三蔵×悟能 後日談(2)


「法会へ出る。準備は自分で出来る。俺にかまうな」
 朝食の後、三蔵様はつれない冷たい口調でそういうと、隣室へ消えた。怖ろしいまでの美貌だったが、こうして無関心な様子をされると、それはそれは、震えがくるほど冷たく美しく見えた。
 以前なら、悟能にあれこれ手伝わせた。金襴の袈裟だの白い直縫だの金冠だの頭巾だの、細々した三蔵法師様のありがたい装束を着るのを全て悟能に手伝わせた。三蔵様がどさくさ紛れに抱きしめたり口づけたりして、したくはなかなか進まなかったが悟能の役目だった。

 それが今はこんなよそよそしい態度で悟能を退ける。
 悟能はうつむき、暗い目をして三蔵の前から下がった。本当に悲しかった。

 しばらくするとご主人様は、神々しい三蔵法師の正式な装束を身に纏い出ていった。その手にはみごとな翡翠の数珠が握られていた。結び目や房飾りに紫色の絹糸が使われた高貴な品だ。
「行って来る」
 声までが魅力的だ。低いが艶のある声で告げられ、悟能は部屋にひとりになった。扉の閉まる、無情で冷たい音が耳に届く。
「ふ……」
 悟能の目に涙がにじんだ。もう誰もいないから泣いてもいいかと美少年はひそかに思っている。
そのときだった。
 ふと、くずかごが目に入った。何か、大きな白い布が入っている。悟能はこっそり覗き込んだ。
「…………え」
 三蔵の夜着だった。先ほどまで着ていたやつだ。くずかごは昨日の夜、代えたばかりだから新しく綺麗だった。ゴミもこの三蔵の服しか入っていない。
 しかし、どうして三蔵は夜着を捨てたのか、
「…………」
 悟能は思わず、夜着をくずかごから引き出した。三蔵の匂いがぷん、とする。男臭い匂いが少しした。
 三蔵が夜着を捨てた理由はすぐに分かった。白濁した体液が、べっとりと裾のところにかかってしまっている。これを悟能に洗わせたくないのだろう。
「ふ…………」
 これを洗わせたくないほど、自分は三蔵に嫌われてしまったのだ。大好きなお上人様の匂いが沁みついた服を手に、悟能はひそかに涙ぐんだ。
「あ……」
 悟能は目を閉じた。朝見た、三蔵が自分で自分を慰める、淫らな様子がまぶたに浮かんだ。美しかった。性的に妖しくも美しい。肉食の獣が唸っているような淫蕩な仕草で、三蔵は自分の埒を自分で開けていたのだ。
「んっ……」
 三蔵の夜着の匂いを嗅ぐと、どうしようもなく身体の奥が疼いた。どうしようもなかった。なにしろ悟能はずっと抱いてもらっていなかった。
 熱が一点に集中してゆく。悟能は思わず自分の身体を細い腕でかき抱いた。



「あ……」
 悟能は目元を紅く染め、熱い息を吐いていた。もう限界だった。もう、何日も三蔵に抱かれていない。黒檀を美しく鳥や花の形が切り抜いた美麗な衝立の陰、誰もいない主のいないベッドの上へ倒れこむ。白いシーツの皺が朝の光を受けて柔らかい波に似た影を作っている。
「ああっ」
 うつぶせになって自分を慰めだした。震える手で下肢へ、自分の腿へ、もっと奥の太腿へと指を走らせる。しなやかな長い脚をさらけだした。
「っ…………」
 三蔵の夜着の匂いを嗅いだ。確かに悟能の大好きな、金の髪をした法師様の匂いがした。
「あッ」
 悟能は自分の屹立に指を走らせた。身体が熱かった。疼いて疼いてしょうがない。ひくひくと肉筒が妖しくくねるのが自分でも分かった。
「さん……ぞ……さ」
 吐息塗れの声で呟く。そのまま、自分の可憐な屹立を手で扱いた。親指と中指で輪をつくってかきまくった。着物の合わせ目が緩んでずり落ち、裸の肩がむき出しになる。
「ああッ」
 三蔵に以前、されたように雁首を愛撫する。三蔵の舌が何度も走ったその敏感な場所を自分の指で扱いた。
「ああああッ」
 惑乱するような快感に腰を尻を震わせた。気持ちよかった。ねばねばする透明な体液がつらつらと肉塊をつたって滴り指を濡らした。
「三蔵……さま」
 甘い声で三蔵を呼ぶ。ひくひくとわなないている後ろの孔にまで指を這わせた。もう脳は煮えたようになっていて何も考えれらない。ひたすら三蔵の雄を求めていた。以前のように自分の身体を無理やり開いて犯して欲しい。
「……抱いて」
 甘い声で何度も呼んだ。胸のピンク色の突起まで尖って震えている。感じきっていた。
肉欲の虜になった稚児はお上人様を求めて喘いだ。その可憐な狭間に、三蔵が欲しくて身悶えしている。三蔵が今朝、自慰で放った白濁液が眼前にあったら、恐らく止める間もあらばこそ、なめ吸っているに違いない。稚児はそれほど三蔵様に飢えていた。
「抱いて……抱いて下さい。して……」
 可憐な顔立ちに似合わぬ、凄艶さが表情に漂う。もう何日、抱かれていないのか数えるのもいやになっていた。稚児は三蔵がしてくれたことのある愛撫を思い出しながら自分の指で屹立をなぞっている。熱い吐息はいよいよ淫らに、艶っぽく悩ましくなっていった。
「ここに欲しい……ここに……さんぞ……さまのが」
 甘く蕩けるような口調で、後ろを自分の指で慰めながら漏らす。腰が震え白い尻に甘いおののきが走った。肉の輪を自分の細い指で慰めていた。
「さん……」
 せつなく名を呼ぶ舌先まで震わせたそのとき、
「呼んだか」
 突然だった。
 背後から突然、想像していた相手の声がした。
「さん……ッ」
 悟能は愕然とした。三蔵は午前中いっぱいはかかる法会へ行ったはずだった。それなのに、何故か戻ってきたのだ。予想外のことだった。
 しかし、そこにきらびやかな正装で立っているのはまぎれもなく、悟能のご主人様、この慶雲院の最高僧様だった。
「え……」
 一瞬、呆然とした悟能だったが、次の瞬間、
 三蔵に自慰をしていたのを見られてしまったのに気がついた。羞恥で耳まで朱を刷いたようになった。
「すげぇ、いい眺めだな」
 三蔵は嗜虐的な調子で言った。その肩に緑色の縁取りをされた魔天経文がかかり、手に翡翠の数珠が光る。
「ひとりでお楽しみか」
 いいご身分だな、そう続けて顔を背けようとした、その背へ稚児が言った。
「さんぞ……さま」
 甘い甘い口調だった。砂糖のごとく蕩けるような調子だ。
「僕のことが……もう、お嫌いなんですね? 」
 悟能はその白く艶やかな肌を震わせて、三蔵へ両手を伸ばした。
「もう、嫌われてもいいです……最後に僕を……」
 どんな男でも、脳天を直撃されるほどの色香だった。大人でも子供でもない危うくも麗しい美少年の甘い甘いいざないだ。
「抱いて……」
 なまめかしかった。しなやかな脚をさらけ出し、その奥でひくつく粘膜さえさらして悟能は誘惑した。

 次の瞬間、
「あ……! 」
 三蔵の腕が伸びた。
 最高僧は悟能の、その細い身体をかき抱いた。相手の背骨が折れそうなほど腕に力を込める。勢いで被っていた金冠は外れて床へと落ちた。
「……もう我慢できねぇ」
 金の髪をした美僧はうなるように言った。
「俺がこんなに我慢してるのに、てめぇときたら」
「あッ」
 三蔵はそのまま悟能のしなやかな身体をシーツの上へ押さえつけた。ひどく艶かしい媚態だった。今の悟能はひとではなくて、麗しくも淫らなけだものだ。三蔵はその官能的な首筋へくちづけた。口吸いの跡を、内出血の跡を点々とつけてゆく。
「だって……僕、さんぞ……さまに」
 悟能は三蔵の下に敷きこまれ、喘ぎながら言った。
「嫌われてしまった……から」
 それを聞いて
「バカかお前は」
 三蔵はすごい形相で悟能を押さえつけたままにらんだ。
「俺がお前を嫌いになるわけがないだろうが」
 悟能は絶句した。三蔵の言葉に驚いていた。
「こんなに俺が我慢してるってのに」
 やや上へとねた癇症かんしょうな眉をさらに怒らせ三蔵は真剣に言った。目じりが下がっているのに、整い過ぎた美貌のため冷たく見える。紫色の瞳がまっすぐに悟能を見下ろしている。
「だって、僕のことを全然見もしないじゃないですか」
 悟能は思わず涙声になった。
「お前のことなんざ見たらヤりたくなるだろうが」
 照れを含んだ無愛想な声で三蔵が返した。確かに悟能はとても可愛かった。食べてしまいたいくらい可愛かった。
「僕とちっとも口を利いてくれないじゃないですか」
 いよいよ悟能はわけがわからなくなって三蔵の身体の下でべそをかきだした。
「お前と口なんざ利いたらヤりたくなるだろうが」
 憮然として三蔵は告げた。この一回りも年下の恋人は本当に鈍感だった。三蔵にしてみれば呆れるほどだ。鈍かった。
「僕と全然一緒にいてくれないし」
 恨みごとを悟能は言っているつもりだが、三蔵には伝わっていない。
「お前と一緒になんざいたらヤりたくなるだろうがバカ! 」
 一喝した。
「こんなに俺が我慢に我慢重ねてんのに、なんだお前は」
 三蔵はうなった。この可愛らしい稚児はご主人様の血のにじむような努力をちっとも分かっていなかった。三蔵は本当に不満だった。
「う…………」
 悟能の綺麗な緑色の瞳は、今度こそ涙で潤んだ。
 そうだった。三蔵様は我慢していたのだった。というか、我慢しているだけだったのだ。悟能と視線が合いそうになると逸らすのも、一緒にいないのも、経ばかり読んでいるのも、悟能を抱かないための精一杯の努力だったのだ。
 むしろ千日回峰行のごとき荒行をやり遂げるような覚悟でこの艱難辛苦をなんとか耐え切っていたのだ。
「どうし……どうして」
に落ちない悟能がうわごとのように訊ねた。わけがわからなかった。
「言ったろうが」
 三蔵は憮然として言った。その頬にかすかに赤みが差している。
「ヤブ医者がヤリすぎだって言いやがったと」
 三蔵としてはそれで説明が済んでいるつもりだった。説明不足もいいところだったが真実それが理由だった。
 ヤブ医者めがといいながら、実際のところ三蔵は気にやんでいたのだ。自分の欲望のままに悟能を抱いてはよくないのかと。
 医者は3日に1度ならいいと言った。それならば、もっと我慢すればもっと悟能は具合が良くなるに違いない。そんな単純なことを三蔵は思ったのだ。
 だから、悟能が完全に良くなるまで我慢しようとした。そのために恐ろしい忍耐を重ねたのだ。悟能が寄ってくると抱きたくなってしまうので、自然と避けるようになってしまった。夜は拷問だった。このしなやかな若い肉体が傍にあるのに抱かず、自慰で済ませるなど苦行としか呼べない責め苦だった。それに三蔵は耐えに耐え、耐え切ったのだ。
 それなのに、なんなのか。三蔵最愛の稚児はわけのわからないことを言っている。
「なのに、てめぇときたら、ちっとも調子が良くならないじゃねぇか」
 三蔵は一気呵成に言った。ほとんど怒鳴った。
 そうだった。こんなに三蔵が我慢しているのに、悟能は鬱々としてちっとも体調が良くならない。あまり眠りも深くなさそうだし、食欲もない。以前より元気もなかった。気鬱の病にでも罹ったようだったのだ。三蔵は見ているだけで心配で苛々としていた。
「さんぞ……さま」
 悟能は全力で白い僧衣にすがりついた。よく完全に理解していないが、嫌われたのではないらしいことだけは分かったのだ。
「さんぞ……さま」
 震える可憐な指を三蔵へと伸ばす。最高僧はその手を自分の大きな手で握り返し、悟能の細い身体をいっそう強く抱き寄せた。真っ白い僧衣で黒髪の稚児を包むようにする。
「悟能」
 ようやく最高僧は優しく最愛の稚児の名前を呼んだ。




 三蔵は法会の正式な装束を脱いだ。ベッドの傍の木の床に、白い僧衣や金襴の袈裟が蝉の抜け殻のように重ねて脱ぎ捨てられている。
「あ……」
 悟能は身体を震わせた。甘い、甘い声が幾らでも出てしまう。
「……そんな」
 悩ましくためらうように身体を震わせる。欲しくて欲しくてしょうがなくなっているとはいえ、今、施されそうになっているのは淫靡な行為だった。
「なんだ。コレが欲しいんじゃねぇのか」
 三蔵が薄く笑った。
「や……」
 後ろの孔の入り口に硬質なものがあたっている。三蔵の数珠、翡翠の珠を無理やり挿入されそうになっていた。数珠は輪を解かれて珠を繋げた棒のようになっている。妖しい性具のようだ。
「悟能……」
 後ろに数珠をあてがって緑の珠をひとつずつ挿れてゆく。ひくんと悟能の引き締まったしなやかな腹が小刻みに震えた。
「ああ……ッ」
 目の色と同じ、美しい緑色の宝石に犯されている。後ろを珠で嬲ったまま、三蔵は悟能の前をそっと舐めた。
「ひっ……」
 がくがくと悟能の身体が痙攣する。後ろを弄ばれながら、前の屹立を飴の棒か何かのように舐めまわされる。我慢しきれず思わず小さな悲鳴を上げた。
「あっ……」
 三蔵の舌が敏感な裏筋をねっとりと這ったとき、悟能が呻いた。感じすぎて内股が痙攣する。
「いいッ……さんぞ……さま」
 淫らな声だった。
 後ろに仏具を挿入されたまま、悟能は喘いだ。三蔵はひくひくと震える悟能の性器を食むように愛した。舌で舐め回し、唇で絞るようにして扱く。
「ひぃッ……」
 悟能は悲鳴をあげた。よくてよくてしょうがない。三蔵の淫らな舌が鈴のように小さく口を開けているところまで入念に這い、舌先で孔を突かれた。もう、腰をくねらせて卑猥な動作で絶頂へ達しそうになった。
「ああッ」
 後ろもいやらしくほぐされ、指で珠で愛される。きゅ、きゅっと粘膜がわなないて締まった。珠のひとつひとつを粘膜で確認するようにして肉筒はくねり味わうように食い締めている。
「あっん……ああっ」
 雁首を舌で唇で愛されて吸われ、悟能は身体を仰け反らせた。
「ああああッ」
 ありがたい数珠をくわえたまま肉筒は淫らに震え、そのまま達した。白濁液を何度も吹いて、身体を痙攣させている。三蔵はそれを愛おしそうに口中で受け止めるとそのまま飲み干した。
「あっあ……さんぞさま」
 潤んだ緑色の瞳で三蔵を見上げた。金の髪の美しい男が悟能の身体の上に覆い被さっている。白皙の美貌を少年の精液で汚し、悟能を見下ろしている。顔立ちが整っている分、落差が激しい。表情がひどく淫蕩に見える。
「悟能」
 あまり、三蔵も余裕がなかった。悟能のことが欲しくて欲しくてひどく苦しめられていた。まるで十代の少年のように性に飢え、悟能が視界に入ると肉欲と戦って身悶えていたのだ。
「……もたねぇ。もう、お前を」
 抱きたい。三蔵は悟能の肉の環から数珠をゆっくりと引き抜いた。珠がひとつひとつ肉筒を擦る度に悟能が苦痛とも快楽ともつかぬ表情で顔を歪める。粘膜が翡翠の珠のひとつひとつへひくひくと絡みついた。
「あああッ」
 全身を紅潮させて脚をこすりあわせ、尻をよじり回す。珠を引き出して抜きときの快感が強すぎたのだろう。額に官能的に汗が浮いている。悟能の淫らな孔は痙攣している。
「あ、また……」
 とろっと先走りが流れたかと思うと、悟能の屹立はまた放ってしまっていた。
「ああっ」
 正気を失った瞳が潤んで生理的な涙を流し続けている。もう、何をされても達してしまうのだ。身体中が性感帯のように過敏になってしまっていた。
「んッ」
 淫らな悦楽に溺れる悟能の貌を、じっと眺めていた三蔵だったが、もう我慢できないらしい。自分の怒張を後ろへ擦り付けだした。
「はぁッはあっ」
 悟能が三蔵の生々しい肉の感触に狂う。自ら、相手の動きに合わせて尻を振った。くち、と肉の輪が三蔵を求めてひくひくと拡がったり窄まったりする様子は淫靡でいやらしいの一言だ。
「……ください」
 甘い甘い声で悟能はすがった。きつく抱きしめてくる最高僧の耳へその可憐な唇を寄せて淫らなおねだりをする。
「悟能」
 ぺろ、と悟能の耳たぶを舐めながら、三蔵が愛しげに名前を呼ぶ。達したばかりの屹立を握りこみ、さらに執拗に扱いた。ダメ押しだ。
「ああッああッさんぞさんぞさまぁッ」
 もう理性の残っていない獣の声で悟能が言う。
「挿れて、挿れてください。ぐちゃぐちゃにしてぇッ」
 その蕩けるような声を聞いた三蔵は甘い苦悶の表情を浮かべた。悟能の腰を手で支えると、そのまま凶暴な怒張をあてがい……穿った。もう耐えられない。我慢など到底できなかった。目の前の可愛い少年はひとの形をした媚薬のようだ。
「ああああああッ」
 床へ、ベッドの下へいままで悟能を犯していた数珠が落ちる。硬く鈍い音を立てて、床の上に転がった。数珠とは比較にならない熱く硬い肉を粘膜いっぱいに埋められる。後ろが拡げられる感触にひたすら狂った。ずっと与えられなかった感覚に悟能は夢中になった。思わず卑猥な喘ぎ声をあげて身をよじった。喘ぎ過ぎて唇の端から飲み込み切れない唾液が伝い落ちる。
「……いやらしい身体だ……いやらしい」
 悟能を追い詰めるように腰を使う。三蔵が耐え切れずに奥歯を噛み締めた。もの凄い締め付けだった。柔らかいのに弾力があって襞がすいついてくる。その癖、蕩けるような肉の感触が甘い。
「ずっとお前のここに挿れていたい」
 三蔵が呻いた。身体の下で可愛い稚児は三蔵の動きに合わせて尻を動かしている。その内股は腿がひくひくと痙攣し、三蔵のが埋められると仰け反って震えている。
「1回出していいか。イッちまう。ダメだ今日はもたねぇ」
 三蔵がささやくと、悟能が腕を伸ばしてすがった。大切で大好きな三蔵様の首へと腕を回す。来て、来て。お願い……言葉に出さなくとも、その甘い媚態が言っている。しなやかな両脚までもが三蔵の腰へとすがるように回された。
「んッ」
 三蔵がひときわ深く、悟能を穿った。奥の奥へとその肉棒を、肉冠を擦りつける。自然に前の方の前立腺もさんざんかき回す動きになり、悟能はその眉を悩ましげに寄せた。
 びゅく、びゅる。
「ああッ……ッ! 」
 暖かい淫液の滴る感触が身体の奥いっぱいに拡がった。
「ああッああ……あ」
 男の白濁液を注がれて悟能の肉筒はそれ自体が卑猥な生物であるかのようにくねりうねった。悟能が耐え切れず尻を左右に蠢かせる。三蔵に喰われるように抱かれ、精液をなかに出される行為自体に感じている。快感が深すぎて神経が麻痺して切れそうになっていた。
「悟能」
 三蔵が悟能の唇を舌でそっと舐めた。
「俺のだ、俺のだいじな」
 少年の黒髪を優しく撫でながらささやく。
そのまま、唇の間へ舌を忍び込ませるようにして、口を割らせた。震える舌を探し出し、絡めあわせる。舌を吸った。
「あ……」
 射精されながらキスされて、悟能がわなないた。弛緩と痙攣を交互に繰り返しながら絶頂に達している。上も下も、どちらの粘膜も三蔵でいっぱいにされる。
「お前は俺のものだ……悟能」
 三蔵は悟能の奥の奥まで自分の白濁液を塗りこめるような腰の動きを繰り返しながら、うわごとのような甘い声で少年の耳元へささやいた。
「そして、俺も……お前の」
――――お前のものだ。

 散々お互いを求め合い、体液を交換しあうような情事に溺れて、
気がつけば日が傾いていた。
もう、午前中の法会などとっくに終わっているだろう。

 午後の陽光の中、白いシーツは皺まみれになっている。陽の射しこむ角度が変わって、傍の衝立の陰がベッドの上へ落ちている。華麗な影絵が白いシーツいっぱいに拡がっている。
「ど、どうして法会から戻ってこられたんですか」
 喘ぎ続けたせいで、少しかすれた声で悟能が訊いた。ベッドの上では、三蔵が寝そべったまま、タバコを吸っていた。
「俺が戻ってこない方がよかったのか」
 三蔵は拗ねた声を出した。けぶるように紫煙がたなびき、マルボロの深い香りが部屋に漂う。
「い、いえ、そんなこと」
 悟能はあわてて首を横に振った。
「フン……今日の法要は翡翠じゃなくて、やっぱりほかの数珠を使おうと思ったんでな」
 翡翠の色は、可愛い稚児の瞳の色を連想させた。法会の最中に悟能のことを思い出して経を上げるのに集中できなかった。それで数珠を交換しに法会を抜けて戻ったのだ。
「そうしたら、お前がすげぇ格好で」
 三蔵はじっと悟能を見つめた。濃い紫の瞳は先ほどの悟能の凄艶な痴態を脳裏に思い出そうとしている。最愛の稚児が自分を欲しがって欲しがって悶える可愛らしくも悩ましい姿だ。
「……す、すいません」
 悟能は耳まで真っ赤だ。三蔵に嫌われているわけではなく、避けられているどころか身体を心配するあまり三蔵が必死で我慢してくれていたと知った今、自分の行動が本当に恥ずかしい。おねだりするなんて。身体ごとすがるようにしておねだりしてしまった。娼婦だってしないだろう。本当に直接的で下品なことをしてしまった。三蔵の記憶を消せるものなら消したかった。
 羞恥に身を焼く悟能の気持ちも知らず、三蔵は咎めるような声をだした。
「お前、また痩せたんじゃねぇのか」
「そ、そんなハズないです」
 胡乱げな目つきで三蔵は最愛の稚児を眺めた。横目でじろじろと視線を送る。
「ただでさえ、華奢なのにそれ以上痩せてどうすんだ。ったくしょうがねぇな」
 舌打ちをひとつすると、ふっ、とため息をひとつ吐いて三蔵様は言った。
「あんまり俺に心配させるな」
 優しい声だった。悟能の頬をその白い手で覆う。
「どれだけお前のこと、だいじだと思ってんだ」
 三蔵様は、そっと悟能の唇にキスをした。甘い甘い甘いくちづけ。雪のように冷たいと思ったら、実はそれは粉砂糖だったようだ。それくらい甘いくちづけだった。
「お前が元気でいてくれることだけが俺の」
 三蔵の語尾はかすれた。ベッドの上で可愛い稚児を抱き寄せる。重厚な調度、紫檀づくりのベッドに家具、重々しい最高僧様の方丈の、華麗な調度品のひとつのように溶け合う。ベッドの脇に立てられた花や蝶の意匠で飾られた重厚な透かし彫りの施された美しい芸術品のようなついたて。それに守られるようにして、麗しい稚児は三蔵の傍に控えている。
 そして、
「三蔵様」
 恭しくその手の甲に、悟能は額をつけた。服従の証のようだ。
「僕だって、三蔵様のことだけが」
 言葉を継ごうとしたが、その先を聞くのは待てないというような三蔵の唇にふさがれる。
――――慶雲院の三蔵の私室、秘密めいて甘いこの空間でふたりの関係は凝固して白く結晶してゆく。全てが宝石のようだ。
「悟能」
 三蔵は誓うように、年下の恋人を抱き寄せた。そのままふたりは結晶化したようにいつまでも抱き合った。

 いつまでも


 了