玩具(1)

注意事項)拘束、道具使用、ソフトSM、言葉責め、放置プレイ 他。






「は、八戒…なんだか俺……」
 悟空はそのまま、宿の床に座りこんだ。
「悟空……? 悟空ッ!!」
 八戒が駆け寄って心配そうに叫ぶ。ジープも心配そうにその肩先で鳴いた。
「痛ッ……どうしよ、おなか痛い……」
 悟空はそのまま仲間の目の前で、床に倒れた。


旅空の下。とあるオアシスにて。
悟空が食べすぎだか何だかで腹痛を訴え、あるオアシスで足止めを喰ったことがそもそものはじまりだった。

「ご、ごめんな、八戒」
 ベッドから動けない悟空がおずおずと謝る。
「あはは。何を言ってるんですか。悟空。ホラ薬ですよ」
八戒が薬草を煎じたものを飲ませようと悟空を抱え起こす。
「う……俺ソレちょっと……苦手」
「ダメですよ。飲まないとなおりませんよ」
優しいが、きっぱりとした調子で八戒は言った。駄々っ子に言って聞かせる看護士さんとでもいった風情だ。
 どろりとした黒色の飲み物を手渡す。悟空がその癖のある味を思い出したように顔を顰めた。
「良薬口に苦しっていうでしょう。飲まないとダメですよ」
それは、八戒がやっとの思いで手にいれた漢方薬だった。
小さなオアシスのことで、医者にも事欠くありさまだったが、幸いなことに薬屋はあった。八戒はこまめに通い詰め、悟空の病状をあれこれと相談して貴重な薬を手に入れていたのだった。

悟空はしばらくの間調子が悪いようだったが、そのうち献身的な八戒の看病のかいあって、少しずつ快復した。
やがて、悟空が完全に全快しオアシスをあとにするときがきた。すると、世話になった薬屋の主人に挨拶がしたいと八戒が言い出したのだった。

三蔵はさり気ない調子で「俺もついていく」といった。
上手く説明できないが、八戒ひとりで行かせてたまるかと思った。
鬼畜最高僧にはいやな予感があったのだ。



そして
案の定、ある意味三蔵の予感は的中した。三蔵は極めて不愉快な光景に遭遇していた。
八戒が、薬屋の主人と、楽しげに談笑するのに延々とつきあわされたのだ。


店の主人は若い優男だった。それも甚だ三蔵には気に入らなかった。にやけた野郎だとばかりに思いっきり八戒の背後から睨みつける。
 とはいえそんな最高僧を後光のように背負っていることなど、当の八戒のみが気がついていない。羅漢のような三蔵が殺気を漂わせて背後で仁王立ちしている。
 薬屋の店内は高圧の電流でも流れているかのような緊迫したような様相になった。店を覗き込んだ客などみな逃げるようにして去っていくが、それでも八戒は気がついていなかった。いい営業妨害である。
この砂漠を横切る隊商はもれなく立ち寄るとかいうこの店は立派な構えだった。漢方薬の材料がところせましと天井から釣り下がり、小箱を緻密に重ねてできたような薬棚が壁一面に並んでいる。
 その店内は如何にもエキゾチックで、丁字油や薬草の癖のある香りが漂う。典型的なオアシスの大きな店だった。

そんな由緒ありげな店で采配を振るう主人を、八戒は一目見るなり気に入り、信用したようだった。
 確かに店の主人は何かと一行に便宜を図ってくれた。それに、悟空を治すために薬を求めて飛び込んだ優しい八戒を止める術など三蔵にはなかった。
だけど
三蔵には最初から嫌な予感があった。
最初八戒が話し掛けたとき、店の主人はその整った顔に見ほれて、呆然とするあまり何も聞いていないようだった。
 その証拠に次の瞬間、彼は照れ笑いを浮かべると八戒に同じ事を何度も繰り返し訊いたのだった。
(あんときブッ殺してりゃよかったんだ)
三蔵は密かに思った。しかしそんな胸中を正直に吐露したら八戒の機嫌が悪くなる。三蔵はひたすら我慢した。
そう、八戒は高価で稀少な薬を融通してくれたこの店の主人を「なんていい方なんでしょう」と褒めそやしていた。傍で見ている三蔵などにとっては苦々しい事態だった。
下心があるに決まっているというのに、どうしてコイツにはわからないんだろうと忌々しく思っていた。
 別にこの店の主人だって誰にでも親切なわけではあるまい。
 黒い艶やかな髪に整った目鼻立ち。象眼細工のように煌めく翡翠の瞳。そんな顔を憂いに曇らせた美人が困っていれば、男だったら誰でも親切だというだけなのではないか。
  確かに八戒は男だが、そのふるいつきたくなるような物腰とか、柔らかな笑顔とかを見てるともうそんなものどうでもいい気がしてくるのは、三蔵だけではあるまい。
そして今
切れ切れに聞こえてくる会話はなおさら不愉快だった。
「もう、いってしまわれるんですか」
  店の主人はがっかりだというように、肩を竦めた。
「ええ、今日街に必要な食料を買出しにいって、悟空さえ調子がよかったらもうこのオアシスは出ます」
「そうですか……」
  店の主人は落胆した表情を隠しもしない。店主は、八戒の背後に陣取って、腕組みをしたままこちらを睨んでいる金髪の最高僧に気兼ねしながらも、八戒と会話できる喜びに顔を輝かせていた。
(この野郎。いい根性してやがる)
  何度か、懐にある銃に手をのばしかけたが、なんとか三蔵は我慢した。
  しかし、そんなことには気がついていないのか、三蔵の気も知らぬ気に八戒は懐から幾つかの本を取り出した。
「そうそう、こんなものまでお借りしてしまって」
  本草綱目、山海経といった稀覯書の類だった。借りていたそれらの珍しい書物を八戒は主人に返した。
「ありがとうございました。こんなところで、こんなに貴重な本を拝見できるとは思いもかけませんでした」
「ああ、いえいえ。気にいられたなんて何よりでした……」
  果てもなく続く会話に三蔵は傍でいらいらとした。しかもこのふざけた店では禁煙だというのも気に入らなかった。
  俺に断りもせず、あんな野郎から本なんて借りやがってと三蔵は心中密かに思った。八戒と店の主人が本を媒介に楽しげに会話をしていることも気に入らない。
  こんなにイライラしていたら、マルボロの一本でも吸いたいところだが、そのためには八戒をこの店に置いて外へ出ることになる。
三蔵はそんなことはしたくなかった。そしてそんなことをしたくない自分の心の動きというものにも三蔵はいらいらとさせられていた。
「そうですか、できるだけ長くこの街にいていただきたかったですが、ご予定があるならしかたないですね……でも」
店主は薬の包みを八戒に差し出した。
「これをお持ちください」
「え、でもこんなに高価なもの。受け取れませんよ」
 どうも、効力のある高価な薬を主人は餞別がわりに渡そうとしているらしい。受け取れないの、いや受け取れのとやらかしている八戒と店の主人を見て三蔵は血管が切れそうになっていた。
 早いところケリをつけてさっさとこの忌々しい店を立ち去りたかった。
 やがて、ためらう八戒に店の主人が強い調子で言った。
「いいえ、お持ちください。今後も旅をされるのでしたら必要でしょう」
そうして、強引に店主が八戒の懐にその包みを捩じ込んだ。
「そうですか、では遠慮なく」
 八戒はあきらめたように頭を下げた。口元には例の人を魅了する穏やかな笑みを浮かべている。
  もう頃合だろうと、三蔵は痺れを切らして八戒に声をかけた。
「もういいだろう。明日の準備もあるんだ。行くぞ」
 そう言い捨てると身を翻した。こんな気分の悪いところにこれ以上いられるかという気持ちだった。
「あ、待って下さい三蔵。……本当にありがとうございました」
 突然癇癪を起こした三蔵の後を追おうと八戒は足を向けた。
 しかし途中で立ち止まると、振り返って柔らかな笑顔を店主に向けた。軽く頭を下げて会釈する。店主がその笑顔にあてられたように真っ赤になった。
 店の外へと先に歩き出した三蔵を追いかけるようにして八戒は駆け寄った。
「どうしたんです。突然。まだ充分にお礼もいえてないのに……」
「充分だろうが。何ぐずぐずしてやがる。ったく危なっかしい。気がついてねぇのかバカが」
「なんですか! すぐ機嫌悪くなるんですから。もう僕だって……」
 そのときだった。
  八戒の手元から、何かがことりと落ちた。
 それは手紙のようだった。どうも店主が渡した薬の包みに挟まっていたらしい。
 三蔵は何気なくその手紙を拾った。薬の包みに挟まっていたので、薬の説明書かと思ったのだ。
 いや。
  嘘だった。
 三蔵にはある種の確信があった。八戒が返してくれとばかりに横から手を差し出すのを無視する。
 封がされたソレをびりびりに乱暴に破いて中身を出した。そして折りたたまれた手紙を開く。それは分厚く、何枚もあった。
「なんです? それ」
八戒は呑気なものだ。読み上げ始めた三蔵の横から首を突っ込む。
 しかし
 覗き込んで八戒もその顔色を変えた。
「……八戒様、あなたを見るたびこの心が騒ぎ、どうしてもこの胸の思いを打ち明けずにはおれません。もしよろしければ、今夜お会いできないでしょうか……んだこりゃあ」
 三蔵は読み上げながら蒼白になっていた。怒りで手もとが震え、握りしめた関節が白くなってゆく。
 それは
 まごうことなき
 八戒あてのラブレターだった。

  実にまずいことになった。



「つったく……」
  強引に追い立てられるようにして、八戒は三蔵に部屋に連れ込まれた。
「僕は何もしてませんよ! 」
 両手を括られるようにして、ベッドに突き飛ばされて、八戒が叫ぶ。
「うるせぇ。検分してやる。脱げ」
「三蔵! 」
  八戒の言葉を無視して、三蔵はその下肢から服を取り去った。緑の布地の服が、慌ただしく床に落ちる。
無理やり陸に上げられた美しい魚のように、八戒は三蔵の腕から逃れようと抵抗していたが、構わず三蔵がその両膝に手をかけた。その間に自分の躰を割り込ませて脚を閉じられなくする。
「てめぇ、あの薬屋に『お世話になったからご挨拶がしたいんです』っていってたな。どんな風に『お世話』になりやがったんだ。この野郎。それとも……世話してやったのか?ここで」
 「ここで」のところで三蔵は八戒の後ろを指で突然穿った。
「ひっ……! 」
 その乱暴で激しい動きに、八戒が悲鳴を上げる。
「悟空治すために仕方なく俺が我慢してりゃ、てめぇは……! 」
「誤解……です」
「うるせぇ」
 完全に頭に血が上ってる最高僧は、八戒の弁明を言下に否定した。その肌に指を這わせ、感触や反応が以前と変わってないか確かめるようにして三蔵が愛撫する。
「ん……っう……ん……」
 敏感なその肌を上気させて、八戒の躰の奥に小さな情欲の火が点りだす。それを眺めながら、三蔵は八戒の下肢に顔を埋めた。
「や……! ですッさんぞ?! 」
 八戒は真っ赤になった。
まだ昼前なのに、まだまだ外は明るいのに。そんな状況で無理やり三蔵にそんな場所を直視されるとは思わなかったのだ。
 三蔵がのぞき込むと、そこは清廉な八戒の人なりを表すように、慎ましやかに窄んでいた。
淡いピンク色に色づいたその襞を押すようにして広げると、中から艶めかしい粘膜が顔を覗かせる。
「ひ……! 」
 白日の下に自分の秘所をさらされて、八戒は恥ずかしさに躰を震わせた。
三蔵の金色の髪に縋るようにして指を絡め、その頭を自分の下肢から引き離そうとするが、どうも許してもらえそうにない。
三蔵は、自分の中指をひと舐めすると、眼前に息づく蕾へとそれを差し入れた。
「やぁっ! 」
 恥ずかしさに八戒は身をよじった。それを逃さぬとばかりに押さえつけて、三蔵が八戒の奥底をその指を回すようにして掻き回しだした。執拗に何度も何度も。
「くうっ……くぅ……」
 上体をやや起こした仰向けのまま、三蔵の指を受け入れていた八戒が仰け反って喘ぐ。ベッドについていた手を閉じたり開いたりしていたが、耐えきれず手元のシーツをきつく握りしめた。シーツに艶めかしい皺がさざ波のように走った。
息のすっかり上がった八戒に構わず、三蔵は無慈悲にもその指を引き抜いた。
「な……なに、どうし……」
  突然、抜かれて身悶えする恨めしそうな八戒の視線を無視して、三蔵はまるで検分するかのようにその指を見つめた。特に変わったところがあるようにも思われない。
「フン。あの野郎の白い汁でもついてたら、ただですまさせねぇとこだったがな」
 鬼畜生臭坊主のあだ名の由縁みたりというような仕草で、三蔵は口元を歪めて笑った。
さきほどよりは、三蔵の表情が明るい。八戒の躰は、硬質で男を受け入れた筈もないと、感覚的に伝わってくる反応だったのだ。
 八戒は、それを見て安堵したようにため息をついた。三蔵の様子から判断するに、もうこれ以上の非道はされないだろう。
疼き出した躰は甘く、抑えるのに苦労するだろうが、そんなものはこの午後にでも外へでも出て、買出しでもしていればだいぶ紛れるに違いない。
 そう思った。
 しかし、それは甘かった。
 鬼畜最高僧は、おもむろにベッドの陰から何かを取り出した。それを見た八戒の顔が強張って青ざめる。
それは、なんともいえない卑猥な造形をしていた。
  三蔵はその持ち手の部分を握っていたが、スイッチでも入れたらしい。途端にそれは卑猥な動きでくねり始めた。
男性器を模したらしい形がひどくいやらしかった。電動音を立てているそれを鼻先に近づけられて八戒は首を横に振った。
「いやです! なんですかそれ! 」
 卑猥ないやらしい玩具か何かだということは分かった。その動きを見ていると、自然に躰の奥が熱くなってくる。
 それと似た動きをする三蔵のものを欲しがっていたのを見透かされたような気がして、八戒は恥ずかしさに顔を赤らめた。
「しらねぇのか。なら後学のためにてめぇの躰で味わえ」
 三蔵はぞっとするような冷たい表情で八戒を見つめて唇を歪めた。嫌がる八戒の足首に手をかける。
暴れようとするのを押さえ込まれて、足首を紐で括られた。そのまま左右の両足とも別々に紐で括られると、閉じられないように、その紐の先をそれぞれベッドの柱に繋がれてしまった。
 うつ伏せの惨めな格好で、脚を閉じられないようにされて、八戒は拘束された。
「嫌……いやです! どうしてですか三蔵ッ! ……誤解だって……誤解だって分かったんじゃないんですか!!」
 八戒は叫んだ。必死だった。三蔵の方へと顔を向けて懇願すると、その手元の性具が妖しくくねっているのが見える。
三蔵が、腰全体を使って捏ねまわすのと同じ効果を出すためか、持ち手のところから、予想外に大きく曲がるようにしてそれはくねり、卑猥に震動していた。あんな動きを躰の中でされたらたまったものではないだろう。
「やめて下さい、三蔵ッ止めて……」
 無駄な抵抗だった。
 暴れようとした八戒の手首を後ろでひとまとめにするようにして、三蔵はその無残な性具を八戒の後ろに挿入した。
「が……!」
 たっぷり事前に後ろを三蔵に解されていたし、その器具自体にも潤滑油の類は塗られていたようだった。
しかしそれでも、人の躰とは違うものを咥え込まされる違和感に八戒は躰を震わせた。三蔵のものとは違って、血の通わぬそれはどこかひやりと冷たかった。
「あっ……」
 シリコン製の柔らかいくせに弾力のあるそれが八戒の躰の中でいやらしくくねった。八戒は今まで眼前で見せ付けられていた性具の卑猥な蠢きを思い出して、脳が焼けるような劣情に囚われた。あんな俗悪極まる玩具で今自分は犯されているのだ。
「あ……それは…いや……っ…っん!」
  機械仕掛けの性具が振動音を上げるのと、八戒がそれを突っ込まれて嬌声を上げて啼く声がそのうち部屋中に響きだした。
「罰だ。他の男に色目つかいやがって。今日一日それでいろ」
「ああっっああっあっああっ……! あんっ…! は……んっ! 」
 躰の中で暴れまわる淫猥な性具に耐え切れず、八戒は早くも啼き声を上げだした。
予想外に、性具は性能が良かった。八戒の弱いところを的確に抉ってきた。ただでさえ敏感な躰なのに、こんな状態で放置されたら、どうなってしまうのか。おかしくなってしまうに決まっている。
 丁寧にも、三蔵は、八戒を足首で繋ぐだけでなく、手首を後ろで拘束したうえで、性具を挿入した。
うつ伏せになって両手足を縛められ、尻を突き出した格好で玩具を咥え込まされ、八戒がのたうちまわる。
「狂っちゃ……う」
 八戒は涙を瞳に浮かべた。
「そのままでいろ。いいな」
嬌声を上げて正気を失いつつある八戒に冷たい一瞥をくれると、三蔵は無慈悲にも部屋を立ち去った。
後には喘ぎ、のたうつ八戒と、性具の無情な振動音が取り残された。





「玩具(2)」に続く