バースディ (1)

 三蔵の誕生日。

 ツインルームがふたつとれた。そのうちのひと部屋に集まって自然に酒盛りになった。
「くっだらねぇ何が誕生日だ。ひとのことをダシにして、飲みたいだけだろうがてめぇらは」
 三蔵が横を向いて吐き捨てるように呟きグラスを口へと運ぶ。
 そこへすかさず日本酒を注ぎながら八戒が言った。
「はいはい」
 目じりを下げて穏やかに笑っている。酒が入ってもこの男はたいして普段と変わらない。全く酔ってないようにさえ見える。
「はいはい。三蔵は誕生日ですもんね。今夜は僕、何でもおおせのとおりにしますから」
 おどけた仕草で八戒は言った。
「ほらほら機嫌なおしてください」
「本当だろうな、てめぇ」

――――確かにそんな会話をした。
 してしまった。




 2時間後。

 三蔵の手で隣の部屋へ強引に連れこまれた。ベッドの上へ突き飛ばされる。

 白いシーツの上に服が散らばる。白い肩布は蝉の脱け殻のように床へ落ちた。
「やめてください三蔵っ」
 着ている黒い長袖はめくりあげられて脱がされかかっている。きれいな腹筋がみえかくれして、ひどく扇情的だ。瞬間、金色の髪が八戒の身体の上で揺れた。
「さ……んぞ」
 もともと男ふたりも載せるようにできていないスプリングが三蔵が動くたびに音を立ててきしむ。
「なんでも俺のいうとおりにするってったのはてめぇだろうが」
 耳元にささやかれた。その白皙の美貌にひとの悪い表情を浮かべている。助けを求めるように腕を伸ばすと、そのままシーツの上へと押さえつけられた。
「あっ……あ」
 この上もなく整った唇を耳に押しあてられ、ぺろ、とカフスごと舐められた。
「う……」
 舐められたところから疼くような性感が走りぬけ、背筋を甘く痺れさせてしまう。
「あ……」
 三蔵の指が耳元のカフスに触れた。
 そして
「だめで……さ……んぞ」
 きらめきを放って銀の一滴のごとく床に落ちた。涼しい音をたててベッドの下へと転がる。カフスがひとつ外れた耳を、三蔵の舌が慰めるかのように這った。
「っあ……! 」
 灰色のズボンのチャックが恥知らずな音を立てて下ろされる。
「んんっ」
 そのままやんわりと握りこまれた。こんなにいやらしい行為をしているというのに相手の端麗な印象は少しも変わらない。
 おそろしいほど美しい男に犯されそうになっている。
「やめてください。お願いです」
 思わずのしかかっているその肩のあたりを腕で押しかえすようにした。三蔵が何を考えているのか分からなかった。
「酔ってます。ぜったいに貴方、酔ってますよ」
 ベルトが無情な音を立てて引き抜かれ、やはり床に落ちた。八戒は眉を寄せた。
「すげぇ硬くなってる」
 甘い性的な声だった。いつもと違う、セックスのときだけささやかれる声音だ。
「や……! 」
 硬くなってる、それは一体どこなのか。思わず目元を赤くした。三蔵に下肢を握りこまれ、首筋に舌を這わせられたままズボンを剥ぎとられる。脚をもっと大きく開くようにとうながされて、思わず八戒はいっそう抵抗した。整った眉をひそめ部屋の壁へ視線を送る。
「いやです三蔵」
 隣には悟浄も悟空もいる。ついさっき祝いの酒を飲み交わしたばかりだ。相当、飲んでいたからあのままその場でふたりとも寝てしまったかもしれないが、まだ起きているかもしれない。
「あ……」
 抵抗はそこまでだった。三蔵の白い顔が近づき八戒の上唇を舐めた。そのまま唇を割るようして重ねられる。
「ふ……っ」
 金色の髪の残像が目の前にちらつく。三蔵の舌で自分の舌を絡めとられて意識がぼやけてくる。吐息すら呑みこまれてしまいそうなキス。身体の芯が熱く蕩けてしまう。三蔵の舌の感触に溺れる。
「ふうっ」
 抑えがきかない獣になってしまいそうだった。凶暴な何かに身のうちから食われてしまう。
「さん……っ」
 脚を大きく手で割り広げられた。三蔵がその淫らな狭間をのぞきこむ。秘めておきたい何もかもが、暴かれるような行為だ。
「ああっあっ」
 思わず金の髪で覆われた頭へと両手を伸ばした。恥ずかしかった。引き剥がしたかった。
「……くぅぅっ」
 思いっきり生臭い声が出た。三蔵に亀頭を舐めまわされたのだ。くびれのところに舌を這わされ裏筋をはじくようにされた。
「ひぃっ」
 思いっきり仰け反った。耐えられない感覚にのたうちまわりそうになる。腰が浮いた。こんな端麗な男がこんな恥ずかしい卑猥な行為をしてくるのが信じられない。
「……あ」
 身体の奥底が熱いもので潤み、いきりたった八戒の棹に何かがこみあげてくる。噴出する先を求めて、まるで別の生き物のようにそれは硬くなっていた。
「すげぇ……よさそうじゃねぇか」
 低音の淫らな口調でささやかれ、八戒は悶絶した。もう、身体が疼いて我慢できなかった。
「さんぞ、さんぞ」
 指の間に絡まる金色の髪。引き剥がそうと伸ばした腕はもう力が入らない。許しを請うように八戒は三蔵の名前を呼び続ける。
「ああっああっあっ」
 整った唇でしごくようにされた。三蔵の口腔内の粘膜の熱さと、ぬめるような感触に思わず悲鳴をあげる。
「で……でちゃ……でちゃいま……さんっ」
 快楽が強すぎて暴力の域だ。三蔵の舌であそこを舐められ、しごかれ追い詰められた。耳まで赤くなっているが、その耳たぶにいつもはめているカフスは外されてひとつ足りない。もう理性がきかなくなっている。
「あ……! 」
 出ちゃう。悲鳴のような声をあげて八戒は達した。
「あーっああっあーっ……は……あっ」
 腰ががくがくと震えてとまらない。性的な痙攣だ。三蔵の口の中へ放ってしまった。性的な快楽の証。粘つく白い体液の噴出をとめられない。
「ああっ……あっ」
 荒い息を吐きながら、八戒の肉は緊張と弛緩を繰り返していた。わななくしなやかな身体、快楽の汗で薄っすらと濡れ、敏感になってしまったのか乳首までとがっている。上気した肌は甘いピンク色に近い。逃れようと腰を浮かして動こうとするのを三蔵の腕が許さない。
「あ……」
 亀頭に浮いた白い滴の最後の一滴まで、吸いだすようにして飲まれた。あまりの恥かしさに八戒が消えいりたいような声でうめく。
「許して……許してください」
「もっと後ろにも欲しいだろうが」
 三蔵の無情な声が部屋に響く。やたらと色気のある低音の声だ。嬲っているとしか思えない。美しい獲物を追い詰めて喰らうときの獣の声だ。
「自分で膝の裏、持って広げてろ」
「でき……ません」
 涙がにじんだ瞳を硬く閉じ、首を横へ振っている。羞恥心をどうしても捨てきれないらしい。
「なんでもするって自分から言っただろうが」
 金色の美しい豹のような男は非情だった。八戒の手をとるとそれを膝裏にあてがい、自分で脚をひろげて奥まで見せるようなかっこうをさせようとする。
「恥ずか……し……さん……ぞ」
 八戒が首を振るたびに湿度を帯びた黒髪が音を立てて鳴った。三蔵に触れられている手が脚がひどく熱かった。
「さ……! 」
 拒む間もなかった。
 ふたたび三蔵の指が八戒の耳のカフスへと伸ばされ、ふたつ残っていたうちのひとつを外した。


――――理性がとけてなくなってきた。


 白い法衣がベッドの下に白い羽根のように落ちている。もう、三蔵も一糸まとわぬ姿になっていた。
「や……あ」
 舌が後ろまで這わされ八戒が身悶える。恥ずかしいのは変わらないがカフスを外されたせいなのかどうなのか、ひどく敏感になっていた。
「あうっあっあぅっ」
 身も世もないような声がいくらでも出てしまう。三蔵の舌の柔らかい感触に狂った。肉の環の上を円を描いて舌先でつつくようにされると、狂いたくなるような感覚が頭のてっぺんから足のつま先まで痺れるように走り抜けて神経を焼いた。
「だめぇっ……だめっ」
 男なのに、恥知らずな声がいくらでも漏れてしまう。
「だめ、っていいながらすっげぇ、パクパクしてるぞココが」
 三蔵が息をふきかけた。その感触にすら感じてしまう。仰け反って震えた。抑えきれない声がいくらでも出てしまう。一度、三蔵の口で達せられていた屹立がまた力を持ち、熱い血で満ちてゆく感覚があった。
「……また、デカくしてんのか。そんなにイイのか」
 ぴくん、と生き物のように血の通ったそれはひくついた。後ろの孔と連動している。どっちも痙攣して肉が震えている。
「ああっ……舐めちゃ、だめ、さんぞ舐めちゃ」
 三蔵の濃厚な愛撫から逃れようと身をよじるがどうにもならない。
「ああ、ああっ」
 後ろの淫らな孔に三蔵の熱い舌の感触が走って、八戒は甘い息を吐いた。もう腰が蕩けてなくなりそうだった。太ももがひくひくと震えてしまう。もの欲しげな蠢きだ。
「あうっ」
 三蔵の指で穿たれた。きれいに肉のついた八戒の腹筋が硬く締まる。痛ましい過去の古傷も倒錯した快楽の汗をまとって濡れていた。
「あっあっ」
 思わず、三蔵の指の感触に内側の粘膜で応えて締めつけてしまった。おいしそうにしゃぶるような動きだ。
「ああ……」
 指が中で曲げられ腹腔側の感じる部分をこすり上げられた。思わず快楽のうめきを漏らして尻が震えた。
「だめ、っていいながら俺のをくわえて離さねぇな。てめぇのココは」
 指を増やしながら三蔵がささやく。ひとつだけだったそれは二本に増やされていた。増やしても増やしても八戒のそこはきゅうきゅうにうれしそうに締めつけてきた。
「指が増えるとうれしいか? 」
 いやらしい口調だった。
「うっ……」
 膝裏を自分で持つように強要されていた。快楽のあまり自分のつかんだ膝裏の皮膚に爪を立てる。
「さん……ぞ」
 だんだんと八戒の目つきは艶かしいものに変化しだしていた。そう、何もかもなまめかしい。爪も長くなってきている。
「八戒」
「だめ……僕は」
 外されたカフスはふたつ。心なしかえりあしの髪も長くなっている。
「余計な口きいてんじゃねぇ」
 三蔵は八戒の股間を後ろを穿っているのとは別の指の爪先ではじいた。妖魔の声をあげて八戒がうめいた。
「腰が浮いてるな。自分から動きやがってインランが」
「さん……ぞ」
 八戒は泣いていた。生殺しだ。熱い吐息を漏らしながら三蔵の指の動きにあわせて腰を尻を振ってしまっていた。前後に左右に腰をよじるようにしてまわしてしまうのをとめられない。ひどく感じてしまっていた。
「あそこがパクパクして……指じゃたりねぇのか。やらしい野郎だ」
 三蔵がのぞきこみながら言った。恥ずかしいかっこうだった。レイプに近い。
 指では届かない奥の方が疼いてたまらなかった。生理的な涙が八戒の頬を伝って流れる。透明な滴となってシーツにしたたり落ちる。
「奥……が」
 八戒が快楽の涙がまじった声で喘いだ。すすり泣くような調子が重なる。
「奥がなんだ」
 指はさらに増えていた。3本に増やされたが奥の方へはとても届かなかった。三蔵の指の感触に狂いながら八戒はいやらしい言葉を言わされていた。
「もっと奥に……欲し……」
 恥ずかしい言葉を言った瞬間、きゅ、と同時に八戒のあそこも締まった。男が欲しいのを隠しもせずに三蔵の指を締めつけてしまう。身のうちに荒れ狂う凶暴な欲望にもう逆らえない。
「奥が……疼いて……あ……もっと」
 後ろ髪がさらに伸びて快楽の汗で濡れてきている。耳も、やや長くなってきていた。
「見ないで……くださ……」
 いつもと違う感覚だった。三蔵に抱かれるときのいつもの感覚と違った。強烈な性感に翻弄される。
「そんなに欲しいのか」
 三蔵の指が粘膜から抜かれる。思わず名残惜しそうに肉の環がひくつく。腰をすりつけ、すがるようにして三蔵の指を追いかけてしまう。無情な手つきで指を抜かれると、腰が疼いてくねって身体を支えられなくなった。
「ああっ……さんぞ」
 何もなくなってしまった腔内をむちゃくちゃに粘膜と筋肉で絞ってしまう。ひたすらけだもののような声を放った。腹腔が収縮し腹筋が震える。暴力的な快楽につきおとされて痙攣と弛緩を繰り返す身体は三蔵の指を失って、ひたすら締まった。身体の奥底が三蔵を欲しがってとまらない。
「ああ、ああっ」
 三蔵が八戒の身体に手をかけた。大きく脚を割り広げさせるとその片足を肩へかついだ。
「八戒」
「ひ……! 」
 のたうつ身体が凶暴な怒張でつらぬかれた。



――――夜がひたすら甘く過ぎてゆく。

「……! あっあっあっあっ」
 穿ったまま身体を揺すられて、八戒がとろけそうな悲鳴をあげる。
「はっか……い」
 指などでは届かなかった奥が、三蔵ので満たされた。敏感な場所を亀頭で舐めまわすようにされて、八戒が三蔵の腕の中で悶絶する。
「ひぃっ……! 」
 がくがくと全身で痙攣した。また、放ってしまっていた。前は何も触られてないのにだ。勢いよく出てしまったそれは、三蔵の顔近くまで飛沫がかかった。
「早すぎだろうが」
 精液が白皙の美貌を濡らす。一番敏感な場所を執拗に突かれて、敏感な身体はひとたまりもない。抱えられた脚ががくがくと大きく痙攣する。
「奥……がっ」
 粘膜全体が震えて絞るような蠢きを繰りかえしていた。呑みこまされた三蔵のものがひどく太くて硬くて……熱い。
「あうっあうっ」
 より大きくなってゆく三蔵を感じて八戒が眉をひそめる。これ以上ないほどに整った清廉な美貌も今は乱されて崩れていた。強烈な快楽に圧倒されてすすり泣いている。
「はぁっ」
 三蔵が腰をひく感触。八戒は自分の尻肉を震わせた。ひくんひくんと三蔵の動きに合わせて性悪な肉筒も、淫乱な尻も思わず動いてしまう。
「だめぇ……だめ」
 自分から感じるところに腰を振り立てるような動きをしてしまうのを止められない。感じやすい身体が、いつもの知的で良識ありげな八戒の心や理性をすべて裏切った。
「何がダメだ。てめぇ、まだ俺に何も見せてねぇだろうが」
 三蔵が穿ったまま八戒の最後のカフスを外した。こんな淫らな行為の最中だというのに、ささやいた声は真摯なものを含んでいた。
「妖怪になったお前が見たい」
 甘い口調でささやかれ、抱きしめられた。
 八戒が目を丸くする。すでにその美しい湖水色の瞳は猫目に似た光を帯びてきている。
「……!! さんっ」
 次の瞬間。
 全身にツタの紋様が浮きでた。凄みのある妖艶な姿だ。耳が完全に尖り、目もいつもより切れ長になる。
「あ、ああっ」
 妖怪化した身体を思い切りつらぬかれて、八戒は三蔵の身体の下で仰け反った。
「あうっ」
 腰を引いて小刻みに揺らすようにされる。三蔵のが粘膜の入り口でぶつかりあい、惑乱するような感触を伝えてくる。
「ふぅっ」
 喘ぎすぎて閉じることを忘れたような口元からは涎が伝う。理性を手放したなまめかしい表情だ。
「すげぇきれいだ」
 三蔵がささやく。
「お前のナカ、熱い」
 正常位でつながっていた。獣の交尾に近いまぐわいなのに、恋人のような体位で犯されていた。
「ああっさんぞ、さんぞ」
 本当は腕をまわして思い切り自分を穿つその背の筋肉の動きを確かめ、その腿や腰の動きに触れて……抱かれていることを実感したかった。しかし、わずかに残った理性がこんな長い爪では人間の三蔵に傷をつけてしまうとためらっている。
「はぁっ」
 八戒は震えながら手元の白いシーツをきつく握り締めた。三蔵にしがみつくことをやめ、三蔵が動くままに淫らな腰をゆらす。
「あっあっあっ」
 三蔵が肩に脚をかかえてひきつけるようにして穿っているので、ひどく三蔵の肉棒のかたちを感じてしまっていた。
「いや……いやですもうやめて」
 身体は蜜を垂れ流しているのに、その唇は拒否の言葉を紡いでいる。
「きれいだな」
 何度目かわからぬ三蔵のつぶやきを聞いて、はっと目を見開いた。三蔵の視線は自分の肌へ向けられている。大量に肌を覆うツタの紋様だ。
「お前のツタ、綺麗だ」
 妖怪化した八戒の力の強大さを示すように肌に浮き上がり、三蔵に穿たれるのにあわせて別種の生き物のようになまめかしく揺れている。ちょうどそれは卑猥な調子でふるえていた。八戒のペニスにあわせるように痙攣して脈打っているのだ。それに気がつき、八戒は悲鳴をあげそうになった。なんて、いやらしいツタなのか。
「だめ……見ないでください」
 奥歯まで震えて吐きそうになった。これではどんなにこの淫らな身体が悦んでいるのか、三蔵に眼前で知らせているようなものだ。
「本当にやめていいのか」
 淫らな口調でささやかれた。抱えられた脚に舌を這わされて、八戒のツタが肌の上で揺れて悶えるように蠢いた。
「きれいだ」
 影絵のように妖しい動き。妖美な風情が八戒の紋様にはあった。三蔵に抱かれて全身で悦んでいる。
「さんっ」
 もう限界だった。理性が焼き切れそうだった。ツタがいきなり三蔵へ伸びた。三蔵の上半身へと影のようなつるをまわして絡みつく。もう、こんないやらしい自分をこれ以上この綺麗なひとに見られたくなかった。
「見ないで。こんな僕を見ないでください」
 切れ切れに八戒が言葉を紡ぐ。気をつけないと理性を失ってしまいそうだった。くらりとした眩暈に似た感覚がして、頭をおさえる。
「これ以上は許してください」
 振り絞るような声だった。これ以上、こんな浅ましい様子を見られたくなかった。よりによってだいすきな三蔵に。こんな姿を見られたくない。
 妖怪化すると本当に理性を失ってしまうのか、尻をさしだして自分から動いてしまう。紋様までもが三蔵の愛撫に酔って悶えているのだ。こんな妖魔になった自分の淫乱さなど知られたくなかった。
「さんぞ……」
 逃れようと強引に身をひいた。三蔵のが体内からずる、と出てくる感触に眉をひそめる。唇を噛み締めてなんとか我慢した。ツタで三蔵を阻む。その銃を扱いなれた腕を締めあげた。
「……てめぇ」
「すいません。僕は」
 詫びの言葉を口にしようとした。三蔵といえど人間だ。妖怪の八戒が本気で拒否したら、どうしようもない。大好きなひとの欲望を受けとめられない不甲斐なさから八戒は何かを言いかけた。

 そのときだった。

 白く長い何かが三蔵の背後から、そしてベッド周囲の闇から湧きあがって空を舞った。
「…………! 」
 瞬く間にその長いものが、八戒の手首へ上半身へ次々に巻きついた。きつくがんじがらめにされる。びり、と電撃のような感触が肌の上を走った。まるで帯電しているような感じだった。

 経文。
 三蔵の魔天経文だった。

「俺から逃げられるとでも思ってんのかてめぇ」
 嗜虐的な調子で最高僧さまが言った。確かにその声はサディスティックな響きを持っていた。三蔵の両手を縛っていたはずのツタは、あっけなくはらりと解けた。

 三蔵の愉しげな、ひとの悪い笑い声が部屋に響いた。




「バースディ(2)」に続く