月を呑む(2)

 数日前まで、三蔵は八戒を毎日のように抱いていた。
「どうしてこんなにしたがるんですか」
 困惑したような八戒の抵抗を封じるとそのまま自分の躰の下へと敷き込む。
「んぅ……もう、誤魔化して。僕の質問にいつも答えないじゃないですか。あなた」
 確かに何故八戒を抱くのか、三蔵は最後まで本人にも告げたことはなかった。それどころか自分自身でもどうしてそんな行為をするのか説明できない。
 ただ、肌を重ね合わせ、肉と肉を交わらせて八戒と抱き合っていると、三蔵は安心した。
 生意気な口を利く、その艶やかな唇を荒々しく塞ぐ。とろりとしたお互いの舌を吸いあっていると、何もかもが蕩けて流れていってしまう心地がする。
 そのまま、八戒の下肢をくつろげその服を取り去ると、可憐な蕾に指を這わせた。
 しかし、今日はいつもと勝手が違った。まだなにもしていないのに、蕩けるようになっているその部分に驚いたように三蔵が目を見開く。
 くちづけを解き、無理やり八戒の顔を覗き込むと、恥ずかしいのか八戒は自分の手で顔を隠そうとした。
「おい。まだ何もしてねぇのにこんなに柔らかくなってるぞ」
 ぐぷ、と手を触れて中に指を入れて掻き混ぜる。そこはすでに柔らかに解れていた。
「だっ……て、あなたが毎日スル……からっ」
 八戒は上がってくる息を抑えようとして失敗しながら、三蔵に返した。
「も、……だめ」
 あまりにも、毎日毎日、三蔵に可愛がられているうちに、すっかり八戒の後ろは三蔵の味を覚えてしまったのだろう。もう、夜になると甘い好色な生き物のようにひくついて、いつも与えられる餌をねだるようになってしまっていたのだ。
 抱かれるのが常態になるうちに、八戒の躰はひどく淫らになってしまっていた。
「疼くのか。躰が、この淫乱め」
 三蔵は片目を眇めたようにして八戒を見つめた。羞恥に居たたまれなくなった八戒が、耐えられなくなって三蔵に躰ごとしがみつく。
 きつくしがみついてくる八戒の腕を心地よく感じながらも三蔵は更に八戒を追い詰めた。
「いやらしいやつだ。疼くのはどこだ。ここか? 」
「あうっ……! 」
 三蔵の指が八戒の前立腺を穿った。尻を淫らに左右に振って八戒が悦がる。
 とろとろと始終、情欲の炎に低温で炙られるような毎日を過ごさせられてきたから。もう今では三蔵の姿を見ただけで躰の奥底が反応してしまう。
 三蔵は口端をつり上げて心地よさげに笑った。手塩にかけて淫蕩に育て上げた情人に向かっていう。
「俺が欲しかったら、自分で挿れろ、ホラ」
「ひっ……! 」
 八戒の腿(もも)を自分の硬く太いもので叩いた。八戒が目元を朱に染めながら、躰を震わせた。
 三蔵はその屹立した肉塊の先端を、八戒の後孔に擦り合わせた。三蔵の先走りの液が八戒の赤い粘膜との間に糸を引いて橋を架けた。ひどく淫猥な眺めだった。
「くっ……あっあっ……あっ」
 八戒は躰を小刻みに震わせると、その焦らすような行為に耐えようとした。しかし、無理だった。
「……お願い三蔵」
 発情しきった目つきで八戒は三蔵の肩をつかみ、自分の方へと引き寄せた。そのまま、長い手足を絡めるようにして三蔵の鍛錬された無駄のない躰にしがみつく。
 三蔵の耳元へ唇を寄せ、熱い息を吹きかけるようにして八戒はささやいた。
「挿れて……あなたが奥まで欲しい」
 欲情しきった熱い声で、八戒は男を誘っていた。ぞくぞくするような吐息塗れの声だ。
「クソッ……」
 三蔵は我慢しきれず、そのまま荒々しく引き倒すと、その白い躰を貫いた。途端に八戒の唇から嬌声が上がる。
 八戒は自分から捏ねるようにして腰を回し悦がった。ひどく淫蕩な躰だった。
 今日は、焦らしに焦らして騎乗位で自分から挿れるように躾てやるつもりだったが、計画半ばで頓挫した。
「つったく、お前の躰、スケベすぎんだよ……このっ……! 」
 不本意だとでもいうように舌打ちすると、三蔵は立て続けに八戒を穿った。そのとき、自分の躰の下で、瞳を情欲に潤ませた八戒の顔がまともに目に入った。
 いつもどおり端麗なくせに淫欲に支配された凄艶な表情だった。閨以外では見ることのできない本能のままの顔だった。
「さんぞ……さんぞっ」
 喘ぎながら八戒が尻をくねらす。自分からイイトコロに当てようと動くその恥知らずな痴態に三蔵は脳まで焼かれるような心地がした。
「しようのねぇヤツだ。どうして欲しい」
 言葉とは裏腹に、閨ならではの蕩けるように甘い三蔵の口調に八戒が身をすり寄せ、しがみつきながら甘えるように言った。

「もっともっと……僕を食べて……三蔵」

 確かに八戒はそう言った。

 その言葉に応えるように、三蔵は腰を引いて一度ぎりぎりまで抜くと、次の瞬間下生えが当たるほど深くその身を貫いた。
「あう……」
 ふるふると躰を仰け反らして、八戒が喘いだ。深い情交に意識が飛びそうになる。三蔵が躰を引こうとすると、名残惜しそうに八戒の粘膜が、絡みついてくる。きゅきゅっとひくつきながら締まる淫蕩な躰を、三蔵は眉根を寄せて味わっていた。
 性の喜悦を共にして、お互いの躰の境界が曖昧になるほど抱き合い、躰を絡ませ、体液を交換しあうような行為に我を忘れた。
 八戒の躰は、三蔵に合わせるようにして蕩けた。突き入れられるときはひくつきながらも柔らかく蕩け、引き抜かれるときは逃さぬとばかりに絡みついてきた。
 三蔵は、いまや柔らかいのにきついという相反するような八戒の躰の虜になっていた。
 いつの間にか立ち上がって痛いほどに張り詰めている八戒のペニスに三蔵は気づき、銃を扱う骨張ったその手で握り込んだ。
 途端に痙攣するほど激しく八戒の内部が引き絞られた。
「くっ……!」
 強すぎる快美感に三蔵がその秀麗な顔を顰める。
 八戒といえば、三蔵に敏感なところを指で嬲られ、同時に後ろを太くて硬いもので犯され、掻き混ぜられぐちゃぐちゃにされ続けて、完全に正気を失っていた。
「あ……さんぞ……もう……イクッ……来て…僕の………にッ」
 三蔵は切なげな八戒の声に応えるように、そのひくつく悩ましい肉筒に自分の全てを曝け出すかのように、白濁した精液を注ぎ込んだ。
 三蔵は眉根を寄せて、八戒の粘膜の感覚を味わっているようだった。三蔵の精液で潤う内部を痙攣させると、八戒も躰を仰け反らせて震えながら逐情した。
 間欠的に噴きあがる三蔵の快楽の証を、淫蕩な内部がこぼしもせずに呑みこんでゆく。
 更に奥の奥にまで注ぎ込もうとするかのように、三蔵が自分の赤黒い性器を強く押し込んだ。八戒はその淫らな行為を受け入れ、三蔵を咥え込んだまま内股を細かく痙攣させた。
 甘く、聞くものの精神を甘く狂わせるような啼き声が一際高く闇に響いた。


「は……」
 ぽたりぽたりと、八戒の血の気を失った白い手から、三蔵の白濁液が垂れてゆく。
 八戒との甘い情欲に満ちた日々とのそれにくらべ、解放されることもなかったためか、放たれた精液はどこか粘り気が強く、濃かった。
 気がつけば、三蔵は八戒との閨での光景を思い出して、魂の飛び立ってしまった八戒の手を借りて逐情してしまっていた。
 相変わらず八戒は綺麗に微笑んでいた。三蔵は黙ってその硬い躰を抱きしめた。
「困った人ですねぇあなたは」
 そういう八戒の声が聞こえたような気がした。



 そんなある日のこと。
 とうとう、三蔵はこの日が来たのだと思った。

 八戒は少しずつ少しずつ浮腫むくんでいるようだった。

 生命がその活動を止めたときに同時におとずれる絶対的な掟(おきて)。要するに腐敗が始まりつつあるのだった。
 覚悟はしていたはずだった。
 しかし、それが眼前で起きると三蔵は耐え切れなくなった。
 八戒の皮膚が、肉が、内臓が、粘膜が、有機的な成分のあらゆる重合組織が加水分解し、その側鎖を切ってバラバラに崩れてゆく。ガスに、水に、またはもっと短い分子へと変容してゆく。
 この一連の流れを「腐敗」というなら、なんとそれは残酷なことだろうか。バクテリアやその他の菌によって単原子へと還ってゆくこの流れは三蔵といえど防ぎようもなかった。
 熱力学第二法則の通りにそれは生きとし生けるものの、逃れられない定めといえた。
 不可逆的なこの法則は絶対で、八戒が決して甦ることのない今、確実に訪れることだった。
 自然の摂理であった。

 かつては自分の躰の下で喘ぎ、快楽の声を放っていた美しい肉体が滅びてゆく。
 三蔵には耐えられなかった。
 とうとう、永遠に彼を失うことになるのだろうか。三蔵の脳裏に「弾除けくらいにはなりますよ」といって笑った八戒の綺麗な笑顔が浮かんで消えた。

 そのとき
 突然、三蔵の口元にいつもの人の悪い笑みが浮かんだ。それはどこか悪魔的な笑いだった。
 いいや、と三蔵はひとり呟いた。
「俺はお前をひとりになんてさせない」
 三蔵は断固としていった。まるで何か巨大なものに逆らうような傲然とした物言いだった。
「お前は俺とひとつになるんだ」
 蟲にも喰わせないし、火にも焼かない。浄化なんて真っ平だ。冗談じゃねェ、お前は俺と……。




 かたり、と杯が鳴った。
 烏哭は黙って酒を自分の杯に注いだ。小気味いい音を立てて上質の酒がふちぎりぎり一杯まで盛り上がる。それを、こぼさないように注意深く口に運んだ。
 もう、日はとっぷりと暮れて、外にはいつの間にか綺麗な月が掛かっていた。
「いつの間にか月が出たねェ。……なんだかあの人を思い出すよねェ」
 烏哭は三蔵の反応に構わず杯を重ねた。三蔵は傍で黙って杯片手に座っている。烏哭は立ち上がって、開け放たれた扉の傍まで寄った。
 そうすると更に月が美しく見えた。満月にやや欠けるくらいの玲瓏(れいろう)とした月だった。
「こっちにこない? 江流。ホラこうすると杯に月が映って綺麗だよ」
 烏哭は杯を月にかざした。酒の面に月が映りこんだ。暫くそれを愛でるように眺めていたが、勢いよく杯を口に運び、飲み干した。
「ね……ホラ、月を呑んじゃった。人を呑むのもイイけど月を呑むのもオツなもんだよね」
 烏哭は自分の問いに答えようとしない三蔵を相手にするのを諦めて、風流に酒でも飲むつもりになったようにみえた。
 飄然とした烏哭の風体が戻り、緊張していた空気はにわかに緩んだようだった。
 が、
「あいつは俺と一緒にいる……ってアンタいったよね」
 烏哭は突然言った。背後にいる三蔵の方は見もしなかった。
「アンタ……喰ったな。三蔵」

 喰ったな

 何を?

「八戒を喰ったんだろ。そうだよね」

 三蔵から返事は無かった。一呼吸置いて烏哭は後ろを振り返った。

――――闇の中で三蔵の顔が口を耳まで裂くようにして笑いに歪むのが見えた。

 烏哭は思わず、印を切る構えをとった。そこには確かに三蔵という名の鬼がいた。彼は無明の業火に包まれて鬼と化したのだった。



 誰もいない、闇のなかで。まるで濃厚な愛撫の続きのように。
 三蔵は八戒の血を啜るようにして飲みその肉を食んだ。聖餐にも似たその儀式は、醜悪な行為の筈なのにどこかもの悲しかった。
 その腱を噛み切り、臓物を咀嚼する。口一杯に生臭い味が広がった。その癖八戒のものだと思うと、それはひどく蕩けるように甘かった。
 こうやって、自分の躰に全て取り込んでしまえば。
 三蔵は密かに思った。
 八戒は自分とひとつになる。その血肉は腸壁から吸収されて三蔵を構成する成分のひとつになるはずだ。
 例え時間が経って代謝されようと、自分の細胞の構成要素をつくるものの何かには取り込まれ、八戒は自分の躰のどこかに残り文字通り自分と八戒はひとつになる。

「もっともっと……僕を食べて……三蔵」

 確かに八戒はそう言った。
 性的な意味合いの「食べて」と純粋な食の「食べて」は存外近い関係なのかもしれない。
 食欲と性欲の中枢は脳の中で近い位置に存在しているという。この本能は繋がり合い、補完しあって、時には曖昧になることもあるのではなかろうか。
 ある情事の宵に、三蔵は八戒の白いぬめるような肌に口づけながら、いっそ噛み切ってやりたいと思いはしなかったか。
 愛したものを噛んだり啜ったりするのは、どこかで相手の全てを食べてしまいたいからなのではないか。


 何晩もかかかって三蔵は八戒を余さず喰い、自分と同化した。
 細胞のひとつひとつまで。残さずに。

――――俺とお前はふたりでひとつだ。

「あんた、本当に何しに来たんだ。烏哭」
 低い声で愉しげに三蔵が笑った。いままで隠してきたものが明らかになっていっそ清々したとでもいうような様子だった。
 妖魔のようなぞっとする微笑だった。その禍々しい雰囲気は生来の壮絶な美貌とあいまって気圧されるほどだった。
「アンタ、とうとう鬼になったね。江流」
 烏哭は杯を静かに床に置いた。口の中はいつの間にか乾ききっていた。
 三蔵から凄まじい殺気を感じていた。思わず、烏哭は無意識に自分と三蔵の間の距離を測っていた。
「だったらなんだ。三仏神の奴等が何かいっていたか? 俺を始末しろとでも」
 聖と魔を合わせもつその光輝はいまだ健在で、このように畜生道に落ちた現在でもそれは失われていなかった。三蔵が凄みのある肉食の獣さながらの様相で笑った。
「やってみせろ。烏哭」
「……! 」
 肌を刺すような強烈な威圧感を感じながら、烏哭は印を切った。
 しかし、三蔵から発散される気は無天経文も、虚空蔵の真言も役には立たなかった。凄まじい邪悪さだった。光さえもが腐蝕されるような濃い闇を三蔵から感じた。
「やらねぇなら俺からいくぞ」
「が……! 」
 それは一瞬の出来事だった。
 鎧袖一触。単純に三蔵の気を浴びただけだと思うのに、烏哭は躰中引き裂かれて、畳の上に転がった。血を吐いて転げまわる。
 三蔵法師という通力の水準を越えていた。桁外れだった。
 鬼。いやこれでは鬼神だ。
 法衣の袖を払って闇のなかで三蔵が笑う。
 烏哭はこのとき理解した。三蔵は本物の天部の修羅、羅刹になったのだと。
 三界を駆けのぼって天の彼方へ到り、変化自在に飛翔する茶吉尼(ダキニ)や羅刹のように。高らかに哄笑して人を喰い、その強大な神通力で天をも裂き、大地を砕く。荒ぶる祟り神どもと同列の存在に三蔵はなったのだ。
 八戒の死のために、人であることを止めてしまった三蔵は別物に変化していた。それは何かの階段を一気に駆け上がったかのような劇的な変化だった。
 三蔵は床に転がった烏哭を冷然とした目つきで睥睨していたが、何を思ったのか、つかつかと近寄り、その髪を鷲掴みにした。
 その激しさに、烏哭の顔から眼鏡が弾き飛ぶ。
「やっぱりテメェでも俺は殺せねぇか」
 少々残念そうな物言いで三蔵は呟いたが、次の瞬間その口元が嗜虐的な微笑みに歪んだ。
「本当になんで来たんだ、あんた」
 冷酷な口調だった。「こなきゃ死ななかったのに」そう続く語調だった。鬼神が喋ればこういう声なのかもしれないと思わせる冷たさだった。
 髪をつかまれたまま、それに烏哭が答える。どこかで死を覚悟していた。
「こう……みょ……が」
「あ? 」
 三蔵が切れ切れに紡がれるその言葉に耳をすませた。
「光明が」
「……」
 その名を聞いたとき、三蔵の表情から毒気が抜けた。
「光明が……キミを心配して……あのヒト…ときどき……ボクのトコに「くる」んだよね……まぁ、キミがらみが、ほとんどなんで妬けちゃうんだけどさ……」
 烏哭は苦しそうに喘ぐように告げた。三蔵の顔色が変わった。
 師である光明三蔵法師が、夢枕さながらに烏哭の傍に立ち、三蔵の状況を心配して様子を見てきて欲しいとお願いしたのだという。俄かには信じられない話だったが、三蔵にはどこか納得できるものがあった。
 三蔵は烏哭から手を放すと、立ち上がって後ろを向いた。その衣が勢いでひるがえる。
「去れ」
「……江流」
「今はあんたとやりあいたくねェ。師匠の顔に免じて許してやる。消えろ」
 そういうと、三蔵は再び須弥壇の前に衣を払って座り、読経を始めた。
「わかったよ」
 烏哭は諦めたようにいうと、汚れた裾を払って荷物をまとめた。
「じゃあね」
 立ち去る前に烏哭は一度振り返った。そのとき、確かに三蔵の傍らに八戒が生前の清らかな姿で立ち、こちらに向かって会釈するのが幽かに見えたような気がした。
「……! 」
 烏哭は目をこすった。
 再び目を向けると、やはりそこにいるのは三蔵だけだった。
 しかし、見間違いとは思えなかった。
 本堂の外へ、よろけながら出た。外の冷気が、躰中にかいていた脂汗を冷やしてゆく。
 確かに三蔵のいうとおり、喰ってしまえば、大切な人とはひとつになれるのだろうか。しかし、こんなことは光明に報告することもできない。

 烏哭はもと来た道を引き返し始めた。いまにも崩れそうな石段をひとつずつ降りる。頭上には既に傾きかけた月が朧に光っている。
 烏哭はふと呟いた。
「今、キミは幸せ?江流」
 そのひとのためなら鬼にも蛇にも羅刹にもなる。それほど大切な相手がいるなんて。
「少しキミのことが羨ましいよ」
 烏哭は誰ともなしに呟いた。

 たぶんあの二人は、今でも夜になるとやはり同じように抱き合い、閨の中でお互いを貪るのだろう。
 闇の中から八戒は鮮やかに甦り、三蔵の傍に寄って、その躰を割り開いて何もかもひとつになるのだろう。
 妖しい彼岸の彼方から闇の通い路を通って、八戒は三蔵のもとに忍んでやってくるに違いない。


「あいつは俺と一緒にいる」
 確かに三蔵はそう言った。そしてそれは確かにそのとおりなのだ。