バースディ (2)


「い……や」
 経文は手首に脚に絡みついて解けない。あげくの果てには四肢をベッドの四隅につなぐように経文で縛られた。妖怪化しているといえど、いや妖怪化しているからこそ、もうびくとも動けなかった。
「俺のを抜いて、いいのかそうなのか」
「う……」
 八戒は目元を赤らめた。性悪なツタどもが、三蔵へ忍び寄るようにして這ってゆく。その三蔵の欲望へ絡みつくようにしてしがみついてゆく。
「クックックックッ」
 その、あからさまな蠢きを見て、三蔵が笑った。
「ツタの方が正直みてぇじゃねぇか」
 八戒が真っ赤になった。思わず逃げようと身体をよじるが、腕や足を縛る経文がより食いこんだだけだった。
「う……」
 肌におののきが走った。
「そんなに俺が欲しいのか」
 ツタは三蔵に絡みつき、その亀頭の先端をそのツル先でなでるようにしている。淫猥なしぐさだった。八戒を穿っていたときの名残で、先走りの透明な体液で濡れてしたたっているそれに、絡みついてしごくような動きをしていた。尿道口まで、つつくようなことまでしている。口淫そのものの、口で愛撫するときそっくりだ。
「違いま……」
 目を覆いたくなるような情景だった。八戒の言葉に反してツタの紋様は三蔵のオスを誘っている。より三蔵を興奮させ煽ろうとしている。三蔵の怒張をからめとり、その腰へ上半身へと絡みついた。そのまま、身体ごと自分の方へ引き寄せようとしている。
「てめぇは嫌だって言ってるが」
 三蔵は愉しそうに口元をゆがめた。
「てめぇのツタは俺に来て欲しいみたいだな」
 いやらしいツルの動きだった。三蔵の怒張に絡みつき、その肌へ絡みつき、背へとしがみついている。まるで、八戒の無意識の腕のようだ。
「どっちだ。俺にシテ欲しいのかシテ欲しくねぇのか」
 耳元にささやかれる。もとより経文でベッドに腕や足を縛られて身動きなどできはしない。
「さん……」
 八戒が返事をするより先に、
「ああっ」
 ツタが三蔵の身体にきつく絡みついた。背や腰へとからみつくそれは、まるでセックスのときにしがみつく腕や脚のような動きだった。八戒は恥かしさのあまり、目を閉じた。上気した肌は性交によるものなのか、羞恥によるものなのか分からなくなった。理性が欲望に負けた。いや本能に負けた。もう、三蔵のオモチャも同然だ。
「八戒」
 三蔵は近寄ると、八戒の目からあふれた涙を舌で舐めた。
「想像したとおりすごくキレイだお前」
 ツタが八戒の理性に反して、三蔵を歓迎するかのように絡みつく。そのまま、三蔵を導くように八戒の恥ずかしいところへと招きいれる。恥知らずな仕草、淫売に似た所作だった。ツタと経文は共謀しているかのように八戒の脚をさらに大きくひらくようにさせた。
「っくぅっ」
 八戒は奥歯を噛みしめた。熱い三蔵の怒張が息づいているのを粘膜の入り口で感じていた。血潮の熱さも、脈打つ肉の感触をまざまざと味わわされる。
「はぁっ」
 思わず息を吐いた。三蔵の肉にふたたびつらぬかれた。奥の奥まで三蔵でいっぱいにされる。経文で縛られたまま、八戒はわなないた。深い悦びで淫らに震えてしまう。
「あうっ……あっ」
 縛られたまま三蔵に犯される。腰を振られナカで円を描くようにして穿たれる。
「あっ……」
 縛られた足のつま先まで快楽で反った。感じすぎて内側へと足指が折りたたまれる。三蔵をくわえこんだまま、尻が震える。腰が浮いて左右に動いてしまう。
「そうすると、感じるのか」
「ああっああっああああっ」
 もう、人間の言葉など忘れてしまったかのように八戒がわななく。
「すげぇ、腰が浮いて……動いてる」
「ひぃっ」
 噛み締めた唇から喘ぎが漏れる。もう理性は手放してしまったらしい。甘い声でどんなに感じるのか、蕩けるような言葉を舌にのせて悦楽の声を放っている。
「八戒」
 三蔵の手が八戒の肌の上を這った。貫かれた快楽にあわせて動くために腹筋がびくびくと震えてわなないている。のみこまされた三蔵のをめちゃめちゃにナカで絞りあげて食いついて放さない。ひどく淫猥な肉体だ。
「あっ」
 三蔵の手が、指が、八戒の身体中を這う。細い腰をすんなりした腹を、もっとその上のきれいに肉のついた胸部を、そして
「ひぃぅっ」
 既に過敏になって触れられてもいないのに尖ってしまっていた乳首を指でそっと摘まれた。
「すげぇ、こりこりだな」
「あ……っ」
 三蔵の指で、撫でられるようにして愛撫された。触れられたところから甘い電流が流れて腰奥まで伝うようにして神経を痺れさせてゆく。
「はぁっ」
 腰を挿しいれしながらされるものだから、たまらない。乳首と肉筒を好きなように蹂躙される。同時に感じてしまってもう感電するような性感にひたすら狂った。
「あああっああっああっ」
「またイッたのか」
 何度目かもわからない。また放ってしまっていた。もう、八戒は目も虚ろだ。妖怪化した敏感な身体を穿たれ、経文でいましめられて犯されている。八戒が達すると身体の紋様もそよぐようにして、震えて痙攣した。そのまま倒れるように弛緩すると、ぐねぐねとツタらしく波打つようにのたうった。
「いやっ……! 」
 淫らすぎる八戒へお仕置きするかのごとく、その屹立へ経文が絡みついた。八戒の性器の表面を撫でる。
「あ……」
 達したばかりだった。過敏になっていた。ツタがふるえて舞い、のたうちまわった。
「またイッたのか。早すぎだろうが」
 三蔵に吐き捨てるように言われる。早漏が、そう言われているようで八戒が顔を赤くした。神聖な経文が白濁液で濡れている。
「イカくせぇ」
 白皙の美貌をゆがめ、辛らつな言葉を投げつけられた。いつの間にかツタは三蔵の上半身へとのぼるようにして絡みついてきた。そのまま肩へ首へ、そして顔へと這ってゆく。
「……なんだ邪魔だ」
 言わないで、とでも言うかのように口元へ這い、そして唇を閉じさせようと這いまわるツタを、三蔵は邪険にむしるようにして手で払った。
「おとなしくしねぇともうヤらねぇぞ」
 三蔵が告げたとたん、ぴたりとツタは動きを止めた。そしてそのまま三蔵を誘うように絡みついて、穿つ行為の続きをねだるような仕草をする。淫猥すぎるツルの動きだった。
「う……」
 まるで自分の気持ちをそのまま体現しているようなツタの動きに、八戒は恥かしさで気を失いそうになった。羞恥で頭が煮えてしまいそうだ。
 三蔵がツタに気をとられて、穿つのを途中でやめると、ナカがまた性悪なうごめきできゅうきゅうに三蔵を締めつけてしまう。おいしそうに三蔵のを咥えて味わってしゃぶっているいやらしい粘膜。
「あっあっあっあっ」
 何度目とも知らぬ性的な痙攣に襲われる。尻の孔が自分の意思に反して収縮してひくついた。八戒とは意思を別にする醜悪な軟体動物のようだ。
「イイ。すごくイイ。八戒」
 三蔵の声には賞賛の響きがあった。しかし、羞恥で死にたいくらいになっている八戒は気がつかない。
「そんなに締めるな。イッちまうだろうが」
 秀麗な白い顔が快楽にゆがみ、奥歯をくいしばっている。絶頂が近い。肩へかつぐようにしていた八戒の脚を左右へ下ろすと、そのまま奥へと腰をいっそう深く進めた。
「ああっ」
 八戒が獣の声を放つ。もうどの道、四肢は経文に縛られて抵抗などできない。三蔵に犯されるままだ。
「奥が……奥が」
 感じるところを穿たれる。入り口までこすりあわされるほどに深く挿入されて八戒が思わず言葉をこぼした。無意識の言葉だ。
「奥がイイのか、ここか」
 奥を軸にして、まわすようにして抜き差しされる。抽送が激しくなってきた。経文に縛られたまま淫らに仰け反った。
「ああっ……そこ……イイっ……イイ」
 自分から感じるところに当てるようにして、腰を三蔵にあわせて円を描くようにまわした。ちょうどイイところにあたって悶え狂う。
「あっあっ……死んじゃう……ああっもう死んじゃ……許して」
 これ以上、感じると死んでしまうような錯覚にとらわれる。どうにかなってしまうほど気持ちいい。八戒の肌から三蔵へ絡みつくツタの紋様も、千路に乱れた様子で震えてわななき、三蔵へとすがりつく。
「……っ」
 さっき、三蔵にされたことを真似るかのごとくツタが三蔵の胸を這い、そして乳首へ絡みついた。
「……この」
 三蔵が唇を噛み締め、思わずうめく。その怒張は八戒の淫乱な肉筒に喰われるように締め上げられていて限界だった。
「八戒」
 激しく突き上げだした。直線的な腰の動きだ。奥をひたすら突く動作を繰りかえす。経文に縛られたまま八戒は身悶えた。腕が脚が震える。三蔵の肉棒の硬さを身体で淫猥な粘膜で……紋様の感触で感じさせられて、もう狂いそうだった。
「ゆる……して……むり……ゆる……てさんぞ」
 限界だった。性の限界に達したときの舌ったらずな甘い口調で、これ以上抱かれるのは身体が無理だとあえぐ。
「あっ……イイ……イイ」
 とろけるような口調。妖怪の鋭い牙がうっすらと唇からのぞく。なまめかしいピンク色の舌を突き出すようにして、尻を上下に振っている。見るものを狂わせるイヤラシイ仕草だ。
 清楚で淫乱なツタの紋様は、恥知らずにも持ち主の欲望のまま、三蔵に絡みついて離れない。
 八戒の尻がひときわふるえてわななく。性の極みに達したとき特有の生理的な痙攣だ。ナカで三蔵をくわえたまま、粘膜の収縮でもみくちゃにしてしまう。
「……ッ! 」
 三蔵が思わず目を閉じて、息を吐いた。
「すげぇ。お前がこんなにヤらしいなんざ」
 大好きなひとに言われたくない言葉で苛められ、八戒は気を失いかけた。もう限界だった。
「知らなかった」
 貫いたまま唇を重ね、そのまま三蔵は尻を震わせた。……八戒のナカで射精している。
「すごく綺麗だお前」
 体内にたっぷり精液を注がれる。
「俺のでいっぱいにしてやる」
 白濁液の淫らなとろみのある感触。沸騰するような体液でいっぱいにされて、八戒は快楽に脳が白く侵食されて狂った。
「あ、ああっさん……ぞ」
 八戒は意識を失った。瞬間、紋様のツタが激しく三蔵に絡みつき、そして弛緩して解けた。三蔵のを注がれた熱さで、自分のものもふたたび放ってしまっていた。




「ずっと本当のお前が見たかった。ずっと知りたかった。八戒」
 甘い口調で三蔵は腕の中の八戒へささやいていた。いつの間にか縛りつけていた経文は姿を消し、床に落ちた三蔵の法衣の上でいつもどおりの形に戻っている。
「また、カフス外していいか」
「絶対にいやです」
 八戒が目をふせる。その耳へ三蔵がカフスを嵌めてゆく。ひとつ、ふたつ。
「カフス外したお前、すっげぇヤらしくてヨかった」
「絶対にいやです」
 銀のカフスが耳たぶに並んだ。みっつ。行儀よく八戒の耳で光っている。八戒は、ほっとしたようなため息をついた。
「清楚なお前もいいが、ああいう積極的なお前も」
「絶対にいやです」
 三蔵は自分の額を八戒の額へくっつけてきた。ベッドがかすかにきしむ。まるでねだるようなしぐさだ。
「また、ヤりてぇ」
「絶対にいやです」
 最高僧のおねだりを、つれない口調で退けた。楚々とした面はいつもの八戒に戻っている。後ろ髪は短く耳もとがっていない。悟空のお守りのうまい、ひとのいいほのぼのお兄さんだ。
「お前、すげえ綺麗だった」
「……ずるいひとですね貴方は」
 八戒はそう三蔵にささやくと口元を緩めた。整った唇が細い月のような弧を描く。

 それはひどく綺麗で妖艶な微笑みだった。三蔵は目を丸くすると、自分の手でつけたばかりだというのに、耳のカフスが三つともはまっているか思わず確認した。