腐男子八戒さん(エピローグ)


エピローグ


 八戒がつくづくと疲れきった様子で呟く。
「えーと」
 ベッドの上で身じろぎしているが、ときどき体でも痛いのか顔をしかめている。目の前には呆然とした表情の悟空がなぜか床の上で正座していた。かわいそうな悟空は仲間ふたりに性でゆがんだ部屋に招じられたのだ。
 不穏な空気の中、突然、
 八戒が言った。
「三蔵は悟空のことが好きなんですよね? 」
 爆弾発言だった。
「はぁ? 」
 思わず、三蔵と悟空の声がそろった。
「なんで俺がーーーーーー???」
「き、気色悪い。心底、気持ち悪ィ」
 茶色い髪を揺らして悟空が絶叫すれば、金の髪を震わせて三蔵が吐きそうになりながらわめく。
「だって、ふたりは39でしょう。王道じゃないですか」
 わけのわからないことを八戒は言っている。
「なんだそりゃーーーー!!! 」
 またもや三蔵と悟空の声がそろった。
「だからみんな言ってますって」
 八戒がとぼけた声を出した。これでも真剣なのだろう。
「みんなってのはどいつだ! 」
「だからみんなですってば」
 話にならない。
「あ、そーなわけ? 鬼畜ボーズとサルってば、いつのまにかデキてたのかよ」
 やはり床に座りこんでタバコをふかしていた悟浄がくわえタバコのまま口元をゆがめた。
「ははっ。お似合いでねーの。そっかそっかさんぞーサマとサルねぇ」
 悟浄がにやにやしていうのに三蔵と悟空がわめく。
「違うって! 」
「殺すぞゴキブリ河童」
 そんな騒然とした空気の中、またもやとぼけた声がした。
「それで悟浄は三蔵のことが好きなんですよね? 」
「そうそう。俺は三蔵のことが好き……っておい」
 途中まで余裕しゃくしゃくでうなずいていた悟浄だったが、見る見るうちに顔色を変えた。青くなっている。
「なんだそりゃー! 」
 悟浄も蒼白になった。くわえたタバコが落ちた。
「き、気色が悪ィ本当に気色が悪いっつーの! 」
 何故か悟空に向かって言ってる。
「なんで俺にむかって言うんだよ! 」
 ぎゃあぎゃあわめきちらして収拾がつかなくなった。
「まぁまぁ。三蔵×悟空で悟浄×三蔵なんだなって僕ずっと思ってて」
 思わず殺気のこもった目つきで三蔵が八戒をにらむ。
「お前はなんなんだ! ナニ考えてやがる。頭、わいてんのかこの野郎」
 正しいことを言った。悟浄の情けなさそうな声が語尾にかぶさる。
「かんべんしてよ。どうして俺がこの鬼畜坊主なんかと」
 すかさず激昂した三蔵が悟浄へ向きなおった。
「そりゃ俺のセリフだ死ね! 」
「あああ? テメーこそ死ねよだからホント。三蔵サマはサルと一生ヤってろバァカ」
 ぎゃあぎゃあとケンカを続ける三蔵と悟浄をよそに悟空が床から立ちあがった。
「ごめん八戒ってば、そんな心配してたんだ? 」
「悟空? 」
「ありがとな、八戒」
 八戒の肩をぽん、とたたく。
「でも俺とさんぞーはそんなんじゃねーよ」
「そ、そうなんですか? 悟空」
「だからさ」
 悟空がほほえんだ。
「この先もう少しさ、俺らにつき合ってくれっかな」
「悟空」
「アイツらには俺からもよく言い聞かせておくからさ!! 八戒にメーワクかけんなよって」
 その時、悟空の背後でゆらりと影が動いた。金色に光る髪。
「……なんでテメェが仕切ってんだ猿」
 ブラスト3巻91ページあたりのセリフをそのまんま言い放つ悟空をいらいらした調子でさえぎった。
「もとはといえばテメェが抜け駆けして八戒を口説くからだろうがこのバカザル! 」
「ナニ言ってんだよ。さんぞーと悟浄のしてんのは無理ヤリだろ犯罪じゃん」
「うっせぇもとはといえばみんなテメーのせいだろーが! 」
 みんなわめきだして収拾がつかなくなった。
「まぁまぁ」
 黒髪の保父さんが目を細め、へらっとした笑顔でいつものようになだめだした。
「いーじゃありませんか。もーケンカしないでください」


 もとはといえばみんな

……本人に自覚などない。


 終