秘密

 快感を知り尽くした甘い身体。悟浄にも抱かれ、男に抱かれ慣れた身体だった。八戒はそんな自分を軽蔑していた。
 しかし、どうにもならない。
 最近は特に頻繁に散々悟浄に喘がされ、啼かされたため、蜜がしたたるように男を誘うような仕草が香り出している自分自身を止められないでいる。
 いつかの、月夜の宵のように、湖水のほとりで樹の幹にそのしなやかな身体を預け、悟浄に羽交い絞めにされ、追いつめられ、貫かれ、突かれまくって度を失っていた八戒の様子が三蔵の脳裏に浮かんだ。
 樹にもたれ掛かり、立位で背後から悟浄に貫かれ官能的な苦悶の表情を浮かべていた八戒は、人と呼ぶにはあまりに淫らだった。
 その時一瞬、悟浄の腕によって内股を抱え上げられたため、咥え込まされ、繋がった箇所がありありと見えた。咽び啼いて腰を振る八戒に卑猥な言葉を悟浄が投げかけているらしいのが、遠目からも分かった。
「ほら、オマエ腰ふってんぞ。そんなにイイ? 」
「あっ……ごじょっ……っっ。あ……んっ」
「こんなにぱっくりと咥え込んじまって、すげぇよ、オマエの中」
「あ、あ、止め、おねが……っごじょ、ああ、っ」
 快楽のための涙がうっすらと浮かび、八戒の頬を流れ落ちる。性器を打ち付け、貫きながら悟浄は舌でその涙を舐めとった。
 犯され、熱い悟浄の精液を身体の内部に受けとめながら、八戒は喘いでいた。
 あの時から。三蔵の、八戒に対する感情は一変した。
 端正で、禁欲的な八戒。いつも冷静で、自己コントロールが完璧にできている理知的な彼の素顔が、実は淫らな男娼じみたものであったことに対する衝撃。男の身体の下に組み敷かれて喘ぎ抜くその表情は、日頃のストイックで良識ありげに振舞う所作とあまりにもかけ離れている。
 昼間の表情は、まるで仮面とばかりの変貌のしかたに三蔵は驚きを禁じ得なかった。

 そして、今三蔵の部屋で。
 八戒は、悟浄との関係について三蔵から詰問されていた。

「淫売が」

 吐き捨てるように三蔵の口が紡いだ言葉に八戒は身を竦ませた。自分はやはり、三蔵にそう思われているのだ。諦念が八戒の感情を覆った。でも、彼にだけは、こんなことは知られたくなかったのに。
「軽蔑しますか、僕のこと」
 八戒は軽く目を伏せて三蔵に呟くように問い掛けた。存外長い睫が影をつくって震えている。細身で痩躯の姿が頼りなげで、儚げに感じられた。
 何処か審判を待つ人のような表情は、遠い異国の年若い殉教者めいていて、痛々しかった。
「お前が男と寝るのが好きだってことをか、俺が軽蔑するかどうか聞きてぇってか」
 三蔵が、揶揄するかのように、八戒の青白い顔を覗き込むようにしながら言った。
 八戒は 『男と寝るのが好きだ』 と三蔵の口から断言されたとき、それは違う、といいたげな光を目に浮かべた。
 しかし、三蔵はそれを無視して言葉を継いだ。
「軽蔑するに決まってるだろうが。悟浄にケツを振ってねだってるとこなんざ、見れたもんじゃねぇ。最下級の売女でもやんねぇような事やってたな、お前。そんなお前軽蔑しない訳がないだろ」
 審判が下ったのだ。と八戒は思った。
 基本的に高潔な三蔵が、自分のような者を許す筈がないのだ。最下級の売女。確かに自分はその通りかもしれない。
 もともと八戒は精神的に強い方ではない。理知的に落ち着き払って見えるのは一つのポーズで、実のところ昔、悟浄が 『情緒不安定』 と評したような精神の不安定さがある。
 それは、過去の辛い経験もさることながら、元々の整った美貌のせいで、幼い頃孤児院でも犯され続けてきたため、精神に深い傷を負ってしまったことも原因だろう。
 自分が悪い子だったからこんな目に遭うんだ。いい子にしていれば明日は大丈夫。
 幼い頃、大人の男に組み敷かれながら八戒は何度もそう考えた。彼の自虐的、自罰的思考はこうして出来上がったのだ。
 実際は八戒がいい子にしていようがどうだろうが、八戒は犯されてしまうのであるが。
 圧し掛かって、八戒のまだ幼い後孔に精液を注ぎ込む忌むべき大人は、勝手に幼い八戒の愛らしさや美貌に劣情をそそられているに過ぎない。
 しかし、幼い子供には、そんなことは分からないし、認知できない、いや、認めたくない。
 何故かというと、非力で、無力な子供の八戒にとって自分がいい子にしてるかどうかは何も関係なく、相手は自分を犯すのだということを認めるということは、無間地獄を認めるということに等しいからだ。
 そうではなく、「自分がいい子にしてさえいれば大丈夫」 という自己コントロール可能な条件によって犯されるかどうかが決まるのだと、幻想に過ぎなくても思い込むことで幼い八戒の心の均衡は救われてきたのだ。

 今回も自分が 『悪い子だったから』 こんな目に遭ったのではないか。と八戒は考え始めている。
 自分に向けられた悟浄の強い欲望を、上手く遠ざけておくことができてさえすれば、自分はこのように三蔵に罵られ、軽蔑されることもなかっただろうと。
 実際の悟浄の行為は全て殆ど強姦に近しいもので、八戒に選択の余地などなかったのにだ。
 ひどい時は、薬を使われてさえいた。桃源郷の悟浄の家で抱かれたとき、度々催淫性のある薬剤を使われ、狂わされた。そうやって悟浄は甘く熟れた八戒を貪るのを好んだのだった。
 人は幼い頃から培われ、確立された思考パターンから逃れることはできない。八戒の精神の原野に降りれば、取り残された幼い八戒が声を上げて泣いている筈である。それなのに彼は自分自身を救うこともせず、幼い頃の自分に砂をかけて葬り去ろうとしているのだ。
「分かりました。三蔵。暫く貴方は僕のことを不快に感じるでしょうから、僕は目障りにならないようにしてますね」
 震える声をなるべく平静に見えるように搾り出して、笑顔を作り、三蔵にそう告げると、踵を返して部屋から出て行こうとした。
 いい子にしていよう。八戒はそう思っている。当分控えめに振舞って、悟浄と関係を持たないようにして、皆の好物でも食事に作って。
 八戒は疑いもせずにドアのノブに手をかける。しかしはっきりした手応えが、かかっている鍵の存在を知らせる。ドアノブが回らない。
「……そのまま出て行かせるわけがねぇだろ。淫売が」
 背後から、三蔵の冷たいが、欲望をはらんだ声が聞こえた。甘いんだよ、お前は。そう三蔵の表情は語っていたが、八戒の位置からはそれは見えなかった。


「なんでですか、三蔵、どうしてっ、どうして……あ!」
 ベッドに突き飛ばされ。服を引き剥ぐようにむしりとられ、下肢を無理やり割られて三蔵の身体で肢が閉じられないようにされた。
「本当に誰にでも股を開く淫売かどうか、確認してやろうってんじゃねぇか、大人しくしてろ」
 きっちりと着込んだ八戒の詰襟の服を崩しながらその首元にくちづける。露出の少ない禁欲的な服を剥ぎ取りながら、その下の淫蕩な肌の感触が三蔵を狂わせはじめていた。
 実際の所、初めに八戒と顔を合わせたとき、性的に惹かれなかったと言えば嘘になるのではないか。
 しかし、八戒の貞節そうで誠実げな立ち居振舞いや、禁欲的な表情が、無意識下の欲望を遠ざけたのではあるまいか。
 それなのに、先日、月の美しい宵に、悟浄に抱かれていた八戒の姿を見てから三蔵の中で何かが変わってしまった。
 淫らさや不品行とは無縁とでもいいたげな日頃の八戒の姿は、男の欲望を叩きつけていい相手の筈がなかった。
 今まで三蔵にとって八戒はそういった対象ではなかったのだ。むしろ、そうした汚らわしいこととは無縁で、守ってやりたいような清廉で清潔な存在だった。
 それが、男の身体の下で啼き狂い、身悶え、声が枯れるまで喘ぐ淫らな姿を見てから、そんな三蔵の思いは粉々に砕け散った。昼は貞淑な淑女で夜は娼婦のような八戒の二面性は高僧である三蔵の情欲をも煽り立てたのだった。
 上衣を剥ぎ取り、現れた八戒の胸の飾りに舌を這わせる。唾液に濡れ、ふっくりと立ち上がってくる乳首を更に舌で捏ねるようにしてやると、八戒の口から抑えきれない甘い呻きが漏れた。
 淫らで感じやすい体だった。舌の弾力を使って弾くようにしてやると、嫌々をするように八戒はかぶりを振った。
「お願い、です。さん、ぞうっ……。僕、貴方とはこんな……」
 三蔵とは、こんな関係になりたくないとでも言いたいのか。三蔵の胸を自分の腕で突っぱねて、距離をおこうとする八戒の姿を見ると、三蔵の胸中に焦燥感に似た鈍い痛みと凶暴な嗜虐性が湧きおこってくる。
「河童とは平気でも俺とは嫌か? 駄目だ。逃がさねぇぞ」
 逃がさない。それは三蔵の本音だったろう。甘い、麝香のような、媚薬を人型にしたような八戒の身体に自分の欲望を埋め込み、早く早く身体を繋いでしまいたい。
 そうでなくてはもう一夜も安心して過ごせない。この男をかき抱く甘美で苦しい夢を見て、しとどに夜着を濡らすのはもう嫌だし、悟浄に先を越されたとはいえ、このしどけない身体を自分のものにするのを諦めることなんて到底できない。
 すっかり色づいた小さな乳首を吸い上げ、弾いていた舌を、そのまま下へ降ろして肌を滑らせる。恐ろしく綺麗に整った白い肌には、一見、他の男との情交の跡は残ってないようだった。
 しかし、抵抗する下肢を更に割り広げると、八戒の内股のちょうど付け根に、鮮やかに残る鬱血の跡があった。月夜の宵に悟浄に抱かれる八戒の姿が浮かんだ。
 あの時、悟浄は八戒の身体に傷をつけないように、戸外での性交に気を使ったようだったが、余りにも淫らで淫蕩な八戒の身体に独占欲が湧いたのだろうか。八戒が他の男に犯されるようなことがあれば、わざと目に映るように肢の付け根に情交の跡をつけたのだ。
「逆効果なんだよ、河童が」
 いぶかしく問いただしたげな八戒を横目で見ながら、口の端を吊り上げ言った。
「河童の跡が付いてんぞ、股の付け根に」
 耳まで赤くなって、その箇所を手で隠そうとする八戒の腕を押さえて猶もその耳に囁くように言った。
「……あの晩、河童に後ろから突っ込まれてお前がひぃひぃ啼いてた夜にでもついたんだろうよ。 突っ込む前、お前散々、ここの処……を可愛がられてたじゃねぇか」
 ここの処、と言いながら、三蔵は八戒の後ろを長い指先で突付いた。身体をひくつかせ喘ぎながら、八戒が目でそんなことを言うのは止めてくれと言うように、三蔵に縋った。
 慎ましげな蕾を唾液で濡らして解してから、唇で八戒の竿を啄ばむようにしながら後孔に指を入れて弄った。指を曲げるようにして、八戒の感じやすいところを探る。
 同時に前の性器に口淫を施したので、耐え切れず八戒は仰け反った。カリの部分にも入念な愛撫が施される。形をとり始めた八戒の性器は、先端の鈴先の割れ目から先走りを流し始めていた。
 舌で弄び、吸い上げていたのを止め、指で先端を塗り込めるようにしながら同時にサオの部分を甘噛みし、袋を撫で上げた。
「ああっ、止め、お願いっ、変になっちゃう……っ。っ」
 腰を揺らす動きを苦労して押さえていた八戒が苦痛と快感のない交ぜになった悲鳴を上げた。
 ただでさえ感じやすい体には酷な愛撫だった。
そのぞくりとするような感触に、八戒は性器をシーツに押し付けるようにしながら耐えた。
血の出るほどかみ締めている唇を舌先でなぞり、そのまま貪るように口付けた。飲み込みきれない、どちらのものともつかぬ唾液が八戒の顎から首筋を伝って流れ落ちた。そのまま、下肢の尻肉を手でもみ込むようにして嬲る。
 理性では嫌だと否定していても、身体は正直に三蔵の指に反応してしまう。尻を嬲っていた手が、割れ目へと伸び、そのまま尻孔を突き刺した。
「あっ、あんっ……。ひゃうっ」
 先ほどの口淫で、濡れそぼっていた竿から、後ろの孔までべっとりと三蔵の唾液と先走りの液にまみれ、潤滑剤の役目をして指を飲み込んでゆく。
 最初に指で犯されたときよりも、容易く、待ち望んでいたかのように飲み込んでゆく淫らな身体に三蔵は片頬に笑みを刻んだ。
 抱いてやる。好きなだけ。河童の味を忘れさせて、俺だけのものにしてやる。でもその代わり……。
 営々と繰り返される前戯に、八戒の身体が限界を訴えて悲鳴をあげはじめた。
 ひくひくと蠢く秘所は確かに雄の楔で打ち抜かれるのを待ち望んでいる。
 それなのに三蔵は、煽るようにもてあぞぶだけもてあそんで、放置していた。
「も、狂っ、ちゃう。あ、あ、」
 感じすぎて快楽と苦痛の入り混じった涙を流しながら八戒は三蔵に縋った。抱いて欲しいとその全身が告げている。
 甘い媚薬のように男の心を狂わす仕草で抱いて欲しい、奥まで欲しいと全身で求めてしまっている八戒を前に突っ込まずにすんでいる三蔵は確かに並ではない。
 もはや八戒は自分の悩ましい腰の蠢きを抑えることもできず、喘ぎつづけて閉じることを忘れたような口からは唾液が伝い流れている。
 前を掻きあげられながら、根元を押さえられ、後ろを掻き回されて八戒は悶え狂った。
「お願っ……あ!あ、あっ。うぅっ、んっ、んっ」
「欲しかったら言え、どうして欲しい?」
 首を横に振る八戒に、べたべたになった手を擦り付けるようにして浅い下生えを撫で上げる。八戒はびくっと身体を震わせて、小さく悲鳴を押し殺した。
「こっちもべたべただ。参ったな」
 三蔵が独りごちると、八戒が身体を震わせて厭々をするような仕草をした。
 限界に近い肉体は、三蔵の揶揄ですら快楽に繋がるのだろう。三蔵は根元を塞き止めている性器を口で咥え、腕を伸ばして立ち上がった胸の彩りを指で押し潰すように捏ねまわした。性器の先端に小さく口を開けているところにも舌を差し入れてなぞりあげると八戒の身体が跳ねた。
 三蔵は八戒の太腿を抱え上げるようにして覗き込むと、笑いを含んだ声音で言った。
「おい、下の口がひくついてるぞ。すげえパクパクしちまってどうした」
 八戒は綺麗な翡翠色の瞳を涙で潤ませながら、手元のシーツを手で手繰り寄せるようにして耐えていた。
 自分の身体が快感に流されようとしているのは疾うに分かっていた。
 三蔵の年に似合わぬ手練れた性技を入念に受けてしまい、身体中が蕩けてしまっていた。もう、理性が融けて流れ出し、自分がただの雄を受け入れるだけの獣に変化しつつあるのを感じた。
「言え、どうして欲しい? 」
「やぁっ……」
 耳元に低音で囁かれる三蔵の声自体にも感じる。
 しかし、自分の淫らな欲望を口にしてしまい、求めてしまえば、全てが終わりだと僅かに残っていた理性が告げていたが、それももう一度、三蔵がひくついている後孔に息を吹きかけて舌で愛撫するまでのことだった。
 強烈な快感に、残っていた理性が弾けとび、禁じていた言葉を口端にのせた。
「欲し……三蔵っ。お願い、っおねがっ……」
 焦らしすぎたため、身悶えし、濃厚な色香を纏った八戒の淫らなおねだり。普通の男ならこの八戒の言葉に抑えが利かずに突っ込んでいるところだが、三蔵は踏みとどまって猶も言った。
「何がどこにどう欲しくてお願いだ? 」
 八戒は焦点の合わない瞳を三蔵に向けた。一度、吹き飛んだ八戒の理性は戻っては来なかった。自ら肢の付け根を掴んで左右に開き、腰をくねらせて揺するようにして三蔵の雄をねだる。
「あ、後ろに、僕の後ろのひくひくしているところに、三蔵のっ、三蔵のを、い、挿れて……お願い……っ、ああ……っ」
 しゃくりあげるように言うと、三蔵がいい子だとでもいいたげに八戒の額に口付け、猶も八戒に淫らなおねだりをはっきりさせようと、耳元で囁き続けた。
……後ろのひくひくしているとこってのはここか?
……あっあっ、そ……。今……っ、三蔵が、指……掻き回して……いる……と……っ……。
……ココに俺の何が欲しいって?言ってみな……。
……やっ……あ……。ふ……。
……言わなきゃずっとこのままだぞ。
……は……っ。やぁっあ……。
 甘い拷問のような愛撫に耐えかねて、八戒は身を起こすと三蔵の想像外の行動に出た。
 着衣を殆ど乱していない三蔵の肢の間に顔を擦り付けるようにして、口で器用に三蔵の前を寛げたのだ。既に八戒の痴態で、硬く張り詰めていた三蔵の性器が顔を出す。
「僕が、欲し、……のは、こ、……れ、あ、あ……」
 そういうと、ぺろりと可憐な舌先で三蔵の性器の先端を舐めた。
 日頃の禁欲的な顔立ちを裏切る淫猥な表情を浮かべながら三蔵の雄をその端正な唇で捉えようとする。下半身を直撃するようないやらしい八戒の仕草。
 流石にこれには三蔵も限界だった。不本意そうに舌打ちをすると、八戒を押し倒し、その脚を肩にかけ、そのまま突き入れた。
 待ち望んだ圧迫感に、甘い嬌声が響き、二人分の体液が混ざり打ち付け合う淫靡な音が響き始めた。
「ほら、くれてやるぞ。満足か? 」
 きつく突き上げ、八戒を追い上げて行く。いままで、八戒の前を塞き止めていた指は、脚を抱え上げたときに外してしまった。
 実を言えば、もう少し焦らして八戒の正気を奪い、自分を求めて喘ぐ淫蕩な姿を見て居たかった。 そして、できることなら、自分以外の男をもう咥え込まないように調教してやるつもりだったのだ。
「ぐうっぅ。んっ、ん……っ。あっ、んっ……っ」
 突き入れられるときの圧迫感と抜かれるときの快美感の絡まった喪失感に身を震わせ、八戒は甘く呻いた。
 自らの唇を舌で舐める淫らな仕草。きつく締め付ける八戒の内部に快感から顔を歪めながら、三蔵は八戒を貪り続けた。
 M字型に、胸に膝がつくほどに身体を折り曲げさせ、刺し貫く。結合部からは淫靡な粘着質の体液が掻き回されては離れる音が溢れ、部屋に響いた。
 三蔵は犯すものの、残酷さで、腰をゆっくりと回し、結合部を強調する動きで、八戒に自分がどんな目に遭わされているのか、誰が犯しているのかをたっぷりと認識させてやった。
 緩慢な動きに八戒は身悶えし、身も世もなく乱れ、喘ぎ、狂った。深く、深く腰を差し入れてやると、八戒の腰が跳ね、小刻みに震えた。三蔵は八戒の良く感じるポイントを探し出すと、そこを狙って突き上げ出した。
「やっ……やぁぁああ! っつぁうっ」
 疾うに限界を超えていた八戒は、細い悲鳴のような声を上げて、白濁した精液を吹き上げて果てた。
 上にのしかかっている三蔵の腹部にかかった粘質のそれは、組み敷かれた八戒のちょうど腹部の傷の上に滴り落ち、二人の身体の間で糸を引いた。
 自分の硬い性器を身体の奥に咥え込んだまま、びくびくと達した快感も露わに無防備な表情で身体を震わせている八戒に、改めて三蔵は欲情した。
 八戒が達したため、三蔵の犯している内部も連動して締まり、三蔵の性器を内壁が絡みついて締め付けてくる。その快感を眉根を寄せて味わい、やり過ごす。
 そして、力の抜けた八戒の身体を引き寄せ、更に残酷な所作で突き上げ出した。
 少し休ませて欲しいと、喘がされ続けたため、回らぬ舌で、哀願するのを無視して八戒の身体を再び味わいはじめる。男の欲望を叩きつけるようにして抱かれ、八戒は身体がついていかない。肢を三蔵の腰に絡めて縋った。
「腰に肢を回すんじゃねぇよ。動けねぇだろうが」
 自分を抱く男に、涙で瞳を潤ませ、喘ぐ唇で許しを乞う八戒を三蔵は無視した。
「あれほど欲しがってたろうが。お前はもっと腰使って締めてヨガってりゃいいんだ」
 三蔵の腰に回して組んだすらりとした肢の片方を手で外し、肩に担ぎ、もう片足は降ろしたままで、横抱きにしてそのまま腰を差し入れる。
 達したばかりの敏感な肢体を貫かれて八戒は息を詰まらせた。
 室内に荒い情交の獣じみた息づかいと淫らな喘ぎ声が満ち、いっそう淫猥な空気で染まった。
 先ほども突かれた一番弱くて感じるところを硬い性器で擦られ、八戒は悲鳴を上げた。
「ここがやっぱりいいんだな? 」
 低く、甘く、淫らに囁かれ八戒は返事もできない。
「してやる、ここいっぱい突いて、お望みどおりお前のナカ俺の精液でぐちゃぐちゃにしてやるよ」
 残酷で淫らな言葉に震えながら八戒は厭々をするように首を力なく振った。卑猥な言葉を吹き込まれる耳から聴覚から脳まで犯されそうだ。
 横抱きにしたまま、きつい突き上げが始まり、絶妙なポイントを突かれて八戒はそのまま気をやりそうになった。身体がずりあがるほど奥を貫かれて腰がつられ蠢いてしまう。
 八戒が再び、快感に前を弾けさせるのと同じくらいに、三蔵も八戒の中に欲望を吐き出した。脈拍と同じ律動で何度かに分けて噴き上げる精液を、尻を抱えて残らず八戒の身体の奥に飲み込ませた。
 内部の肉筒が熱い精液の飛沫で潤う感覚に、八戒は身を震わせた。男の体液を注ぎ込まれる淫らな感覚に、自分が徹底的に汚され、犯され尽くされ、征服された気がし、自分の精神の何かが粉々に砕け、壊れてしまったのを感じた。人はそれを自尊心とも言うかもしれない。
 快楽を注ぎ込まれすぎて、身体と心のどこか一部が麻痺したようになり、八戒は一指も動けずに横たわっていた。生理的な涙が頬を伝う。三蔵の指がそれをそっと拭った。その手つきは如何にも愛しげで優しげだったが、忘我の淵にいた八戒は気づかなかった。

「結論が出たみたいですよね」
 行為の後、八戒が泣き笑いの表情で言う。
「やっぱり僕が 『淫売』 で 『最下級の売女』 だって」
 不安定な八戒の表情に、三蔵はすっかり八戒が傷ついてしまったのを知った。
 最初八戒にそれらの言葉を投げつけたのは、自分でも制御不可能な怒りのためだった。
 悟浄に抱かれている八戒を思い出す度に、説明不可能な焦燥と怒りと悲しみの入り混じった感情にかられ、それをそのまま八戒にぶつけてしまったのだ。
 他の男にもう、抱かせたくない。
 白皙の仮面を被った甘い糖蜜のような八戒に触れてもいいのは自分だけなのだ。
 三蔵は、八戒を抱いてしまってから、自分の怒りと行動の真の理由が分かった。呆れるほど強い独占欲を三蔵は八戒に抱いていたのだ。
 しかし、それを八戒には告げられない自分にも三蔵は気づいていた。告げてどうなるというのか、まるでこれでは……のようではないか。
 三蔵は、八戒の問いには答えず、身繕いを済ますとそのまま部屋から出て行った。夜の闇が境界を曖昧にして周囲に漂っている。自分の気持ちと同じだと思った。混沌としている。この感情につけるべき名前など無い。
 ただ、言えることは、八戒を綺麗なままでとって置きたかったということだろうか。汚れを知らぬげなあの微笑をそのまま大切にしたかった。
 しかし、それが幻想だと知った今、過去についたその汚れさえ、自分のものにするために更に汚す結果になっただけだ。
 しかし、こんなことは八戒に説明することもできない。

 三蔵は、あいつを好きにしていいのは俺だけだと呟いた。やや挑戦的なその言葉を、辺りの闇は多少の嘲笑を孕んで許容するかのように三蔵を包み込んだ。



 了




 「覚醒」に続く