花の葬列(7)

 窓の外では雲が天を覆い、暗くなっても星ひとつでていなかった。
 薄紙を重ねるように暗くなってゆく部屋の中、絡みあうふたつの影がおぼろに浮かぶ。
「っ……はぁッ」
 強引にベッドに押さえ込まれ、口づけを受けていた八戒が喘いだ。 はだけたシャツのボタンを嵌めようとするのを捲簾が止める。
「見せろ。隠さなくたっていい」
「や……なんで」
 八戒は捲簾の躰の下に敷き込まれて呻いた。どうしてこんなことになってしまったのか分からなかった。
「なんでって。誘ったのはアンタだろ。大丈夫だ恥はかかせねぇ」
「誘ってなんか……! 」
 捲簾は音を立てて傷跡にくちづけた。そのまま舌先で大切そうに舐め回す。
「あ……」
「過去だのなんだの、そんなつまんねぇモン忘れさせてやるから安心しろ」
 捲簾の舌が八戒の引き攣れ、盛り上がった痛々しい跡を執拗に這った。獣が舐めて癒すような仕草だった。
「何も考えられなくしてやる」
 ベッドの上で八戒は無理やり力強い腕で押さえつけられた。
「く……ん」
 臍の周囲を丁寧に舌で円を描くようにされて、八戒が仰け反った。ベッドが軋む。
 捲簾を押しのけようとする手がその短い黒髪へと伸ばされるが、意に返さず相手は八戒の手を押さえつけた。
「おとなしくしてろ。俺が可愛がってやる」
「ん……」
 その躰を半ば隠しているシャツを捲簾の大きな手が邪魔だとばかりに左右へ開く。そのまま腕から強引に袖を引き抜いた。
「捲簾さ……ん」
「捲簾でいい」
 捲簾の舌は上へと這い上った。八戒の胸を彩る二つの尖りを舌先でつつく。
「ひッ」
「感じやすいな」
 その手は宥めるように八戒の背を撫でていたが、そのうち下肢に履いていた服を剥ぎ取ろうとしだした。
「や……」
「いいコだ」
 喉でうなるように捲簾は囁いた。強引でその癖ひどく甘い口調だった。八戒が抵抗しようと、震える腕で脱がされかけた服を引き上げようとする。
 しかし、既に夜着に着替えていて、腰にゴムを通しただけの緩いつくりの服では、捲簾の力強い腕に抵抗しきれなかった。
「あ……」
 下着ごと下履きを脱がされて、八戒が目元を染めて逃げようとする。
「駄目だ。もう逃がさねぇ」
 胸元で悪戯していたのを止めて捲簾は顔を上げた。カフスの嵌った耳元でそっと呟く。
「初めてか」
 情欲の滲んだ声で囁くと、八戒のそれを手でやんわりと握り込んだ。
「く……ぅッ」
「握られると安心するだろ」
 くっくっくっと喉で捲簾は笑った。
「安心……な……か」
 言葉は続けられなかった。捲簾の大きな手は意外と細やかな蠢きを見せた。八戒の亀頭の先端を優しく撫でるとそのまま敏感な裏筋を刺激するように擦り上げてきた。
「あ……ッ」
 陸に打ち上げられた美しい魚のように八戒が仰け反る。
「敏感だな」
 捲簾は涙を滲ませた八戒の顔を覗き込んだ。秀麗な面は信じられぬというように驚きで歪んでいる。
「どうして……どうして僕」
 繰り言のように呟く八戒の唇を捲簾が塞いだ。手は懲りもせずに八戒の局部を弄んでいる。
「どうして……だろな。ホント言うと俺はアンタを見たときから」
 快楽に翻弄され躰の力が抜けてしまった八戒をきつく抱き締める。
「こうしたくて……しょうがなかったぜ」
 甘く囁かれる言葉に力が抜ける。
「嫌な気分なんざ消し去ってやる。夢も見れねぇくらい抱いてやる。いいな」
「あ……」
 全身に捲簾の舌が這い、甘く痺れたような躰を裏返された。うつぶせにされる。
「や……」
 敏感な背筋に捲簾の舌がつっと這った。八戒の緊張を完全に取り去ろうとするかのようにしなやかな背を這い降りてゆく。
「あ……」
 初心な躰を宥めるように前に回されていた捲簾の指の動きが早くなった。
「ああッ」
 可憐な鈴口から滲み始めた先走りの液を塗り込めるようにして、上下に動かされる。括れたカリ首を執拗に刺激するように指が這った。
「ああ! あッ」
「気持ちイイか」
「や……あ!」
 惑乱するような快楽の衝撃に八戒は四つん這いになったまま首を振った。背筋から屹立から快楽が火花を放って走り抜け、脳を痺れさせて我慢できない。
「あ! ああ」
 もう手だけで達してしまう。そう思われたそのとき。
 捲簾の舌が、後ろの尻の狭間にまで這い降りてきた。淫らな動きで円を描き、襞のひとつひとつを舌先で優しく撫で回される。
「ひ……! 」
 八戒は思わず、声にならぬ声で絶叫した。初めて味わう強烈な感覚だった。崩れる腰を捲簾の力強い腕が支える。許さないとばかりに執拗に舌を後孔に這わされた。
「やぁッ……やッ……」
 恥ずかしくも感じきった声が幾らでもでてしまう。自分でもこんなに淫らな声が出るとは思わなかった。自意識もなにもかもを打ち壊されるような行為の連続に、八戒の中で何かが焼き切れた。
「許し……」
 艶やかな哀願が悩ましい。甘い拷問にも似た快楽の連続に限界だった。抱かれることに慣れてない躰が悲鳴を上げている。
「あっ……あッ……」
 がくがくと四肢が震える。腰は崩れて支えられない。腕ももうベッドについていられなくなった。腕を投げ出し顔は横にし肩で上体をベッドにつき、腰は捲簾に支えられている。
 端から見れば尻を高く捲簾に捧げるような恥ずかしい体位だったが、もう八戒には自分がどんなに淫らな格好しているのか、想像する余裕もないらしい。切れ切れに息を吐き、吐息まじりの喘ぎを漏らして身悶えている。
 捲簾が愛撫するたびに、舐められている粘膜と舌の間から淫らな音が立った。くちゅくちゅと耳を塞ぎたくなるような音が部屋の闇の中へ吸い込まれてゆく。淫音に八戒の悦楽の啼き声が混じり、辺りは濃密で甘美な気配に満たされた。
「や……」
 それでも、八戒の震える手が後ろへと伸ばされた。よくは見えぬものの、自分の下肢を舐め啜る男をとらえようと指がわななく。脚の間では痛いくらいに張りつめた屹立が揺れている。
「あ……もう……許し……て」
 縋るようなその声に、捲簾が応えた。
「許してっていったってよ」
 完全に成熟した男の口調で捲簾が宥めるように言った。
「慣らさねぇと辛いぞ。いいコだから、もう少しだけ我慢しろ」
 声とともに捲簾の長い指が入り込み、八戒が背を海老反らせる。
「やッ……! 」
 粘膜を広げるように入った指は、狭間で曲げられた。途端に敏感な前立腺を刺激され、立て続けに擦り上げられて八戒がのたうった。
「ああ! あ! 僕……ッ」
 唾液でぐじゅぐじゅにされた箇所を手練れた淫らな指使いで愛撫され、ひとたまりもなかった。耐えきれなかった。
「あ……! 」
 八戒の腰ががくがくと揺れる。捲簾がもう片方の手で弾けそうな屹立を握りこみ優しく擦り上げた。
「いいコだ」
 前から後ろから淫らな腕に舌に翻弄されて逃げられない。
「……! 」
 八戒は躰を震わせて遂情した。白い体液が間歇的に捲簾の指の間から漏れる。
「くぅ……ぅ」
 びくびくと痙攣する初心な躰を捲簾が後ろ抱きにしたまま、その頬にくちづけた。
「本当に可愛い……綺麗で……可愛いな」
 肩を上下させ、官能の疼きを解放しきれず喘ぐ八戒を再び優しく仰向けにした。
「俺の……大事な」
「あ……」
 警戒する間もなかった。
 捲簾が、八戒の躰の力が抜けた瞬間を逃さず怒張を打ち込んできた。無駄がなく手馴れた所作だった。
「ひぃ……うッ」
 熱い切っ先で貫かれる。
「八戒……」
 びくんとしなる躰を押さえつけられ汗の滲む額に優しく、くちづけられた。
「あ、ああッ」
 無意識に逃げをうつ細腰を、捲簾が力強い腕で引き戻す。
「すげぇ……イイ。たまんねぇ」
「や……」
 狭い後孔いっぱいに捲簾を受け入れぎちぎちに咥えさせられて八戒が息を荒げた。こうした行為に慣れてない躰は男に串刺しにされて恐慌状態に陥りそうになっている。
「八戒」
 捲簾が思いの丈が詰まったキスを降らせた。顔中へ唇を押し付け、額と額を擦り付ける。
「俺に全部くれ。頼む」
「は……」
 八戒の胸が荒く上下する。そんな慣れない躰を愛しげに捲簾が撫でた。
「動くぞ。いいな」
「あ……」
 ず、と肉筒から捲簾のを引き抜かれる感覚に八戒が肌を震わせる。
「ひ……」
 しなやかで長い脚を相手の腰に巻きつけようとした。無意識の動作だった。恐怖からだろう、捲簾の動きを長い脚を絡めて止めようとする。
「八戒……」
 困ったような苦笑いを浮かべ、捲簾は八戒の脚を優しく解き、その片足を自分の胸へひき寄せると、貝殻に似た端麗な爪の嵌まった足先へとくちづけた。
「あ……」
 足の指先まで舌でねっとりと舐め回される。よっぽどの上手でないと考えの及ばぬ濃厚な愛撫だ。
 八戒は捲簾の怒張を後ろで喰い締めたまま、びくびくと躰を震わせた。頬張ったところも連動してぴくぴくと蠢く。内股が緊張してびんと張った。快楽で焼けるようだった。
「イイ……ぜ八戒」
 ゆっくりと捲簾が今度は打ち込んできた。ぬぷぬぷと淫らな音が立つ。八戒の秘められた肉筒を淫らに突きまわして抉ってくる。
「はぁ……」
 内臓がせりあがってきそうな心地がした。自分の秘所が男のもので広げられ蹂躙される感覚に躰を震わせる。
「ふ……ッ」
 八戒の睫毛の先から涙の滴が流れ落ちた。頬を伝い敷布を濡らす。捲簾はそれに気がつくと、八戒の爪先を解放しその躰を前傾させた。涙に濡れる八戒の頬へ唇を寄せると優しく涙を舐め取った。
「あ……ッ」
 捲簾が躰を倒すと、貫かれる角度が変わる。肉筒の後ろ側を圧迫されて八戒が身悶えた。息を詰まらせる。
「ひ……ッ」
「八戒……八戒」
 大切そうにその名を呼びながら、捲簾は八戒を抱く動きを早くしていった。
「あ、ああ」
 がくがくと揺さぶられて八戒が喘ぐ。
「八戒……」
 愛しげにその唇をとらえ、重ね合わせた。そのまま、躰をより奥まで進める。
「…………! 」
 きつい感覚に、八戒が唇を奪われたままその瞳を大きく見開いた。捲簾がその長大な怒張を全部埋め込んだのだ。
「は……全部入った」
 男らしい顔立ちを快感で歪めながら捲簾が囁く。今まで八戒を気遣って、棹の半ばまででしか抽送をしていなかったのだ。
 艶めかしい八戒の反応に我慢できなくなったのだろう、とうとうその不慣れな躰を気遣いながらも全部埋め込んでしまった。
「わかるか? 俺とひとつんなってるんのが」
 八戒が苦しげに息を吐き、その唇の合わせ目から紅い舌先をちらちらと見え隠れさせながら喘ぐ。男の本能を狂わせるような甘い甘い啼き声が漏れる。
「ホラ……」
 ずる、と引き抜く。赤黒い捲簾の凶器が顔を覗かせる。
「ひッ……」
 八戒は思わず息を詰めた。腰奥を淫らな熱い奔流が駆け上り、目の前が白くなる。
 ふいに捲簾に片手をとられた。そのまま繋がっている箇所へと導かれる。
「分かるか。ココでホラ」
「……! 」
 八戒は頭を横に振った。しかし、捲簾はつかんだ手に力を込めて逃がさないようにすると、肉棒で貫いている場所へと添えさせた。触れると捲簾の硬い怒張と濡れた表面の感触が伝わってくる。
 八戒が目元を赤らめた。こんなに太くて硬いものが自分の躰の中に埋め込まれているのが信じられない。
「や……」
 眉根を寄せて困惑の表情を浮かべた。淫らな感触にどうしたらいいのか分からない。
 自分自身の手で貫かれていることをありありと再確認させられて強い羞恥が湧き起こってくる。居たたまれなかった。恥ずかしくてしょうがなかった。
「な、繋がってるだろ」
 捲簾は囁いた。ひとつになれて幸福だとでもいうような、微笑みを口元に浮かべる。行われている行為はひどく淫らだったが深い愛情を感じさせた。
 それは抱く相手にも伝わり、抵抗する気力を奪ってしまう。どこかで捲簾の言いなりになっている自分を八戒は感じていた。
 恥ずかしいのに抱かれるのが嫌ではない。
 そんな自分が信じられなかった。
 性の行為は、多かれ少なかれ抱く男の本性を浮き彫りにするものだが、捲簾との行為は眩暈がするほど豊かで淫らだった。
 相当こうした行為に慣れているのだろうが、それだけでこうしたセックスはできまい。この男の本質を感じさせて優しかった。八戒は年嵩の男に何もかも包み込まれるように優しく抱かれて身悶えし震えた。
「けんれ……けん」
縋るような八戒の声に応えて捲簾がきつく腕の中の痩躯を抱き締める。
 陶酔しきった甘い吐息を漏らして八戒が敷布の上で密やかに踊る。ふたりはただただ繋がり続けた。繋がっているだけで幸福だった。
 そんなとき。
 ふいに捲簾が腕を伸ばし、ベッドサイドの明かりをつけた。小さなランプシェードに光りが灯る。
「やめ……」
 八戒が顔を反射的に覆った。日も落ちた部屋の中はすっかり薄暗くなっていた。お互いの輪郭がぼんやりと見えるだけの状況で、八戒は捲簾に抱かれていたのだ。
 それなのに。
 シェード越しの明かりに照らされ、自分を貪っている捲簾の顔がはっきりと見えた。
 いつもの精悍な顔立ちに濃い情欲を宿し、八戒を食い入るように見つめている。その視線の激しさに八戒は顔を横へ向け、捲簾の目を避けようとした。
「見ない……で」
 自分を抱く捲簾の姿がくっきりと見えてしまう。快楽の汗で濡れた漆黒の髪も、その額の徴も、自分の内壁が蠢く度に心地よさそうに寄せられる眉根も、そしていつもとは違う情欲に滾る瞳も。
 均整のとれた肉体が自分を激しく穿っている。脚をこれ以上ないほどに広げさせられ、捲簾に腰を抱えられていた。
「や……」
 顔を隠していた手を、捲簾は優しくとらえ敷布に縫いとめるように押さえつけた。八戒の躰を挟んで両手をベッドについた格好になった捲簾はそのまま腰を揺すった。
「あ! あ」
 貫く角度が変わり、肉棒を締めつけながら八戒が喘ぐ。八戒が自分の身を満たす感覚に打ち震え、羞恥を瞬間忘れたのを見た捲簾が、両手で腰を支え、高い位置から尻を刺すようにして犯した。両足首を力強い手で吊るすようにされて穿たれる。
「やッ……や」
「こうすると、よく見える」
 捲簾が八戒を見下ろし、やや上擦った声で呟いた。
「明かりで、よく見える。……繋がってるトコが」
「……! 」
 内部を蕩かせる感覚に酔いながらも、八戒が身も世もない悲鳴を上げて腰を震わせた。八戒に捲簾の姿がよく見えるように、捲簾にも八戒の痴態がよく見えていた。
 昼間の好青年ぶりはどこへやら、花びらに似た唇の吸い跡を躰中につけ紅潮した肌の上に快楽の汗を浮かせ、尻を震わせて捲簾のものをぱっくりと美味しそうに咥えこんでいる。
 脚を高く尻を高く上げさせてその身を貫き視線を落とせば、自分のものを八戒の秘所がしゃぶっている様子が捲簾にはよくわかった。
 打ち込むと前の屹立もふるふると揺れる。痛いくらいに張り詰め、透明な蜜を流しているそれを優しく扱けば八戒の口から甘い悲鳴があがった。
 石榴石(ガーネット)のように紅く充血した肉筒は、ひくつきながらわなないて捲簾を呑み込み離そうとしない。ひどく淫らだった。捲簾は欲情で紅潮した粘膜を、めくり上げるようにして立て続けに穿った。
「あっあっ……けん……れ……んッ」
 激しい感覚にもう舌の呂律も回らない。ぐちゅぐちゅとお互いの粘膜が摺り合わされて鳴った。
「あ……もう」
 感じ過ぎて生理的な涙が八戒のまなじりを伝い落ちる。それを舌で舐めとりながら、捲簾は囁いた。
「イッていい。……ホラ」
「あ! ああっ」
 捲簾の動きが速くなる。垂直に快楽を打ち込まれて、八戒が悦がり泣く。閉じられない唇の端から甘い蜜のような唾液がとろとろと糸を引いて滴り敷布を濡らした。限界だった。
「あ……あっ」
「……くッ……八戒」
 達する瞬間お互いを強く抱きしめあった。縋るように八戒の腕が捲簾の広い背へと回される。
 鍛錬された躰が、腕の中の痩躯を抱えるようにして一際深く穿つとその内部へ白濁を放った。
「あ……」
 八戒のものは捲簾との間で擦り上げられ、弾けて白い体液を溢して震えている。勢いよく放出されたそれは、胸元までかかった。
「ふ……」
 びくんびくんと、突き入れられた根元から捲簾のものが脈打つのをまざまざと感じる。その蠢きにすら感じてしまいながら、八戒は熱い息を吐きながら仰け反った。奥の奥までもが捲簾の熱い体液の広がる感覚に浸される。
「八戒……八戒」
 捲簾は抱きしめている腕に力を込めた。長めの前髪をかきあげると、その頬に額に可愛くてならないとでもいうかのようにくちづける。
 八戒は荒い息をつきながら、捲簾の腕の中で崩れ落ちた。





 「花の葬列(8)」に続く