していった。
「あ……」
 達した後のうつろな瞳で、八戒は俺を恍惚とした表情で見つめた。蕩けて乱れきった表情だった。八戒のような男がそんな顔をしていると、とてつもなく卑猥な気がする。俺はその額にそっと口づけた。
「悦かったか。すげぇ、綺麗な……イキ顔だな。お前」
「さんぞ……」
「お前がひとりでヤッてるのを……眺めてるってのも悪くねぇな」
「ふ……」
 八戒はいやいやするように首を横に振った。
 耳元で囁く声にすら、達したばかりの敏感な躰は快楽を拾い上げてしまうのだろうか。ぞくぞくするような表情で、俺が囁くたびに、躰を震わせた。
「さんぞ……お願い」
「なんだ。もう、イッて満足したんじゃねぇのか」
 八戒は躰ごとぶつかるようにして、俺に縋りついてきた。ケガをしてなかったら全身でしがみついてきただろう。そのしなやかな長い手足を絡めて、俺に甘えるに違いない。
「シテ……もう僕」
 はぁはぁと息を荒げながら、八戒は俺に夢中で頭を擦り付けるようにする。
「ダメ……です。もう三蔵に……」
 それから後は言えないらしい。自慰をする、淫らな姿すらさらしたというのに、驚くべきことにまだ羞恥心が邪魔をしているらしい。
 俺は甘えるように縋りつく八戒の尻へ手を伸ばした。尻肉を割るようにして、後ろの孔へと指を這わせる。
「……疼くのか。まだ」
「分かってる……んでしょう? 僕が……」
 目元が赤く恥ずかしそうに染まった。
「……こっちにも、突っ込まれないとイケねぇのか」
 俺は愉しげに笑った。そんな躰に仕立てあげたのは確かに俺だった。
「三蔵……」
 恨めしげな目つきで八戒が俺を上目使いに見る。なおも重ねて囁いた。
「後ろに、挿入されねぇと……満足できないのか。いやらしい躰になったな」
「あなたが……! 」
 絞りだすような声で八戒は唸った。続きは聞かずとも分かっている。そう、そうさせたのは確かに俺だ。
「それなら……」
 俺は八戒に囁いた。囁きながら、後ろへ伸ばした指で、八戒の襞をつつき、ナカを円を描くようにして擦り上げて玩んだ。
 第二関節まで挿入してかきまわす。
「うくッ……」
 八戒が、甘く喘ぐ。
「言ってみろ。『もう後ろじゃねぇとちゃんとイケません』……ってな」
「三蔵っ」
「後ろが悦くて悦くてしょうがありません。挿れてって言ってみろ」
「ああっ」
「事実だろうが。え? 」
 嬲るつもりは無かった。しかし、追い詰められて喘ぐ八戒は綺麗で……俺はついつい、いじめるように抱いてしまっていた。
 こういうのは調教っていうんだろうか。抱けば抱くほど堕ちてゆく八戒が綺麗で、もっともっと淫らにしてやりたくなってしまう。
 もう、俺無しではいられないくらい淫らにしてやりたい。ずっと繋がっていたいとその唇に言わせて求めさせたい。俺のことを、俺の躰を、忘れられなくしてやる。
 いつでも欲しがって悶えるような淫らな躰に仕立てあげてやる。……俺なしじゃ、生きていけなくしてやる。……もう、この欲望は止めようがなかった。
「言えよ。八戒」
 俺は囁いた。蕩けるように毒の染みた誘惑を続ける。八戒に求められる。八戒に欲しがられ、渇望される。どんな形であれ、それは俺にとって幸福なことに違いない。
 それを、一番求めているのは、実のところ……この俺だ。
「……さんぞ……」
 情欲に蕩かされきった表情で、八戒は俺を見つめると、向き合ったまま、その脚をより開いて、奥が見えるようにした。そうすると、ひくひくと蠢く八戒の襞や粘膜まで良く見える。
「下さい。三蔵」
 吐息塗れの熱い声だった。
「お願い……僕の後ろに……あなたが挿れてくれないと……もう僕は……」
 言葉はそこで途切れた。淫らなお願いを舌にのせて、端麗な顔に似合わぬ卑猥な事を言おうとしている。八戒は緊張したように唾を飲み込んだ。嚥下すると、喉の辺りが上下に蠢く。
「後ろに挿入されないと……僕は……もう、満足……できません」
 恥ずかしい言葉だった。
「俺が挿れねぇと、もう満足できねぇのか。ドスケベが」
 俺は目を眇めて八戒を見つめた。貶めるような言葉とは裏腹に俺は奇妙な達成感を感じていた。いや、幸福感といいかえてもいいかもしれない。俺は確かにコイツに必要とされている。
 八戒は俺の揶揄するような言葉に素直に肯いた。
「挿れて……挿れてぇ……三蔵じゃないと……ダメ」
 甘い声を聞いていられるのは、ここまでだった。もう俺も我慢の限界だった。
 そっと八戒の躰を横たえる。そのしなやかな両脚を肩へと担ぎ上げた。
「抱いてやる。突っ込んでやるぞ、八戒」
 八戒の痴態を眺め過ぎて、張り詰めたという段階をとっくに通り越した怒張をひくつく後孔へと宛がった。
 そのまま、躰を進める。
「うっ……くぅッ……」
 八戒が息を詰める。耐え切れぬ声が歯の間から漏れた。びくんびくんと躰がのたうつ。
「……すげぇ」
 俺はあまりの快楽に、奥歯を噛み締めた。焦らしすぎたのか、八戒のそこは既にとろとろに柔らかく蕩けていた。
「あ……さんぞ……イイッ」
 甘い声に誘われるようにして、突き上げる。腰で捏ねるようにして、八戒を穿った。
「ああ、あっ……! 」
 きゅうきゅうと八戒の後孔が引き絞られる。
「疼いて……疼いてて……しょうがなかっ……た。僕……ッ」
「ココか。疼いていたのはココか」
「あ……そう……今……さんぞ……でいっぱいになってる……トコ」
「いやらしい孔だな。栓をしといてやる」
「してぇ……ずっと……ずっとしてて、お願いさんぞッ」
 甘い。甘い声。
 俺の抜き挿しに合わせるように八戒の尻がくねる。淫らな睦言を囁き合いながら、俺と八戒は絡み合った。幸福だった。
 八戒の腰が前後に動く。自分でナカの一番感じるところに当てようと振りたてられる淫らな腰に、俺は口元を歪めて笑った。眩暈がしてくるような艶めかしさだ。
「あッ……やぁ……」
 ずるッと抜きかけると、俺のエラの張った雁首が、八戒の粘膜の襞を広げてぐちゅぐちゅと鳴った。
イイトコロに当たったのだろう。八戒が全身で悦がった。尻を震わせてわななき、仰け反った。閉じられない唇からは涎が垂れ落ち、それがまた卑猥だった。
「イイッ……さんぞ……もう……ヘンになりそう……イッちゃう」
 腰から下がとけちゃう、もうダメと八戒は可愛い降参を繰り返した。はぁはぁと荒いふたり分の呼吸音が部屋に満ちてゆく。俺は手塩にかけて淫らに育て上げた情人の首筋を穿ったまま舐めた。途端に悲鳴じみた声があがる。
 可愛くてしょうがない。
「イケよ。何度でもイケばいい。……ずっと……抱いてやる」
 繋がった場所が、卑猥な音を立てている。淫らな交合の音に、八戒の喘ぐ声が被さる。
「ああ、……さんぞ」
 切羽詰まったような声だった。もう八戒も限界なのだろう。繋がり続けて結構経っていた。
 ぎちぎちと後ろの孔を俺でいっぱいに埋めて……俺を咥え込んだまま、おいしそうに八戒の腰が前後にくねる。イイところに当たって悦がり狂う様は淫らの一言だ。
 いつもの清潔そうな面影など、もうどこにもない。今の八戒は娼婦よりも淫らだ。俺は蕩け切ったような表情でされるがままになっている八戒の耳元に囁いた。
「だから……俺を……求めろ、いつでもな」
 悲鳴のような声を上げて、八戒が逐情する。達する瞬間、連動するようにして肉筒までもが、のたうつように痙攣して引き絞られる。
 俺が突き挿れている肉棒へ、粘膜がねっとりと絡みつき、媚肉がめちゃくちゃに締め上げてきた。強烈な感覚だった。食い千切られそうだ。思わず快美のあまり低く唸った。
「……すげぇ」
 八戒の白濁した液体は、俺の腹のあたりにかかった。そのまま粘性のある液体は、下へと落ちてゆく。俺の下生えを濡らし、八戒の腹へと滴り、繋がっている箇所にまでその体液は流れ落ちた。
「ああ……」
 達した八戒の躰を容赦なく貪る。されるがままにがくがくとその躰が揺れる。
「あ……さんぞ」
 抱え上げた脚へ、穿ったまま舌を走らせる。腰の動きを止めずに、俺は丁寧に八戒の足の指ひとつひとつを舐め上げた。
 八戒はもう感じ過ぎて、足の指と指の間までもを開き切ってわななかせていた。それに構わず、俺はその指の一本一本をしゃぶった。
「ひぃ……ッ……あ、あぅッ」
 限界に近い悲鳴が八戒の唇から漏れる。ねっとりとした性技を施すと八戒の背が反り、尻肉が痙攣するかのように震える。
「もう……ダメぇ……そんなに……しないで」
 びくびくと肉筒が痙攣する。もう、何をしても感じるくらい高まった躰を、ダメ押しのような愛撫で翻弄してやる。八戒は獣のように呻き声を上げて悦がり狂った。
「……あひぃ……ッ」
 生々しい声が八戒の口から上がる。円を描いていた俺の腰の動きが激しく直線的になってゆく。もう、俺も限界だった。
「……八戒! 」
 唇を噛み締めた。眉根を寄せて、八戒の媚肉がもたらす蕩けるような快楽に耐える。油断すると声が漏れてしまいそうだった。
 ひときわ、強く奥まで八戒を穿つと、俺も動きを止めた。尻を震わせて、中へ体液を注ぎ込む。強烈な快感が腰奥から噴出して、幹へ伝わり先端を電撃のように焼いた。
「……ッ」
 八戒の脚を抱えたまま、その躰の奥まで俺の精液をぶちまけた。下生えが八戒の粘膜に当たるほど、根元まで埋め込んで貪り尽くしていた。
 すげぇ悦かった。もう抜きたくないくらいだ。ずっと繋がっていたい。俺は息が落ち着くと、八戒を抱き寄せ、唇を重ね合わせた。何度も、何度も。
「八戒……」
 八戒の耳元に優しく囁いた。自分でも声が蕩けるように甘くなっているのが分かるが、どうしようもない。

 少なくとも、もう俺の方は八戒なしじゃ、もう……耐えられない。
 それほどに溺れ切っていた。





「糖度38(7)」に続く