捲簾×ハ戒(2)


彩乃様の捲八

※ このイラストは「Clock Factory」by 彩乃さまの許可を得て掲載していました。大好きでした。







捲簾×八戒(2)







「捲簾……さん」
 困惑したような、八戒の声が腕の中から上がる。
「ん」
 困惑しているといったら、多少は捲簾もしてはいただろう。しかし、大将の困惑は 『どうにもこの腕をほどきたくなくて、困ったな』 という種類のものだった。
「も、もももう大丈夫です! 」
 捲簾の腕のなかで、八戒がしどろもどろになって言葉を継いだ。顔が真っ赤だ。初心なその様子に思わず、捲簾の口元が緩む。
「ケガ、なかったか」
「は、はいっ。ありがとうござ……」
 新鮮すぎる反応だった。いままでに抱いたどんな女も、これほどまでに可愛いと思えたことはない。腕から逃れようと無意識に引いた八戒の手首を優しくつかんだ。
「ホントか」
 腕の中で小刻みに震える可憐な痩躯を愛しげに抱きしめた。
「は、はい」
 八戒の胸の激しい鼓動が、抱き寄せて密着した胸から伝わってくる。
「俺が嫌か」
「い、いや?! いやって。ななななにが」
(やべぇ。本当に可愛い)
 あまりにも、可愛い八戒に、捲簾の理性が焼き切れそうになる。八戒の顎を片手でとらえ、上へと向かせた。
「捲……簾さん……? 」
 パニックになっている、その細い躰を抱きしめ、唇を重ねた。
「!?……や」
 八戒は慣れてなかった。緊張しているのもあっただろうが、それにしても百戦錬磨の捲簾と比べたら 『お子様』 には違いなかった。
 がちがちと固く噛みあわされている歯をなだめるように、舌先でつつく。解放を促すように、可憐な唇を舌先でなぞった。
「いけま……せ……捲簾……さ」
 かすかな抵抗が、捲簾の情欲に更に煽る。勢いにまかせて、壁際へと痩躯を押しつける。自分のたくましい躰と、固い壁に挟み込むようにして、八戒の抵抗を押さえつけた。
「や……」
「いい子にしてろ」
 低く言い捨てると、捲簾は八戒の上着の止め具を次々と外していった。露わになってゆく肌に音を立てて、くちづける。
「お願いです……やめ」
 懇願するように抵抗する腕を、捲簾は手で押さえつけた。壁へと手首ごと貼り付けるようにする。服を止めていた金具は全て外してしまった。
 服の合わせ目へ顔を埋め、口で咥えると、前を寛げようと引っ張った。精悍な狼を思わせる仕草だった。
「ひっ……」
 八戒はやっと何を自分がされようとしているのかに気がつき、逃げようと躰を捻った。
「駄目だ。もう許してやれねぇ。逃げんな」
「どうして、どうし……」
 外し損ねた服の留め金が、引っ張った拍子に壊れて弾け飛んだ。露わになったしなやかな躰に、捲簾が舌を走らせてゆく。滑らかな首筋を、音を立てて吸った。
「はぁ……ッ」
 あっという間に、鬱血の跡がついてゆく。捲簾は、仰け反る痩躯を宥めるように目の前の肌にくちづけの雨を降らせた。
「ひぅ……」
 八戒がびくりと肌を震わせる。捲簾の強引な舌が、胸の尖りを舐めまわし始めたのだ。紅く色づき始めて艶めかしい。
「や……ぁ……あ……ッ」
 ぞくりと肌を焼いて、腰を疼かせる甘い感覚に、八戒が仰け反る。壁を背にして、捲簾に抱きかかえられていた。
 逃れるところはどこにもなかった。捲簾の大きな手が、八戒の下肢へとかかった。穿いていた服を無理やり剥ぎ取りにかかる。
「いや……それは……いやで」
「黙ってろ」
 拒絶の言葉を紡ぐつれない唇を、捲簾は舐めた。懇願を聞き入れずに、とうとう、足を使って強引に引きずり落とす。強引なやり方に、布地が悲鳴を上げた。少し裂けたに違いない。緑色の服が、ふたりの足元に落ちた。
「ふ……」
 涼しくなった下半身に、捲簾の手が這った。その間も、角度を変えて八戒の口内を貪り続ける。震える舌を探し出して絡め合わせた。
 とろりとした舌を吸いあう。八戒は、上半身にかろうじて上着をひっかけた、艶めかしい姿にさせられてしまった。
「あ……」
 ぞくりとするような感触に、八戒が目を潤ませる。初心だったが、敏感な躰だった。
「さわら……さわらないで……ッ」
 八戒が熱い吐息混じりに懇願する。捲簾は手で八戒を嬲っていた。親指と中指で輪をつくり、八戒を扱きあげる。
「ひっ……! 」
 惑乱するような快美が、捲簾の指と自分の粘膜の間から湧き起こり、八戒は躰を震わせる。肉の鋭い快楽が、捲簾の指の間から生じ、八戒を仰け反らせる。
 段々と硬く張り詰めてくる正直な八戒を捲簾は容赦せずにもてあそんだ。先走りの体液が指を濡らす感触に、声に出さずに笑った。
「……こんなになってんのに、触らない方がいい? それホント? 」
 よりいっそう、壁際に押さえつけるようにして、捲簾は八戒への愛撫を激しくした。
「ああッ……あッ……あ……ん」
 びくびくと腰が震えてしまう。突き出すような淫らな動きを繰り返す八戒を、捲簾は愛しげに抱きしめた。
「すげぇ、可愛い。も、何もかも可愛いな。アンタ」
「あ……ぅ」
 耳元で囁かれる年上男の口説(くぜつ)を聞いているのか、聞いていないのか。快楽に翻弄されて、躰の芯を焼く甘い悦楽に耐えるのに必死で、八戒は余裕を失っていた。
「はぁ……はぁッ……あん」
「イキたい? もうイケそう? 」
「うぐッ……」
 生々しい声を上げて、八戒の腰が揺れる。限界が近かった。駄目押しとでもいうかのように、捲簾は八戒の胸の乳首を溶かすかのように舌でなめた。
 屹立を扱く手の動きも緩めはしない。感じやすいところを、同時に愛撫されて八戒が躰をわななかせる。
「あ、もう……僕ッ」
ぶるぶると、腰が震える。
「あ、あーッあーッあ……ッ」
 悲鳴のような啼き声を立てて、八戒は逐情してしまった。捲簾の手の中に、しとどに白濁した体液を放った。何度かに分けて吐き出されるそれを、捲簾は最後の一滴まで、絞るようにして扱きあげた。
 捲簾の指の動きに合わせて、先端に開いた小さな口から、精液が滴って幹を濡らす。新鮮な精液の濃い匂いが、部屋の空気に混じった。
「はぁッ……はぁッ……はぁ」
 八戒は、達した後の虚ろな視線を捲簾に向けた。信じられなかった。半ばどこだか分からない  『天界』 なんて名のふざけた場所で、同性の男の手でイカされてしまっているなんて。
「イキ顔も、可愛いのな。ホント。罪作りだよな」
 快楽の汗を滲ませた八戒の秀でた額にくちづけると、捲簾はこぼれ落ちた精液を指ですくうようにすると、八戒の後ろへと塗りこめるようにした。
「やだ……ッ」
 思いもよらぬ場所に、捲簾の指が入りこんできて、八戒が抵抗する。身をよじって暴れ出した。
「慣らさないと。辛いぞ。俺の入んねぇぞ」
「入る……? 入るって……」
 初心な八戒の問いに捲簾は、八戒の後ろを指で穿った。精液に塗れた指を、粘膜はやすやすと受け入れてしまった。抵抗もあまりなく、ほぐされてゆく。
「ここに」
「……! 」
 八戒が目を見開く。男同士だと、こんなところを使うのかと、ひきつった表情を浮かべた。逃れようとも、後ろは無情にも固い壁だった。逃げようがなかった。
「んなに、心配? じゃ、コレ握っててよ。落ち着くから」
「! 」
 捲簾は服の前をはだけると、熱く息づく自分の怒張を八戒の手ににぎらせた。
「う……」
 八戒が首を振る。指で一周してつかめないほど、捲簾のは大きかった。
「ね。俺の、アンタのナカに入りたいって」
 捲簾は腰を押し付けた。
「無理で……」
 あえぐように、八戒は言った。充実した肉の感触が、肌に伝わってくる。
 捲簾は、八戒に自分のを握らせたまま、八戒の後ろに挿し入れた指を少しづつ増やしていった。腰に腕を回して、後ろから、指を入れて掻き回した。
「今、何本入ってるか……分かるか? 」
「あ、あぅッ……」
 八戒が眉根を寄せる。味わったことのない圧迫感と、快楽に翻弄されていた。こんな行為で感じてしまっているのが信じられなかった。
「三本。ね、結構、大丈夫っしょ」
 八戒は首を振った。自分が自分でなくなってしまうような、快楽の淵へと叩き込まれつつあった。うっかりすると、捲簾の指の動きに合わせて、腰を揺らせてしまいそうになる。
「あれ、また……勃ってんじゃん。ほら」
捲簾が思わずといった様子で呟いた。
「! 」
「ココ……か」
 捲簾が精悍な容貌を淫猥に歪ませて囁く。挿入した指をくいと内側へ曲げた。粘膜の壁のある一点を優しく押す。途端に、焼け付くような、電撃に似た快感が走り抜けて、八戒は口も利けなくなった。痙攣する。
「いいんだ? 」
「……いわないで……ッ」
 閉じられなくなった、口元から、唾液を滴らせて、八戒はあえいだ。
 捲簾の指は、駄目押しのように内部で、バラバラに蠢いた。その惑乱するような感覚に、八戒が背を波立たせて仰けぞる。脊椎の骨まで蕩けてなくなってしまいそうな快楽の海に落とされて溺れた。
「ああッ……ああッ……ん」
 腰が淫らに左右にくねってしまうのを止められない。逃げようと足掻いていた八戒が、切なげな様子でしがみついてくるのを、捲簾は優しく抱きしめた。
「八戒……」
 カフスの嵌まっている耳に優しく囁く。
「今……指で悦かったトコ、いっぱい俺ので突いてあげるから……」
「あ! あうッ」
 八戒は思わず歯を食いしばった。指とはまるで質量の異なる捲簾のが後ろを貫いたのだ。
「……! 」
 躰の内側から、ひっくり返されて、串刺しにされる感覚に躰が震える。八戒の綺麗な碧の瞳から、涙が次から次へとこぼれ落ちた。捲簾はそんな初心な八戒の反応を愛しげに見守っていた。舌でその涙を舐めとる。
「力抜いて、八戒」
「やぁ……」
 壁際に追い詰められたまま、立位で八戒は犯された。捲簾の腕が八戒の片足をしっかりと抱える。立ったまま、大きく開かされた後ろに、太くて硬い男のモノをねじ入れられている。
「動くぞ」
「やだ……ぁ! 」
 八戒の手が縋るものを求めて、捲簾の背へと這う。捲簾は服を着たまま、八戒を穿っていた。切なげな指が広い背中へ伸ばされ、布を握りしめる。捲簾は唇に笑みを浮かべた。
(本当に……可愛い)
「力抜け。歯を食いしばんないで、ホラ、口開けて」
 緊張のあまり、噛み締めている唇を強引に重ねた。蕩けるようにくちづける。
「う……」
「舌、出して」
 震えるのを我慢して、八戒が舌を差し出す。整った唇から、赤い舌先がちろりとのぞくのが、扇情的だ。
 捲簾はその舌を激しく吸った。舌と舌を絡み合わせて深くお互いを貪りあう。官能的なくちづけを教え込むかのように、執拗に繰りかえしした。舌と舌を絡み合わせたまま、腰をゆっくりと揺する。
「あ……」
「少し……動いてもいいか? 」
 優しく顔中にキスの雨を降らせながら、捲簾が囁く。
「や……動いちゃ……やで」
 縋りつかれて、捲簾が口元を緩ませる。捲簾がキスをする度に、ひくりと蠢く内部の熱い粘膜の感覚が良くてたまらない。
「悪ぃ、八戒、コレ以上我慢できねぇ」
 そう告げると、腰をゆっくりと引いた。
「あ、あああっ」
 ずるりと長大なものが抜かれる感触に、八戒が躰を震わせる。味わったことのない感覚だった。
「行くぜ。八戒」
 捲簾が耳元に囁く。
「ひぃッ! 」
 次の瞬間、勢いよく打ち込まれた。
「いやッ……いやいやッ……! 」
 身も世もない様子で、八戒は捲簾に泣いて縋った。そんな可憐な様子に憐憫の情が湧くが、どうしようもなかった。
 情欲が走り出して止まらない。八戒の躰が欲しくてたまらなかった。埒をあけずに済みそうもなかった。
 許しを請う、可愛い八戒を抱きしめたまま、捲簾は腰の動きを止めなかった。硬い幹で八戒を穿ち、こねまわした。初心な八戒の躰は、男を受け入れても、それに合わせて動くのにまだまだ不慣れだった。そんなところも、年上の捲簾には可愛くてしょうがない。
「あ……」
 段々と。
 慣れない感覚に、悲鳴を上げてばかりだった、八戒の様子が少しずつ変わってきた。痛みを凌駕する甘い感覚に小さな尻を震わせている。
「あう……あん」
 悩ましい声で啼いた。そんな八戒の変化を捲簾が見逃すはずはなかった。
「ココ? 」
「ひッ……! 」
 的確に感じる場所を凶暴な凶器で打ち抜かれて、八戒が声を上げた。
「ああ……んッ……あん……」
 後孔が、感じ過ぎてひくひくと蠢く。八戒の快美を忠実に捲簾に伝えるかのように痙攣した。
「八戒……」
 同じところを狙って捲簾が腰を突き上げる。片足だけで立っていた、八戒の躰が震える。内股の筋肉がひくっと動いた。
 初めてなのに、無理のある体位だった。それでも、感じるイイトコロを的確に打ち抜かれて、八戒がよがり狂った。
「あ、ああっ……捲……れ」
 腰を浮かせて、くねらす。無意識の媚態が抱く男を狂わせる。
「は……あ……ッ」
 イイ、イイと腰の蠢きが言葉代わりに訴えてくる。
「……っは。オマエ、悦すぎ。……もたねぇ」
 捲簾が限界だというかのように、八戒の腰を抱えて、降ろすようにし、それに合わせて上へと突きあげるように穿った。奥の奥へと抉りまわすように腰を押しつける。
「ひぃ……うッ……ッ! 」
 捲簾の性器が内部で暴れまわる感覚に八戒は身悶えた。立ったまま激しく貪られて、足のつま先だけで立っていた。
 力強い腕に抱えられるようにして犯されていた。ときおり、穿たれる度に、足が床から離れて躰が宙に浮いた。
「あ、ああっ……ああ……ん」
 慣れてないのに、ひどく淫らに抱かれて、躰が悲鳴を上げている。閉じることを忘れた口元から飲み込めない唾液が細い糸のように光って、喉へと伝って垂れ落ちてゆく。
「も、駄目……ぇ……許し……」
 淫靡に躰をわななかせて、捲簾のオスを受け入れることに耐えていた。もう限界だった。正気を失いかけて、涙で潤んでいる碧の瞳がきらきらと光った。ぞっとするほど淫らな光りが浮かんでいる。艶めかしい。
「イクぞ……いいな」
 捲簾が囁く。八戒は夢中で首を縦に振った。この甘い責め苦に、これ以上耐えられそうになかった。
「あ、ああっ」
 ほとんど同じくらいに、捲簾と八戒は達した。捲簾の熱い体液の飛沫は、八戒の内部を埋めるようにして潤し、八戒のは捲簾との躰の間で放たれ、ふたりの服や躰にかかった。白い淫らな体液が服を汚す。
 吐き出される快楽の証を、よりいっそう塗り込めようと捲簾の腰が打ち込まれ、すりつけられるのを八戒は感じていたが、墜落するような感覚とともに全身の力が抜け、捲簾にしどけないその身を預けるようにして崩れ落ちた。






「ん……」
「大丈夫か? 」
 捲簾が汗で額に張り付いた八戒の前髪をかきあげている。ふたりで本の上に座りこんでしまっていた。せっかく、幾つか積み上げておいたのに崩れていた。
 しかし、そんなことは二の次だとばかりに、捲簾は八戒の躰を気遣った。優しく抱き寄せる。
「悪ィ。つい」
 謝るくらいなら、こんなことしないで欲しいとばかりに、八戒が睨みつける。
「オマエ、あんまり可愛かったもんだから、つい」
「! 」
 捲簾はそう呟くと、八戒の手の甲にくちづけた。騎士のような仕草だ。
「可愛いなんていわれても、うれしくなんてありませんよ」
 顔を真っ赤にして、うつむく八戒を捲簾は再び抱きしめた。
「可愛い。本当にオマエが可愛い。俺……」
 情事の後も、なんやかやと絡みあってるふたりの背後で、ドアが勢いよく開いた。
「すいません。時間かかっ……」
 天蓬だった。
 意気揚々と、自分の部屋に戻ってきた元帥だったが、ドアを開けたまま、石化の呪文でもくらったかのように硬直している。
 無理もなかった。
 軍服の前を乱した捲簾と、ほとんど裸同然の八戒が、目の前で仲睦まじく抱き合っている。何をしているのか、いやしていたのかなんて一目瞭然だった。
「な……」
 天蓬は開いた口が塞がらないといった様子で絶句したが、次の瞬間、どこから取り出したのやら、愛刀をひっつかんだ。
 しばらくの間、固まっていたが、その内ふっふっふ、肩を揺らして笑い出した。精神崩壊一歩手前という表情だった。
「ま、こんなことだろうとは思ってましたよ」
 ずり落ちかけた眼鏡を指で戻して、天蓬は呟いた。

ダンッ!

 激しい音とともに、天蓬元帥は脚の折れて短くなった机を片足で踏みつけた。すっかり顔色が変わっている。威嚇するかのように、捲簾を睨みつけた。
 もの凄い殺気をたぎらせて鞘から刀を勢いよく抜き放った。途端にすらりとした白刃が光を反射して煌めいた。浮き出た刃紋も見事な名刀だ。触れただけで切れそうだ。
「捲簾……覚悟はいいですか? 」
 元帥は本気だった。声が怖い。着ている白衣も殺気でめくれてひるがえる。
「ちょっとまった天蓬、話せば分か……」
「問答無用! 」
 気合も凄まじく、天蓬が上段に刀を構えた。眼鏡の奥の目は笑っていない。真剣そのものだ。
「ちぇすととおととおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 」
 目にも留まらぬ速さで刀が振り下ろされる。
 間一髪というところで、捲簾は避けた。床に穴が開く。破片が宙を舞った。
「やべ。八戒逃げるぞ」
「え……」
 昼下がりの天界に、西方軍大将の悲鳴と、元帥の怒号が響く。

 どうも、当分の間、八戒は下界には帰れないらしい。そうらしい。


 もちろん、その後も元帥の部屋は片付いてなどいない。




 了