日常永遠



 什宝会という名前は大きくなりすぎてしまって、不便なことが時折あった。そこで、その名を外した活動が必要になり、安生探偵事務所を開いたのだという。
 そんな事務所に王崎とやってきた丈太郎だったが、信之介はわからないことは丁寧に教えてくれるし、いつも穏やかなのでとても居心地が良く、一緒にいて働きやすい上司だった。
 什宝会には、周防と矢代が戻ってきている。以前から、信之介はあまり和ノ宮邸にはいない男なのだ。
「ところで、丈太郎くん。一つ、提案があるんだけどね」
「はい」

「オレの養子にならない?お互いに、家族がないわけだし」

 隣りでお茶を飲んでいた王崎が、本人よりも驚いてむせ始めた。大丈夫か?と案ずる丈太郎はおきざりに、
「はあ?何ですか、それ。プロポーズのつもりじゃないでしょうね、信さん。オレという恋人が隣りにいながら、よくそういうことがしれっと言えるな…」
「心外だねえ。充くん。オレは一体、君に何回説明しただろうか?オレが丈太郎くんへ向ける愛情は、そんなよこしまなものなんか一ミリも混じってない、純粋なものなんだけど」
 一瞬で、二人はヒートアップする。毎日のようにこの調子だが、飽きないところがすごいと逆に感心してしまうほどだ。
 間に丈太郎を挟んでいるからというよりはむしろ、元々こんなやりとりをしていたようで、初めて居合わせた時はさすがに対処に困った。
「だから、信さんのそう、いちいちオレに張り合ってこようとする大人げなさが、安心できないんじゃないか」 
「オレはいつでも相手と、対等に接したいだけでね。で、丈太郎くんはどうかな?」
「はあ…」
 いきなり話を振られてしまって、丈太郎は頭をかいた。
(信さんが、オレの父親に?…家族に、なってくれるって……)
「気持ちは嬉しいんですけど、俺…、家族は御堂家が…いないけど、ずっと俺の中にはあるから大丈夫、です。ありがとう、信さん」
「丈太郎くん…」
「それに、そんな契約を今更結んだりしなくても…信さんは、俺といてくれるんでしょう」
 どうしてなのかはわからないけれど、そんな温かな安心感が信之介にはある。
「…そうだね。丈太郎くんが、それをゆるしてくれるのなら」
「いい雰囲気のところ悪いが、オレだって、ゆるされるなら丈太郎と結婚したい」
 真剣に的はずれな発言をする恋人に、丈太郎は真っ赤になって言いつのる。
「何言ってるんだよ、馬鹿。信さんの前でそういうこと言うなよ。恥ずかしいんだよ!」
 こんな時まで、堂々としていなくてもいいのに。恥ずかしいという視点が王崎の中では少しズレていて、丈太郎はその度に慌てふためいてしまうのだ。
「それこそ今更…」
「うん。オレ、結構慣れてるから気にしなくていいよ丈太郎くん。ありのままでね!」
「気持ち悪い言い方しないでくれますか、信さん。まあ、以後気をつける」
「そうしてくれ」
 もしかしたら二人にそろってからかわれているのかなんて、なるべく考えない方がいい。
「…カップ洗ってくる」
 憮然とした表情でお盆を手に持って、部屋を出て行く王崎が好きだ。
 愛されているなあと実感したら嬉しくなって、丈太郎も立ち上がった。
「手伝うよ。…あ、信さん」
「うん?」
「さっきのビックリしたけど、嬉しかったです。ほんと、ありがとう」
「オレはずっと、傍で見守っているからね」
 その笑顔につられて、微笑む。
 明日も明後日もこれからずっと、こんな風にあれたらいいと丈太郎は思うのだった。


  2008.12.07


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