第十四夜「交代(ワールド・エンド)」



 白い世界の中でどちらが先に根を上げるか、丈太郎と温の我慢大会は何日も何日も続いた。
 温は時折部屋を出て、優に会いに行ったり雑用を済ませてくる。段々とやつれていく幼なじみに、丈太郎は一体どれだけの時間が過ぎているのか、その感覚もなく、溜息を殺した。多分、自分も同じような顔をしているのだろう。
「温、ここを出よう。一緒に」
 いつまでこんなところにいれば、…何の生産性もないこの状況が、本当に丈太郎には耐え難かった。捨てられないなら手を取るだけで、そう誘いをかけたら物憂そうな目が丈太郎を捉えるのだった。
「どこへ?」
「どこでもいいよ」
 これじゃ、生きている意味なんてない気がする。どんなにみっともなくても死ぬよりはマシだと、丈太郎はそんな風に考えているけれど。それにしたって、だ。
「どこでもいいなら、ここでもいいだろ…」
「ここじゃないところなら、どこでもいいよ。俺は、こんな白いだけの世界は嫌だ」
 気が、滅入ってしょうがない。そのうちに思考が溶けて…いや、昔はもっと酷い状況に堪えられたのだから。
 そう思うのに、一度ぬるま湯につかると感覚がそちらに適格化してしまう。とにかくここからは、出たい。その時温が隣にいようがいまいが、丈太郎にはどちらでもよかった。ただ、出会ってから離れたことがないこの関係を、いい加減どうにかする時期にきたのかもしれない。
(…というかもう、遅すぎたからこんなことになってるんだろうけど)
「ピンク色に塗りつぶしてやろうか?」
 冗談なのか、本気なのかすら判別も出来なくなった。
 時間を共に過ごすうち、抱かれるのを丈太郎が頑なに拒否していたら、温は無理やり触れようとはしてこなくなり、そのおかげで何とか、お互いに気持ちの平穏が保てているのかもしれない。それでも温が自分の幼なじみで恩人だという事実に、変わりはないのだ。どんなことをしようが、不変の関係。
(変わることを怖がっているから、先に進めないでいるのかな。俺たちは)
「温、俺、もうおかしくなりそうなんだ。ここにいると、思い出したくない色んなことを思い出す。俺は、ここでは、生きていけない。なあ、わかってくれ。できないんだ…」
 何度目の主張を、繰り返しただろう。叶えられない願いを口にするその度に、丈太郎はすごく悲しい気持ちになった。
「駄目だ、丈太郎。お前が他の人間と接触するっていうだけで、俺には我慢ができない」
「温。お互いに譲歩を憶えないと、俺たち一緒にはいられない」
「丈太郎、俺は、お前に幸せになってほしいなんてきれいごとを、言う気はない」
 幸せになんてならなくていい、傍にいてほしい。丈太郎には温のそういう感情が、どうしても理解できないのだった。
 もしかしたら幼い頃楽園に教えられた、理想的な人間関係というものについての教えだったりとか、幸福論そのものが影響を及ぼしているのかもしれない。歪んだ思想に、共感できない。それを否定しているわけではない、ただ自分に強要されるのは無理な話だ。だからこそ王崎に惹かれたのかもしれないが、今の丈太郎には温しか存在していない状態で。
「そんなの本当じゃない」
「本物の愛情ってなんだよ。お前が俺に、教えられるのか」
 丈太郎は首を横に振り、焦れたように頭をかきむしった。埒があかない、苛々する。
「なあ、何でこんな風になるんだ。俺、温とずっと楽しくやっていきたかったのに」
 何でと不思議に思う部分は、温が反則を使って消してしまった。丈太郎にはわからないままで、そのわからない部分を、苛立ちと愛しさをもって温は享受する。
 わかる必要など、ないのだ。この部屋が世界のすべてなら、どんなに素晴らしいだろうか。丈太郎と、二人きり。
「お前を愛してる」
「俺だって、ちゃんと温を好きだよ。お前は全然わかってないけど」
 丈太郎の中に存在しない人間への想いを、嫉妬したところで一体何になるのだろう。王崎へ向けたような目で、丈太郎は温を見ない。矢代のことを話し泣いた過去を、どれだけ憎めばいい?虚しいだけだった。温は泣きたくなって、丈太郎から視線を逸らす。
「…少し出てくる。大人しく待っていてくれ」
「………」
 確かにお互い、限界なのかもしれない。だけどどうしていいのか温には、わからない。
 どうしたいのかしたいようにした、結果が今。望んだものを手に入れたはずが、どうしてこんなにも悲しい。
 

   ***


「お前、温クンの何なの?」
 部屋に戻ってきたのは温ではなく、見知らぬ少年だった。丈太郎は返事もできず、何かを思い出しそうになって頭を押さえる。頭痛がした。きれいな少年。どこかで見たことがあるような気がするものの、辿るような記憶もないようだ。
「すごく気に入らない」
「………」
 少年、優は不機嫌だった。最近温の様子がおかしいと思ったら、こんな男を連れ込んで隠していたなんて。そのすべてが、優には腹立たしい。今すぐ自分の目の前で、この罪を償ってもらわなければ気が済まない。
「ペットを飼っていいなんて、許可した覚えはないんだよね。ムカツクから、もう二度とご主人様に会えないようにしてあげる。さようなら」
 何かあった時の為にと、優は護身用に持ち歩いている銃を取り出して、丈太郎に向ける。その瞬間、モヤモヤしていた丈太郎の頭が、本能的に我に返った。
(死ぬ?冗談じゃない)
 避けようとしたのに、丈太郎の身体が言うことをきかない。普段なら、攻勢に転じることは簡単だとさえ思うような相手に対して。
「なっ、」
 身体が、頭が、全身が、焼けるように熱い。その一瞬の強烈な感覚は、自分が死んだせいなのだろうと丈太郎は意識を失う前、そんな風に思った。
 丈太郎と交代して表に現れた矢代は、すぐに愛染を呼び出して迷いもなく、優の腹に振りかぶる。驚愕した少年は、一瞬の勝負に敗れたと知ると、青ざめた表情で矢代を睨みつけるのだった。禍々しくて凶悪な空気が、二人の間を支配している。赤黒い刀が、気味が悪くてしょうがなかった。
「まだ、死んでもらっては困るんだ。丈太郎くんには」
「ハア?」
 何が起こったのか、優にはよくわからなかった。武器など何も持たないはずの目の前の男は、魔法のようにどこからか刀を出して、自分に突きつけてきた。矢代は、可笑しそうに笑っている。優を見下ろす目が、勝利を確信して。
「君は、天使みたいに可愛いね」
 その微笑みは、普通ではない。狂人のものだった。優は、自分の運の悪さを呪った。怖い。恐怖。全身が総毛立つ、というのを今、生まれて初めて経験した。想い人は、こんな狂ったペットを繋いでいたらしい。信じられない。どうかしている。堪らず床に膝をついた優に、冷たい手が差し伸べられた。
「おれ、年下の可愛い男の子って好きだよ」
「あ…」
 近くで見つめられると、漏らしてしまいそうになり優は慌てて目を閉じる。痛いし怖いし、もう訳がわからない。
 ぬるりとした舌が口腔の中に侵入して、温と違う粘着な絡みに、何の涙か透明な雫が頬をつたっていく。冷静にこちらを観察するような視線は、優が相対したこともない殺し屋のものだ。いやだ、とただそれだけを思う。優は一刻も早く、早くこの場を逃れたかった。
「おれを気持ちよくさせてくれたら、殺さないでいてあげる。君に、一つだけ教えてあげようかな。おれの名前は、矢代甲斐っていうんだよ」
 低くて甘い囁きに、優の身体が震える。優にとって殺されるよりは、犯される方が断然マシだ。きれいなままで死にたいなんて、そんな殊勝な性格をしているわけでもないのだし。言葉の代わりに涙が流れる。温に会いたい。この地獄の時間が終わったら、沢山甘やかしてもらおう。それがただ一つの、優の希望だった。
「セックスしたことあるの?残念だな。でもしょうがないか、君みたいに可愛かったら、周りが放っておかないもんね。どんな風にイジメられたい?君は丈太郎くんを、殺そうとしたんだもんね…。普通にヤるだけなんて、つまらないし」
「ゆ、赦してください!殺さないで!!」
「フフッ…。可愛いおちんちんだね。おれは、丈太郎くんのも大好きなんだけど」
 矢代はペニスを優の前に突き出すと、機嫌良く言葉を続ける。
「ほら、今からコレで君のお尻を気持ち良くしてあげるから準備して。…っ、……結構、上手だね?あんまり時間もないし、あっ、そのきれいな顔にかけるよ」
 命がけの舌遣いに、矢代は満足したらしかった。すぐに達したものがトロリと顔をすべって、優は内心安堵する。これで少しは、気を許されただろう。…それは、甘い考えだったのだけれど。
 唾液と精液を優のアナルに塗り込んで、ろくな前戯もないまま矢代は、正常位で我慢できず勃起したペニスを挿入し、腰を振り始めた。
「あ、やっぱりすぐに入っちゃう。可愛い顔して淫乱なんだ、イイね。知らない男に犯されて、すごく感じてるみたいだし?」
 無意識のうちに、イイところを腰を動かして優は教えてくれるのだ。癖のようなものなのだろう、相当慣れていると感じた。これはこれで、楽しみ方があるというものだ。
「…ぁ、ぁっ…アァン……!アンッ!アッ…あぁ…」
 華奢な身体を震わせながら、トロンとした精液が優の先端から零れていった。年の割に濡れた声が矢代を誘う。そのギャップがたまらなく、殺意も削られていってしまう。
「熱い…。君も相当変態だね?まだこれで終わりじゃないよ…でも、ほんっとうに可愛い顔してるね。食べちゃいたい。乳首も美味しそうだし」
「ひっあ!」
「乳首感じるんだ?女の子みたいだね…もしかして女装趣味?そのままで、十分可愛いけど」
 少年の中に感じる色気、というものに矢代は惹かれるものがある。丈太郎にしたって正純にしたってそうだし、自分の性癖もおかしいのだろうけれど。こんなきれいなものを汚しているという悦びに、もっとメチャクチャにしてやりたくなる。
「あ…あぁっ……ん、んっ……」
「ねえ、このきれいな肌に傷をつけてもいいかな?殺したりしないから」
 何をされるのかと閉じられた目。そのご期待に添えられればいいのだけどと、そんなことを考えて矢代は唇を歪ませる。残念ながら本格的なSM趣味は持ちあわせていないし、余裕もない。だけどもう少し、この少年をイジメたかった。
「…いあっ、あ……!」
 愛染の刃の先が、白い肌に赤い線を付けていく。うっとりとそれを眺めて、矢代は血の味を口に含んだ。恐怖でギュッとペニスが締めつけられて、気持ちいい。その快楽をもっと得たくて、もう一度刃を向ける。
「……はぁん…あ……あぅっ……」
 可愛い顔が苦痛に歪む。キスをすると懇願するように絡められる舌が、いやらしい。暫くすると傷つけることにも飽きてきて、そろそろ終わりにしようと矢代は腰の動きを速くする。
「痛い?気持ちいい?おれが怖い?でも君は、それ相応のことをしたんだってちゃんと自覚があるのかなあ。もっと腰振って、おれを楽しませてほしいな」
「ひっ、アアッ…ぁ……ァン、アアン!」
 痛みと恐怖と快楽で、優の意識は徐々に遠ざかっていった……。

 温が用事を終えていつものように部屋に戻った時、その惨状は一目見てわかるほどで、自分の主が死んでいるのかと狼狽し、温はよろよろと倒れた華奢な身体に近寄っていく。
 どうしてここに優がいるのか、肝心の丈太郎の姿はないし、一体何がどうなっているのか…
「優、様…。優様、優様っ!」
「矢代甲斐っていう、男が」
 うっすらと瞼を開き、温の顔を見た安堵のせいか、優はそれきり意識をなくす。
「大丈夫です、すぐに手当をします!だからっ…」
 丈太郎の行方を捜すのは、まず優の状態が安定してからでいい。
 優を失ったら?その考えは今まで想像もしなかったほど、温の心を動揺させた。丈太郎が傍にいてくれれば、それでいいと思っていたのだがどうやらそれは思い違いで、こんな風に知りたくはなかったのに、優のことも大切な存在だと、感じているのかもしれない。
 部屋の非常ベルを鳴らして、すぐ病院に搬送し、廊下を行ったり来たりする。ああ、落ち着かない。優に手を出したのだって、同じ顔の王崎を犯したような錯覚が心地よかったから。自分のことを簡単に信じきって、縋りついてくる幼さを滑稽だとさえ馬鹿にしていたのに。あれほど温のことを愛してくれた人間は、他にいない。丈太郎にそれを求めても、満たされなかった。欺いてばかりで、何一つその愛に応えてはいないまま、優が死んでしまったら?
 想像するだけなのに、それは恐ろしい喪失感だった。丈太郎が自分の傍を離れる、というのと同じくらい怖いことだった。離れただけならもう一度、時間を重ねることは可能かもしれない。が、死んでしまっては叶わない。
「温様っ!」
「箕輪(みのわ)、どうした?」
 幹部の中でも優派に近い箕輪は、温以上に冷静さを欠いた様子だった。いつもはきれいに撫でつけてある髪が乱れ、死刑宣告のような言葉が続く。
「天根矜持様が、刑務所の中で死亡したというニュースが…!」
「何…だって!?」
 ただでさえ逮捕という事態に、信者は動揺しているというのに。その比ではない衝撃だ。
「後追い自殺を図る信者が、何人かは出るでしょう。こんな時こそ、優様の出番なのですが。突然のことに、皆戸惑っています。私たちには今、救世主が必要なんです!」
「こんな時に…」
 もう少し時間が経てば、盛大に静粛に、優を天根の後継者として発表する算段だったのだ。もしくは―――…
「箕輪さん、何も心配することはありません。優様の代わりではなく、もっと王の器に相応しい人間が…私たちを導いてくださる存在が、こちらにいらっしゃるのですから」
 もうひとつの可能性、が相変わらずも嫌味なくらいの存在感でそこに立っている。それだけで圧倒された箕輪は言葉を失い、生理的嫌悪を抱いている温は眉間に皺を寄せた。
「優の様子はどうなんだ?」
 色んな疑問が王崎の胸の内にはあったが、あえてそれだけを尋ねることにする。神津の言葉にも、無視を決めた。
 どうせ元から遠い存在だった父が死んでも、何の感慨もない。かつての同級生はひどく取り乱しているようであったし、兄らしいことを何一つしていない義弟への感情は淡々とした儚いもの。昔、片手で数えるくらい顔を合わせたことがある程度の、認識で。楽園に連れられてから一度だけ、お互いに言葉を交わしたのだが。兄貴面しないでくれる?そんな意識はしたことないな。…それきりで、それが二人の関係のすべてだった。
「……………わからない」  
「そうか」
 素っ気ないほどの一言に、反比例するような混乱が温の心を駆けめぐる。
「まさか、丈太郎がやったとは思いたくない。…大体矢代甲斐なんていう男は、死んだはずで。どうして、こんなことに?俺は大事なものをふたつも、」
「伏見。少し、落ち着いた方がいい」
 丈太郎から離れたりしなければ、きっと優があんな目に遭うこともなかったのだろう。同じ顔でそう諭されると、なんだか責められているような、断罪されているような気になってきた。被害妄想だとは、温自身にもわかっている。今はとりあえずどこかに、感情の捌け口を必要としているのだ。
「お前に、そんなこと言われたくないんだよ。大体っ、丈太郎はお前なんかのどこが良かったんだ!?むかつくんだよ、大ッ嫌いだその済ました顔が!偉そうで綺麗ぶって本当に…」
「いいから落ち着け。見苦しい」
 端麗な顔を僅かに歪め、王崎は一言そんな風に言い放つ。よく考えれば妙なフレーズがあった気がしたが、平静を失った人間の言う言葉だ。気にするまでもない。
 温は唇を噛み、憎悪を込めて落ち着き払っている王崎を睨めつけた。優派の理事長が、殺し損ねて神津が楽園に連れてきた王崎。死んでくれていれば、よかったものを。いや、利用価値は存分にある。楽園にとっても、自分にとっても。すぐにそう、思い直して。
「…そうだな。失礼なことを言って悪かった、未来の王に」
「………」
 せめて最上級の皮肉を込め、温は王崎に謝罪した。ずっと王崎の何かにあてられ見惚れていたらしい箕輪は、その一言に我に返ったように、ヒステリックな叫び声をあげる。姿を見ただけで、彼は王崎の盲目な信者となったのだ。
「充様、どうか私たちをお救いください!貴方の手で」 

『温様の仰る通り、このお方こそ、我々の救世主なのだ!楽園は、これで大丈夫だ。世界は光に満ちている』

「っ、触るな!オレに触らないでくれ…」
 瞬間、流れ込むような気持ちの悪い意識に、王崎は慌てて手を振り払う。救世主なんて、とんでもなかった。弟が怪我をしたと聞いたから、病院へ見舞いにきただけなのに。
「オレは楽園に、興味はない。そっちで勝手にやってくれ」
「恩恵だけは受けておいて?随分と都合の良いご身分だな」
 どういう脳内変換が温の中で行われているのか、王崎はうんざりして口をつぐんだ。お互いの事情をどれだけ知っているのか、腹の探り合いのような会話は疲れることこの上ない。
「伏見くん!」
「神津、お前はどうなんだ?楽園の人間でありたいのか、王崎の友人でいたいのか」
 有効な揺さぶり。そこは神津の弱点だということを、温は知っていて突いてくる。
「私は…」
 神津は泣き出しそうな目で、王崎と温を見比べた。
 自分の知らないところで、この二人に繋がりがあったのだ。巧妙に隠された現実は、王崎を孤独へと誘う。別に黙っていたことを、怒っているわけじゃない。王崎はそう思って、静かに思いを告げた。その答えがイエスになるならば、命令だと付け足しても良かった。意味のないことだろうけれど。
「オレを選べ。仁」
「………私は」
 期待をすることくらい赦されていいと王崎は思ったのだ。相手がどう思っていようが、自分にとって大切な存在であることは確かなのだから。たとえそれが、すぐ告げられる未来で終わりを告げようとも。
「…申し訳、ありません。充様」
 悲痛な面持ちで頭を下げる神津と、笑いを堪える温の唇。箕輪はずっと縋るような目で、王崎を見ていた。
 楽園がひとつの世界を終え、新世界に切り替わろうとしている。
 震えそうになる手を握りしめた王崎は、とうとう一人きりになってしまったような気がして、眉をひそめた。神津は最初から、変わっていないのだ。どこも。王崎が勝手に期待して、誤解してしまっていただけで。友達になりたいなんていうささやかな願いが、一番近くにいるのに届かないなんて。王崎の後ろ盾を目当てに集まってきた連中と、何も変わらない。大勢の中の、一人と。
「充様。楽園のすべては、貴方のために」
 恭しく手を取って口づける、温の負の感情があまりにも攻撃的で吐き気がした。
 
 たった一人だけ、大切だと思える人がいてくれればそれでいいのに。


  2007.03.20


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