「……ッ」
八戒は追い詰められていた。汚らしい廃屋の汚らしい部屋で妖怪たちに囲まれている。
尖った耳に蒼白い肌、明らかに人間とは異なっている男たちだった。とある町で三蔵たちと別行動しているときに捕まったのだ。
「おっと逃がさねぇよ、美人さん」
「そうそう。もっと仲良くしようよねェ」
にやにやと下卑た笑いを浮かべながら近づいてくる男たちの腕が伸びる。
八戒は薄汚れた床に座り込み、後ろを振り返った。コンクリートの壁だった。もう逃げる場所はなかった。
「いいじゃないの、そうすましかえらなくたってさ」
伸ばしてくる腕を八戒は避け、相手に向かって殴りかかった。
しかし、多勢に無勢だった。
「お? はねっかえりだねぇ美人さん」
「暴れるなって、綺麗な躰に傷がついちまうだろうが」
幾人もの男達の腕によって取り押さえられる。眼前に下卑た表情の男が立ち、八戒の黒髪をつかんだ。そのまま床に引き倒そうとする。もの凄い力だった。
八戒は無言でつかまれた手を取り、その腕へ顔を寄せた。そのまま、歯を寄せて噛み付く。相手の男が悲鳴を上げた。
「ぐぁッ……!」
噛まれた腕を押さえて悶絶した。その腕を血が伝い、コンクリートの床へと滴った。
八戒は勢いよく唾を吐いた。血と肉片が唾に混じって床に赤く散った。相手の腕の肉を噛み切ったのだ。
「この……見た目と違って結構きついなコイツ」
「まぁ、それくらいじゃねぇとつまらねぇけどな」
怯むどころか、八戒の抵抗は男たちの嗜虐性にかえって火をつけたようだった。
四方八方から手が伸び、八戒を押さえつけようとする。
「やめなさい! 」
激した八戒の声が飛んだ。
「僕になにかしてみなさい。貴方たち全員殺しますよ」
翡翠色の鋭い視線で八戒は男たちを睨みつけた。男たちの数は十人以上はいるようだった。男たちが何を期待しているのかは明らかだった。
彼等にとって八戒は今まで拝んだことのないような麗人だった。
ひとりが犯して愉悦を貪れば、何かと後々角が立つ。卑劣な彼等は仲良く同じ釜の飯を喰らうことに決めたのだ。
要するに、八戒を輪姦して殺すことに決めたのである。
なんといったって、八戒は「あの」三蔵一行の仲間である。何をしたってお咎めなしのはずだった。
八戒はちらりと頭の片隅で、三蔵のことを考えた。三蔵は先日の戦闘で傷を負い、宿で休んでいるはずだ。信心深い宿の主人が何くれとなく世話を焼いていた。
(僕としたことが、こんな連中に捕まってしまうとは)
八戒は苦笑した。本調子でない三蔵を危機にさらしたくないばかりに、自分ひとりで何とかしようと妖怪連中相手に立ち向かったが、多勢に無勢でどうにものっぴきならない局面を迎えてしまった。
一緒にいたジープともはぐれてしまった。
だけど。
八戒はその唇に微笑みを浮かべた。いつもは優しげなその口元に酷薄な気配が漂う。
そのまま、手を耳元のカフスへと伸ばした。ひとつ、ふたつとそれをとってゆく。
しかし、
最後まで八戒はカフスを取りきることができなかった。連中のひとりが、呪札のようなものを八戒の躰に貼りつけたのである。
「が……! 」
貼られた胸から腹に、煮えて焦げるような感覚が走って八戒は痺れたように躰を突っ張らせた。魔封じの呪札だった。
「よく貼れたじゃねぇか」
「なぁに、この札はある程度以上の力のある妖怪相手じゃねぇと効力のでないありがてぇ御札なんだとよ」
「効いてるみたいだな」
八戒が悶絶している様をにやにやと眺めていた連中は、その苦しみも他人事とばかり、着ている服を剥いでいった。
「やめ……! 」
抵抗しようとして力の入らない腕を振り上げると、頬を張られた。激しい音を立てて打ちのめされる。
「うるせぇ、皆で可愛がってやろうってんだ。おとなしくしてろ」
緑色の、清廉な詰襟の服を脱がしていった。いや、そのやり方は脱がすというよりも剥ぐというのがぴったりだった。
びりびりと布地が裂け、糸が切れるいやな音が響き、服のボタンが弾け飛んで床に転がった。次々と服が裂かれ、全裸にされる。
「よしなさ……」
腕で躰を隠そうとする、八戒の手を押さえつけて男たちが嘲った。
「みろよ、これ」
「コイツ……こんな顔して、お盛んだねぇ」
八戒の服を脱がして男たちは驚いた。八戒の躰は情事の跡だらけだったのだ。
全身に鬼畜坊主がつけたくちづけの跡が散っていた。甘噛みの跡が艶めかしい。
押さえつけて後ろから抱いたときのものだろう、指の跡がくっきりと腕についている。濃厚な情事の跡を白日の下にさらされて、八戒が唇を噛み締めた。
「誰とヤッてんだ。コイツ」
「仲間とだろ。この顔だぜ、仲間全員、誑しこんでやりまくってるのかもしれねぇ」
「違いねぇ。こんな清潔そうな顔してとんだスキモノだぜ。つったく」
くっくっくと男たちは嘲笑いながら、八戒の自由が利かないのをいいことに、その脚を広げさせた。八戒は隠そうと腕を伸ばしたが間に合わなかった。
「見ろ、こんなところまで」
「おーお。すげぇ熱烈だねぇ。妬けるじゃないの」
脚の付け根にも、三蔵のくちづけは当然のようについていた。八戒に口淫を施しながら、ときおり気まぐれにそこに舌を這わして焦らすのが鬼畜坊主のお好みの愛撫だった。
「まぁ、でもこれで」
男たちは顔を見合わせた。
「遠慮はなくなったな。ええ? 」
全裸に剥かれた惨めな躰を見世物のように嬲られ、笑われた。
呪札で力を封じられ、壁を背に肩で息をしている八戒に鬼畜どもは愉しげに言った。
「そうそう、彼氏とヤルよりイカしてやるよ、美人さん」
「……! 」
八戒は言葉とともに床へと引きずり倒された。
もう、救いは……どこにもなかった。
「あっ……あっ」
苦しい躰をいざって逃れようとするが無駄だった。手足は何人もの男たちの手で押さえつけられている。
左腕は左側にいる男に、右腕は右側にいる男にそれぞれ押さえつけられていた。胸と腹にかけて貼られた呪札もちりちりと痛む。油汗が浮いてきそうなくらい苦しかった。
「ぐ……! 」
後ろを、抉るように貫かれて八戒が仰け反って目を剥いた。快楽とはほど遠い感覚だった。
「もっとちゃんと押さえてろ。動くからヤリにくいったらねぇ」
八戒を犯してる男が仲間を怒鳴りつけた。八戒の足首をそれぞれ押さえた男たちが怒鳴り返す。
「なに言ってんだ、さっさとすませろ。次は俺だ」
「おい! 次は俺のはずだろが」
醜い争いと罵倒が飛び交う。男たちは八戒を取り合っていた。
「それにしても」
犯してる男が八戒の艶めかしい肌に視線を走らせた。白く滑るような肌が苦しげにくねっている。
「すげぇ、具合がいい……こんなイイのは女でもいねぇな。こう、ずっぽりしててきつくて」
深く穿たれて八戒が苦痛の声を上げた。
「あっ……がッ! 」
「なぁ、美人さん。もっと気持ちよさそうな声だせねぇの? 」
「よお、早く代われよ。俺がもっとヤッて気持ちよくさせてヤルからよ」
仲間の言葉に悪態をつきながら、八戒を犯していた男が逐情した。呻くとそのまま、八戒の躰の上へと倒れ込む。尻を震わせて、八戒の内部に精液を注ぎ込んだ。
「おい、外で出せよ」
「すぐ、ぐちゃぐちゃになっちまうだろうが、ナカに出したら、これじゃ」
「うるせぇ、どうせ終いにゃ、めちゃくちゃになっちまうんだ。早いか遅いかの違いだけだ」
犯された八戒は目も虚ろだった。後孔に男の怒張をねじいれられる前までは必死で抵抗していたが、一度無残にも無理やりこじ開けるようにして犯されると、全身の力が抜けた。
深い、絶望的な諦念が八戒を襲った。自分の躰に加えられている非道が、現実のものと思えなかった。
自分に起こっていることが他人事のような気すらした。犯されている自分を、別のところから見ているような、奇妙な離人感があった。
しかし、八戒には呆然としている暇は与えられなかった。
次の男に脚を割り広げられる。熱い切っ先が素早く内部に入り込んできた。最初から突きまくられた。
「く……! 」
じゅぶじゅぶと先に放たれた白濁液が肉棒で捏ねまわされる淫らな音が立った。
眉根を寄せて八戒は衝撃に耐えた。輪姦の順番待ちをしている男たちが下卑た声でそんな八戒を嘲った。
「さっきよりは、感じる? 美人さん」
「最初の野郎のと比べてどう? イイ? 」
卑猥な笑い声が部屋の四方から上がる。
捏ねるようにして八戒を穿つ男も口元をつりあげるようにして囁いた。
「なぁ、聞かせてよ。イイ声……アンタが恋人とヤルときはどんな声で啼くのか知りてぇ」
「いや……です。いや」
男は激しく貫きながらも変則的に腰を使った。
「あう……」
八戒の声が先ほどとは異なった色を帯びだす。
「いやッたって……アンタ……敏感だな。躰は……そうはいってねぇみたいだぜ」
「……! 」
途端に男に犯されている嫌悪が湧き上がった。八戒は無言で、そのしなやかな脚を振り上げ、男の腿を蹴った。穿たれたまま、相手を押しのけようとする。
一瞬、ぎりぎりまで相手の性器が抜け、焦ったような男が、思わず八戒の顔に張り手を放った。
「油断もすきもねぇ。……てめぇら、ちゃんと押さえてろ! 」
後半のセリフは、背後にいる仲間の連中に向って怒鳴り、男は改めて、深く深く赤黒い怒張を八戒の奥へと埋め込んだ。粘膜を擦り上げるようにして奥まで犯した。
「あぐ……! 」
八戒が仰け反った。はしたなく内股が震える。
「あっ……ああっ……」
甘い、甘い陶酔したような声が漏れた。抱く男の本能を狂わせるような淫らな啼き声だった。
「すげぇイイ声……」
突きまわしながら、八戒の上で男が呻いた。
「いいの? よくなってきた? もっと聞かせてよ……」
八戒の腰を抱えなおし、ねっとりと抱いていた男が淫らに囁いた。
突き入れている男には、八戒の反応が段々と異なってくるのが分かったようだった。隠しようもない。
「ん……ふ……」
八戒は眉根を寄せた。甘く蕩けかかったその表情を拝んで、周囲の男たちの息が荒くなる。下半身を直撃するように妖艶な表情だった。
「おい! さっさとすませろ! いいかげん代われ! 」
「うるせぇ! てめぇみたいな早漏と一緒にすんな。黙ってろ! 」
ぐちゃぐちゃに内部を突きまわされる。最初に注ぎ込まれた男の白濁液が、潤滑剤の役割をして卑猥な音を立てている。
「やぁッ……」
嫌なのに、屈辱的な無理やりの行為なのに躰が勝手に快感を拾い上げてしまう。
「やめて……お願い……」
男たちに押さえつけられながら、八戒が呻く。手首はきつく握られすぎて、既に赤く鬱血している。殴られた口の端からは血が滲んでいた。
「やめてだ? ……あんた。尻振ってるじゃねぇか。……ヨクなってきたんだろ? 」
下卑た笑いが周囲から湧いた。
「んう……! 」
強く穿たれて八戒が顔を歪めた。びりびりとした熱い感覚が背を這い上がってゆくのを止められない。
こんな屈辱的な性交で感じているのが信じられなかった。
「淫乱だよな。あんたこんな綺麗な顔してる癖によ」
八戒の躰の上にいる男が囁く。その首筋から汗が伝って下にいる八戒の躰に滴った。
嫌悪のあまり逃げ出したくなる。呪札で縛められているのに、上体をひねって逃げようとした。
「が……! 」
力の入らない躰を殴られる。
「動くんじゃねぇ! イクとこだったッてのに! 」
殴られて、うつ伏せに倒れた八戒の尻孔から、白い精液がどろどろと伝って落ちてゆく。
射精している途中で逃げられて、不満なのだろう。男は背後から八戒の黒髪をわしづかむと、その顔をねじむけさせて、残っていた残渣を絞るようにして白濁を顔へと擦りつけた。
「ぐ……! 」
容赦なく汚される。
「殴るんじゃねぇよ。傷になるだろが! 」
「うるせぇ、どうせ最後には殺すんだろうが。同じだ」
交わされる悪党どもの会話を薄れてゆく意識の中で、八戒は聞いていた。
呪札の効果で意識がもたないこともあったが、なにより、こんな悲惨で残酷な行為を自分が受けているのが信じられなかった。
どこかで意識的に遮断しているような感じだった。そうでもしなければ、狂ってしまうだろう。それは自己防衛ともいえた。
しかし、どうせこの鬼畜どもは、たとえ八戒の意識が薄れても、水をかけ、手足を火箸で焼いてでも陵辱し続けるだろう。
次の男の手が、肩にかかるのを八戒は感じていた。うつ伏せにさせられたまま、背後から挑まれる。獣の体位で後ろから犯された。
八戒の悲痛な声が部屋に響く。
男は八戒の躰の上でひたすら腰を振った。いいように八戒はその下で翻弄される。感じている、淫乱がといって罵倒されながら犯された。
思わず上体を反らして上げた顔に、誰のものとも知れない怒張を突きつけられる。歯を喰いしばっていれまいとしたが、鼻をつまんで息を塞がれた。
耐え切れずに開けた口へ、勢いよく弾力のある肉塊が入りこむ。口いっぱいになってとても咥えきれない。生理的な涙が八戒の目の端に滲む。
美しい八戒に残虐な輪姦を加えていることに、周囲の男たちは興奮しきっているようだ。
(何人……くらい……いるんで……しょう……)
まだ、たった三人の相手、いや四人の相手をしているに過ぎない。
最初の印象では、男たちの数は、十人はくだらないように思えた。ならば後、五、六人というところか。
しかし、それで解放されると思うのは甘いだろう。一度や二度で男たちが満足するとも思えない。だとすれば、この行為はあと何十回となく続くのだ。恐らく終わるまでに何時間もかかるだろう。
そして、その頃には自分はもう――――。
いや。
八戒は犯されながら思い直した。ぱんぱんと、自分の尻に男が肉を打ち付ける音が響く。
射精前の緊張が、粘膜ごしに伝わってくる。もう相手は達するに違いなかった。
「ぐふッ……」
口の中にも、尻の孔にも。男たちの白濁液がぶちまけられる。
もう、精液の匂いなど、気にもならない。ゴミの中で生きていれば、ゴミの匂いになど慣れてしまうだろう。同じことだった。
「もう……殺して……いえ、殺して下さい……」
八戒は喘ぐように懇願した。確かに今死んだ方が、精液を拭うための、ボロ雑巾になるまで、酷使されるがごとく犯されるよりはましだろう。
しかし、そんな八戒の願いは当然聞き入れられなかった。
「ああっ……」
八戒は絶望的に喘いだ。その背に新たな男がのしかかってきたのだ。
「心配すんな。死ぬッてくらい、ひぃひぃ言わせてやるからよ……」
後ろ抱きにされて、耳元に囁かれる。
「あ……! 」
ぴちゃり、と男の舌が背に這う。
「ココ……消えかかってるけど。跡がついてる……彼氏がつけたの? ここって……イイ? 」
「やめ……やめて……! 」
三蔵がつけた所有の印は、逆に八戒の性的な弱点を初対面の相手に教えてしまっていた。
三蔵が愛した肌を、どこの誰とも知らない男たちに汚される。男が八戒の上で尻を前後に振った。
「さん……ぞ! 」
熱い声で八戒は三蔵を呼んだ。
「お、彼氏の名前か。美人さん。妬けるねぇ」
「彼氏とヤッてる気分になってきた? イイ? 」
男たちが嘲笑う。
獣の交尾のように際限なく繋がることを求められて、八戒は躰を屈辱で震わせた。
しかし、もうこの地獄から逃れることは、叶いそうもなかった。
救いのない廃屋の暗い一室で。
淫らな水音と。
下卑た嘲笑。
漂白剤を連想させる精液の濃い匂い。
諍いと。それから男たちの怒鳴りあう声。
悲鳴。そして。
それから――――。
そう。
もう。
何時間が経っただろうか。
「八戒ッ! 」
鬼畜坊主が銃を掲げ、ケガをおして廃屋のドアを開けたとき。
あたりは一面血の海だった。
「――――ッ! 」
想像を絶するような酸鼻な状況にさすがの三蔵も一瞬怯んだ。
すさまじいとしかいいようのない光景だった。思わず、連れていたジープを外へと追い出した。
ぐちゃぐちゃだった。
肉屋の冷凍倉庫をうっかり解凍して放っておいて、その上新鮮な血をドラム缶で十缶ばかりぶちまけたら、少しは近くなるのだろうか。
恐らく、十二、三人くらいの妖怪の死体が転がっていた。恐らく、というのは五体満足な死体がひとつもないからだった。
見当でいうしかない。ざっと見渡した手足の数を見た感じでは、十人ちょっとの数の死体が転がっていた。
天井まで血がかかっている。血天井というやつだ。恐らく首でも斬ったのだろう。頚動脈を切られて噴水のように血が天井といわず、壁といわず汚したのに違いない。
廃屋の床は血だまりでひどかった。三蔵の足はほとんどくるぶしまで血で染まった。
水よりも密度の濃い赤い体液が、三蔵の足を濡らす。なまぐさい血臭がぷんと立った。
三蔵は無言で銃を構えなおした。撃鉄があがっていることを確認する。残酷すぎて、表現のしようのない廃屋の中を三蔵は見渡した。
転がっているのは、もがれた腕、首の無い胴体。もはや肉塊としか呼びようのない死体。臓物が引きずりだされて引きちぎられ、死体に醜悪な飾りのように巻きついている。
――――そして。
三蔵は微かな息遣いを聞いた気がした。
一瞬銃を持つ手に力を込めるが、意識のどこかがそんな必要は無いと告げる。
生きているものの気配のする、部屋の隅へと三蔵は近寄った。
「八戒! 」
全身、裸で。男たちの血と肉片に塗れて。
そこには八戒が倒れていた。
「八戒ッ! 」
三蔵は叫んで駆け寄った。もはや自分の負っていた傷のことなど、どうでもよかった。
力の抜けて正体のないその白い躰を抱きかかえる。
「……ッ!」
八戒の姿を間近に見て、三蔵の血は逆流しそうになった。
凄まじい陵辱を加えられた跡がそこかしこにあった。
殴られたのだろう。切れた口端には血が滲み、その上を糊塗するかのように精液がこびりついている。
躰中が殴られた跡だらけで、きつくつかまれた指の跡がいたるところに残っていた。白く艶やかなその肌は、男たちの血と精液に塗れて、ひどい有様だった。
言葉もいえず、三蔵はその躰を抱えた。そのまま抱き上げようとする。ケガをしている胸元近くの刀傷が、開く感覚があった。
それは、昨夜八戒が苦労して出血を止めたものだった。
「……ぐッ……! 」
それでも。
三蔵は脂汗を流しながら、八戒を抱き上げて歩いた。こんなところに八戒を一秒もおいておきたくはなかった。
足元で血だまりを踏む。うっかりすると滑りそうだ。人脂で辺りはぎとぎとしていた。
「クソッ……! 」
三蔵は押し殺した声で呻いた。抱き上げてみれば、八戒の胸や腹にかけて、呪札が貼られている。
恐らくこれで縛められて、八戒は男たちに輪姦されたのだ。
「さ……ぞ」
その色を失った唇が、自分の名前をせつなく呼ぶのを三蔵は聞いた。
その瞬間、何か激しいものが躰の内側から込み上げてくるのを感じて、三蔵は言った。
「大丈夫だ。もう、大丈夫だ。俺が来た」
紫暗の目を細めて、腕のなかの痩躯へと力を込める。
抱えた八戒の尻から、つらつらと白濁した液体が伝い落ちているのに気がつき、三蔵はその僧衣の袖で八戒を包み、隠すようにした。
「八戒……! 」
状況からして明らかだった。
妖怪の男たちは、八戒のとりあいになって、殺し合いをしたのだ。
――――蛇蝎が共食いをするがごとく。
「煉獄の孔雀(2)」に続く