「……エロ河童が。見せつけてるつもりか」
果たして、背後で苦々しげな最高僧の声がした。
「いや……いやです! いやです三蔵見ないでお願い……」
振り向くことがかなわないのなら、せめて手で悟浄と繋がっている接合部を隠そうと八戒があがく。悟浄の腕の中で身をよじった。
「おっと。逃がさねぇって、見せてやれよ。八戒」
「ああッ……」
ずっ、ずちゅ、と淫らで卑猥な音が悟浄と繋がった場所から漏れる。出し入れされる悟浄の赤黒い怒張も、八戒のピンク色の粘膜も、三蔵には確かに丸見えだった。
紫暗の瞳を細めるようにして、最高僧はその場所を注視した。卑猥すぎる眺めだった。
「いや! 見ないで下さい。さんぞ! 後生ですから……」
「ったく」
三蔵が舌打ちした。
「てめぇは見られると感じるのか。……また、すげぇ勃ってきてるじゃねぇか」
「ああッ! 」
「……! 」
三蔵の熱い怒張が、腰に当たって八戒はびくんと身を竦ませた。背に、三蔵がのしかかってくる。
「三ちゃん、なんの真似……」
悟浄が慌てたように口を挟んだ。
「うるせぇ。てめぇがなかなか代わらないのが悪いんだろうが」
「い、いやで……」
悟浄のもので塞がっている尻に、三蔵の怒張が押し当てられる。ぐりぐりと硬いそれの感覚に八戒が目元を染める。
「何、考えてんの、三ちゃんってば」
「少し代われ、河童」
「や……! 」
三蔵の手が、八戒の腰をつかんで浮かせた。ずるりと長大な悟浄のそれがぬらぬらと光って抜ける。
「あぅッ」
その間隙をぬうようにして、三蔵の怒張が代わりに押し当てられた。
「コッチは俺のだ。味わえ」
「ひ……! 」
八戒は、悟浄の躰の上で尻を三蔵に捧げるような恥ずかしい姿勢をとらされていた。鬼畜坊主が容赦なく腰を突きだす。
八戒の細腰を手で支え、尻を固定するようにして鬼畜坊主は背後から穿った。
「あ、あっ……あ、ああ」
八戒が熱く喘いだ。
獣の姿勢で挑まれて、がくがくと四肢を震わせ背を反らせる。
思わず腰を揺らして、自分の躰の下にいる悟浄の腹へとペニスを押しつけた。先走りの透明な淫液で鍛え上げられた悟浄の腹がぬらぬらと光る。
「くっそ。三ちゃん、ちょっとだけだかんな! 」
「あ、ああッ……も……」
ぱんぱんと尻肉に腰がぶつかり、肉が肉を打つ音が立った。激しい律動に揺さぶられるまま、八戒は犬のような格好で三蔵に合わせて腰を振っている。
「あッ……イイ」
艶めかしい喜悦の声が漏れるにつれて、部屋の空気は淫靡に染まった。躰を密着させるようにして、三蔵が上体を前傾させ、後ろから八戒の耳元に囁いた。
「どうだ。俺と悟浄……違うか」
そのまま、カフスの嵌った耳たぶを甘く噛んだ。その声にすら感じるのか、八戒がびくびくと身を震わせる。
「あ、ああ」
もう、喘ぐだけで必死なのに、言葉も喋れないというのに、意地悪な問いに眉をひそめた。
腰を回すようにして、三蔵が打ち込んでくる。躰の下にいる悟浄にしがみつくようにして、八戒は耐えようとした。
しかし、それも悟浄が手を伸ばすまでのことだった。
「やめ……! ごじょ……! 」
一瞬、おとなしく三蔵にゆずったと見えた悟浄だったが、悪戯心が芽生えてきたらしい。自分の下腹部に押しつけられて涙を流している八戒の屹立を指先で扱きだした。
「あ! だめ! ああっ……あ! 」
前から、後ろから。三蔵が甘い媚薬のような声に誘われるかのように舌を伸ばしてその背を舐めた。思わず、耐えきれずに八戒は仰け反った。綺麗に眼前で晒された首筋を悟浄が下から舐め上げる。
「ひッ……あ! あーッあ! あーッ」
ふたり分の舌に、ふたり分の腕、ふたり分の愛撫に、ふたり分のくちづけ。 八戒はとうとう自分を手放した。
「ふ……ッ」
白い快楽の飛沫は、悟浄の手を濡らし、八戒の肉の幹を伝い悟浄の腹へと滴った。
「また、イッちまったのか。早ええな」
三蔵がその白い尻へ軽く平手を放った。
「う……」
そんな行為にも感じるのか、悟浄の躰の上へ伏すようにして倒れ、もう自分で自分の躰を支えられない八戒が躰をびくびくと震わせる。
「なんだ。もう、四つん這いにもなれねぇのか。犬以下だな。お前は」
「三ちゃん、いじめんなって」
「おまけにさっきの質問にも答えてねぇ。俺と悟浄、味は違うか。違わねぇのか」
「三ちゃん――――」
忘我の域で、呼吸を整え息も絶え絶えな八戒は、ぼんやりと自分を抱く男ふたりのやりとりを聞いていたが、ふいにその唇を歪めた。
「ふ、ふふ」
「……八戒? 」
悟浄と三蔵が八戒を注視した。悟浄は躰の上にいる八戒を見上げる形で。三蔵は笑みに揺れるしなやかな肩の線と、首筋を見つめた。
「確かに……ふたり……違いますよね」
それは陶然とした、妖しい声だった。
「三蔵のは……硬くて……悟浄のは」
理性も何も、消え果ててとろけきった艶めかしい表情で告げる。
「悟浄のは……奥まで届くし……」
いつもの清廉な態度を裏切る淫猥な仕草で、自分の唇を舌で湿した。
一瞬、圧倒的な色香とでも呼ぶべきものに、呑まれた悟浄と三蔵だったが、そのうち承知できないとでもいうように、口を歪めた。
「……おい。ってぇことは俺のは短いってぇことか! 」
「ちょい待ち! 俺のは硬くねぇの? は、はっかいサン? 」
青筋立てて三蔵は怒鳴り、口角泡を飛ばして悟浄が目を剥いた。
「もう一度だ! 俺のがエロ河童に負けるわけねぇだろが。角度の問題だ。そりゃ、騎乗位の方が深く入るに決まってんだろうが」
「三ちゃんのが、我慢しまくってて途中から強引に入ってきたんだから、硬く感じるのは当たり前だってーの! 」
「とりあえず、俺からだ」
「どーして、そうなるワケ? オレでしょ」
「……しょうがねぇ。三回突っ込んだら、代われ。三こすりで交代だ」
「ったくわがままだな。わーった。三回な」
本当に悟浄と三蔵は、八戒の上と下に陣取ったまま、三回ずつその怒張を出し入れしだした。
「ひッ……う、くぅッ」
熱い切っ先をかわるがわる挿入される淫靡な感覚に、八戒が躰を震わせる。
「あ、ああッもう……」
「ちょ! 三ちゃん。ナカに出すなっての」
「うるせぇ、イクときにいちいちてめぇの許可なんざ取るか」
交互に抱かれるうちに、どちらともつかぬ精液で内部がいっぱいになる。
「……おかげで、さっきより滑りがいいだろうが」
「ぬめぬめしすぎだっちゅーの」
ののしりあっていた悟浄と三蔵だったが、どちらがどちらともつかぬほどに交替で八戒を抱くうちに、また争いになった。
「ん? 今度はてめぇの番じゃないだろ」
「そっちこそ違うだろが」
「やめ……やめて下さ……ッ」
ふたりの男に挟まれ、陵辱されながら、八戒が力なく呻く。
「てめぇ」
「どけって」
「あ! 無理ッ! 無理で……」
八戒の制止の声もあらばこそ。
悟浄と三蔵の怒張はとうとう同時に八戒の後ろを穿っていた。太い怒張をふたつも無理やり頬張らされて、後ろの粘膜が悲鳴を上げている。
「あっああっ……あ……」
それでも、八戒は腰を震わせて、与えられる快楽を貪っていた。
温泉旅館の夜は淫らに更けていった。
それから、何時間か経った後。
散らばるのは、三人分の汚れた浴衣、体液で濡れた卓球台に、ぐちゃぐちゃになったネット、白濁液の散った床、投げ捨てられたラケット、踏み潰された卓球の玉。その上、なんともいえない事後の匂いが立ちこめていた。
性の狂宴で汚れきった娯楽室に、八戒の冷たい声が響いた。
「覚悟は出来てるんでしょうね。二人とも」
理性を取り戻した八戒は、もの凄く怒っていた。
自分だって最後には我を忘れて、獣になり果てていたくせに、何をいうのかと三蔵も悟浄も思ったけれど八戒の怒りは収まりそうもなかった。
何しろ行為の時とそれ以外の時の落差が激しいのが猪八戒という男なのだ。
「悟浄、今すぐホテルのフロントに電話して僕の替えの浴衣を持ってきてもらうように言って下さい。ああそうそう、その際には悟浄が一人エッチして、頭からザーメン被っちゃって台無しにしちゃいましたって、キチンと仲居さんに説明して持ってきてもらうようにして下さいね」
八戒は背後におどろおどろしい暗雲を背負い、冷たい微笑みを浮かべて悟浄に命令した。
そして
「……三蔵」
三蔵の方を見もせずに、八戒は鋭い声でその名を呼んだ。
「な、なんだ」
さすがの最高僧も腰がひけている。
「僕、あなたのを頭から被っちゃってて綺麗にしたくてしょうがないんですよ。今すぐお風呂に入りたいから大浴場掃除してきてもらえます? 」
「な、なんでだ」
「いやですねぇ。あなたや悟浄なんかが入ったのと同じお風呂なんて汚らわしくて入りたくありませんよ。早くして下さい」
どんどん辛辣になってゆく八戒の注文に三蔵も悟浄も青ざめた。
「お前、風呂ったってここは温泉だから掛け流しだろ。キレイに決まってる。大丈夫だ」
「じゃあ確認してきて下さいよ」
八戒の気配がいっそうドス黒くなった。相当怒っている、これは本当に怒っていた。
「僕が嫌だって言ってるのに。せっかくみんなでピンポンなんかして楽しく微笑ましく時をすごそうと思っていたのに。あなた方のせいで台無しですよ。あなた達の下半身はどうなってるんですか! 僕の安らぎとか憩いの時間を返してください! どうしてこんなことばっかりスルんです!!! 」
八戒はもの凄く怒っていた。額に血管が浮き出ている。
「お、お前が悪いと思う。だってそんな浴衣はだけさして鼻血がでそうだった」
「そうだ。あれは誘ってる。誘ってるとしか思えねぇ」
「…………」
「凶悪に色っぽかったんだぜ。我慢しろなんて殺生だってば。無理いうなよ! 」
「お前が悪い。絶対に悪い。そんなフェロモン漏らしまくってるくせにヤリたくないとか嘘言ってんじゃねぇ。我慢できるか」
勝手な二人の言い分に、とうとう八戒の堪忍袋の緒がブチ切れた。
「三蔵と悟浄のバカ――――!!! 」
気合一閃。八戒の手から特大の気功が放たれた。目の潰れるような光がスパークして辺りを包む。娯楽室の壁が剥がれ、卓球台が粉微塵になる。もの凄い破壊力だ。
悟浄も三蔵も吹き飛ばし、床へと叩きつけてなお襲う強烈なその威力は凄まじかった。空間を裂いて暴れ狂い、辺りを破壊してゆく気功の激しさに、伸びていた悟空が目を覚ました。
「ん……あれ? 八戒? 」
「ああ、悟空。起きましたか。あなた頭をぶつけたんですよ。気分はどうです」
「ん……大丈夫」
悟空はしばらくソファの上で起き辛そうに、首を傾げていたが、変わり果てた遊戯室に気づくと驚いたように叫んだ。
「わわ! ナニこれ。穴ぼこだらけ! なにがあったの?」
「あはははは。なんでもありませんよ」
悟浄と三蔵を完膚なきまでに叩きのめしたくせに、八戒は晴れやかな笑顔を向けた。
「うわ! ナニアレ! ……ひょっとして悟浄と三蔵? ……ケシズミみてぇ! 」
「ははははは(乾いた笑い)いいんですよ。あんな人たちは」
八戒は一段と高らかに笑った。しかし、その目は笑っていない。怖い。
「こ、こんなんなっちゃって……オレが気を失ってる間……追っ手の妖怪でも出た? 」
「は、はははは。まぁ、妖怪というかケダモノというか色情狂というか……まぁでましたけれど。大丈夫ですよ」
「へ、部屋こんなになっちゃって」
八戒の気功で遊戯室は本当にぼろぼろだった。板張りの壁には大きな穴が開き、もはや用をなしていない。外と完全に開通してしまって庭がよく見える。
卓球台は八戒の怒りのままに完全に破壊され、粉々になっており、原型を止めていない。破片がバラバラと床に散らばっている。
三蔵と悟浄が伸びている床の上には激しい黒こげが円上になって残り、鬼畜坊主とエロ河童は八戒の怒りを直接喰らってまっ黒こげになっていた。
もはやどちらがどちらだかも分からない。髪の長いケシズミが悟浄で短いのが三蔵かと、かろうじて判断をつけられるくらいの有様だった。
「大丈夫ですよ……どうせ、三蔵がカードでなんとかするでしょう。さ、行きましょう。悟空、卓球で汗かきましたよね。一緒にもう一度温泉にでも入りませんか? 」
「う、うん」
「お風呂あがりにアイス買ってあげますよ」
「うわーい! ほんとー! 」
「ええ、僕が嘘ついたこと、あります? 」
ケシズミになった三蔵と悟浄を置き去りにして、八戒と悟空は楽しそうに娯楽室を出ていった。
ちらり、と八戒が部屋を出ていく寸前に、後ろを振り返った。叩きのめされてのびている三蔵と悟浄を視界の隅に捉え、その口元を皮肉に歪ませた。
「八戒? 」
立ち止まった八戒へ、悟空がいぶかしげな声をかける。
「いいえ、すいません。なんでもないです。行きましょう」
八戒は今まで浮かべていた皮肉な微笑みを消すと如何にも優しいお兄さんといった爽やかな笑みを代わりにその口に浮かべ、悟空へ首を傾げるようにして返事をした。
自業自得とはいえ、哀れな三蔵と悟浄だった。
了 ?