え、慶雲院の高僧、三蔵様?
これは、このように高貴なお方にお足をお運び頂き、光栄です。
え? ああ、僕がこの手に持っているのは扇子ですよ、商売道具でして。ほら、こうして自分の額をぽんとひとつ打ってご挨拶いたします。
僕なんか、お経など持ち芸の一種 「阿呆陀羅経(あほだらきょう)」 しか唱えられません。こんな水先案内人でお許しを。
ええ、「阿呆陀羅経」 ですよ、ご存知ない? 「仏説ゥ、魔羅ァー阿呆陀羅経 (ソラ阿呆陀羅経)すなわちだんだん、手枕やっかい」 ってやつでして。
手枕やっかい。ははは。自分はちょはっかいですが。
あ、つまらぬことばかり申し上げ、ご挨拶が遅れましてあいすみません。
わたくし、太鼓もちの猪八戒と申します。
旦那の初登楼をお手伝いさせていただきます。
あっこれはこれは……過分なお心づけ申し訳ありません。確かに頂戴いたします。
え? いいんですか? 呼ぶのが僕だけで? 他に芸者衆も呼ばないで。え? お前だけでいい? お前さえいればいい……これは変わったお方だ。いやいや、よろしいですよ。あい分かりました。さ、ささ大見世(おおみせ)へ参りましょう。
え? なんです? 僕の顔が? 太鼓もちにしておくには、惜しい顔だ、ですか? いやですね旦那は。お上手が過ぎますよ。褒めるのは太鼓もちの仕事ですのに、こいつァ旦那にお株を取られました。
こんな男芸者、褒めても何もでてきませんよ。いやむしろ旦那のお座敷で綺麗どころに出てきていただくとしましょう。僕も三味(しゃみ)をお弾きします。にぎやかな都々逸などいかがです?
え?
別に綺麗どころなんざ、でてこなくってもいい?
旦那、どうされました。
もうね、ご紹介の引手茶屋からは十分すぎるほどの金子をいただいておりますからね。この猪八戒、精一杯、相席を勤めさせていただきますので。旦那のお力になりますからね。
ええ、さっきお会いした引手茶屋でおつなぎして、ここ吉原へ入っていただきます。この吉原の大通りを、ずずいと中へ。ご覧ください、ほら。もう桜の見ごろが近いですから、こうして通りに桜の木を飾っております。見事なものでしょう。通り一面ピンクの雲ですね。驚かれましたか。
そうそう楼に入れば、お好みのお肴、お料理、なんでもお望みのまま。僕がご注文を受けさせていただきますからね。
お刺身に焼き物、煮物、どれがお好みで? 上方では鱧(はも)がうまいなんていってますが、江戸ではハマグリの美味しい季節なんですよ。なんでもお申し付け下さい。江戸前の新鮮なとびきり上等の海の幸をお届けいたしますから。
そりゃ、旦那。
ご登楼されればこりゃ天国ですよ。旦那ごのみの天女がよりどりみどりといますよ。お好みのご女郎も花魁もどうか、この幇間の耳へこっそりお申し付け下さい。よしなにさせていただきますんで。
そういえば、旦那、昼3分金の部屋持ち(高級女郎)などものたりないと仰っていましたね。
でしたら、今、呼び出しの花魁がちょうど控えておりますよ。
いかかでしょう。これも何かのご縁、花魁だって、旦那のような上客にお会いできて、こりゃ幸せものですよ。どうか、この機会に夫婦の契りを交わされるというのも乙なものじゃございませんか。
さ、さささ、楼につきました。どうです十軒間口の大見世ですよ。ずずいっと奥へ。ええ、この大店の2階へ上がって待つといたしましょう。
おい、みんな旦那様がおつきだよ。花魁はどちらに? ま、とりあえず、そうそう、お酒ですね。2階まで燗につけて持ってきて下さい。頼みます。
さ、さささ、奥の、そうです。桜に鶯(うぐいす)の掛け軸がきれいですよねぇ、そうそう、そちらの上座にお座りになって下さい。今、お酒をお注ぎいたしますからね。
旦那のような美男なら、花魁の方が離しませんよ。旦那のために羽根布団、そうそう、あのふわふわの極楽浄土へも行けそうな3枚重ねの緋毛氈の布団をご用意してお待ちすること請け合いです。ええ、輿入れも同然ですね。高級な女郎を買うとはそれは結婚と同じことじゃあございませんか。
え? そりゃ、そうですよ。何を仰ってるんですか。旦那、ここは吉原ですよ?
契りをかわした女郎以外を買おうなんて。川っぺりの鉄砲女郎ならともかく、きちっとした店の花魁は承知しませんよ。爪を研いで喧嘩をします。旦那は罪なお人でありんすってにらまれますよ。
一度、その店でかわした情は、どこまでも絶対ですよ。そう、女郎といえども夫婦のようなもの。昨日はこの娘、明日はこの女、そんな不人情はここ吉原では通じませんや。ごひいきのコを選ばれるときは慎重にされて下さい。この八戒へも相談してやって下さいね。
え?俺の心は昔から決まってる?
それは、聞き捨てなりませんね。旦那。
吉原遊びをされるのは初めてだって仰ってましたよね。
女郎のじょの字も旦那は見ておりゃしませんよ。それなのに、どこの誰にお決めになりました。
え?
『猪八戒』
…………。
僕ですか?!
すいません。お、驚いてしまいました。
やめて下さい。
いけません。唐亜第一の大寺、いとやんごとなき慶雲院の、こんな三蔵様なんていう高僧のお坊さまが女郎買い。大罪ですが確かにいまどき、どこの寺でもしてますよ。でも、そんな方がよりによって僕みたいな男芸者を抱きたいなんて。もの好きにもほどがある。もの笑いの種ですよ。
んッ……だめです首すじ……とか……あっ。
あ、だめ。そんなところ、触っちゃだめです。あ、ああ、着物が……ああ……も……。
あっ……だめ。本当にそこはダメです。それ以上、手をいれちゃ……いけません。あっあっっ。そこは……ダメぇ。
……あっ……だめぇ……。そんな……いや……舌を……そんな……汚いですだめ、そんなトコまで舐めちゃいやで……。
ああっ。……だめ……ほんとうにだめ……はぁッ。挿れちゃ……あああッ。
んッ……んッ……あ……いいッ……やぁッ。そこはダメ舐めないでッ……ッ! 許してぇ……ッ。
あっ……んんんッ。もうダメ、イク……ッ。イイッ……。んッ。
ああッ……はぁッはぁッはぁ……。
え?
今、誰かが部屋を覗いていた?
ああ……それは……たぶん 『廻し』 ですよ。
部屋から部屋を回って、女郎の順番待ちをしている客を捌いているんです。
驚いてましたね。貴方を見て、あいつ。
ああ……貴方とのことを見られてしまいました。
もう、こんなことになって。真っ当な幇間じゃいられなくなりました。そう、僕は吉原じゃいられなくなりました。
ああ……もう男相手の陰間茶屋にでも客をとりに行けって忘八(楼主)から追い出されるかも。
え?
うちの寺に来い?
いけません。ダメです。ああッ……ダメ。ぁッ……んんッ。
太くて硬くって……ああイイッでも……ああッああッ。
何を言ってるんですか。三蔵は……きちんとしたお寺の三蔵様で……ああッもう、そこダメ、ああお願い……。
イイ……ああイイッ……もっと……奥に……ああッ……とけちゃう。ああッ。さんぞのいい……ああ。
ああ三蔵の×××気持ちイイ。もうずっぽりしてああ……ずっと僕を……。
ずぷずぷ……ああ硬くて……もぅ……また……イッちゃう。
舐めると……この……んッ……この少ししょっぱいところまで……あっ……だい……すき。
「床廻しの悟浄」に続く