ピンク色の雲(9)

 次の日の朝、
 ようやく、降りつづいていた雨が、ひとときやんだ。
 もう、朝日が昇ってずいぶんとたつ頃、部屋は白々とした陽の光に隅々まで照らされていた。
「なんで俺の方に来た」
 金色の髪が朝の光に照らされて、眩しい。いや、まばゆいというのか。八戒はモノクルをつけていないから、よけいだろう。その緑の目を細めている。
「え……」
 黒髪を揺らして、ゆっくりとまぶたを開ける。きらめく三蔵の髪。寝起きなのに、紫色の瞳にみつめられて、八戒は表情をこわばらせた。
「おい」
 換えの水差しを手にしたまま、三蔵が声をかける。寝たままの八戒を上から見下ろしている。

「なんで、俺の方に来た」

 突然の、質問だった。しかし、それは真剣な問いだった。三蔵の声も真剣みをおびて硬かった。
「さん……」
 白いシーツの上で、黒い前髪がきらめく。濡れたような輝きをもった美しい髪。前髪の下から見えかくれしている緑の目は、寝起きだから単眼鏡もメガネもつけてはいない。美しい端正な顔立ちに、ひたすら、とまどいを浮かべている。
「三蔵」
 八戒は相手の名前を大切そうに呼んだ。三蔵の方へ身を起こそうとして、失敗する。顔をしかめた。身体の芯がきしんで痛い。ガラス窓に押しつけられたままなんて、無理な体勢で昨夜はずっと抱かれていたのだ。
 
 なんで、俺の方に来た。
 なんで、悟浄じゃなくて俺の方に来た。

「決まっているじゃないですか」
 声が喉の奥でからまった。昨夜は散々あえいで、獣のようになっていた。身体中の水分も抜けている。そんな八戒のようすに、三蔵が黙って水差しからグラスに水をそそいだ。
「言わないと、わからないんですか? 」
 グラスの水面が、朝日を受けて輝いてゆれる。それを受けとりながら、八戒が微笑んだ。優しく、さびしげな笑みだった。
「僕の気持ちが、わからないんですか? 」
 ベッドぎわに小さな机が置いてあった。八戒はひとくち水を飲むと、その上にグラスを置いた。
「本当に? 」
 金色の髪をしなやかな長い腕で引き寄せた。そのまま、その端麗な白皙の美貌に唇を寄せる。
八戒の整った唇が、三蔵のやや大きめで男性的な唇に重なった。そっと触れあうだけのキスだ。
「……これでも、言わないとわかりませんか」
 とつぜんのくちづけに、紫色の瞳を見ひらいている相手を見て、八戒は苦笑した。性欲処理のお相手という身のほどもわきまえず、この高僧を本気で好きになってしまった自分が哀れだった。




「あっ……だめ」
 いつの間にか、そのまま押し倒されていた。
「も……朝……で」
 あえぎあえぎ訴える声を、冷たい低い声がさえぎる。
「八戒」
 こめかみに、唇をつけるようにして優しく名をささやかれた。
「あ……」
 ベッドの上で、あお向けになったまま、抱きしめられる。三蔵の体温と身体の重みを感じる。
「確かに……僕なんて、貴方にとって雑巾みたいなものなんでしょうけど」
「なに? 」
 三蔵が心外だとでもいうように、眉をつりあげた。
「貴方が僕のことを、好きじゃないなんて、わかってますよ」
 ベッドの上で、三蔵の腕の中で、黒髪の男が震える声でつぶやく。
「僕が貴方にとって、性欲処理の相手でしかないなんてこと」
 知ってます。と八戒の唇が皮肉な笑みの形をつくろうとしたとき、低い声にさえぎられた。
「ナニ言ってやがる、てめぇ」
 上に覆いかぶさっていた、金の髪の男が思わず、という調子でうなった。怒りがこもっている。
「何が性欲処理だ」
 つりあげた眉はますます癇症に跳ねあがった。額に青筋が浮きそうだ。
「だって、僕のことを、貴方はいつも嫌そうな目で見るじゃないですか」
「それは、てめぇがあの赤ゴキブリなんかと、いつも一緒にいるからだろうが」
 思いもよらぬ、返事だった。
 しかも、三蔵はすねていた。めったに聞けぬ声だ。
「え」
 八戒が思わず口を開けた。閉じることも忘れそうだった。八戒は驚いていた。
「悟浄、悟浄、うるせぇんだよ、てめぇは」
 嫉妬のにじんだ口調で三蔵は吐き捨てた。
「ぼ、僕のことをメス犬って」
「あんなエロ河童なんざに、てめぇが色目つかってるのが悪いんだろうが」
「そ、そんなことありません」
「そうだろうが。クソ、あのエロゴキブリ野郎が。殺してやりてぇ。本当にイライラする」
「だ、だって僕が近寄っても、いつも態度が冷たいですよ三蔵は」
「……てめぇが近寄ってくると、ヤりたくなるだろうが」
 白皙の美貌は真剣だった。冗談で言っているのではないらしい。
「ぼ、僕の方を見もしないし」
「てめぇなんか見たら、ヤりたくなるだろうが」
「さ、三蔵」
 それで、三蔵は八戒の方を見ないのだ。衝撃の事実だ。
「それに」
 ようやく愁眉をひらくと、三蔵が続けた。言おうか言うまいか、迷っているようなようすだったが、とうとう口をひらいた。
「俺は……お前に嫌われたくねぇ」
 秘めた本心が、近寄ると伝わってしまいそうに思えたのだった。意識すればするほど、態度が冷たくなってしまっていた。本当に不器用だった。
「三蔵」
 今度は八戒がその緑の瞳を丸くする番だった。
「お前こそ、言わねぇとわかんねぇのか。この鈍感野郎」
 三蔵は、ようやく優しく八戒を抱きしめた。
 
「お前のことなんざ……好きに決まってるだろうが」
「……三蔵! 」
「俺が好きなのが、わかんねぇのか。ここまで言わないと、わかんねぇのか。このバカ野郎」
 八戒は抱きしめられたまま、おそるおそる、その腕を三蔵の背へまわした。頬に金の髪が当たる感触がする。三蔵の匂いに包まれる。洗髪剤と石鹸、マルボロの香りと混じって、それが孤独を埋めるような芳香に変わった。
「ええ、すいません。バカですね僕は」
 思わず、両腕で抱きしめ返した。

 三蔵の口元に幸福そうな、いや安堵の笑みが浮かんだ。八戒を抱く腕の力が、よりいっそう強くなった。

 雨はやんで、久しぶりの朝日で,、地上の何もかもが輝く
――――世界は、劇的に一変した。


 
 甘い吐息が、部屋に満ちる。
「あっ……」
 三蔵の舌の熱い感触に、八戒が身もだえた。
「だ……め」
「……今まで何回も 「好きだ」 って、お前に言ってるぞ俺は」
「聞いた……ことな……」
 忘我のときにささやかれる言葉を、この黒髪の従者は覚えていなかった。ぬる、と舌が肌を這う、淫らな濡れた感触に、あえぐ。
「あっあっ……あっ」
 首筋に三蔵の舌先を沿わすようにされて、のけぞった。
「ひ……」
 両手は、三蔵の手でそれぞれつかまれて押さえつけられている。手首をつかみ、ベッドへきつく縫いとめるようにして三蔵は八戒が動けないようにしていた。
「あ……」
 音を立てて、くちづけられた。舌先で唇をなぞるように舐められる。
「さんっ……」
 甘い、甘い行為に溺れる。
「好きだ」
 紫色の瞳に真正面から見つめられる。ややまなじりが下がっているものの、美しすぎて愛嬌にはとても繋がっていない。上まつげは、金色で長く優美な影を肌に落とし、下まつげは華麗な装飾品のごとく目のふちをいろどる。
「好きだ……好きだお前が」
「さんぞ……さんぞ」
 八戒は自分を抱く美麗な僧侶の名前をひたすら呼んだ。現実とも思えなかった。
「あっ……」
 昨日の行為のあとが色濃く残る身体を再び開かれる。両脚をおおきく広げられて、八戒はその小さな整った顔を赤く染めた。
「八戒」
 当然、まだ昨夜のままだった。服どころか八戒は下着も何も身につけていない。点々と散る、情交の、花のような内出血のあとがなまめかしい。
「だめ……本当に、だ……」
 制止の声は聞いてもらえない。三蔵の頭が、両脚の間へ埋められ、つけ根を、尻との境を……なめられた。
「や……やめて……」
 脚を開かされたときに、昨日の残滓のにおいが濃くなった気がした。恥ずかしかった。手首をつかんでいた三蔵の手は、いまや両脚を閉じさせないように両のももへかかっている。恥ずかしい格好にされていた。
「いや……いやいや……だめで……す」
 首を振って、自由になった両手で三蔵の頭を引きはがそうとあがいたが、力が入らない。いたずらに指で金の髪をかきまぜるような動きしかできなかった。
「あうっ……うっ……くぅっ」
 三蔵の唇が、八戒の前へ這ってきた。
「すげぇ、勃ってる。ガチガチだな」
 昨日、散々、三蔵によって放出させられたはずのそこは、八戒の精神を裏切って興奮しきっていた。
「あ……」
 優しく、舌でくるまれるように亀頭を舐められる。八戒の腰が、ももが、脚が震え、三蔵の髪の上をさ迷っていた両手は、引きはがすというよりも、すがりつくような動きに化けた。
「さん……ぞ」
 吐息まじりの喘ぎが甘く響く。優しい愛撫がたまらない。心も身体もなにもかもがとけてしまうようだった。
「……八戒」
 三蔵がまるでアメの棒でもなめるようにして、八戒をもてあそぶ。
「あっあっあっ」
 切羽つまった声だ。泣き声まじりのよがり声をあげ続ける、そんな淫らな従者を見あげる目つきはひどく優しい。
「すごく……お前、きれいだ」
 雁首へ、くびれた裏筋へ三蔵の熱い舌の感触が走り抜ける。ぞくり、と甘い電撃のような快美感が腰奥へ背筋へ走りぬけて、八戒が悶絶する。
「あっあっあっさんっ……さんぞっ……っ」
 奥歯を噛みしめて、快感に耐えている。三蔵が音を立てて、屹立を優しく吸うたびに、八戒は上体をのけぞらした。とがった胸の乳首が震えている。身体は足の爪先まで上気してピンク色に染まりつつあった。
 ひくん、ひくんと生理的に腰が痙攣している。
「ああっ……あっ」
 前を嬲るのが、あまりにも長時間になりすぎた。八戒が達そうとすると三蔵は唇を離して、違うところを愛撫しだすのだ。わなわなと脚が震えている。もう耐えられないに違いない。
「はぁっ」
 もう、口も閉じられない。唇の端から、涎が流れ、あごを伝い落ちる。緑の目のまなじりからは、透明な涙がしたたり、銀の糸のような跡を頬につくっている。
「あ……」
 ぐしゃぐしゃに乱されたまま、八戒が耐え切れないというように、身体を前へ折った。三蔵の頭を両手で抱えて、腰を突き出す。
「あ……んっ……あんっ……んっ」
 耐え切れなかった。三蔵の秀麗な唇でなぐさめられるままに、八戒は前を放ってしまっていた。
「は……ぁ……は……っ」
 しなやかな細い身体を震わせ、肩で息をしている。三蔵は八戒が前からあふれたものを放つたびに、舐めまわして飲んだ。
「だめ……だめぇ」
 卑猥なそのようすに、八戒がもう理性を手放した声で懇願する。お願いは聴いてもらえない。すするように白濁液を飲まれて、もっと下の袋や窄まりまで愛撫される。
「やぁ……やぁ……ぁ」
 あごを上にあげて、のけぞる。三蔵の舌が熱い粘膜すれすれを這う感触に、八戒は狂った。ひくひく、と震えて三蔵を待ちわびる淫らな、いりぐち。そこを三蔵が舌先でつつく。
「くぅっ」
 ぎり、と歯を噛みしめて耐えようとするが、八戒は失敗した。
「さんぞ……さんぞ」
 蕩けるような三蔵の舌の感触がたまらない。腰がうずいて、骨までぐずぐずになってしまいそうだった。
「お前が欲しい」
 三蔵が顔をあげた。唇から白濁した八戒の体液が伝い落ちている。そんな淫らなようすなのに、それでも三蔵からは高貴さが消えない。
「好きだ。八戒」
「さん……」
 腰を抱えられる。三蔵のうっすらと汗をまとった手が尻にかかって、八戒は目元をよりいっそう染めた。三蔵の息づく熱い怒張を押しあてられた。
「ひっ……」
 いままで、散々、唇で嬲られる行為を受けていた間は、三蔵の視線はその恥ずかしい場所に落ちていた。いたたまれなかった。自分の恥ずかしい場所をどこもかしこも見られてしまっているのだ。落ち着かず、消え入りたいような羞恥に押しつぶされそうだった。何度、身体を重ねても慣れない感覚だった。
「好きだ。八戒」
 優しく甘い低音の声で呟かれる。それは本心からの声だった。紫暗の瞳で、見つめられる。視線をあてられたところに痛みすら感じるような、真剣なまなざしだった。
「さんぞ」
 八戒は恥ずかしさに煮えたようになってしまっている頭を、ゆっくりと縦にうなずいた。
「ぼ……も……僕もさん……ぞ」
 ぴくっ、と身じろぎしてしまった。はざまで脈打つ、三蔵の怒張がいっそう硬くなる。
「大好き……です……三蔵」
 蕩ける口調で、八戒から返答があった。それは甘い甘い砂糖菓子みたいな気配をはらんでいた。
三蔵の唇が、八戒の唇を求めるように重なった。
「ふぅっ……んっ」
 角度を変えて、重ねあわされる。逃げる舌を探され、絡めとられる。
「あふっ……」
 重ねあわせてくぐもる唇から、思いっきり生臭い声が漏れた。三蔵が、くちづけたまま、八戒を穿ったのだ。腰が突きだされ、脈うつ硬い肉を突きいれられる。
「んんっ」
 八戒のまなじりに涙が浮いた。生理的な涙だ。淫らな八戒の肉は、三蔵の性器の味に興奮しきっている。
「うぐっ……」
 三蔵の腰がひかれる。思わず、ひくんひくんと犯されていた尻が揺らめき、ずる、と半ばまで抜き出た肉棒をきゅうきゅうと粘膜と肉の環で締めつけてしまう。もう、止まらない。
「ああ、あっ……ふぅっ」
 喘ぐあまり、唇が一瞬、外れた。それを三蔵の唇がしかりつけるようにもう一度、重ねあわされる。
「ぐうっ……うっ……うっうっ」
 吐息まで、飲みこまれる。下半身は三蔵の怒張に突きいれられ、上半身は三蔵に抱きしめられて、くちづけられている。上も下もまじわり、つながることを求められた。
 つ、と三蔵の唇が外れた。透明な唾液が糸を引き、八戒の唇との間に橋をかける。
「お前とひとつになりたい……八戒」
 ささやかれる甘い言葉に、八戒が肌を震わせた。もう、三蔵のささやきにすら感じてしまう。
「さん……ぞ」
 大好きなひとと、ひとつになりたい。なにもかもとけあってひとつになりたい。それは確かにしあわせのひとつに違いない。
「このまま……ひとつに」
 愛しくてならないような仕草で、三蔵が八戒の顔へやさしくかわいいキスの雨を落とした。その額へ、秀麗な眉へ、通った鼻梁へ、頬へ、カフスのはまった耳へ、細いあごへ、そして唇へ。
「ぼく……も」
 キスをした後、三蔵は腰を深く挿しいれた。深く深く八戒を穿つ。八戒の尻肉が震えて快楽のあまり痙攣しだした。
「くぅっ……」
 甘い吐息が漏れる。三蔵のが悦くて悦くてたまらない。粘膜のイイトコロを三蔵のいちばん太い部分でこすりあげられ、狂ったように喘いだ。
「ぼくも……あな……たと……ひとつ……に」
 雁首で、狙ったように続けざまに穿たれると、八戒は三蔵の身体の下でたまらず身をくねらせた。
「あっあっあっ……深いっ……さん……ぞ」
 奥が、粘膜の奥が気持ちよくてたまらない。
「イイ。イイ……ああっ……あっ」
 いつもの品行方正な良識のある保父さんは、ここにはいない。ここにいるのは、高僧三蔵法師さまの秘密の情人だ。 半身のような。何もかもをわけあうような、そんな身体も精神の境目もとけあってなくなるような、情交を重ね続けている。
「そこ……っ……あっ……そこ……イイ」
 ケロイド状の傷のある、腹部が快感で震えている。きれいに筋肉のついた腹筋が三蔵のとも自分のとも知れぬ白濁液で濡れている。
「八戒」
 三蔵はふたたび前傾して、身体を倒すと、八戒に飽きずにくちづけた。唇を、舌を優しく吸った。
「やぁ……っ」
 三蔵が身体を倒すと、自然につながっている肉が、ぞろり、と引かれる。抜かれる動きに八戒が痙攣した。
「あうぅっ」
 重ねた唇の間から、思わず声を漏らす。身体を倒してつながる交合。どうしても突きいれは浅くなる。
「ひぃっ」
 それを三蔵は腰を上下にふった。とたんに入り口近くの浅いところの粘膜がかきまぜられ、惑乱するようないやらしい感触を伝えてくる。腰が快楽で焼き切れてしまいそうだ。
「やめ……くぅっ」
 唇を重ねたまま、たまらないような声をあげ続ける。三蔵は腰を回すように、円を尻で描くように穿った。
「ナカ……いっぱいかきまぜてやる」
 交合が浅いので、三蔵はなかなか、達してくれない。八戒ばかりが快楽の淵へ追いつめられる。
「あう……あうっ……あっあっ」
 尻の内側を三蔵の肉棒でかきまぜられた。粘膜がぐちょぐちょになる。淫肉はとろけ、三蔵に媚びていた。おいしそうに、三蔵の怒張にねっとりとからみつき放さない。
「!……だめぇっ」
 くちづけたまま、穿って、腰を回されて、それだけでも耐えられないのに、
「だめ! だめッ」
 もう苦しいのだろう、八戒が顔を横に向け、三蔵とのくちづけから逃れようとする。こり、と三蔵の右手は八戒の胸の乳首をつまんだ。
「ひぃっ」
 既に、こりこり、に硬くしこってしまっている。今までの行為で感じきっていた。興奮しきってとがっている。甘美な電流がその乳首の先から流れて、腰をとろかし、痺れさせる。
「それ……本当に……だめッ」
 八戒が絶望に近いような悲鳴をあげた。三蔵の左手がふたたび、八戒の屹立をやんわりと握りこんだのだ。つ、と指の腹でにじんでいる精液を尿道口へ塗りこめるようになでた。
「イッてるのか……お前」
 つらつらと、精液が滴り落ちてゆく。三蔵が穿つたびに、白い体液を八戒はもらし続けていた。敏感でいやらしい身体だ。
「ああっ……あっ」
 達しつづけているものを、握りこまれ、上下にしごかれて、八戒がのけぞった。その間も尻からは三蔵のを抜いてはもらえない。えぐるように打ち込まれ、胸のとがりもいたずらされている。
「あっ……も……」
 何度目なのかも分からない。三蔵に穿たれたまま、八戒が腰を震わせて達している。白い精液が放たれて、三蔵の手を、腹を濡らす。
「触らない……で……」
 もう、涙を浮かべて、意識も薄れているらしい八戒がうわごとのようにつぶやく。達しているのに、三蔵はいたずらにしごいた。快感をとおりこしてくすぐったい強烈な感覚に悶絶する。
「や……」
 きゅう。むちゃくちゃに内側の肉筒が悶えて絞られる。もう限界だった。
「八戒……八戒……」
 三蔵が、八戒のまなじりに浮いた涙を唇で吸った。ふたたび三蔵が身体を倒したのだった。べたべたになった腹と腹を密着させる。精液のにおいが濃くただよう。八戒の性器からようやく手を放して、身体と身体をぴったりと重ねあわせる。
「あっ……あぅ」
 また、くちづけられる。八戒の、もう何度も快楽を吐き出した屹立は、三蔵との身体の間でこすられて、やはりいやらしい感触を八戒の腰奥へ伝えてくる。無防備な裏筋を三蔵の肌でこすりあげられてしまう。
「八戒……」
 甘いささやきに耳まで陶然とした感覚にひたされる。どこを触られても、感じてしまう、全身が性器になったような、惑乱する瞬間が訪れ、八戒は身も世もないような声をあげ続けて三蔵にすがっている。
「さんぞ……さんぞ」
 三蔵が腰を回して穿ってくるのに、あわせるように八戒の尻も動いてしまう。ずぷ、ぷ、と三蔵の肉をおいしそうにくわこんだ。
「はぁ、っ……ぁ」
 尻を思いっきり前へ後ろへふった。三蔵のがイイところにあたる。もうたまらない。自分からこすりつけだした。顔も身体も乱されて、もうぐちゃぐちゃだ。涙に、涎に、汗に精液に、体液という体液にまみれている。
「さんぞ……っ……あっ……さんぞ」
 もう、限界が近い。ぎちぎちに三蔵のでなかがいっぱいになる感覚が内部に走る。三蔵のが八戒の粘膜をよりおしひろげるような動きで突きまくってきた。
「あ……また、もっと……おおき……く」
「しょうがねぇだろ。お前、かわいすぎる」
 ささやきあいながら、くちづけを飽かずに繰りかえした。一瞬、三蔵のがより大きく膨れる感触と、びくびくと粘膜のなかでうごめく感覚が走りぬけた。
「イク……あ……っ」
 三蔵が、直線的に打ちこみだした。穿つ速度が速くなる。八戒のきれいな脚を抱えて、腰と腰を垂直にして尻を犯す。そうするとより奥へ奥へ三蔵のが挿ることになり、八戒があまりにも強烈な快感に痙攣する。
「イ……く」
「ぼく……も」
 三蔵の白濁液が、八戒のなかに滴った。
「ああっ……あっ」
 沸騰する淫液で内部が、粘膜が焼かれる。三蔵の腰は射精しながら、ゆっくり何度も動いた。奥へ、より奥へとすりつけるような動きだ。オスの本能でより深いところへ自分をそそぎこもうとしている。
「ああ……さんぞ」
「はっか……い」
 三蔵の精液で、なかをいっぱいにされる感覚がよくてしょうがない。八戒もふたたび放ってしまっていた。もう、どちらがどちらだかわからぬような、自分と相手の境目もなくなるような、あらゆる粘膜を絡みあわせ、肉を、体液を何もかも交換するような濃密な情交にひたすら溺れていた。
 精液が泡立つほど、かきまぜられる。
「八戒……好きだ」
「さんぞ……さんぞ……」
 ふたりで身体を絡めあい、きつく抱き合った。

 外では、また、細い銀の糸のような雨が、音もなく降りはじめた。










 「ピンク色の雲(10)」に続く