ウロボロスの夜(1)

 男だったら、当然の行為なのではないだろうか。
 八戒は蒲団に身を横たえたまま、左右を伺った。安らかな仲間達の寝息が聞こえてくる。今夜はどうしても個室がとれなくて、相部屋になってしまったのだ。男四人で、ざこ寝を余儀なくされていた。
 それなのに。
「ん……もぅ……」
 困ったなと、八戒は蒲団の中で身じろぎをした。
 夜着のなかのそれは、もう痛いくらいに猛ってしまっていた。着衣の布を突くようにして立ち上がっている。
「ふ……」
 八戒は密かに首を振った。どうして突然、発情期みたいにクルのだろう。八戒は再び左右に視線を走らせた。八戒の躰を挟むようにして右側には悟浄、左側には三蔵が寝入っている。右隣で天真爛漫な寝顔を見せている悟浄はとうに夢の国に旅立ってしまっているらしい。案の定いつもどおりの悪い寝相で、右足で蒲団を蹴り上げて寝ている。おかげで躰がやや斜めになり、八戒の寝ている蒲団まで侵犯しているような状態だ。
 とはいえ、鼾(いびき)も立てぬほど深い眠りに落ちているように見えた。
 一方もう片側の三蔵は、八戒の至近距離にその壮絶に整った美貌を惜しげもなく曝(さら)して寝入っていた。
 いつもの鬼畜最高僧を思わせる嗜虐性こそ寝顔にないが、それでもその内面の苛烈さを感じさせる表情は健在だ。悟浄と違い、こちらは眠っていても無邪気とはいい難い、完全に完成された大人の男の顔だった。
 三蔵は悟浄よりも八戒の方へ躰ごと接近し、隣で寝ている悟空に追われるようにして眠っていた。どうも寝相の悪い悟空に寝ぼけて蹴られるか何かしたらしい。その瞳は閉じられたまま、八戒の寝ている方へと向けられている。
「……」
 自慰をするには非常にまずい状況下だった。
 でもこのままでなんて収まりそうもなかった。
「は……」
 八戒はそんな自分に突然湧き起こった情欲を宥めるかのように、硬くなったそれに自らの指を走らせた。とたんに性の鋭い喜悦が熱く躰の芯を走り抜ける。
「……! 」
 八戒は思わず声を出しそうになって、必死にこらえた。顔を右に向ければ悟浄、左に向ければ三蔵の顔がかなりの近さで見える。八戒は思わず目を瞑った。
 そのまま、指で輪をつくり、立ち上がったソレのくびれを扱くようにすると、甘い甘い快美感に脳が焼き切れそうになる。目を閉じたことで一層躰の感覚に過敏になってしまうようだった。
 八戒は完全に発情していた。
「あ……」
 思わず自分の漏らした声に慌てる。左右の仲間を見渡すと、何ごともない様子で寝ている。
 八戒はほっと愁眉(しゅうび)を解くと、蒲団の中で苦労してうつ伏せになった。
 動くと、育ちきったそれが股間で揺れるのが辛い。それでもうつ伏せになれば、左右の男達のことを気にせずに自分を慰める行為に没頭できそうだった。
「ん……」
 苦心してうつ伏せになり、顔を枕に押し付けるようにして、腰を上げた。自分のそれをゆっくりと扱くと、我慢できない快楽の調べが甘く甘く腰奥を打つ。
「ひ……」
 枕に顔を押し付け、悲鳴や喘ぎ声を押し殺すようにして八戒は自分で自分を慰めた。
 右手で擦り上げる動きが速くなり、堪え性のない鈴口からは、先走りの透明な雫がしとしとと垂れてきてしまっていた。
 とはいえ、蒲団を被ったままの行為なので、もしその様子を見ていた人がいたとしても、八戒がどんなに淫らな格好をしているのか、咄嗟には分からないだろう。
「あ……」
 誰にも内緒でひとり性を貪る行為はかなりの興奮だった。周囲には仲間がいるというのに、隠れて淫ら事をやる麻薬のような刺激が八戒の躰を狂わせつつあった。
「んっんっ……」
 悦すぎて、八戒の眦に生理的な涙が浮かんだ。いつもやる自慰行為の何倍も快感が強かった。
 自分で自分を犯す淫らな行為に八戒はいつのまにかすっかりと溺れていた。さらに一層指の動きは速くなり、尻を前後に振るような卑猥な動きが止まらない。
「も……」
 もう、イク。小刻みに躰を震わせ、尻肉を痙攣(けいれん)させて八戒が達そうとしたその瞬間。
「おい、何ひとりで愉しんでやがる」
「うわー。お前もうイキそうなの? ひとりでイクなんてひどいんでない」
 左右の男達にいきなり声をかけられた。
「え……え? 」
 股間を押さえて、蒲団を被ったままの八戒が戸惑う。完全に寝ていたのに、まるで見計らったかのように、二人の男は突然起きた。
「あなた達……」
 蒼白になって躰を硬直させていた八戒の掛け布団を三蔵が思い切りよく剥がした。
 布一枚の下に隠されていた八戒のささやかな秘め事が露わになる。男達の眼前に現れたのは、八戒のとんでもない艶姿であった。夜着の下履きを下着ごと半ば膝まで落として、八戒は自分で自分を慰めていた。
 青い寝間着と上気した白い肌の対比がこの上なく艶めかしかった。上もところどころボタンが外れ、朱鷺色をした乳首が露わになり、とんでもなく卑猥だった。
 身を屈めるようにしている格好のため、白い尻が男達の前に誘うように曝されている。
 そしてその屈めた腰の向こうには、屹立した八戒の欲望が、いまだ捌け口を失って怯えるように揺れていた。それを握り込んだ指の関節の白さが印象的だ。
 ただでさえ淫猥な春画のような光景だったが、優等生よろしく日頃すましこんでいるこの男がそれをやっているというのが、さらに淫らさに拍車をかけていた。卑猥で、いやらしい八戒の姿。どんな朴念仁でも情欲を喚起されずにすみそうもない光景だった。
「いい眺めだな」
 三蔵は口元をつり上げるようにして笑った。そのくせ目は笑ってない。食い入るように八戒の艶めかしい姿を視姦している。
「すっげぇいやらしい。お前」
 悟浄が生唾を飲んだ。目の色が変わっている。獣の色だ。八戒は恥ずかしさに躰を紅潮させ、首を横に振った。
 いつもの気丈さや笑顔で皮肉をいうような姿はその様子からはとても連想できない。ひたすら糖蜜のように甘く艶めかしかった。
「お願い……見ないで下さい」
 悟浄と三蔵は八戒のその言葉に二人で顔を見合わせた。

 無理な相談だった。



「いや……です! 」
 いつもはいがみ合うことも多い悟浄と三蔵だったが、この夜は絶妙な連携プレイを見せた。
抵抗する八戒の上半身を悟浄が押さえつけ、逃れようと暴れるその下肢を三蔵が抱え込んだ。
「そっち押さえてろ、悟浄。逃がすんじゃねェぞ」
「へいへい。三蔵サマ。仰せのとおりに」
 悟浄は軽口を叩きながら三蔵の言葉どおりに八戒を押さえつけると、肌蹴ていた夜着のすきまからその胸の屹立に指を這わせ、捏ねるように摘み上げた。
 八戒の躰の芯に蕩けるように淫らな刺激が走り抜ける。
「ひ……! 」
「んー。いい反応。たまんねぇ」
 悟浄はその男らしい顔立ちを緩ませると、八戒の上体を後ろから抱えるようにして抱きしめた。
「スゲェいい匂いする。八戒って」
「や……! 」
 八戒の首筋を後ろから甘噛みしながら、悟浄はその髪の匂いを嗅いだ。丁寧に洗い清めたらしい石鹸の匂いに混じって、八戒の微かな匂いが立ち昇ってくる。
 悟浄の悪戯な舌がそこかしこを這いまわり、八戒を惑乱させる。
「フン……綺麗な色してんじゃねぇか」
 悟浄の舌に追い上げられるのに必死で耐えていると、三蔵の低い声が突然下肢からした。思わず八戒は冷水を背に浴びせられたようになった。躰を這い回る悟浄の舌から逃れようとしていて、三蔵のことまで注意を払っていなかったのだ。
 三蔵は八戒の下肢を割り開かせて、その中心の蕾を覗き込んでいた。悟浄の舌が躰を這い回るたびに、三蔵の目の前で、蕾の襞がひくひくとくねるのが見えるのだ。見る者の脳を焼くように目の毒な光景だった。
「やっ……! 」
 八戒は真っ赤になって、三蔵を下肢から引き剥がそうと腕を伸ばした。しかしその腕を悟浄がつかむ。
「だぁめ」
 そういうと、悟浄は八戒の唇に背後から自分の唇を寄せた。その下肢では、決して閉じられないように、八戒の脚を開かせた三蔵の腕に力がこもる。三蔵はそのまま震える入り口に唇を寄せ、舌でノックするようにしだした。そのまま舐め啜った。
「……!」
 強烈な快美感で八戒の躰が跳ねた。ぴちゃぴちゃと淫猥な湿った音が、三蔵と八戒の間から立つ。舌を捩じ込むようにして嬲れば、八戒の白い内股が、快楽で小刻みに震えた。
「ひぃッ……! 」
「いいの? 八戒。気持ちよさそーじゃん」
 悟浄がその淫らな情景をみながら、唾を呑んだ。興奮で声が微妙に上擦っている。
 三蔵は、入り口はピンクのくせにその中の奥の粘膜が赤く石榴のように艶やかな八戒の肉筒を目で楽しみ、舌で執拗に嬲っていたが、そのうち自分の節立った指を捩じ込んで愛撫しだした。
「あ……あっさんぞ……! 」
 長い指が恥ずかしい場所を穿つのに、思わず甘い声が出そうになって八戒は声を飲み込もうとした。そんな八戒の顎を悟浄の大きな手が捉え、顔を横に向かせた。
「はじめてなのに、お前カラダえっちすぎねぇ? 」
 揶揄(やゆ)するように悟浄がいう。八戒が羞恥で躰を紅潮させた。白い躰が朱に染まる。
「はじめてって、悟浄お前こいつ喰ってねぇのか」
「いんや。まだまだ。一緒に暮らしてたけど、俺そーいうのにつけ込みたくねぇし」
 勝手なことばかりいう男達に抵抗しようと八戒は躰を力づくでひねった。途端に三蔵の平手が尻に飛んだ。乾いた音が、部屋に響く。
「ひ……! 」
「おとなしくしてろ。淫乱が。ヤリたかったんだろ」
「ちが……違います! 」
「何が違う。こんなにしちまってて何がイヤだ。たっぷり抱いてやるからおとなしくしてろ」
「そうそう。俺と三ちゃんで精液まみれにしてやっから」
「ごじょっ……! 」
 制止の声も二人の獣に還ってしまった男達には届かない。
 三蔵は自分の指に唾をつけると、そのまま八戒の躰の奥を穿つ指の数を増やしていった。艶めかしい粘膜が指を受け入れて捲りあがる。粘膜と指の擦れる卑猥な音がぐちゃぐちゃと鳴った。
 八戒は耐え切れずに淫らに腰をくねらした。躰が疼いてしょうがない。
「やっぱりヤリたいですって……この尻が言ってるぞ」
「八戒ちゃんってば素直じゃないんだよねー。いつも」
「早く喰わせてやれ、河童」
「はいはいっと」
 情欲に駆られた男達に卑猥なことを囁かれて八戒はひたすら首を振った。その唇に悟浄の怒張が当たった。
「……! 」
 もう一度顔を背けて抵抗しようとしたが、悟浄に顎をつかまれた。両頬に力をいれるようにしてつかまれ、口を閉じられなくさせられる。
「はい。あーんして」
「! 」
 悟浄は膝立ちするような格好で、八戒の唇に自分の赤黒いものを捩じ込んだ。大きくて最後まではさすがに咥えきれないそれを、無理やり捻りこんでくる。八戒の眦に涙が滲んだ。
「……ッ。すっげぇ気持ちいい……」
 悟浄の声が上擦る。八戒の口腔に柔らかく包まれて、心地よくてしょうがなかった。悟浄は八戒の艶のある黒髪を無造作につかむと、自分の腰を前後するようにして動き出した。
「……ぐぼ……ぐ、ぐぶ……」
 八戒の口元から生々しくも苦しげな声が漏れる。それすら甘美な音楽のように聴きながら悟浄は腰を使った。
その時、口を犯されて苦しい八戒の下肢に走り抜けるような甘美な衝撃が走った。
「ぐぶ、ぐふ……ぐぐ」
三蔵が、指で後ろを穿ちながら、前を舌で愛撫しだしたのだった。
八戒の硬く張り詰めて痛いほどになってしまっているその先端に口づけると、次の瞬間口の中へと一気に咥え込んだ。
「……! 」
 言葉にならない悲鳴を上げそうになったが、悟浄のモノを頬張らされていてそれは敵わず、八戒は躰を震わせた。尻が淫らに動いてしまう。
 間髪いれずに三蔵は、後ろを犯している指も同時に曲げるようにして八戒を追い詰めた。前立腺を擦り上げるようにして、性感帯を丁寧になぞった。口を塞がれている八戒からくぐもった声が立て続けに漏れた。
「お口がお留守よん。八戒さんってば」
 血管が浮くほど硬く張り詰めた凶器を一旦抜くようにして、悟浄が腰を引いた。八戒の舌と、悟浄の亀頭の先端に緩い先走りと唾液が交じり合った体液が糸を引いた。
「あっ……ああっ……」
 三蔵がそんな八戒の様子を上目遣いに眺めながら、括れを舐めまわして吸い上げた。
「あああっ……! 」
 八戒の上体が仰け反る。尻が間欠的に震えて、びくびくと慄いている。八戒はとうとう耐え切れずに達してしまった。
「すっげぇ早い」
 悟浄が驚いたように目を丸くした。
「タマッてたんだろ。コイツ今日は発情期みたいだしな」
 一仕事終えたとでもいうように、三蔵は八戒の精液で白く汚れた口元を指で拭った。全部飲んだのだろう。
「何度でもイケよ。付き合ってやる。今度は……」
 忘我の域で呆然としている八戒に嗜虐的な笑みを浮かべて囁くと、後ろの孔に差し込んでいた指をぐるりと回した。
「こっちでな」
 八戒の力が抜けてしまったような下肢を三蔵は支えると、紅くひくついている粘膜から指を抜き、すかさず自分のペニスの上に八戒を座らせようとした。対面座位で八戒と繋がろうとする。
「や……!」
 途中でやっと三蔵の意図に気がついた八戒が拒否するかのように、三蔵の腕の中で抗った。
 その抵抗を悟浄と一緒に封じると、三蔵は一気に胡座をかいた自分の上に八戒を座らせた。白い尻を割り裂くようにして、三蔵のものが捩じ込まれる。
「がっ……! 」
 抵抗感のありすぎる後孔の感覚に、三蔵が眉を顰める。
「きつい……。弛めろ、もたねぇ」
 そういって犯したまま、八戒の尻肉を三蔵はきつく揉んだ。そうはいっても不慣れな躰はなかなか男の躰に馴染まなかった。
 八戒は瞳を見開いたまま、躰の中心で引き裂かれるような感覚に耐えていた。躰の中心の三蔵が熱い。
「あはー三ちゃんったら早漏? 」
「バカ河童。すごいぞコイツ」
 珍しく余裕のない表情で三蔵は悟浄に返した。そうとう八戒の躰がイイのだろう。この鬼畜坊主にしては、滅多に見られぬ陶酔しきった表情で八戒を穿っていた。
 八戒は三蔵に抱えられるようにして躰を串刺しにされ、揺すられていた。顔の表情は虚ろで人形のようだ。
「ふぅん。じゃあ、その前に俺は……」
 中断していた口淫の続きを促すかのように八戒の口元にいまだ力を失わないそれを宛がった。
「こっちでイカせてもらうわ」
「ぐ……む」
 八戒は悟浄の肉棒をその唇にねじ入れられた。上から下から、男二人に串刺しにされている。同時にその身に加えられる陵辱は、酷く淫蕩だった。




「ウロボロスの夜(2)」に続く