糖度38度(2)

 その夜。
「あ……やぁ」
「いやだ、いやだ言ってるわりには、あっさりツインルームにしやがったじゃねぇか。本当は嫌じゃねぇんだろ」
「さんぞ……」
「待ってたんじゃねぇのか。この俺に抱かれるのを。昼間ジープ運転しながら、てめぇ実は勃ってたろ」
「そんな……そんなハズ……」
「確かめてやる。脱げ」
 約束どおり、その夜。部屋でふたりきりになると、俺は八戒を追い詰めた。
「ぐちゃぐちゃに抱いてやる。ご期待に応えてやるぞ。ホラ」
「やめて……やめてください三蔵! 」
 抗うヤツの服を剥ぎ取ってゆく。禁欲的な襟の立った服がそそる。袖から腕を無理やり抜いた。途端に現れる白い背筋に舌を走らす。
「ひぃ……ッ」
「いい反応だ」
 俺は思わず声に出さずに笑った。甘やかな八戒の肌を目の前にして情欲で脳が焼かれるような気がする。
「お願いです……お願いッ……さんぞ! 」
 恥らいながら後ずさる八戒を許さずに、ベッドへと押し倒した。
「せめて……せめてお風呂……いえ、シャワーを……! 」
「なんだ。勃ってガマン汁たらしてたのが、分かるのが嫌か」
 白いシーツに黒い髪が映える。俺は八戒の暴れる下肢から下着ごと服を剥ぎ取った。
「あ……! 」
 艶めかしい肌には、連日の情事の跡が散っている。全部俺がつけたヤツだ。
 何度抱いても八戒は恥らうのを止めない。その脚を閉じられないように腕で押さえつけると、顔を近づけた。
「いや……」
 八戒がシャワーを浴びるの浴びないのと揉めたので、部屋の電気は消し忘れていた。煌々と天井にライトがついている。八戒の躰の隅々まで照らし出していた。
「見ない……で……下さ……」
 涙声になってゆく、その甘く涼しい声を心地よく聞きながら、八戒の脚の付け根へ指を這わせた。微かに八戒の肌の匂いがする。
「あうッ……」
「なんだ……てめぇ」
 思わず口元が緩んでしまう。探し当てたその屹立は、既に先端の可憐な鈴の口の割れ目から透明な体液をこぼしている。俺がなんにもしてないのにだ。
「……ヤラれるのを想像して、興奮でもしてたか? ……ドスケベが」
「…………! 」
 途端に羞恥で朱に染まってゆく八戒の躰へと顔を埋めた。
「もう……勃ってるぞ……こんなにして……恥ずかしくねぇのか」
「許して……くださ……」
 眼前の白い躰が震えている。コイツが興奮すれば興奮するほど、俺も相乗するかのように猛ってしまって止まりようがない。
「勃ってるのが、良く見えるぞ。……括れのとことか……カリんとことかもな」
 わざと観察してやる。
「勃つと……こんなふうに反るんだな。お前のココは……」
 ココ、と言いながら指で八戒のそれをもてあそぶ。
 声にならない悲鳴を上げながら、八戒はベッドの上で仰け反った。白い喉が露わになって目の毒だ。相変わらず感じやすい躰だった。
 こんなに敏感だと、サービスしてやりたくなるというものだ。
 俺はベッドサイドに載っていたワインの小瓶を片手で取り上げた。この宿のウェルカムドリンクらしい。
 宿泊する客へのサービスで置いてあったものだ。寝酒にでもしてくれとでもいう趣向なのだろう。
「さんぞ……? 」
 怪訝そうな八戒に構わず、俺はワインの栓を抜いた。栓といってもコルクの大仰なものではない。金属でできた捩じ込み式の単純なフタだ。その気になれば片手でも外せるだろう。
 ワインを開けると、そのままグラスなどには移さず、ボトルへ直接、口をつけて飲んだ。
「酒には肴がいるな」
 そう呟くと、もうひとくちワインを口に含んだ。そのまま腕の中の八戒へとくちづける。
「あ……ふ……」
 ワインを口移しで飲ませる。その赤い液体は、俺と八戒の舌をくすぐり、八戒の喉へと消えていった。芳醇な香りが後に残る。
「ぐ……」
 そのまま、執拗に舌と舌を絡め合わせた。八戒の舌の感触はとろりとしていて、絡ませているとそのまま蕩けてしまいそうに甘美だ。
 舌を吸いあっていると、脳が痺れてもう他のことなど考えられなくなる。甘い痺れが舌から背へと伝わり、そのまま腰奥まで熱くさせる。
 噴出させる先をもとめて、俺は熱い躰を八戒に寄せ、腰を擦り付けるようにした。
「ん……」
 八戒が俺の意図に気がついて、目元を赤く染める。その様子が色っぽい。もう止まらなかった。
「ああ、さん……ぞ」
 八戒の甘い舌を舌先で突くようにして誘い出す。唇から誘うようにして突き出されたその舌を俺は招くようにして自分の口腔内へと取り込んだ。
「ぐ……ふ」
 ちゅ、ちゅと合わせた唇の間から音が立った。脳が痺れてゆくような快美感とともに俺はそれを心地よく聞いていた。
「はぁ……ッ」
 ようやく唇を解放する。躰の境目さえもが消え失せるようなくちづけを交わして、すっかり八戒の息は上がっている。
 俺はもうひとくちワインを飲むと八戒の胸元へ舌を走らせた。
 鮮やかな胸の尖りを舌先でつつく。すっかり硬くなり、立ち上がったそれは震えていて艶めかしい。
「……風呂に入りてぇッていってたが、あんまり汗かいてねぇな。お前」
「三蔵ッ……」
 舌を胸から腹へと這わせる。
「全然、塩気がねぇ。てめぇは酒の肴として失格だな。ええ? 」
 もうひとくちワインを口に含むとそのまま、八戒の傷跡の走る腹へ口移しで注いだ。
 へその窪まりへ溜まるワインが、白い肌によく映える。肌に走る傷跡すら淫靡だった。舌先で、ワインを舐めとるように八戒の肌を愛撫する。
「あ……ッ」
 焦らすような行為をこれでもかと続けてやる。八戒の肌とワインを舐め啜り、俺は脚の間で震える屹立へと舌を走らせた。
 挨拶がわりに可憐に震える先端へと軽く唇で触れた。音を立ててキスをする。
「…………! 」
 そんな行為だけでも感じるのだろう。八戒が頭を振り、黒髪がばさばさとシーツを打つ音が立つ。
 そのまま、その肉冠をずっぽりと唇で咥えた。わざとゆっくりと唇で絞るようにしてやる。
「ああッ……さんぞ! 」
 八戒のものを咥えたまま、俺は目だけを上げて八戒を見た。傷跡の残る白い腹が震えている。びくびくと快楽で緊張するそれを眺めて、俺は唇が歪むのを抑えきれなかった。淫らな躰だ。
 そっと口から八戒のペニスを外すと、身悶えたように八戒が腰を揺らす。もっともっとと、口に出さずとも淫靡に全身で訴えている。
 この様子を拝んで欲情しない男がいたらお目にかかってみたい。
 片手に持ったままだった瓶に再び口をつけ、ワインを口に含むと俺はそのまま、八戒の立ち上がっている肉塊を咥えた。
「……! 」
 八戒が仰け反る。
「痛いです……! いやッ……」
 ぺろりと舌で八戒のそれを舐め上げた。ワインに浸した舌で、興奮しきっている八戒のペニスをねっとりと愛撫してやる。
「や……さんぞ! 」
 八戒は涙を滲ませた。そりゃ、アルコールなんざペニスに垂らされた日にゃ、繊細な粘膜にしみてしょうがないだろう。
「いじわるッ……! 」
「罰だ」
 俺は喉で笑った。
「昼間、俺に意見なんざしやがった罰だ。下僕の癖に生意気なんだよ、てめぇは」
「ああっ……」
 なだめるように、舌を這わせた。もうすっかりワインは飲み干してしまっていた。
「さんぞ……さんぞ……」
 すがりつくような、八戒の声が俺の脳を焼く。
 屹立から唇を外すと、もっと下へ唇を這わせた。興奮してしこった双球を過ぎ、蟻の門渡りから……もっと下の、ひくついているピンク色した粘膜の襞まで。
「さん……」
 何度抱いても物慣れない八戒の唇から抗議めいた声が上がるが、容赦はしない。俺は丹念にそこを舐めた。舌を挿し入れるようにして突付く。
「あ、ああ……ん」
 途端に艶めかしい嬌声が漏れる。
「はぁ……ッ……ん」
 その白い肌にさざめきが走る。腰が何かから逃れようと蠢くが、むしろそれは俺を煽り猛らせるだけだ。
 ぐちゅ、ぴちゃ。
 執拗に責め舐め啜る。
 舌で嬲っていると、八戒のオスの匂いが微かにしたような気がした。普段は体臭など感じさせない八戒だが、興奮したときなどには、ほんの少しこんなふうに香ることもある。
 今日はシャワーを浴びさせてないからなおさらだ。俺などにはかえって好ましい香りだ。まるで麝香猫のような性的で艶めかしい香りだった。
「ひぃ……ッ」
 感じてしょうがないとでもいうように、八戒は腰をくねらせる。
「うずいてしょうがねぇみたいじゃねぇか」
「あ……ッ」
「シテ欲しいって言ってみろ。言えたら……」
「無理ッ……お願いです……許して……ッ……さんぞ……ッ」
「昼間、サルが言ってた 『うまい棒』 でも喰わせてやらねぇでもないぞ……後ろの孔にな」
 俺は冗談半分で卑猥な言葉を言うと、喉で笑った。
 そして、ひくついている可憐な蕾から舌を外すと、かわりに息を吹きかけた。
 感じ過ぎて赤く紅潮しているその器官は淫猥だった。清楚な八戒の躰の一部とは思えないほどだ。意思を別にする下等な生き物のように淫らだった。
「んッ……」
 閉じた目の端に涙を滲ませて、八戒が首を横に振る。長い睫毛の先から、水晶のような光を放って涙がこぼれ落ちた。
 こんな切羽詰まった状態なのに、まだ理性を手放せないらしい。
「しょうがねぇヤツだ」
 俺は唇を歪ませた。優しくしてやりたいとは思うものの、艶めかしいコイツの姿を目の当たりにすると、ひたすら嗜虐性が煽られてしょうがなかった。
「まぁ、『うまい棒』 なんざサルみたいなガキが食うもんだ」
「はぁ……ッ」
「てめぇには……かわりに」
 俺は、脈を打つ怒張を服の合わせ目から取り出した。さっきから八戒の艶姿に煽られて限界だった。邪魔な服をついでに脱ぎ捨てる。
「俺の……コイツを喰わせてやる……下の口にな」
「あ……ッ」
 俺は猛り切ったモノを八戒へと捩じ込んでいった。窄まった口は、ある程度の抵抗感が最初あったが、雁首を過ぎると、後はすんなりと根元まで律儀に飲み込んでいった。
 きちきちと八戒を広げるようにして繋がる。
 根元まで八戒に埋めてしまうと、俺は心底ほっとした。妙な安心感があった。今までは逃すものかと、どこかで焦っていた。
 しかし、躰を繋げると興奮もさることながら、ある種の安らぎが湧き起こってくる。狩猟本能が埋め合わされる気分とでも言おうか。もう、逃げられることはない安堵とでもいうか。
 ずっとこうしていたい。繋がっていたい。幸せだ。こんなに甘い情交はやったことがねぇ。いやむしろ、コイツと俺はこうやって繋がってるのが、常態で当然のことなんじゃないのか。そういう気すらする。
 だってこんなに気持ちがいい。よほど躰の相性が合うのだろう。
「さ……んぞ……三蔵ッ……ん」
 貫かれて、びくびくと八戒が躰を震わせる。その表情は蕩け切っていて……いやらしい。でも、コイツのこんな顔を見れるのは俺だけだと思うと少し幸福だ。
 きゅうきゅうと媚肉に締め上げられて、俺は思わず呻いた。
「……うれしそうに締め付けてんじゃねぇ」
「あっ……」
 そんなことはしていないとでもいうように八戒が首を振る。
 乱され切った顔、潤み切った緑の瞳。紅潮した肌。喘ぎすぎて、閉じられなくなった唇からは唾液が口端から糸を引くようにしてシーツへと流れ落ちている。
 そんな様子もひどく淫らで、艶めかしかった。そんな様子を見ているとたまらなくなって、俺は八戒の躰の上で腰を振った。
「ひっ……い……い……あ! 」
 甘い、甘い喘ぎ声が続けざまに零れ落ちた。躰を仰け反らせて、俺の穿つ感覚に耐えようとする。
思わず口の端をつりあげると、俺は腰を引いた。ずるりと触れ合う粘膜と粘膜の感覚が気持ちいい。
 惑乱するような感覚が湧き起こり、痺れるようにしてお互いの腰を焼いた。
「くぅ……ッ」
 八戒が甘い声を上げる。その声だけで達してしまいそうだ。どんなに罪作りな声を上げているのか、本人だけが知らないだろう。
 俺のペニスが、肉筒を擦って抜かれるときの感覚が堪らないらしい。八戒は腰をくねらせてのたうった。
「さんぞ……さんぞ」
 蕩けるような声が自分の名を呟くのを聞きながら、その甘い躰を穿つ。続けざまに、奥へ奥へと腰を挿し入れ、最奥を抉りまわした。腰で捏ねるようにしてやる。
「あぅ……ん……ああ……ん」
 悦楽の声がひっきりなしに唇から漏れる。閉じられない唇からとろとろと唾液が伝い、シーツへ染みをつくる。びくびくとその肌が震え、躰が痙攣する。
 それを押さえつけるようにして抱いた。きゅうきゅうと肉筒が痙攣しだすのが堪らない。内部で揉みしだくようにされて、俺はその強烈な快感に耐えようと眉根を寄せて唇を噛み締めた。
「あ……も……ぅ」
「イキてぇなら、イッちまえ。ほら……」
 俺は八戒の上でひたすら腰を振った。
「く……ぅん! 」
 八戒の手が、救いを求めるかのように、シーツの海の上を彷徨う。わなないて震える指がいじらしい。
 ぐちゃぐちゃに乱されきった表情で八戒は泣きだした。もう、終わりが近いのだろう。
「やぁ……やッ」
 びくびくと躰をわななかせると、八戒は腰を前後に揺らし出した。俺のをくわえ込んだまま、しなやかな腰がくねる。
 肉筒の締め付けも一層きつくなった。油断すると俺も達してしまいそうだった。
「すげぇ……イイ……気持ちいい……てめぇのナカ……」
「あっ……」
 八戒がいやいやするように首を振る。
 だが、どんなに八戒の心が拒んでも、躰は正直だった。淫らな躰は、八戒の意思とに関わらず貫かれて蜜を垂れ流している。
 もう、俺には八戒が感じているか、感じていないかなんて、すぐにわかる。突き入れている後孔の収縮する感覚が、八戒の快美や悦楽を、あますことなく教えてくれる。
「嘘つくな。何、首横に振ってんだ。んなことしたって無駄なんだよ。やらしい躰しやがって」
 カフスの光る耳元に、ねっとりと囁いてやる。
「あ……はッ……」
 緑の瞳から、またひとしずく涙が零れ落ちた。
 俺が穿つ動きに合わせるようにして八戒が腰を蠢かせる。痙攣するようにして激しく後ろの肉筒が震えた。強烈に締め上げられる。
「……八戒ッ」
「あ、ああっ……さん……ぞッ! 」
 八戒が前を弾けさせるのと同じくらいに、
 俺もその躰の奥で達してしまっていた。意識しなくとも、唇から押し殺した声が漏れてしまう。生暖かい八戒の精液が俺の腹の辺りを濡らす感覚が広がる。八戒の放ったものだと思うとそれすらも、ひどく愛しい。
「ああ……ん……あ……ん」
 八戒が俺にしがみつく。背に回された八戒の腕の感覚が心地いい。俺の胸へとその顔を埋めてすりつけるようにするのが可愛くてしょうがない。
 射精したまま、自然に俺の腰は奥まで挿し入れようと動いた。無意識に、奥の奥まで精液を塗りつけて、いっぱいにしてしまおうと奥の奥まで穿つ。
 でも、その感覚がイイのか、八戒は穿たれたまま身悶えした。そんな様子まで、ひどく艶めかしかった。
 感じてしょうがないのだろう。背に回された指が爪を立てているが、その焼けるような感覚すら良かった。
 愛しい。
「……はっかい」
 俺は離れ難く抱き合ったまま、その耳元へ囁いた。声がついつい甘くなっちまうがどうしようもない。
「ずっと……傍にいろ。いいな、こうやって……ずっと」
「さん……ぞ」
 うっとりとするくらい綺麗な緑の瞳が潤み、俺を見上げている。
 大切すぎて、ときどきどうしょうもなくて、壊してしまいたくなるような時すらあるが、俺にとって八戒は特別だった。
 その躰をきつく抱きしめる。情事の後の満たされた感覚にふたりで浸った。単なる排泄のためのセックスだったら、こうはいかないだろう。
 抱き寄せたまま、その濡れたような黒髪を撫でた。頬と頬を寄せ合う。行為で感じすぎたらしい八戒の躰からは力が抜けてされるがままだ。
「てめぇがいなかったら、俺は……」
 その艶やかに光る唇に口づけた。もう一度、しどけない躰を味わおうと埋め込んだままの自分の怒張をゆっくりと抜き差しする。ことさらゆったりと腰を揺らした。
「あ……も……」
 八戒が目を閉じたまま、首を振る。抗おうとするが、全身から力が抜けた躰は、されるがままに穿たれている。
「寝かせねぇっつたろうが」
「ひ……」
 ぴくんぴくんとひくつく後孔が卑猥だ。
 一度、放出したため多少は硬度が落ちたが、艶めかしい八戒の姿や声を見たり聞いたりしているうちに、瞬く間に俺のは張り詰めてきた。
「う……」
 それが、穿たれたままの八戒にも如実に伝わり、分かってしまったのだろう。脈を打つその感覚だけでも感じてしまう淫らな躰だった。
 そして、そうしたのは俺なのだ。八戒は、眉根を寄せて耐え、恥ずかしそうにその秀麗な顔を歪めた。
「もう……あなたは……」
 ため息を吐くその形のいい唇を、ふさぐようにして口づけた。
 部屋を照らす灯りも気にならなかった。それくらい獣に還りきっている。
 明るいライトの下での、艶めかしい八戒の姿を俺は余すことなく目に焼き付けるようにして行為に溺れた。
 きっと、俺はこの夜のことを忘れない。例えコイツが忘れても忘れないだろう。
 こうして、
 八戒との甘美な夜は密やかに更けていった。



「糖度38(3)」に続く