メタンフェタミン(2)

『おクスリ』とやらを静脈に打ち込むと、間もあけずに男達は悟能を引き倒し、その躰を相変わらず陵辱し続けた。
「う……」
苦痛にのたうつ悟能の狭間から、男のひとりがぬらぬらと淫液で濡れ光る赤黒い性器を引き抜き、それにも先ほどの注射で使用した薬液の残りを塗り込めはじめた。
身動きしようにも、四肢を男達に抱え込まれていて、腕一本も動かせない。悟能はどこかとろんとした目つきで眼前の男をみつめた。
「へ、へへ。『射ってよし、飲んでよし、つけてよし』っていうだろが。アンタに射ったクスリは万能なんだよ。どれ、時間も経ったし効いてきた頃だろ」
「……ひ……ッ」
 悟能はびくんと躰をすくませた。クスリに塗れた男根を、再び打ち込まれたのだ。ひくひくと躰の中で勃起した性器が蠢くのが分かる。途端に熱い今まで感じたことのない感覚に脊髄まで漬けられた気がして、悟能は躰を仰け反らせた。
「あぅ……ッ」
 ひくん。と腰が引き攣るように動いた。躰が熱かった。
「お、気分が出てきたみたいじゃねぇか。やっと良くなってきたか」
 悟能の上で腰を振る男は容赦なく穿った。肉筒を擦り上げられ粘膜を蹂躙される。
 左脚を押さえつけていた男の手が、傍に転がっている薬液のアンプルを手に空けると、それを戯れに悟能の狭間へ塗り込めた。芯もなく力を失ったままの性器に忌まわしい怪しげな薬液が塗り込められる。
 やや張り出した可憐なカリ首から、ふたつに割れたその先端、張り詰めてきた幹にまで薬液が垂らされ丹念に塗られた。
「っあ……」
 悟能の上げる息は瞬く間に熱く熟れ、官能的なものに化けた。
そう、地獄はここからが本番だった。
「いやだ……や……やめ」
 抜き差しの度に、熱く狂おしい快楽が神経を犯し、浸し、嬲ってゆく。

 塩酸エフェドリン。

 メタンフェタミン。

 神経が、ニューロンが、脳内の伝達物質が薬理作用で過剰に溢れ、限界を超えた歓喜の坩堝の中へと投げ入れる。普通ならば、相当の手順や修練を得ないと到達し得ない性的な極みまで、人工的に無理やり押し上げられ狂わされた。
「あ、あぅッ……あ、あっ……あっ……あ」
 嬲られる屹立が狂おしい快美を背骨にまで伝える。髄まで茹だってとろとろに蕩けそうだった。腰奥が疼いてたまらない。この性的な疼きを埋めることができるなら、どんなことでもしてしまいそうだ。
 張り詰めてゆく前の猛りと連動して後ろが収縮し、呑み込んでる男のモノを締め付けてしまうのを止めることなどもうできない。犯している男達は嗜虐的な喜びに顔を歪め卑猥な言葉を囁き、悟能を嬲り続けた。
「すっげぇ……イイみたいじゃねぇか。エロい顔しやがって」
 揶揄する声に抵抗することもできない。男が喋る声にすら感じる。悟能は妖しく腰をくねらせて喘いだ。
「あ……ッ……ああッ……や……あっ」
 悟能を押さえつけている複数の手が、胸元にぴんと立ち上がった小さい乳首を摘まみ、嬲り、舐めまわす。
 しなやかな鎖骨やすんなりとした首筋にまで愛咬の跡をつけられる。躰中のあらゆるところを愛撫されて、とうとう神経が焼き切れたように、痙攣しだした。
「ひぃッ……ぃ……ッ……ッ! 」
 たまらず、前から白濁液を漏らして、がくりと頭を横へと倒した。それに構わず腰へ凶暴な怒張を打ち込まれ悲鳴を上げる。
「たまらねぇヨがりっぷりだな。いい格好だぜ」
「早く出してやれよ。中で出されたくてたまらねぇんだろ」
「ああ……あ」
 男達の淫靡な揶揄を聞きながら、悟能の目つきは虚ろだった。身に巣食う凶暴な情欲の火に焼かれ続けて身がもたなかった。楽になれるならもうどうなってもよいところまで追い込まれていた。
 通常その身を硬く覆っている理性や自尊心などの縛鎖から解放され、性地獄の檻へと囚われ投げ込まれ続けた悟能の変容は甚だしかった。一瞬、同一人物かと思うほどの落差だった。
 硬質だった美貌は情欲にさらされて蕩け、悩ましく瞳は濡れ光り、肌は紅潮して艶やかだった。先ほどまでの真面目そうな青年の姿はもうどこにもない。清廉で教師然としていた顔つきが、稀代の妖婦も裸足で逃げ出すような艶っぽい様相を帯びている。
 どこか物欲しげな光りを滲ませた目つきで、無意識に周囲の男達を流し見る。どんな堅物だろうと、こんな悟能をひとめ見れば犯したくなるに違いない。
 男を受け入れさせられている小さな尻は、長大なモノを咥え込んで放さず、ずっぷりと赤黒い肉の楔が打ち込まれて震えている。
 しなやかで劣情をそそる長い脚は、いつの間にか相手の醜悪な躰を締め付けるように絡み付き、妖しい蜘蛛を連想させる。躰全体でオスをねだり、淫靡な肉を自分から擦り付ける様は、最下層の娼婦よりも劣情をそそった。悟能の変わり果てた姿にその場にいた男達の興奮は高まり限りを知らなかった。
 限界を超えた快感に啜り泣く、悟能の脚を広げ、より奥まで穿ちながら男が囁く。
「……イク。ごほうびにセーエキぶちまけてやるよ。へ、へへへ」
「……ひぃ……あッ」
 びくびくと肉棒が震え、悟能の内部に体液を吐き出した。男の拍動に合わせて何度か吐き出される淫らで卑しい液体に汚される。
「う……」
 とろりとした粘液が孔から漏れる、いやらしい感覚に悟能は目元を染めた。口の端から喘ぎ過ぎて飲み込めなかった涎が垂れ落ちるのが卑猥だ。
 良くてしょうがなかった。愚劣で獣以下のおぞましい行為だというのに、クスリで無理やり快楽の奴隷にさせられた悟能は泣きながら喘いだ。
「やだ……いやで……や」
 躰だけが暴力的な肉欲に引きずられ、精神は悲鳴を上げつづけていた。無自覚に抗議の声がその濡れた唇から漏れた。
「も……やめ……」
 しかし、それは周囲の獣達には通じなかったらしい。
「嘘つけ。チンポ欲しくてしょうがねぇんだろうが。もう」
「躰がそう言ってるじゃねぇか、抱けば分かるんだよ淫乱が。これが、てめぇの本性なんだろうが兄ちゃん」
「尻貸せ、もっとぐちゃぐちゃにヤってやるからよ」
「イれて下さい。チンポ汁でぐちゃぐちゃにされたいですって正直に言ってみろ」
 悟能の躰は、自分の意志とは無関係に痙攣と弛緩を繰り返していた。俗にいうイキっぱなしという状態が途方もなく長く続いている。
 明らかに異常だった。クスリのせいだった。疼いて疼いてたまらない。オスの性器でひくつく孔を塞いでもらわないと気が狂ってしまいそうだった。
「ああ……」
 悟能のそんな状態を知りながら、陵辱している男達は飽きもせず交代で犯した。挿入していた怒張を途中で抜いて、身も世もなくよがり泣いている悟能を嬲ることまでした。悟能の腰は淫らにくねった。その様子を見て男達は指差し嘲笑った。屈辱的だった。
「欲しいってオネダリしてみな」
 花喃が「キレイな指」と褒めた悟能の指に舌を走らせながら、男のひとりは言った。
「そーそー。ちゃあんとシツケてねぇ犬にエサはやれねぇからよ」
「尻振って、ケツを自分で広げて欲しいって言いな」
 残酷な要求が男達から出される。悟能は首を横へ振って抵抗した。しかし、薬液を注入され、快楽で狂いそうに引き攣る躰を、手や男達のペニスで叩かれ嬲られ続け限界だった。
「……お願い……ッ」
 とうとう。
 悩ましい目つきで悟能は男達に縋った。クスリの作用でひどく苦しく耐え切れない。男達に抱くのを途中で止められると、性感が内部にたまって、たまり続けて苦しかった。
 先走りの体液で濡れた肉棒を、悟能の秀麗な顔に擦り付けながら、男は嘲笑った。
「……よし、じゃあ姉さんの方を向いて、ねだれ 『僕はこの人たちのチンポが欲しいんです』 ってな」
「…………」
 悟能は絶句した。そして、正面から見ることもできなくなっていた、姉の花喃の方へ恐る恐る目をやった。

 花喃は。
柱に縛りつけられていた花喃は。

 花喃は蒼白になって、痛ましいものを見るような目で悟能を見つめていた。自分の身代わりに陵辱の地獄へと投げ入れられ、クスリまで使われて男達の玩具にさせられている姿は筆舌に尽くし難く哀れだった。
 それでも、それを見つづけることが、自分にできる唯一の義務だとでもいうように花喃は気丈に頭をあげ、ガムテープで塞がれた唇を震わせて悟能を見つめていた。
「花喃……」
 悟能の唇が絶望的な音を紡ぐ。姉にして最愛の恋人、そんなひとの前で、自分はなんという醜態をさらしているのかと思うと居たたまれなかった。泣きたかった。それでも、身のうちに巣食う凶暴な熱は収まらない。
 頬を、男のペニスで叩かれた。小ぶりな尻たぼも軽く叩かれ、無骨な男の手で揉むように撫でられる。まるで、躾のなっていない愛玩犬でも叱るような仕草だった。
「オラ、早くしねぇか」
 腹に響く低音の声でどやしつけられた。注ぎ込まれ続けた精液をとろとろと流し続ける後ろの孔は性悪にもひくつき、わななき続けている。ぶる、と躰を震わせて悟能は唇を噛み締めた。
 うつぶせに身を返し、花喃の方へ四つん這いになった。目を合わせることはもう恐ろしくてできなかった。その間も下肢をもてあそぶ男達の責め苦は続いている。
 尻孔を薬液をひたした何本もの指で穿たれると、びりびりとした快美感が背筋を焼いて這い登り、中枢神経を麻痺させ白く蕩かしてゆく。脳は霞みがかかり、もう正常な判断などできなかった。舌が震えた。
 男達のひとりが、勃ちあがって震えている悟能の屹立を手で丹念に扱き、カリ首のところをきゅっと擦った。ずくんと腰奥を疼かせる凶暴な官能が身を貫く。悟能は獣のように喘いだ。肉欲でおかしくなりそうだった。
 耐えられたのは、内部に受け入れさせられた指が、前立腺を淫らに擦り上げたときまでだった。咆哮してしまいそうな快美に圧倒され、悟能は途切れ途切れに呟いた。
「欲し……で……す……おね……が……」
 まなじりを涙がこぼれ落ちる。誇りや矜持をこの言葉で悟能は確かに失った。自分を陵辱する忌まわしい獣どもに、尻を差し出してねだった。
 それでも、この血の滲むような言葉も、男達は跳ね除けた。
「なんだ。何が欲しいんだ、はっきり言え」
「曖昧な言葉使ってると殺すぞ。ケツマンコにチンポぶち込まれたいって言ってみろ」
「どこに何が欲しいのか、そのおキレイな口で言ってみな」
 頭を押さえつけられ、髪をわしづかみにされて床をひきずられた。花喃により近いところまで引きずっていかれると、悟能は再び屈辱的な言葉を言うように促された。
「言え。キレイな兄ちゃん。大切な姉貴の前で言ってみな。野郎に抱かれてぇってな」
 複数の男達の腕で花喃の前に引き出され、前髪をつかまれて顔を上げさせられ、言葉を求められた。
 ぬるん、と男のひとりが、悟能の尻の双丘へ猛った怒張を擦り付けた。たまらない刺激に悟能の顔が快楽に歪んだ。もっと……もっと奥まで、他のところを貫いて欲しかった。
「ああッ……」
 限界だった。躰が熱く疼いた。
「お願い……です。僕……を」
 苦しい息の下、喘ぎながら悟能が呟く。もう、花喃が聞いていることも意識から飛んでいた。
「犯して……その×××で僕を……穿って……挿れたり……抜いたりして……」
 頬が紅潮し、目元に長い睫毛が影をつくる。震える舌が唇の奥でわななき、男達を喜ばせる淫らで屈辱的な言葉を紡いだ。その姿は絶望的なまでに艶めかしく色っぽかった。
「お願い……犯して……僕を……いっぱい」
 八戒はがっくりと全身の力を抜いた。耐えていた言葉を言ってしまった。男達が躰を支え、顔を上げさせていなかったら、まるっきりうつ伏せにそのまま倒れてしまっただろう。
「許して……花喃」
 血を吐くような言葉が歯の間からこぼれ落ちた。

 それからは。もう。
「ああっ……ああ! 」
「イイのか。イイんだな。キレイな顔してるくせに、コイツがアンタの本性なんだな。ドスケベが」
「はぁ……イイ。も……イク……」
 後背位で男と交わり、前にも突き出された他の男の怒張をぺろりと舌で舐めた。苦い精液の味に顔をしかめる。
「セーエキ飲んだら礼くらい言え。『美味しいミルクをありがとうございます』って言ってみろ」
 左右の男が小突いた。悟能の美貌が歪む。
「は……」
 ひどい、屈辱的な輪姦の連続だった。クスリ漬けにされてなければ、精神が耐え切れないに違いない。
 それでも、それすらも媚薬の代わりになるのか、ますます躰を震わせて悟能はよがり狂った。後ろから立て続けにきつく穿たれ、甘い悲鳴をあげる。
「あ! あッ」
「チンポ気持ちいいって言ってみろ」
「あ、イイ気持ちイイ……」
 躰をよじるようにくねらせる。解けた唇はもう止まらなかった。
「いっぱい……いっぱい下さ……あ……」
「ザーメン、かけて欲しいか? それとも中に出してやろうか? 」
 悟能の細い腰を両手で押さえ、後ろから犯していた男が囁く。
「あ……中に……ナカに出して……あっ……あっ……あ! 僕のナカ、チンポ汁で……いっぱいにして……お願いッ……ああ……」
 悟能に打ったクスリはまだ効果を失っていない。凶暴な性地獄の谷底へと、果てることもなく叩き落していた。
 這い上がることのできぬ蟻地獄のようだ。通常ならとてもその唇にのぼらせない下品で野卑な言葉を、男達の求めるがままに吐き続けていた。蛇のように身をくねらせ、花喃の前だというのに、身も世もなくよがらされ、何人もの男達と飽くこともせずに交わり続ける。
「あ……また……イク」
 もう何度めかも忘れた快楽の証を吐き出す悟能を抱え込みながら、輪姦していた男達は哄笑した。
「こんなキレイなクセしてすっげぇインラン」
「こりゃ、クスリのせいだけじゃねぇな」
「客がとれるぜ、コイツ」
「元からの素質だろ、清楚な顔しといてとんでもねぇイロキチガイだ」
「もったいねぇ。連れて帰ってもっといろいろ教え込んでやる」
 悟能は裸で床に転がっていた。艶やかな肌にはひどい陵辱の跡が所狭しとついている。
 貪られ続け、気息奄々といったその躰に、男達は毛布をかけた。そのまま、ひとりが彼を背負うと、それが合図のように、男達は手荷物やら武器やらを手に取り、ようやく帰り支度をはじめた。
「ふ……」
 がくがくと身を震わせている悟能のおとがいを指で上へ向け、リーダー格の男が唾を吐いた。唇の上を濡らしたそれを飲むように強要する。艶やかな黒髪を揺らし、悟能が応じた。抵抗する気力は残っていなかった。
「美人さん。気に入った。アンタは確かに俺らの獲物だ、遠慮なく持ち帰らせてもらう」
「は……」
 クスリが効き過ぎて、とろんとした目つきのままの悟能を嘲笑いながら、男達は満足そうに言い合った。
「帰った後も、俺らが皆で可愛がってやるよ。美人さん」
「そうそ、飽きたら人買いにでも売りゃいいし。高値になりそうだしな、アンタ」
「飽きねえよ。コイツすっげぇ敏感な躰してやがる。売るのがもったいねぇ」
 悟能はもう、返事をしなかった。
「う……」
 犯されすぎて、消耗した躰は抵抗もできずに、おとなしく背負われていた。
もう、言葉も出なかった。言えなかった。クスリ漬けにされて、舌も動かせなかったのだ。

勝手なことを言い合いながら、男達は悟能を捕らえてさらってしまった。

 家の中は乱雑に荒らされたままだった。食器類にぶちまけられた戸棚に冷蔵庫の中身、破かれたソファ、男達と悟能の体液で濡れて汚れた床、剥ぎ取られてボロ雑巾のようになった悟能の服、様々な汚れや道具で足の踏み場もなく汚れていた。 部屋中にオスの匂いがたちこめている。すえた匂いでむせるようだった。

 柱に繋がれていた花喃には、家の扉が無情な音を立てて閉まるのをどうすることもできなかった。最愛の弟は連れ去られてしまったのだ。
 
悟能は確かに花喃を守った。

 しかし。


(許して……花喃)


 後には、栗の花に似た精液の匂いだけが濃く残った。




 了