廃墟薬局(14)

――――八戒は自分のことをずっと責めていた。

 切り刻んでしまいたい。自分自身のことを切り刻んでゴミ箱に捨てたい。本当にくだらない。生きてなんていたくない。あんな目にあって。あんな目にあった吐瀉物同然のこの身など、生きてなんの意味があるのか。
 しかし、どうやって死のう。
 死ぬというのは、これで、真剣に考えるとなかなか難しい。
 飛び降りるにしても、この街に5階建て以上の高い建物はなさそうだった。飛び降り自殺は5階以下の低層階だと失敗に終わりやすい。この街ではあの忌まわしい廃ビルだけが6階建てだったのだ。
 それにくらべて、
 首を吊るのは易しそうに見えた。何しろ、手元には先ほどまで三蔵に縛られていた長い紐があった。
 しかし、まったく首を吊るという用途には向いていなかったようだ。
 あっという間に自分の体重がかかると苦心してかけた天井の梁から緩んで外れて落下した。失敗だった。身体が痛いだけだ。
 そして今、全身をまさぐられる手の蠢きに目をさました。
「ふざけやがって。てめぇ」
 身体の上から呪詛のような声がふってくる。慶雲院の最高僧様のありがたいお言葉だ。
手首が痛い。上から折れるほどの力で押さえつけられる。
「さん……」
 思わず、つかまれた手首をふりほどこうとした。顔と顔がくっつくほどのところに、三蔵の美麗な顔を寄せられる。紫色の妖美な瞳、心配と怒りがない交ぜになった、彼にしては珍しい視線だ。
「そんなに死にてぇのか」
 着込んだ柔らかい綿のパジャマを最高僧の節の立った男っぽい指で脱がされる。
「死んだって犯してやる」
 肩先を抜かれ、白い肌を暴かれてゆく。ボタンをひとつひとつ外すのもまだろっこしいと思うのだろう。引き裂かれた。
「やめて……ください……」
 綿の肌触りのよいパジャマは、はだけられ三蔵の優美だが銃を持ちなれた指が八戒の白い全身を這ってゆく。
「八戒」
 せつないような声がその硬質なまでに整った唇から漏れる。そのまま首筋へ口吸いの愛撫を落とされた。
「……だめ……僕は」
 八戒は、断固とした硬い声で三蔵の行動を拒絶した。三蔵はまったく聞く耳も持ってないようだ。八戒の長くしどけない脚を開かせようとした。あられの無いかっこうにされて、八戒の目元に恥らうような赤みが差した。
「さんッ」
 押さえつけられているので、叶わぬとはいえ、八戒は恥ずかしそうな声をあげた。僕は穢れている。あんな化け物に嬉々としてこの身体を抱かれて、僕はもう汚れている。しかし、言葉にはうまくできなかった。
「三日間、こうやってずっと俺はお前を抱いていた」
 それなのに、三蔵は絶望的なことを言った。化け物に、触手に犯され、媚薬の残るその恥知らずな身体で、三蔵に迫ったのだという。……三蔵は思う様、その白い肌を犯して蹂躙していた。
 度重なる陵辱は既に習慣の域に達していた。肉は開かれ、媚肉は媚びるようにして三蔵に慣れていた。淫らにもの欲しげに三蔵の肉を求めて八戒の肉の環はひくひくとしていた。
 意識がない間、そんな性の地獄のようなところに落とされていたのだ。仲間に犯し抜かれていた。
「あ……! さんぞ!」 
 性急すぎる求めだった、八戒が全力で突っぱねようと腕の力を入れようとする。ちゅぷ、三蔵の頭が脚の間で踊る。見事な金の髪が上下に蠢き、八戒は甘い吐息をもらし始めた。
「ダメッ……さんぞ! こんな」
 自分の脚の間で踊る、金の髪を引き剥がそうと必死だった。ゴミ同然の扱いを受けたというのに、目をさましたら、大切な三蔵がゴミになった自分を大切に抱いていた。お前がゴミだとういうなら自分もゴミになってやると言い張っているのだ。まるで悪夢のようだった。

 正気を半分とり戻した八戒は確かに死のうとしていた。
 もう少し紐がきつく締まり、もう少し緩まなければ、首を吊ることに成功してさえいれば、こんな惨めな世界とはおさらばできていた筈なのだ。
 あのようなグロテスクな触手に犯され、あまつさえ恥も外聞もなくそいつを求め、それを三蔵に全て見られ、三蔵の庇護におかれても、おぞましい存在になってオスを求める。そう、完全に媚薬にたっぷり浸らされた呪われた身体は触手がいなくなっても三蔵のオスをひたすら求め、夜となく昼となく部屋で三蔵と性交し続けた。交わり続けたのだ。化け物に犯された後も三蔵の性交奴隷としてこの世にとどまり続ける。それはひととしての誇りも何も無いひどいありさまだった。
「死にてぇのか」
 あまりにも惨めな境遇に陥っていたが、カフスがひとつ落ちたせいなのか、通常の人間なら戻ってこれない正常な場所へ、八戒は戻ってきた。
「あ……ッ」
 下肢に三蔵の下が這う。とろけるようなその肉冠を音を立てて吸った。八戒が悶絶する。
「ああああッ」
 とろとろに腰が蕩けた。腰がくんッと震えてしまう。よすぎてもう涙ぐんでいる。三蔵はそれにかまわず、脚を広げさせたまま、まるで糖蜜のように舐った。
「ひっ……ッ」
 まだ触手の毒気が抜けてないというのに、酷な性技の数々だった。つ、と三蔵の舌先が屹立の横へ這った。わざと舌の先でつついている。びくびくと感じやすい身体がのたうった。そのまま三蔵が横から食むようにして舐め愛した。
「あああッ」
 耐え切れないのだろう。目元を染めて、身体を震わせている。いつものラブドールみたいな八戒を抱いてるときとは多少、勝手が違った。魂の抜けた猪八戒はまるで紳士のお好みの抱き人形だった。麗しいオナホール。そんな感じだった。そんな甘い存在を3日間三蔵は腕に抱えて転げまわっていた。
 しかし今、この八戒には意思があった。あまりにも卑猥な性技には恥じらいのあまりいやいやをする。快楽が上限をすぎると目元を染めてこんなことには耐え切れないと眉をひそめて可憐にこぼすのだ。
「耐え切れねぇってか」
 三蔵がそのカフスの2つはまった耳に囁く。クックックッとひとの悪い笑いが漏れてしまう。
「何言ってやがる。覚えてねぇのか。てめぇ。俺にハメられて、すげぇ喜んでたろうが」
「ああ、さんぞ……やめて……やめてくださ」
 半分、正気になった神経に、今までのラブドール、ダッチワイフのような抱き方は苦痛だった。恥ずかしすぎる。獣のように犯されて男の求めのまま交わっていた。
「俺が欲しいってケダモノみたいだったな。……今はどうなんだ」
 三蔵が耳元へ熱い吐息を吹きかける。
「あああッ」
 八戒が目の前の三蔵にすがりついた。逆だった。みみたぶに三蔵の熱い息の感触がするだけで達してしまっていた。精神は、どうした弾みか半分戻ってきたというのに、ニィに施された媚薬の効果も、触手に呑まされた催淫粘液も、いまだに身体から抜けることなく八戒を苦しめていたのだ。
「……さっきの続きだ」
 三蔵は八戒の両脚を広げさせた。既に足首も両手首もベッドの柵へつないでしまっている。
「八戒」
「あああッ」
 八戒は背筋を震わせた。三蔵は八戒の脚のつけね、連日の荒淫で少しほころんでいるその後ろの孔に吐息をふきかけ、……やさしく舐めまわした。
「ああくうっ」
 快感のあまりの強さに、せっかく取り戻した正気を手放しかけた。
「ああっああああっ」
 襞のひとつひとつに丁寧な舌が這う。ときおり、より奥へと舌が忍び込んだ。奥の粘膜を力強い三蔵の舌で押される。
「ああさんぞッ」
 閉じることも忘れてしまったような八戒の唇が甘い喘ぎを綴る。
「八戒」
 舌をぐるりと回してなめすすった。腰ががくがくと震える快楽に、八戒が悲鳴を上げる。
「お願い、さんぞ、お願い抱いて」
 甘い、甘い声だった砂糖のように甘く蕩けきった声だった。

 正常位で繋がった。甘い悲鳴が八戒の唇から漏れる。奥の奥まで三蔵の肉棒に蹂躙される。三蔵が腰を揺らすたびに、快楽のあまり蠢きを合わせてしまう。
「ああ……」
 八戒はびくびくと目を閉じた。もう全体が身体がおかしかった。淫靡に狂わされている。
「もう……お前は俺のものだ。部屋から……出さない。いいな」
「う……」
 八戒は最高僧に口づけられた。
「ニィには……ヤられてねぇのか」
 甘い口づけをして、唇と唇の間には甘い唾液が糸を引いている。
それでも、三蔵は八戒の耳元にささやいた。
「答えろ。あの野郎には突っ込まれてねぇのか。ミミズの化け物だけか、ぐちょぐちょにされたのは」
「さんぞ……後生ですから」
「ヤラレたのか。どんなだった。ニィのは」
「違う。違います三蔵……あ」
 この白い身体をおぞましい触手だけでなくニィにも好きにさせたかと思うと嫉妬が募った。
「外で男が誘えないようにしてやる」
「あ……! さんぞッさんッ」
 肩のあたりをきつく噛んだ。すでに前につけた跡は薄いばら色の線になっている。
そして、そのまま。肩を噛んだまま、三蔵は八戒を穿った。八戒の絶叫が宿の部屋にこだまする。
「ああッあああッあああッヒイッ」
 とろとろになった後ろの孔をぎちぎちいっぱいに広げて穿ち、肩先を甘く噛んだ。ぴくんぴくん、間で締められこすりあげられ、八戒の屹立がぴくんぴくん震えて身もだえている。それに大きな手がかぶさってくる。
「だめぇッだめェ」
 喰われるような濃厚な情事だった。こりこりになった、胸の屹立に指を這わせられると……、八戒は首を横に振り出した。
「ああああッ。無理ッもう無理ッやめ」
 意に介せず、八戒は犯され続けた。その横溢な孔に最高僧のを食わさせられたまま。ひくついて痙攣しているのに、抜いてもらえない。
「あッあああッさんぞ」
 身も世もなく喘いでいた。白い体液が幹の内部を上り先から溢れた。勢いよく達してしまった。
「あ……」
 その白い肩先は最高僧様の牙の痕でくっきりと赤い。まるで所有の印のようだ。硬い三蔵を肉筒に咥え込んだまま、八戒は悶絶した。快楽が強すぎるのだろう。ぺろぺろとそっと触れるか触れないかというところで舌で愛撫され、八戒は身体を痙攣させた。
「食いちぎ……られちまいそだ」
「ああっ」
 自分の身体の中を粘膜を思う存分蹂躙する三蔵の性器をひくつきながら、締め付けてしまう。甘くて、甘くて、背筋が蕩ける。官能で腰奥の神経がぐずぐずに崩れていた。
「……ッく」
 射精前の緊張が熱い粘膜に伝わってくる。びくびくと三蔵のがナカで跳ねるたび、八戒のも震えて痙攣してしまう。
「さん……ぞ」
 甘い声が出た。そのまま三蔵は八戒を穿つ角度を直線にして、垂直にそのま白い尻を犯していった。ねっとりと肉棒に媚肉が絡みつく。八戒の身体は男のモノにすっかり媚びていた。きゅ、きゅっと中から抱きしめ返すように三蔵をしゃぶり尽くす。
「あ、ああッ」
 八戒の黒い前髪が左右に打ち振られた。耐え切れないらしい。腰が上下に震える。三蔵の打ち込みに合わせて腰を身も世もなく振った。
「ああ……さんぞ」
 後ろを執拗に犯されて、八戒は壊れたように前を再び迸らせた。白い淫液がしたたり落ち、三蔵の腹部を濡らしている。
「ああ、ああ」
 もう恍惚としてしまっている、その表情はひどく艶かしい。とろりとした緑色の瞳はひたすら色っぽかった。
 三蔵は、その甘い肉体に、自分の精液を注ぎ込んだ。我慢できなかった。あまりにもいやらしい身体だった。八戒の口元が快感のあまり閉じられず、半開きになる。三蔵はその唇に口を合わせた。とろとろとした熱い奔流が、八戒の粘膜を焼き、三蔵の肉棒にからみついている。
「ったく」
 三蔵は、身体をゆっくりと起こした。
「あっあああっああああっ……っ」
 三蔵の怒張がずるり、とゆっくり抜かれる。まだ硬度を保つそれが、体液で濡れている。うねる粘膜が、名残惜しそうに絡み付いた。
「あっ……ああっ」
 ひくんひくんと白い肌の表面に、快感のおののきを走らせている。ぼうっとした瞳は、溶けて、喘ぎすぎた口元は閉じることを忘れている。
「や……あ」
 もう一度、三蔵は自分を埋めた。八戒の太ももを自分に引き寄せるようにして抱き寄せ、また繋がった。今度こそ、狂ったような甘い悲鳴が黒髪の男の口から漏れ、三蔵は動きを激しくしていった。






 「廃墟薬局(15)」に続く