カラスも濡れる夜(2)

 八戒は仰け反るようにして声にならない悲鳴をあげた。拷問のようだった。このまま、犯り殺されるのかもしれない。半分そう思いかけたとき。
(あ……)
 手首の縄が緩んできているのに、気がついた。烏哭に突きまくられたとき、段々と結び目が緩んだのだろう。
 じゅぶじゅぶと。
 烏哭にペニスを無理やりねじこまれている後孔が恥知らずな音を立てている。内部で放たれた白濁液を泡立てる勢いで烏哭は欲望を再び八戒の中へと打ち込みだした。
「がッ……」
 自分の唾で濡らされたペニスを挿入されたときよりも、男の精液でべたべたになった今の方が滑らかに抽送されている。
 ぽた、ぽたと床に結合部から淫らな体液が垂れて滴っているのが卑猥だ。
「は……さっきのキツイのも……ヨカったけど……こういうのもイイね」
 烏哭は八戒の躰を味わい尽くそうとその律動を無慈悲に激しくしていった。がくがくと白くしなやかな躰が、柱に縛られたまま貪られる。
 それは罪人に加えられる拷問か、廓を抜け出そうとした女郎に対する罰のように非道で悲惨で……淫らな行為だった。
 じゅば、じゅばと淫音が部屋を満たしてゆく。八戒は苦しさに首を振った。
 ふっと。
 手が縄から抜けられそうな感覚があった。長く続く行為で躰を揺すられているうちに、縄が完全に解けたのだ。
(――――今だ)
 チャンスは一度しかないと思った。八戒は素早く腕を縄から抜いた。烏哭は八戒の躰を貪ることに夢中で気がついていないようだ。
 八戒は、左手で耳に嵌まったカフスを外した。三つとも。
 その途端、
 強烈な妖気が八戒の躰から噴き上がる。
「!……キミ! 」
 烏哭が驚いたように目を見張った。思わず八戒の躰からその身を離した。栓の役割をしていた烏哭のモノが外れて、八戒の太腿を男の精液が伝い流れる。
 それも構わず八戒はその身を縛めていた柱から躰を離した。八戒の躰には緑色のツタの文様が浮き出している。耳は尖り、襟足が伸びた。
「なるほど。妖力制御装置? ……面白いよねェ。そのオモチャ」
 とっさのことで驚いてしまったというような様子の烏哭に、八戒は長い爪を振りかざして飛び掛った。
 妖怪になってしまえば、通力自在。人間である烏哭など恐るるに足らず――――なはずだった。
 だが、
「甘いよねェ……ま、そんなトコもカワイイけどネ♪ 」
 烏哭が呟いた瞬間。
 八戒は目の前が真っ白になった。

――――『無』だった。
 八戒には何が起こったのかも分からなかった。かすかに烏哭が印を切るのが見えたような気がしただけだった。

「くはッ……」
 もんどりうって、床に倒れる。口から血を吐いて転げ回った。
(何が……何が起き……て)
 見えなかった。
 烏哭が術を使うのも、何も何も見えなかった。
 ただ、
 瞬く間に吹っ飛ばされた。
 それだけが分かった。
 烏哭は八戒を見下ろして薄く笑った。しょうがないコだねぇといったような顔でその唇を歪める。つかつかと床に伸びている八戒に近寄ると、その長身を折るようにして屈みこんだ。
「ほぉらァ! 」
 八戒の艶やかな髪をわしづかみにする。眉を顰めて八戒が苦しげな顔をあげた。
「こんなトコで伸びてないの。……まだ途中だったのに」
 酷薄なその顔が嗜虐的に歪む。どんなお仕置きをしてやろうかと考えている顔だ。
「困ったコだねェ。ホラ、脚開いて」
「……! ……ッ」
 髪をわしづかみにされたまま、八戒が首を横に振る。烏哭がそんな八戒に平手を放った。強く打ち据える。
「まったく。萎えちゃったらどーしよかと思ったじゃん。デリケートなんだよねこれでも」
 四つん這いになった八戒の躰を引きずりまわした。自分の元へと引き寄せる。
 そして、その赤黒い凶器にも似た怒張を指で扱いた。
「大丈夫みたい……だけどね。ホラ……ね」
 八戒が声にならない悲鳴を上げる。いきなり、後ろから挿入されたのだ。一度放出されて、若干柔らかくなったとはいえ、まだ相当の太さのそれが、窄まり抵抗する後ろへと強引にねじいれられる。
 ぐちぐちと肉筒を無理やり広げられるようにして穿たれた。
「ああ! あっ……」
 八戒が瞳を大きく見開いた。その目から涙が飛び散った。もう、自分が男だとか、それなりに役にたつ知的な人間だとか――――矜持も何もかも吹き飛んだ。
 烏哭によって無残にもそんな誇りはずたずたに引き裂かれていた。
「ふん? でも……」
 獣の体位で犯しながら、烏哭は八戒の背へとのしかかる。
「一度、妖怪化して……少しダメージは回復したみたいじゃない。そうこなくっちゃね。……だって」
 くっくっと低く嗜虐的に口元を歪めて笑う。ぺろりと八戒の白い背を舐めた。
「……ヤッてる途中ですぐ死んじゃったら……面白くないものね」
「ああッ! 」
 後ろから、八戒に打ち込みながら、その黒髪をわしづかみにして嘲るようにして囁く。
「肉便器の用はちゃんと果たしてもらわないとね」
 ぞっとするような冷酷な声だった。烏哭は八戒の躰の上で腰をやわやわと振った。ゆっくりと抜き差しをする。
 八戒は翻弄されてのたうち、その身をくねらせた。穿たれている後ろの粘膜が熱かった。
「……アレ。でも、本当に……」
 愉しげに笑いをひそめた声で烏哭が呟いた。
「カンジてきちゃった? キミ、ナカ動いてるよ」
「ッ……あ! 」
 ひくひくと収縮する八戒の粘膜の蠢きが、突き入れている烏哭にはすぐ分かってしまった。
「ちょっと物知りで、おりこうさんだと自分のコト思ってる……でショ? 」
 突き上げを激しくしてゆきながら、烏哭は八戒を嬲った。
「そんな自分がどう? ……ボクの×××いれられて、ひぃひぃ悦がっちゃって……恥ずかしくないの? 」
 嬲られて八戒の顔が屈辱に歪む。躰だけではなく、精神も聴覚も神経も何もかもが容赦なく汚されてゆくようだった。
「イイっていってごらんよ。ホラ……ねェ」
 じわじわと、八戒の背筋を苦痛とは違う感覚が這い上がってきて焼いた。
「あっ……あ……ん」
「キミ……腰……動いてるよ。インランだよねェ」
 烏哭は何の優しさもない貪るような動きで八戒を蹂躙した。獣のような姿勢で男に犯され、繋がり、八戒の自意識も誇りも何もかもが粉々になる。躰を揺すぶられ、残酷な律動に任せているしかない。
 床についた肘が痛かった。烏哭は体重をかけて八戒を穿ち、その初心な躰をいたわることをしなかったのだ。青く硬く男に慣れぬ躰はひどい陵辱に悲鳴を上げていた。
 しかし、その悲鳴、それこそがサディスティックな陵辱者にとっては天上の樂の音に聞こえるに違いない。烏哭は心地よさげに口元を歪めてその悲鳴に聞き入っていた。
 床に八戒の涙がぽたぽたと落ちる。涙で黒いシミが木の床にできた。
「うっ……ひぃッ……」
「ブチまけて……あげるね。キミのイヤらしい×××にね……」
「あああッ」
「く……イク……」
 まるで淫らな獣のように。
 繋がり続けることを強要されて、八戒は再び肉筒に男の精液をたっぷりと注ぎ込まれた。
「うっ……」
 しゃくりあげながら、膝でいざるようにして、烏哭の躰の下から逃れようとする。脚を前へ進めようとすると、狭間がぬちゃぬちゃと淫らな音を立てた。つうっと淫液が股を伝うなんともいえない淫らな感覚が卑猥だった。
「ドコ行くの。まだだよ。まぁだ」
 烏哭が上唇を舌で舐めて潤す仕草をした。その身はいまだに僧衣を纏い、下肢しか乱してはいない。
 それは、服を無残に裂かれて、いかにも男に犯されたといわんばかりの八戒の姿と好対照だった。
 烏哭の腕で、仰向けにさせられ、再びその躰の下へと敷き込まれる。八戒は力の入らない腕を振り回して暴れた。
「許して……お願いです。もう……許して」
 八戒が嗚咽する。
 眼鏡の奥から、冷たい双眸が八戒に向けられる。
「許して欲しい? 」
 躰の下に、八戒を敷きこみながら烏哭が囁く。
 八戒が首を縦に振った。縋るような目つきで烏哭を見上げる。烏哭は八戒の千切れかけている服の一部をつかむと膝立ちさせた。その美しい緑色の瞳を覗き込むようにして訊く。
「でもキミ、ヨクなってきたみたいじゃない。もっとしたいんじゃないの? 」
「そんなこと……! 」
 そんなことはないと抵抗する八戒を、烏哭は平手打ちにした。激しい音が立った。勢いで、八戒の躰が部屋の壁際まで飛ばされた。
 そこには鏡があった。かなり大きめの姿見だ。
「強情だよねェ。天使ちゃんは。まぁ、じゃぁ」
 烏哭は八戒の躰へとのしかかった。
「……見ててごらんよ。ちょうど、おあつらえ向きに鏡があったよ」
「……! 」
 烏哭が抵抗する八戒の膝を手で割った。
「自分でみれば分かるでショ。ね」
「いや……ッ」
 八戒の悲鳴を極上の音楽ででもあるかのように目を細めて烏哭は聴いている。抵抗するその四肢を抑え、その胸の尖りを舐めてすする。
「ああっ」
 八戒が首を振った。もう、耐えられなかった。
「ん? 角度が悪い? こうかな……これでいい? 」
 烏哭がのんびりとした口調で言った。  それは、まるで記念撮影をするときの角度が悪いから撮り直すと言っている気のいい親戚のお兄さんのような口ぶりだった。陰惨な陵辱を加えている人間が喋っているとはとても思えない語調だった。
「ひ……! 」
 うっかり鏡を見てしまって八戒が悲鳴を上げる。そこには、烏哭に乳首を舐められて、身悶えしている自分が映っていた。
「や……!」
 逃れようとして、また頬を張られた。
「っつたく。眼鏡してると舐めにくいから、気をつかってるッてのに。その上暴れるんだから。しょうの無いコだなァ。でも今更逃げてどうすんの? 」
 烏哭は愉しげに唇を歪めた。
「もう、二回もボクのを下の口で飲んじゃって……ナカぐちゃぐちゃになっちゃってるのに……今更、江流……三蔵とか、他の仲間のところに……どんな顔して帰る気? 」
「! 」
 八戒の顔色が変わる。
「ボクが説明してあげよっか」
「やめ……! 」
「ぐちゃぐちゃに犯されちゃいましたッて」
「……! 」
「自分じゃ言いにくいでショ? ボクの太いチンポを食べさせられて美味しくってしょうがなくて涎がでちゃいましたって……代わりに言ってあげようか? 」
 くっくっくっと笑う烏哭の胸に、力の入らない拳を八戒が振り上げる。烏哭はその抵抗を意に介さずに、また八戒の脚の狭間へとその怒張を突きたてようとした。
「……ホラ、見ててごらんよ。ソコ」
 烏哭が鏡を顎で指し示す。
「あ……」
 ひくひくと蠢く、粘膜が烏哭の指で開かされる。赤く色づいた淫花は男を誘うようにひくついていた。そこに無理やり怒張を宛がわれ、押し付けられる。
「ぐぅッ……」
 性器を呑みこまされるのが丸見えだった。赤黒い烏哭の肉棒を、後孔が咥えて震えるのが見える。八戒は思わず目を閉じた。淫ら過ぎる、ひどい自分の姿だった。
「今度は角度が良かったよね。良く見えたんじゃない? 」
 口元を淫猥に歪めて、烏哭が思い切り突き入れてくる。
「ああ……ぐ! 」
 ひくひくと蠢く粘膜へ擦りつけるようにして腰を揺すった。
「……ホント。イヤラシイ躰してるよね。素質かな」
 執拗に犯され続けて、八戒の中の何かが焼ききれた。涙を流してすすり泣く。
「く……ッ……ふぅ……ッ」
 捏ね回すようにして、烏哭は腰を使った。ねっとりとした腰使いに八戒の尻も合わせるように揺れてしまう。精神は嫌だと悲鳴を上げているのに、躰は既に烏哭のいいなりになって蜜をたらしはじめていた。
「あっ……あっ……あ……ん」
 甘い、甘い喘ぎが立て続けに八戒の唇から漏れた。
 ぐちゅぐちゅと穿たれているところから淫らな音が立つ。それにすら感じて八戒は躰を震わせた。
「あっ……ああ…んッ」
 しどけない吐息混じりの喘ぎが艶っぽい唇から上がる。腰が烏哭に穿たれる度にくねった。躰を仰け反らせる。
「は……。やっぱりね……思った通りだったよ」
 烏哭はその口に薄い笑みを浮かべた。
「イイんだ? ……躰がそう言ってるよ……」
「ああっ……ん」
 わざと、烏哭はゆっくりと肉棒を出し入れした。敷きこんだ八戒の躰が焦らされて堪らずにびくんびくんと震える。
「すごい……締まる」
「あっ……はぁ……ん」
 蕩けきって、情欲でだらしなく崩れた表情で八戒は自分を犯すカラスの化身のような男を見つめた。逞しい肉で、自分を穿つのを止めない。飽きることを知らないかのように責めたててくる。
「ふ……ココ、イイ? 天使ちゃん」
 ちょうど、八戒の前立腺のあたりを、烏哭は自分の張ったカリの部分で擦り上げた。八戒が仰け反って悲鳴を上げる。敏感な躰は八戒の心を裏切り、男が欲しいとばかりに絡みつく。
「あ……イイッ……」
 初めて、八戒の唇が甘い言葉をうわごとのように漏らした。甘い甘い悲鳴が漏れるのを烏哭は心地よく聴いていた。
 しかし、彼は八戒の躰が熱くくねりだしたというのに、不意にその動きを止めた。
「あ、ああっ」
 突然、動きを止められて、八戒が目を見開いて硬直する。四肢を強張らせて、耐える。ひくひくと聞き分けのない粘膜が、動かない肉棒を咥え込んだまま痙攣する。
 烏哭が動かないので、それをことさら意識させられて、思わず目元を羞恥で染めた。確かに烏哭が嘲るとおりの淫らな躰だった。
「あっ……ああっ……」
 八戒は思わず、烏哭の服の袖をつかんだ。蕩けるような交合を長く続けて、服を着込んでいた烏哭の額にはいつの間にか汗が浮いている。
 優美な八戒の指が烏哭の服を握り締める。指の関節が白くなるほど力を込めて縋りついた。
「お願いッ……許してッ……もうッ……ダメ……」
 ひくんひくんとその白い躰を震わせて甘くすすり泣いた。抱いている男に縋りつく。
「は……」
 烏哭が凄艶すぎるそのオネダリに唇を歪めた。
「……男殺しってのは……ボク、本当のところ」
 八戒に突き入れたまま、躰を前へ倒した。
「初めて見たかもしれないなァ」
 烏哭はそのまま、八戒の唇へくちづけた。ゆっくりと腰を引く。
「あ、ああっ……抜かな……」
 合わせた唇から、甘い吐息混じりの喘ぎが漏れるのを聞いて烏哭がねっとりと目を細める。
「『抜かないで? 』……いけない天使ちゃんだ」
 入り口ぎりぎりまで抜きかけたソレを、円を描くようにして再び埋め込んでゆく。躰の下で、八戒が身を仰け反らせて悶える。潤みきった目の端に涙が留まり光る。
「ああッ! 」
 淫らな腰使いに八戒が身悶えて悦がる。床をかきむしるようにして耐えていた指を、思わず烏哭の背へと回した。
「ダメェ……もうダメ……あっ……ああっ……」
 激しく潤んだ躰を貪られるように抜き差しされて、八戒は仰け反った。
「も……許して……お願い……」
 男を煽り立てるような言葉を無意識に紡ぐその唇に栓をするかのように、烏哭は再びくちづけた。とろりとした舌を絡め合わせて吸いあう。
「許さないよ……許さない方が……いいんじゃないの? 天使ちゃん」
 淫猥に口の端をつりあげて烏哭は笑った。激しく突き上げだす。がくがくと躰を貪られて、八戒は前を弾けさせた。腹の傷の上と自分を穿つ烏哭の上にそれはかかり汚した。
「あ……も……」
「いっぱい……ブチこんであげるね……ホラホラ」
「あああッ」

 飽かずに続く陵辱に、八戒は意識を手放した。

 それから。

 どのくらい、時が過ぎたのだろうか。


 烏哭は精も根も尽き果てて眠る八戒の寝顔を見つめていた。男に散々貪られて黒髪の天使はすっかり憔悴しているようだった。
 烏哭はそんな八戒の傍らに腰を下ろし、その艶やかな黒髪を指で弄んでいた。その様子はカラスがきらきら光る宝石と戯れているのに似ていた。
 眼鏡のブリッジを指で押し上げるようにして掛け直し、にやりと笑う。
「……天使ちゃん。まだまだボク遊びたりないんだケド」
 月も星もない夜のようなその瞳に、嗜虐的な光が煌めく。眠る八戒の耳元にねっとりと囁いた。
「次は何して遊ぼうか? 」
 淫猥にその口元が歪んだ。