糖度38度(5)

 八戒はベッドに仰向けになっている。その躰で、布を纏っているところといえば、ケガをした左腕くらいだ。痛々しい包帯が何重にも巻かれている。
「っあ……はぁ……ッ」
 そのすんなりとした脚に丁寧に舌を這わせる。
「左腕は動かすなよ。いいな」
 俺は上目遣いに八戒を一瞥すると命令した。
「あッ……勝手……な……こと……ん」
 ぴちゃぴちゃと音を立てて、俺が舐める度に八戒が頭を振る。脚の付け根に音を立ててわざときつく、くちづけた。
「く……」
 八戒が唇を噛み締めているらしい気配がする。それでも漏れる息づかいが艶めかしい。脚の付け根を強く吸う。がくがくと八戒の腰が揺れた。
「ああ……ん」
 つ、と舌を這い下ろす。感じやすい八戒のは、既に頭をもたげて震えていた。
「ありそうでないのがマラの骨ってか。気持ちよくなってきたみたいじゃねぇか」
「違……違う……」
「嘘つけ、勃ってきてるぞ、てめぇ」
 そっと俺はその先端を舌先でつついた。
「ひぃッ……! 」
 じわじわと脚ばかり愛撫していたせいか、少し触れただけでひどく感じてしまうらしい。八戒の躰が跳ねた。びくびくと震える。
「暴れるな。ケガに障るぞ」
「あなたって人は……! 」
 わざと、決定的な愛撫は与えてやらなかった。
「……つついただけで、そんなにイイのか。いやらしい汁がでてきたぞ。おい」
 とろとろと、鈴口の先端から透明な体液が伝うのを容赦なく指摘する。自分でも声が熱を帯びてくるのが分かる。八戒が興奮すると、それは熱病みたいに俺にも感染する。
 八戒の先端から体液が滴り落ちる。肉の幹が先走りで濡れて光った。
「や……」
 俺は八戒の上に乗り上げないように注意した。変な風に動かしたら、ケガをしている左腕に良くないかもしれない。
「動くな。お前は脚を開いて大人しくしてりゃいいんだ」
「さん……ぞ! 」
 後生だとでもいいたげな悲鳴混じりの声で八戒が縋り付くが無視する。脚を愛撫していたのを中断すると、俺は八戒の顔を覗き込んだ。艶やかな瞳は潤み切っている。
「ん……」
 甘く蕩けているその唇を割って、逃げようとする舌を追いかけて舌をきつく絡め合わせた。
「ふ……ぅ……ん」
 八戒の腰がひくりひくりと揺れる。扇情的だ。
「はぁッ……」
 唇を軽く離すと、途端に蕩け切った吐息が漏れた。震える唇が可憐で愛しい。
「さんぞ……」
 目が細められ長い睫毛の奥から、深い緑の瞳が俺を誘うように見つめてくる。思わず俺はたまらなくなって再び唇を重ねた。
「んう……! 」
 舌を絡ませたまま、下へ伸ばした腕で八戒の屹立を握り込む。
 にゅる、と先走りの体液で滑る肉塊を上下に扱いてやった。
「ああ……ん! 」
 直接的な刺激に八戒が思わず、くちづけをほどくようにして喘ぐ。俺はそれを無視して再び舌を絡めた。
「ぐぅ……ふ……ぅ……ん……む」
 八戒の吐息も、自分の中に取り込んでしまうように、俺は角度を変えて何度もくちづけた。官能的な喘ぎが、俺の口腔内へと吸い込まれてゆく。
「く……ふ……ふぅ」
 頃合を計るようにして、俺は八戒のペニスを強く扱き上げた。くちゅくちゅと鳴る八戒のソレはもう腹につくほどに反り返っている。輪にした指で敏感な括れを擦り上げた瞬間、わざと八戒の唇を解放してやった。
「ああッん! あんッ!……はっ……ん」
 快楽のあまり、慎みを忘れた大きな声が、ひときわ部屋に響く。八戒は自分の声が漏れてしまったのに、気づき羞恥で耳まで赤くした。しかし、一度漏らした声は取り返しがつかなかった。
「すげぇ……イイ声だな。もっと聞かせろ」
「やぁッ……」
 腰をびくびくと揺らせて、八戒が悦がって悶える。俺は手を外さずに、ゆるゆると硬く張り詰めてしまった八戒の快楽の徴を玩んだ。達してしまわないように加減して注意深く愛撫する。
「いやぁッ……いや」
 八戒はじっとりと快楽の汗を浮かせて、喘いでいた。もう、熱くなった淫らな躰は疼いてしょうがないのだろう。俺を求めるように、八戒は自由になる右手で俺の背へ腕を回した。
「さんぞ、さんぞ……! 」
 引き寄せる腕に抗わず、俺はそのまま顔をより近づけると、その首筋へ音を立ててキスをした。
「ふぅ……」
 長くすらりとしたその首筋に舌を這わせる。ときおり、強く吸うようにして、花びらのような鬱血の跡を次々とつけていった。
「ああ、あっ……」
 八戒が甘く喘ぐ。その声に煽られるようにして舌先を走らせ、もっと下へと這い下ろした。胸へ舌を這わせると、小さな屹立が尖って震えている。俺はそれを舌でつつくと、丁寧に舐めた。
「ん! 」
 八戒が躰を強張らせてわななかせる。その艶めかしい様子を上目遣いに眺めながら、俺は可憐な乳首を舐め溶かすように愛撫した。硬くしこってくる感触に思わず口元を歪めた。なんだかひどく……いやらしい。
「あ……ッ……ひ……ぃ」
 円を描くようにして、舌先でちろちろと舐めまわす。八戒のまなじりから涙がひとしずく零れ落ちた。同時に、八戒のペニスを扱く速度を上げた。
「……! 」
 八戒は黙って首を左右に振った。耐え切れない快楽をそうすることによって逃がし切ろうとでもするかのような激しさだった。白いシーツの上に、黒い髪が乱れ、ばさばさと音を立てて打ち振られる。
「あッ……あっ……ん」
 先端の、快楽の神経が集中する肉冠との境目をことさら責め上げ、指で扱き追い詰める。
「僕……もう……」
 閉じられなくなった唇が悦楽の悲鳴を紡ぐ。乳首と性器への同時の愛撫は、敏感な躰にとって酷だった。腰をくねらせて甘く喘ぎ、オスを求めて艶めかしく悶え狂った。
「イッちゃう……ああッ」
 綺麗な顎の線を震わせて、八戒がわななく。俺はそれを許さなかった。逐情しようと、八戒が腰を弾ませた瞬間。
 反り返って震える八戒のペニスから、素気無く手を離した。
「……あ? 」
 信じられないとでもいうように、八戒が目を剥く。
「ひど……いッ」
 尻を淫らにくねらせた。脳を焼くような淫らな動きだ。どんな男だってこんな仕草をされたら飛び掛って犯してやりたくなるに違いない。だが俺は我慢した。
「そんなに暴れるな。ケガに障るだろうが」
「ひどい……貴方ってひど……い」
 涙が艶やかな瞳から、溢れて流れ落ちた。腰がベッドの上で跳ねる。左腕は確かにギプスで固定されていたが、もうそんなケガよりも快楽の方が強くて何もかも麻痺してしまっているような様子だった。
「ああっ……」
 八戒はぶるぶると達しそこねた躰を恨めしげに震わせた。とろとろと低温の快楽で炙るような行為を続けていた。一番欲しい刺激は与えてやらない。
「そんなに、欲しいのか」
 俺は目を細めて八戒に聞いた。今なら、もうコイツはどんな言葉でも言うに違いない。
 俺は端正な八戒が、普段は言うはずもないような性的な淫ら事を言う一瞬がとても好きだった。聞いているとぞくぞくする。無茶苦茶に犯してやりたくなる。
 八戒は、無言で俺の言葉を肯定するように首を縦に振った。
「何が欲しい、八戒」
「う……」
 恨めしそうな表情で、八戒が俺を見る。その眉根を寄せた扇情的な表情は俺の何かに火をつける。ひどく艶めかしい。
 肉体の要求に負けて、八戒は絞りだすような声で言った。
「疼く……んです。あなたが欲しくて……」
 息も絶え絶えというように八戒は息を吐いた。
「挿れて……三蔵」
 甘く淫らな蕩け切った表情。淫猥な顔つきで八戒は俺のオスをねだって腰を揺らす。自分から、言われてもないのに、足首をつかんだ。
「ココ……に」
 右手で右足首をつかんで腕を開いた。自然に右足が開き、丸見えになる。張り詰めて震える屹立も、その奥でひくつく粘膜も、何もかもが俺の眼前にさらされる。
 恥知らずで淫らな誘惑だった。
「さんぞ……ッ」
「……しょうがねぇ。ちょっとだけだぞ」
 俺は服の前をかき分けるようにして、自分の怒張を取り出した。それを横目で認めた八戒の表情が明るくなる。それは見ているこっちが恥ずかしくなるようなあからさまな様子だった。
「味わえ、ほら」
「ああ……ん! 」
「はぁッ……ああっ……さんぞ! 」
「……全部入ったぞ」
 八戒の疼きを埋めるかのように、根元まで八戒に埋めた。柔らかくも優しい、粘膜に包まれる感覚で俺は満たされた。
「イイ……んッ。気持ちイイ……」
 八戒は目を閉じて、俺のを味わっているようだった。ねっとりと、その上唇が舌で舐められる。閉じられた瞳からは快楽の涙が滴り落ち、下に敷いたシーツへ染みをつくった。俺のを喰い締めるかのように、八戒の後ろが引き絞られる。
「……てめぇは、食いちぎる気か。キツイ、もう少し弛めろ」
「はぁ……あ……ん。無理ッ」
 俺は狭い八戒の後ろの感覚に締め上げられながらも、腰を揺すった。粘膜のきついが柔らかい感触がぞくぞくするほど……イイ。
 腰から下が蕩けそうだ。ずっぷりしたその感覚に酔いながら、俺は腰を使いその甘い肉体を穿った。
「あ……さんぞ……イイ……ッ」
 八戒はびくびくと仰け反りながら、喘いでいる。腰を回すようにして、俺が打ち込むのに合わせてくる。その動きが卑猥でいやらしい。
 昼間みせる端正な姿との落差は激しかった。これが同じ八戒かと、抱いている俺ですら思うような姿だった。男を求めてひたすらに腰を振りたててくる。
「あふ……ッ」
 既に閉じることを忘れた唇からは、とろとろとした唾液が伝って落ちていた。
「くぅッ……あッ……もぅ……ッ」
 八戒の右手が、きつく手元のシーツを握り締めた。指の関節が白くなるほどの力だった。絶頂が近いのだろう。
 喘ぐこと以外の言葉を忘れたような唇は快感で紅く色づき、白い躰は紅潮している。俺のつけた口づけの跡を全身につけ、俺にされるがままに穿たれている様子は淫らとしかいいようがない。
「…………! ……ッ」
 しかし、
 俺は行為の途中で、八戒から怒張を抜いた。
「ああッ……やぁッ……」
 躰の芯を焼く甘い疼きを埋めようと、八戒が尻をくねらせて俺を求める。その眦から涙がこぼれ、頬を伝って流れた。
「抜か……お願いッ……さんぞ! 」
 もう、理性の消えかかっている八戒の耳元に、わざと甘く囁いた。
「『抜かないで』 か? ……いやらしいヤツだ」
 俺は言いかけた八戒の言葉を補ってやった。その耳へ舌を這わせる。
「ん……ッ」
 びくびくと震える甘い躰を抱きしめてやる。その前は張り詰めきってこれ以上ないくらいに勃ち上がってしまっている。それも、八戒本人と同じように透明な涙を流して震えている。
「さんぞ……お願い……お願いッ」
 しがみついてくる八戒を俺は宥めるように抱きしめた。
「そんなに、激しくはできねぇだろ。何しろケガしてるからな」
「いじわるッ……ああ……」



「糖度38(6)」に続く