thank you!


  2008.10.27



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「何?」
 おれの視線に気づいた秋月先生が、微笑んで問いかけてきた。
 その笑いかけてくる表情は、不意打ちで食らうと結構強力だから、おれは言葉に詰まってしまう。
「えっと…」
 教室でみんなを見ている時の顔と、廊下でこうやって一対一で話す時のこの人は、少し雰囲気が違う気がする。だからおれは、いつも落ち着かなくなってしまう。そういうの、きっとおれだけじゃないと思うから、秋月先生は罪な人だ。
「高屋くん、寒くない?薄着だけど。季節の変わり目だし、風邪ひかないようにね」
「あ、はい。なんかそういうこと言われると、先生だなって思うんすけど」
「はは。生徒の心配してる先生に向かって、その言葉はあんまりだよ」
 やんわりと牽制されている、そう感じるのはただのおれの妄想なのだろうか。大体、同性の教師にこんな感情を抱く方がどうかしてるのは、おれだってわかっている。
「だって、先生ってなんか…」
「言い淀むような悪口でも考えてたのかな。ふふっ、お手柔らかにね」
 朗らかに先生は笑って、思いきり話を逸らした。こうなるともう、太刀打ちできない。
「あーあ…。もう……」
「悩み事?青春とは思い悩むことだって、保健の阿部先生が言ってたよ」
「…?それと同じ事、前に誰かが言ってた気がする」
 誰だか思い出せないけど。
 おれが首をひねっていると、後ろから誰かの体重がかけられて、よろけてしまった。
「秋月先生?。寒いです…」
「だからって、おれで暖まるのやめろよ!後藤」
 クラスメイトの後藤が、おれの抗議にニヤって笑う気配がする。後藤は常日頃、秋月先生をからかうのが大好きなんだ。
「高屋つれねえなあ。センセーにお願いしようかな?」
「却下します」
 つれなく即答して、秋月先生は肩を竦めた。後藤は、ブーブー文句を言っている(おれの肩の上で。重い…)。
 すぐに調子に乗る後藤には、秋月先生はもっと素っ気ない。
「それじゃ、僕は職員室に行くから」
「あー、オレも保健室行くから途中まで一緒に行く。じゃあな、高屋」
 その申し出に、秋月先生は微妙な表情になった。おれみたいに先生を狙っていないとわからないような、注意していないと気が付かないような変化。
 めげない後藤は、秋月先生の隣りを独占した。おれはいつも、アイツには全試合完敗している。





  2007.06.21



 三十九ページの二行目


 こんなに暑い日が続くのに、秋月ときたら長袖のシャツにネクタイを締めて、今日も一日頑張っている。後藤はそんな自分の恋人を頬杖をついて眺めながら、欠伸を噛み殺した。
 秋月の声はとても気持ちが良く、聴いているだけで眠気に襲われる。それを堪えるのも、一苦労だった。
「フミちゃんさ〜、世間はクールビズだよ?時代に取り残されてるよ?」
「池谷くん。今は授業中だよ?世間話は休み時間にね」
「えっ、やりぃ。次の休み時間、フミちゃんとの世間話をゲットだぜ!」
「馬鹿調子乗んな、池谷。お前マジ、うるさいから」
「おっと〜、俺様恋のライバル登場!?」
「…ああもう、静かにしなさい」
 フミちゃんが怒った〜、なんていう呑気な野次が飛ぶ。その全てに、後藤は苛々する。
 目が合うと、秋月は赤くなった顔を隠すように、黒板へ向かってしまった。いつもの如く逃げられた。秋月は、かわすのが上手すぎる。人の好意も、誹謗中傷も。油断をした隙に、逃げられてしまいそうな程。
 何度も愛を確かめ合って、腕の中に閉じこめたところで、不安に思う気持ちは消えない。時折、怖い。
 大体、古文なんて微塵も興味がない。生きていく上で必要もない。なのにどうして、あんないい声であんな綺麗な字を、秋月は書くのだろう。困ってしまう。
   誰にでも、上手な愛想笑い。男なんてすぐ調子に乗るし、勘違いする生き物なのに。
「後藤、当てられてる。三十九ページの二行目から、朗読」
「………ああ、」
 こうして後藤が一人で悶々としていると、見事にそのタイミングで、こんな風に逸らされる。
 優等生の倉内は顔を前に向けたまま、三十九ページの二行目。そう、繰り返した。…出来た友達だ。気心が知れているし、お互い何を考えているかすぐにわかる。一緒に居ると、楽で駄目になりそう。羽柴も含め。
 もしかしたらもう、既に駄目なのかもしれない。それはそれで、現状を受け入れるしかないけれども。何もかも、手放せる気がしない。大事な恋人を、筆頭に。
「で、先生は半袖を着ないんですか?」
 教科書を読む前に後藤は、どうしても気になった質問を口にした。
「…後藤くん」
 怒らせたかもしれない。文句を作文用紙十枚くらい並べたいような顔で、秋月が溜息をつく。
 今更半袖なんか着て露出しなくても、もう散々見ているくせによく言うよ、と後藤には読み取れた。
 ちょっとむくれたような顔も、拗ねた顔も、泣き顔も笑顔も全部可愛いと思ってしまうからもう、病気だ。時々わざと困らせてしまうのは、反応があまりにときめいてしまうからだ。自覚無しなところが、余計に。
「後藤が言うと、セクハラだから〜」
「何でだよ…。ちょっと、気になっただけだろ」 
「後藤くん。三十九ページの二行目、読んでください」
 秋月は僅かに強い口調で、そう告げた。何を言われても、後藤はうっとりするような気持ちになる。
 この人が自分の恋人だと思うだけで、どうにかなってしまいそうな、舞い上がるような。





  2006.11.30


「あ」
 抱き合う最中ふと声をあげた秋月は、失言とばかりに慌てて口をつぐんだ。
 それは快感によってもたらされたものではなく、不意に何か気を取られたようだったので、後藤はキスを止め、恋人の表情を窺う。
「セーンセ、どうかした?」
「ん…。何でもない」
 わかりやすく誤魔化し笑いを浮かべ、秋月はギュッと後藤の身体に擦り寄ってくる。
 喜ばしいことにどちらかといえば積極的な秋月だから、いつも後藤は乗せられてしまうのだ。悔しいことに経験豊富らしいその全てに、いつも翻弄されてばかり。
「言ってよ。オレ、秋月先生が何考えてるのか知りたいし」
「え、でも本当に大したことじゃなくて…」
 恥ずかしそうに秋月が、後藤から視線を逸らす。
 その仕草が可愛らしくていとしくなって、後藤は目を柔らかく細ませた。
「うん」
 その顔は卑怯だと、更に秋月は言葉に詰まった。
 ただ時間が経てば経つほどに、些細なことは言い出しにくくなってしまう。
「…っ。あの、みかんを後藤くんと食べようと思って買ってたのに、出すの忘れてて。それを、いきなり思い出したんだ。ごめん、本当ムードないこと―――」
「みかん?」
「う、うん。冬はこたつにみかんかなあって」
 秋月家も昔は例に漏れず、そんな冬を過ごしていた。懐かしく思い出す日々。
 ぽつりと呟く秋月に、後藤は優しく微笑んでみせる。
「わかった。取ってくる」
「え…?」
 盛り上がっていた空気が案の定、ぶちこわしになってしまった。
 傍目にもガッカリした秋月に舌を絡めて、後藤はそっとベットから立ち上がった。
「大丈夫。みかんも先生も、ちゃんと食うから」

 こんな幸せで可愛い計画を、放っておけるわけがない。





  2006.10.13


「あ、松ぼっくり」
「ほんとだ」
 たまには空気のきれいなところで、健康的なことに取り組むのもいいかもしれない。
 秋月と後藤は二人で、近場の山に紅葉狩りに出かけていた。
「知ってる?後藤くん、松ぼっくりって松の毬っていう漢字で表すんだよ」
「へえ〜、なるほど。言われてみればそんな感じ」
「名は体を表す、だよねえ」
 かわいらしい小さな松ぼっくりを拾い上げ、秋月はほのぼのと頬を緩ませる。
「文久、か…。先生の名前の由来って、何かあるのか?」
「…確か、父親が文彦で、母親が久子だから。長男だし」
「へえ!初めて聞いた。兄弟は何人?ちなみにこう見えて、オレは年の離れた姉貴と兄貴がいるから、末っ子」
「そうなんだ…。だから、大人っぽく見えるのかな?後藤くんは。僕には、妹と弟がいるんだ」
 秋月にとって二人とも可愛かったし、出来の悪い兄を慕ってくれていた。
「先生んちは、仲良いの?」
「まあ、昔はね。今はどうかな…。そうだといいけど」
 願わくば自分のせいで、あの仲の良い家族にヒビが入っていないといいのだけど。
 心の中だけでそっと、秋月はそう祈るような気持ちで思った。
「え?」
「ほら、後藤くん!あっちにお茶屋さんがあるよ。休憩していこう」
「………?ああ」
 大学の時に家を出てから、ずっと家族とは会ってはいない。恨まれているかもしれないし、心配しているかもしれないし、呆れているのかもしれない。
 どこかで会いたい気持ちがあるから、時折こんな風に話題に触れると胸が痛むのだろうと秋月は自嘲するように、唇を歪めた。
「秋月先生」
 不意に手を取られて、振り返る。そんな優しい顔をされると、困る。
 慣れない。照れてしまう、こういうのは…。何となく落ち着かなくて、秋月は強く手を握り返した。
「オレたちは、家族にはなれないけどさ」
「ん?」
「だからこそずっと、オレは先生の一番近くにいたいと思うよ」
「……!」
「一緒にいような。秋月先生」
 事情なんて何も知らないくせに、血の繋がりを切り捨てた自分の薄情さなんて気づかないくせに、後藤はまるで何もかも知っているような表情で、秋月の大好きな笑顔を見せた。
 泣くのを我慢しようとして、滲んだ視界の先には燃えるような赤。





  2006.06.25


「なあ、先生。何で夏休みに課題がでるんだろうな。オレは、不思議でしょうがないよ」
「ふふ…後藤くん。どうしてそんな疑問がでるのか、僕も不思議でしょうがないよ」
 今だけは後藤専属の家庭教師をしてくれる秋月は、項垂れる肩を宥めるように叩いた。
「おかしいなあ。こんなことするより、もっと他にやらなきゃいけないことがあるはずだろ?」
「ないよ、そんなの」
 つれない恋人は、素っ気なく返事をする。
 夏休みの課題が終わるまでは、キス以上のことはお預けだと宣告されて、早一週間。羽柴や倉内と協力してはいるものの…道のりは限りなく、遠い。
 …そろそろしんどくなってきたと、後藤は思う。
 自分との恋愛のせいで成績を落とすなんて嫌だからと、考える秋月もわかるのだが。わかってはいるものの、身体は理性に追いつけない。
「秋月センセ…」
「そんな顔しても駄目。そりゃあ僕だって、浴衣姿の後藤くんを脱がせて色んなことしたいよ」
「アンタ本当、きれいな顔してよくそんなことサラッと言えるよな…。いや、好きだけど」
「僕の欲求不満は、後藤くんの課題がはかどってないせいなんだから。頑張って終わらせてね」
 …ああ。澄まし顔で、とんでもないプレッシャーをかけられてしまった。
「っていうかさ、色んなことするのは先生じゃなくてオレの方じゃん?」
「さあ、どうかな。僕も男だし、後藤くんがあんまり焦らすと何するかわかんないな」
「…先生ってさ、実はけっこういい性格してるよな」
 どうも最近、手のひらで転がされている気がしなくもない。
「そういうこと言う?後藤くん、一夏の経験っていうのもアリかもしれないよ」
「さってと、やるか!次は数学だな!!」
 勢い込んで、問題集に取りかかる後藤を見て秋月は楽しそうに笑う。
 たったそれだけで、この恋人は必要以上に色っぽく感じてしまうから困りものだと、後藤はだらしなく頬を緩めた。
  




  2006.04.11


 夜に色づく美しい桜の木を前に、秋月は表情をほころばせた。
 後藤が教えてくれた穴場スポットだという公園は、確かに圧巻としか言いようがない。
「綺麗だね!夜なのに明るくて…ねえ、後藤くん。こういうの、花明かりっていうんだよ」
「ふうん。なあ、それ。今の、古文の先生みたいだった。秋月セ、ン、セ」
「みたいじゃなくて、僕は古文の先生以外の何でもないけど…。どういう意味」
「いやあ、風流な言葉だな。花明かりだって」
「…もう」
 繋いだ手に力を込めて、なんだか無性に幸せ気分が込み上げてきた秋月は、一人で勝手に恥ずかしくなり、赤くなった顔を俯かせた。
「桜を愛でた後は、ゆっくり先生を愛でるとしますかね」
「後藤くん、そういう台詞を真顔で言うのはどうかと思うよ。おじさんみたいだよ」
「そのコメントは、まるで花冷えだな」
「後藤くんは確かに格好いいけど、時々格好つけすぎて、僕の心臓が保たない」
「ハハ、すげえ可愛いこと言ってる…」
「そうやって、いつも余裕ぶるし」
 拗ねたようにふくれる秋月の頬に、チュッと音を立てて口づけて後藤は笑う。
「オレを見てよ」
「いつも見てますっ」
「他のものに、心を奪われないで」
「も、もう!僕たちは今、夜桜を見に―――っ」
 唇を重ね、淫らに触れてくる指先に涙が零れてしまう。
(僕は今すぐしたくなる性質なんだから、後藤くんがセーブしてくれなくちゃ…)
「…あっ、ま、待っ…ん!嫌、止めないで…っ」
(もういいやめんどくさい後藤くんが悪い)
 秋月は後藤の背中にきつく腕を回し、堪えきれない吐息をついた。





  2005.07.29



 夏の午睡


 後藤はどこで手に入れたのか、団扇を仰ぎながら図書室のドアをくぐった。
 棚に本を戻していた倉内が、その姿を目に留めて驚いた表情になる。その態度は後藤に笑みを浮かばせて、倉内は内心溜め息を殺すのだった。
「夏休みでも毎日、図書室通いなのか。お前…ご苦労様だな」
「何、その嫌味。後藤こそ、わざわざ休みの日に登校なんて、どういう風の吹き回し?」
 大方、何か理由をつけて秋月に会いに行くのだろう。
 どうせ違う場所で逢瀬を重ねているくせに、夏の気温をどこまで上げるつもりなのか。 
「オレは、ちょっとシバちゃんに進路の相談をだな」
「へえ。担任のシバちゃんというより、そのシバちゃんと席が隣りのフミちゃんの方が目当てな気がするけどね。後藤の場合」
 団扇から送られるひらひらと生温い風を受けながら、倉内は肩を竦めた。
「ああ、まあ外れてはいないな」
 否定しない。
 この男は自分の恋愛感情を、さらりと肯定してみせる。いつだって。
 図書室は冷房が効いているはずなのに、なんだか暑くなってきたように倉内は思う。
「…温度上げないでくれる?まったくもう」
「シバちゃんは今、部活の真っ最中だからな。暇つぶしに寄ってやったんだ」
 不遜な物言いをする癖に、どこか陰のある佇まいのせいで偉そうに感じない。
 そういうところがたまらなく腹が立つんだと、倉内は形の良い唇をとがらせた。
「それはどうもありがたいことで〜。むしろ、真っ直ぐ職員室に向かえばいいじゃない」
「……いや」
 曖昧に、後藤は言葉を濁して倉内から視線を逸らす。
「僕の顔を見たかったなんて、気色悪いこと言ったら今すぐここから追い出してやるから」
「……なんか、最近会ってなかったから。浮かれてるの、落ち着かせようと思って」
 男のはにかみ笑いなんて、見たところで心が動かない。
 倉内は不快な気持ちになり、少しだけ乱雑に本を扱ってしまった。
「それでここにねえ。僕のことをどう思っているか、よーっくわかりました!ごちそう様」
「何怒ってんだ、静…」
 ずっと一人の人間だけを、想っていればいいのだ。
 後藤も、自分も。その先の未来なんて、結局はなるようにしかならない。
「怒ってない。生徒会室にでも行って、羽柴に甘やかされてれば?」
 我ながら良い提案だと思ったのだが、却下された理由はコレだ。
「ちなみに生徒会室にはもう行ってきたけど、オレがいると羽柴が仕事しなくなるから出ていってくれって、他のメンバーに懇願されてだな…」
「あ、そう」
 短く切り上げる。後藤は大きく欠伸をして、眠そうに目を擦った。
「なんで、しばらく昼寝さしてくれ。一時間後くらいに、適当に起こして」
「……確かにここは、クーラーが効いて寝るには最適かもしれないけど…って、もう寝てるの?後藤…。信じられない」
 独り言のように呟いて、倉内は定位置のカウンターへ腰を下ろした。

 暫くして、図書室に訪れた友人に倉内は思わず笑ってしまう。
 羽柴は今更、そんなこと少しも気になどしなかったけれど。
「お邪魔しまーす。マサ、ここに居る?」
「生徒会は?まさか、放ってきたわけじゃないよね」
 悪戯っぽく口元をほほえませ、羽柴は両手でピースしてみせる。
「速攻で終わらせてきたんだって!褒めて、倉内」
「えらいねー、羽柴は。頑張りやさんだねえ」
 呆れるやら感心するやら、本当にこの二人の仲の良さ。
 嫌味なのか褒めているのか、自分でも倉内にはよくわからなかった。
「エヘヘッ。俺も、寝よっかな」
「……いいけどね。別に。おやすみ、羽柴」
「オヤスミ〜」

 あまりに気持ちよさそうな寝息がふたつ聞こえてくるおかげで、倉内は何度も、欠伸を噛み殺さなければならなくなった。
 何の気紛れか自分の隣りで、作業をしている陣内をそっと盗み見る。すぐに視線に気がついた想い人は、確かに笑ったけれど視線は落としたまま。





  2005.05.02


「後藤、古文の教科書貸して」
「………後藤なら、寝てる」
 警戒しきった表情で、頬杖をついたまま倉内は代わりに返事をする。
「最近、よく後藤に物を借りに来るみたいだけど。
 この間教科書に、おかしな落書きしてあったの見たよ。本人は、気づいてないけどね」
「後藤に物を借りるには、つきあってる倉内の許可をもらわなきゃいけない?」
「…だっから、つきあってない。勝手に持っていけば?」
「どうも」
 それは、笑顔のつもりなのだろうか。
「志賀」
「何?俺に何か用?」
「後藤に、何を望んでるのか知らないけど…」
「何も、望んでなんかいない。安心すれば?別に、手を出したりしない。
 ただの貸し借りだよ。本当にそれだけだ」
「なら、いいけど…」
「そんなに大事かな。後藤のこと」
「…誤解しないでもらいたいんだけど。
 僕は忙しい友人の代理で、コイツの心配をしてやってるだけなんだから」
「まあ、俺にはどうでもいいよ」
「とにかく、後藤にはおかしなことしないでよね」
 何か言いたげに肩を竦めて、志賀は教室を出て行ってしまう。
 なんだかもう、このポジションもいい加減うんざりだと思いながら。
 倉内は溜息を殺して、幸せそうに寝息を立てる後藤から目を逸らした。


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