サクリファイス(1)

「なんでもするって、言ったよね、さっき」


 森の奥、木々の緑色に、夕焼けの鮮やかな赤が重なる。不吉なまでに美しい。カラスが騒ぎ、鳴く声がひどくもの哀しい。

 そんな中、死神を連想させる黒い羽根が一枚、まるで舞いでも踊るかのごとくゆらりゆらりと落ちてきた。

 八戒の前にいる相手は若いとは言い切れないが、年をとっているわけでもない。ややくせのある黒髪、メガネをかけ、一見知的な印象だった。菅笠を被っていて顔の表情は逆光が邪魔をしてよく見えない。

 墨染めの黒い僧衣が風を受けてひるがえる。僧衣……ということは、三蔵同様、僧侶なのか。
「キミみたいな、若くてかわいい男のコが相手してくれるなら、そうだなァ。……の、ちょっと待ってあげてもいいよ」
 カラスみたいな男の言う言葉が、ところどころ聞こえない。
「ボクと寝てもいい? ヤらしてくれる? 」
 淫猥な口元が歪む。
「お返事は?」
 八戒は返事をしようとした。しかし舌が震えていて動かない。せめて首をなんとか動かそうと唇を噛み締めた。









 そして、


 そこは、

「……っ」
 典型的な、薄汚い連れ込み宿だった。

 どこの街の一角にも必ずあるような。毒々しくも惨めなところだ。壁に煤けたシミがついて、床は掃除はされてはいるものの、どこかが雑だ。
「やめ……ろ」
 八戒は細い荷造り用の縄で、背中側で手首を縛られていた。
「変態……が」
 綺麗な黒い前髪が、乱れている。ベッドの白いシーツの上に、着衣のまま、横向きに寝かされている。まるで、邪神かなにかに捧げるための供物のようだ。

「いいじゃない。ボクさぁ、もうあんなオバサンの性欲処理とかサ、飽き飽きしたよ」
 突然、悪びれない声がした。紫煙が部屋の隅から濃くただよってくる。ベッド際に置かれたスツールの上からだ。男がひとり、足を組んで座っている。黒い僧衣のすそから、足袋を履いた足がのぞく。

――――烏哭三蔵法師。闇のカラスの眷属のような男だ。

「ボク、あんなのより、キミみたいなコとヤるのが好きなのにさァ」
 とぼけた口調だった。とぼけた悪魔みたいな口調だ。タバコをくわえたまま、困ったように頭を掻いている。
「う……」
 八戒が小さな声で呻いた。じっとりと汗を額に浮かべている。バンダナは外れて落ちてしまったらしい。
 かすかに、どこからか電子音が漏れ聞こえてくる。何かモーターでも回転するような音だ。
「玉面公主サマ相手でイクの、大変だったよぅ。頑張ったんだからボク」
 にやり、と下卑たひとの悪い笑みを浮かべる。その双肩には、渋い緑色で縁どられた経文をかけている。
「ごほうびに、口直しさせてヤってよ」
 モーターの回転する呻るような音。八戒の表情がモーター音と連動するように歪んだ。
「で、そろそろボクのこと、欲しくなってきた? 」
 やはり、とぼけた調子で烏哭が言った。淫猥に歪む口元、いやらしい視線で縛った八戒を観察している。
「だ……れ……が」
 苦しげな声がベッドに寝かされた八戒から漏れる。奥歯をぎりぎりと噛み締めている。そうしないと身も世もなく悶えてしまいそうだった。
「え、あっそう。このオモチャ、まだ動きが足りないのかなァ。キミって結構スキモノだねェ」
 スツール椅子からやれやれという仕草で立ち上がる。ベッドに近寄ると八戒へ手を伸ばした。
「触る……な」
 身動きしようとしているが、手首を拘束され、ほかにも何かで縛られているのか、無駄のようだ。八戒は相手を、噛み付きそうな勢いで睨んだ。
「本当はさァ。このズボンとか下着とかは八戒ちゃんに自分から脱いで欲しいんだけどなァ」
 にやにやしながら、八戒の下衣に手をかけた。言葉とは裏腹にむしるような仕草で剥ぎ取った。
とたんに、モーターの音が少し大きくなった。
「やめ……」
 八戒が下肢を暴かれて唇を噛み締めた。
 無残だった。
 人工的でケバケバしい色のモノが尻孔から見え隠れしている。卑猥なピンク色だ。何か、ひどいものを挿入されているのだ。残酷な陵辱を受けていた。
「あれ、あれあれ、埋め込みすぎたかな。これってば調整がサ」
 烏哭がとぼけた口調のまま、後ろの孔からそれを無造作に引き抜いた。
「……っ! 」
 引き抜かれる感覚に、八戒が目を剥いた。もの凄い衝撃だった。くねる動きに垂直に引かれる動きが加わる。
「あ、カンジちゃった? 」
 くっくっくっと愉しそうに笑う。八戒の後孔から抜くと、遮るものがなくなって、とたんにモーター音は大きくなった。
「っあっあ」
 八戒が思わず、という様子で声をあげた。相手の手にしているおぞましいモノが視界の隅に入り、一瞬、嫌悪の表情をつくる。が、また悩ましい表情を浮かべた。
「どう、この動き。一番、激しいのにしてみよっか? 」
 おぞましい玩具がぐねぐねとうごめいている。モーター音が一段、高くなった。あんなものを身体に入れられたらたまらない。男根を模したそれが、卑猥に震え、ぐねぐねと左右にうねっている。シリコンでできた醜悪なおとなのオモチャだ。
「んー。年下のかわいい恋人がこーんなにスケベでスキモノとかァ。ボク、しあわせだなァ」
 いかにもうれしそうな明るい笑みを浮かべた。しかし、やろうとしていることは凶悪だ。
「やめ……」
 烏哭から逃げようとして身体を捩った弾みに、モノクルが落ちた。シーツの上を転がる。
「ええ? やめて? だぁってキミ」
 逃さないとばかりに、閉じようとしていた八戒の両脚を左右に大きく広げさせた。押さえ込んで秘所を無理やりのぞきこむ。
「……っ」
「ここ……ひくひくしてるよ。すっごい……下のオクチがいやらしいよ」
 舐めるような目つきで観察している。声が薄く興奮でうわずってる。
「オモチャ、取り上げられちゃって、サミシーよね。ごめんね」
 ふっ、と八戒の淫らな孔へ語りかけると息を吹きかけた。
「…………! 」
 眉根を寄せて、八戒がシーツへ顔を埋めようと身体をひねるが、下肢を押さえつけられていては無理だった。
「あぅっ……くぅっ」
 甘い、甘い喘ぎが漏れてしまう。
八戒のいつもは慎ましく窄まっているそこは、持ち主を裏切って、妖しい収縮を繰り返していた。
「ここも……ピンクなんだ。美人サンはこんなトコまで綺麗なモンだねェ」
 ぺろ、と舌で入り口の肉の環を突かれる。もの欲しげにひくひくと痙攣していたそこが、きゅううっと激しく窄まった。収縮してぎりぎりと絞っている。
「……ああっ……あっあ」
 手も後ろで縛られてしまい、顔を枕に埋めることも、布をくわえることもできない。どんなに我慢しようとしても無理だった。
「前も……勃ちかけてるね。キミ」
 ねっとりとした口調で言った。確かに、八戒の性器はぴくり、と頭をもたげて硬くなりつつあった。
「ナカもそんなにカンジるんだ。スケベだなァ」
 メガネをかけた知的な風貌で、卑猥な言葉を無遠慮に投げかけてくる。くっくっと愉しげに笑うと、八戒の内股をいやらしい手つきで撫であげた。閉じようとする膝をしかるように平手で軽く打つ。
「はい。キミのオモチャ、返してあげるね」
 強引に、ひくつく後孔にシリコン製のバイブレータを挿入した。しかも、動きは最大出力にして。
「…………! あああっあ! あっ」
 卑猥なモーター音は一瞬、控えめになったが、代わりに八戒の絶叫が響いた。
「あっあっあっ」
 今まで、挿入されっ放しもひどかったが、より鮮明になった動きに、もう耐えられなかった。この卑劣な男に弄ばれていた。悔しかった。
「んっんっあっ」
 それでも身体は正直に感じてしまう。後ろ手に縛られたまま、八戒はバイブレータを飲み込んだ腰を上下に振った。なかでぐちゃぐちゃに暴れまわっている。もう、耐えられない。
「イイみたいじゃない」
 勃ちあがりかけている、性器を大きな手で包みこんだ。そのまま上下に扱きあげる。
「ひぃ……っ」
 柔らかさを残していたそれは、段々と中に芯でも通したかのように硬くなってきた。
「すごい……ガマン汁の量だねェ……多すぎじゃない? 」
 卑猥な言葉を囁き続けられる。
「そんなにイイんだ? もうボク手がべったべたなんだけど。キミのスケベ汁で」
「あっあっあっ……ああっ」
 粘凋な液体が弾性のある肉と擦れあう、淫らな音がひたすら部屋に響く。
「あっあっ……あ……あ」
 後ろの粘膜は熱くて焼けるようだ。凶悪なオモチャがぐねぐねと蠢いて、粘膜を圧し、ときおり感じるポイントに当たると狂いそうになる。
「や……」
 後ろだけでも感じるのに、同時に前も弄ばれ、手で犯されている。くびれの部分を指を輪にして引っ掛けるようにしごかれると、狂おしげな声が八戒の唇から漏れた。
「ひぃっ……ひぃ……ひっ」
「あれェ。早いねェ。ひょっとしてずっと我慢してた? 」
 飄々とした風情で呟く。いつの間にかべっとりと手に精液がついている。八戒が耐え切れずに放ってしまったのだ。
「手、汚れちゃったんだけど。キミのいやらしい汁のせいで」
 まるで、八戒の顔を手拭代わりにでもするかのように、烏哭は白濁液のしたたる手で塗りつけた。たちまち、八戒の秀麗な顔が、精液で汚れる。
「自分ばっかり、気持ちよくて悪いコだなァ……ホラ、ボクのも」
 後ろ手に縄で縛られ、上衣はつけたまま、下肢はむき出しという扇情的な格好にされ、バイブレータを突っ込まれている。
 そんな、八戒の口もとに、男の太い性器が突きつけられた。烏哭が僧衣の前をくつろげて、凶悪なモノを端正な八戒の唇にすりつける。
「勃ってきちゃった。お願い、そのかわいいお口で……ネ」
 口を開いて、奉仕することを求められた。
「……ぐ……ぅっ」
 大きい。しかも段々大きくなってゆく。太いし、口が痛くなってきた。
「んー。キミってば、フェラ本当に下手だよね。江流にはしてあげてないの? 」
 烏哭は勝手なことを言う。その癖、端正な八戒が顎が外れるほど口を開いてくわえているのに、興奮しきっているらしい。ますます、それは硬度を増してきた。
「そうだよねェ。江流ともヤりまくってるんでショ。毎日フェラしてたら、上手くなりそうなモンなのになァ」
 八戒は苦しくて眉をひそめた。舌を絡ませると先走りの透明な体液がとろとろと伝った。塩辛い卵白みたいな味だ。飲み込みたくなくて、思わず口をより開くと、すかさず奥まで突っ込まれた。
「江流にも、もっとシてあげなよね喜ぶよ。そうそう歯は立てちゃだめ」
 口はしから、唾液と混じった烏哭の透明な体液が流れ落ちる。苦しげな八戒の表情に興奮したのだろう。味にわずかに苦いものが混じりはじめた。微量の精液だ。
「そうもっときつく吸って舌も使うんだよ……そう奥まで」
 生々しい臭いに、えづいて吐きそうになった。逃げ出したい。苦しくて一瞬、口を閉じそうになった。
「痛っ! 」
 思わず歯を烏哭のに少し立ててしまったらしい。思いっきり突き飛ばされた。ベッドの上に乱暴に転がされる。バイブレータの音が卑猥に響き渡る。
「悪いコだなァ。ったく萎えそうになったじゃない」
 メガネのレンズ越しに、八戒を睨む。
「罰として、中出し決定かな。ナカでボクのセーエキたっぷり出してあげるよ」
 嫌だ、とか、やめろ、とか叫ぶ間もなかった。バイブレータが引き抜かれ、床に猥雑な音と共に転がった。壊れたのか、それともスイッチが切れたのか。落ちたとたんに静かになった。黒髪をわしづかみにされて、引きずり回され、横から強引に片脚を抱えられる。
「…………ぐぅっ」
 長大なものを受け入れさせられる衝撃に、呻き声が思わず漏れた。ぎちぎちに拡げられ、奥深くまで太く硬い怒張が挿ってくる。
「あ……ああっ」
 思わず喘いだ。深く浅く緩急をつけて穿たれた。入り口で浅く遊ぶように腰を回される。
「キミにナカで出すの……久しぶりだなァ。イイよね。中出し。いっぱいあげるね」
 陶然とした口調で男がねっとりと耳元で囁く。カフスの嵌った耳たぶが震えた。毒を含んだ言葉だった。墨染めの衣を脱ぎながら、八戒の脚を抱えなおした。
「やめて……やめて……ください」
 喘ぎ混じり、吐息まじりの声で八戒が懇願する。
「どうして、ボクに中で出されたくないの」
 穿つ声に非難めいたものが混じる。浅くまわすように挿しいれられていたそれは、突然、激しく前後に自在に動いた。緩急つけて犯される。単調な動きのバイブレータにはできないことだ。
「うぐっ……」
 生々しい声が出てしまう。後ろに縛られた手首が痛い。思わず仰け反った。
「今夜、江流とヤる気なんだ? ボクとヤった後に江流ともヤる気なんでショ。八戒ちゃんってば、やらしーんだ」
 自分に抱かれた後、三蔵にも抱かれるのだろうと告げられ、八戒は首を横に振った。そんなつもりはなかった。決してそんなつもりはなかったが
「ボクとヤッた日って……江流、抱こうとしてくるでショ」
「……っ」
 八戒は唇を噛み締めた。図星だった。確かにそうだった。避けようとしても、三蔵は犯された日の夜、八戒へ腕を伸ばしてくる。まるで、何かを検分しようかとするかのように。そして、八戒は拒めない。拒んだら、他の男に犯されたことを白状させられてしまいそうな気がする。何故かそう思っていた。
「色っぽいんだもんキミ。ボクとヤった後って……そーゆーのがにじみでちゃってるんじゃない。ほーんとやらしー」
 他の男の残滓を、性的な行為で確認しようとする。それは雄の本能だ。
「ねェ。江流とはどんな体位でシてるの? 教えてよ。ちなみに今、キミとヤってるコレは松葉崩しっていう体位だけど」
 三蔵との行為を想像されている。この黒髪の青年が、どんな格好で玄奘三蔵に犯されているのか、想像している。この端正な顔が、三蔵に抱かれても、今と同じように歪み、この涼しげな声が、同じ喘ぎを漏らすのか気になるのだろう。
「江流とボクの……どっちが奥まで届く? それともキミ、ここが弱いから」
 緩急つけて感じるところを狙いすましたように続けざまに穿たれた。
「あうっ……ぅっ……くぅ」
 穿たれる度に、緑色の上衣の裾の間から、すらりとした脚の狭間が見え隠れしている痛いくらい八戒のも、またそそり立ち、腹につきそうだ。とろり、とした涙みたいな体液を緑色の服の上へこぼしている。
「イイ。キミ、カンジちゃってるでショ。ねっとり……ボクのに絡みついてきたよ……」
「あ、ひぃっ……あ」
 八戒の左脚を抱え込みながら、突き入れている怒張を軸にして腰を回す。
「くぅっ……っ……あっあっあっ」
 立て続けに八戒が悲鳴に近い嬌声を上げた。感じてしまっている声だ。心が身体を裏切って、犯している男に媚びて涎を垂らしている。
「江流もシテくれる? こーゆーこと。ネ、ここ、挿れられるとイイんでショ。知ってるよ」
 一番手前の襞、二番目の襞、そして……その奥の淫らな襞……。
「くぅっ……んんっあ……あっ」
 年嵩の男の専売特許だ。若い恋人の弱いところをねっとりと観察しながら抱いて、その後、自分の観察と研究結果をじっくりと実地でご披露する。
 首をそらし、背をたわませて、身も世もなく悦がった。
「すごい。ひっくひくしてるよ。ココ」
 ココ、を言うところで、腰を揺らした。内壁の前側に角度を変えて肉がぶつかり思わず八戒が唇を噛み締める。叫びそうだった。強烈な快感が鋭く前立腺を焼いた。
「あっあっあっ」
 噛み締めた唇の間から思わず甘い声が漏れた。どうしようもない。前の屹立も勃ちあがって震えてしまっている。つらつらと透明な体液を垂れ流して淫らだ。横向きで抱かれているので、八戒が涙のようなそれを尿道口からこぼす度に、連れ込み宿の白いシーツに、滴って濡らして汚してしまう。
「きゅっきゅって……締まってきた……イイよ。キミのやらしい孔」
 珍しく烏哭が顔をしかめている。若い肉の締め付けに耐えようと奥歯を噛み締めた。
「イッちゃいそ。っ……くっ……イイ」
 烏哭が呻く。内部で怒張がふるえて、より大きくなる感触に八戒が眉を寄せた。たまらない。
「ナカでイッていい? ボクのセーエキいっぱい中出し、してイイ? 」
「っああっ……やぁっ」
 抱えた脚の膝裏あたりに舌を走らされて、八戒が身悶えた。突き入れながら、前も扱かれて狂いそうになっていた。それでもわななきながらも首を横に振った。
「しょーがないコだな。これじゃ、罰にならないよ」
 突然、脚を抱えていた手が緩んだ。そのまま脚を横に下ろされる。反対側の脚もだ。そして、尻を膝へと抱えられた。
「うぐっ」
 ちゅぽん。淫らな音を立てて、一瞬、怒張が抜けた。
「ああっああっ」
 抜けるときの感触に八戒が喘ぐ。ぴくぴくと肉の環が失ったモノを求めてもの欲しげにわななくのがわかった。卑猥だ。息を荒げて肩を上下させている。限界だった。
「あっれ、ごめーん。そうそう。手首縛ってるからねェ」
 とぼけた口調でそういうと服を着たままの上半身を起こさせた。座ったまま、自分の腿の上に八戒を乗せた。
「あっあっあっあー!」
 一回、抜けた怒張を再び埋め込まれた。しかも、今度は自分の体重が最大にかかる体位で、
「対面座位……ってスキ? キミとヤったことあったっけ」
 のほほんとした口調で、いやらしい腰つきで突き上げだした。きゅう、と八戒が締め付ける。
「あうっ」
 体位を変えたことで、射精感が和らいだのだろう。再び、激しく打ち込んできた。
「あれェ? また、イッちゃったの? もうビンカンなんだから八戒ちゃんは。ホントーにやらしーなァ」
 白濁した体液が男の身体にかかる。後ろ手に縛られたままの対面座位。いかにも犯されてます、というような格好だった。
「あ、あああっ」
 しかも上の服は脱がされていないので、裾に入れられたスリットから、白い尻が見え隠れしている。ずっぷりと男のモノを頬張って離さない様子がちらちらと見え隠れしている。ひく、ひく、とわななく孔の襞がひどく淫乱だ。
「しょうのないコだな」
 低い声で笑っている。そのまま、目の前の緑色の上衣に手をかける。ボタンをひとつずつ外し、前をはだけさせた。下に着込んだ、袖の長い黒いシャツをたくしあげる。
「あ! 」
「ここも……硬くなっちゃってるネ」
 指の腹で、胸の乳首をそっと撫でられる。後の孔を尻を太くて硬いペニスで貫かれたまま、同時に乳首を舐めまわされた。上から下から、淫らな感触に殴られるくらい感じてしまう。
「あっあっあっあっ」
「すごい。キミの乳首を舐める度に、後ろまで一緒にきゅっきゅって締まるよ。イイんだ? 」
 連動する淫らな反応に、口元を綻ばせた。
「これでもナカで出されるのイヤ? ……ナカで出した後、ヤると……すごく気持ちイイのに」
 いやらしい言い方だった。聴覚まで犯されそうだ。
「とろとろにナカ、セーエキでいっぱいにしちゃった後で、ボクのをずぼずぼ出したり挿れたり……してあげるから」
 淫ら過ぎる言葉を囁かれて、八戒が唾を飲み込んだ。激しく首を横に振っている。
「しょうがないな。じゃーさー。最近、江流とした体位を教えてよ。それで中出しやめてあげるよ」
 毒のように囁かれる。屈辱に八戒が顔を朱に染めた。身体の奥底にオスの性器を打ち込まれて
串挿しにされ、散々オモチャみたいに穿たれて。その上、言葉でも嬲られ、想像の中で三蔵との行為に興奮されている。変態めとしか思えない。三蔵とのことまで汚されようとしているのだ。
 それでも、身体の中に、この男のおぞましい体液を受け入れるくらいなら。
 八戒は唾を飲み込んだ。大好きな三蔵の姿が脳裏に一瞬、閃いた。
「……後ろから」
 震える声で呟かれたその言葉に、男が耳を傾けた。
「後ろから……バックで? 後背位? 」
 ねっとりとした口調で囁く。烏哭のまぶたに、この目の前にいる綺麗な青年を抱く三蔵の姿が浮かんだ。たぶん、居丈高な調子で八戒をうつぶせにし、激しく抱くのだろう。戦闘があったり妖怪を相手にした夜などはそれは、執拗にこの目の前の八戒を犯すのだろう。後背位で好き放題にこの黒髪の美しい青年を泣かせているのだ。
 妬ましかった。
「……え」
 烏哭が八戒の右脚を抱え上げ、左脚と同じ方へ、横へと倒させた。要するに、挿入されているところを軸にして、身体を回転させられた。
「あぐぅっ」
 ひどく生々しい声を上げて、のたうつ。粘膜をこすられる感触が良くてしょうがないらしい。
「ああっ」
 抜けそうになる感触にまた、のた打ち回る。そのまま尻を抱えられ、ずぷ、と身体を進められた。
「ああっああっああああっ」
 背後から、貫かれる。深く、深く怒張が届く体位だ。
「江流がシタのと同じ体位で……抱いてあげる」
 烏哭は八戒の尻を抱えながら、仰け反る八戒の背を見つめた。前こそはだけられているものの、その背はまだ、いつもの緑色の上衣で包まれている。黒髪に覆われた形のいい頭、すっきりとしたえりあしが蠱惑的だ。前を崩しているので、首の線がさきほどよりものぞいていて扇情的だった。思いっきり喰らうようにして犯した。
「あうっ……あっ……あ」
 びく、びくと震える身体を抱きつぶすようにして抱いた。ゆる、と引き抜きかけるようにして、浅いところで止め、腰を揺らした。淫らな動きが粘膜に伝わって、八戒が鼻にかかった声をあげる。きゅ、と、きつく締まる感触が烏哭のに伝わった。すごい快美感だ。顔を歪めて眉根を寄せて耐える。
「また……イッちゃったの……しょうのないコだね」
 尻を抱えて穿ちながら、片方の手を八戒の前に回した。ぬる、とした感触があった。先走りとも違う。濃い精液の青い百合の花のような匂いが立つ。
「あ……あああっ」
 達したばかりの敏感なところを扱かれて、八戒が悶絶した。そのすんなりした腰と背の線をみたくて、着ている服を上へたくしあげさせた。背中が半分、むきだしになる。
「江流とヤってるときのこと……思い出して」
 突き入れたまま、上体を倒して耳元へ囁く。
「どんな風に……抱かれたの? ボクに教えて……」
 腰と尻を密着させて穿った。
「教えてくれないと、もう、ナカでイッちゃうよ」
 半分、もう無理やりにでも、そうしてもいいかという調子の声だった。あまりにも八戒のナカは気持ちよすぎた。いやらしくねっとりと吸い付いてくる粘膜の味が良くて良くてしょうがない。清楚な顔をしているのに、この黒髪の天使ちゃんは淫らだ。こんな粘膜を精液で汚せたら最高だろう。
 烏哭がそんな考えを固めていたら、ふいに八戒の声がした。
「首のあたりを……キスされ……て」
 顔を伏せているので、表情は見えなかった。苦しげな声が漏れた。快楽とも苦痛ともいえないものがにじんでいる声だ。
「ここ?」
 見れば、確かに、禁欲的に立ったえりの内側は……三蔵のくちづけの跡だらけだった。内出血の赤い蕾がいくつも並んでいる。
「バックで……後ろからヤられながら、ここ吸われたの。そう」
 舐めるような目つきで烏哭はその性交の跡を注視した。
「しようのないコだね。悪いコだ。ボク以外の他の男とも、こんなイヤラシイことばかりして……」
 三蔵のつけた跡に、そっと舌を走らせた。舌先でそっと撫でるようにする。
「ああっあああっあああっ」
 激しく打ち込まれ、首筋を愛撫された。くちづけの跡はつけないように、気づかわれたのも、忘我の際にいる八戒は気がつかなかった。軽く、跡がつかない程度に甘噛みされる。
……奥の襞を烏哭の亀頭で舐め回され、前立腺をカリ首で擦りあげられて、八戒が快楽に狂った。
「あ…………っ深いっ……あっ」
 八戒が完全に気をやった。強烈な感覚に打ちのめされて、失神しかかっている。ナカの性悪な粘膜は、烏哭の怒張を嬉々として形が変わるほど締め付けてしゃぶっている。びくびくと痙攣しながら、きゅっきゅっと内部のペニスを締め付けて離さない。襞の奥を烏哭の亀頭でこじあけるようにされて、きつく吸い付いた。
「く…………!」
 限界だった。激しく打ち込み続けた後、膨れ上がる射精感に促されるように、烏哭は自分の怒張を引き抜いた。
 そのまま、目の前の八戒の肉の薄い小さな尻めがけて精液をふりかける。何度かに分けて噴き出てくるそれを、手で支えながら、最後の残滓にいたるまで、その白い肌へ塗るようにしてこすりつけた。







 「サクリファイス(2)」に続く